◎女優・村井まどかの微妙に歪む唇に、平成のロマンチック・アイロニーを見た
高橋 英之
兵士・西川 「いや、そりゃ、まあ、砂漠ですから」(閉じられた唇)
新婚・妻 「同じ砂漠じゃん」(開かれた唇)
家族・次女 「全部、砂漠じゃん」(微妙にゆがんだ唇)
うっかりしてた。日本がイラクに派兵をしたことなどすっかり忘れてしまっていた。いや、もちろん、うっかりなどという表現は不適切だろう。正確にいえば、「忘れていた」わけでもない。その単語を聞けば、「思い出す」ことなどさりげなくやってみせることはできたはずだった。2003年12月、専守防衛を憲法に刻み、世界10傑に入る軍事予算を持つ組織をあえて「自衛」隊と呼んでいたにもかかわらず、小泉劇場と呼ばれた当時の政治が一大決断をしたはずのイラク派兵。首相が「自衛隊の活動している地域は非戦闘地域」という冗談のような答弁をした翌年に発表された『砂と兵隊』が、そうした日本の時代的状況を背景にしていることは疑いもない。ところが、かくも重大とされたことが、記憶としては存在していても、問題意識としては淡くも消え去ろうとしていた。劇場の席に座って、当日パンフレットに目を通しながら、そのことに気づいてやや愕然とした。しかし、それは仕方のないことだ。なぜならば、自分は、派兵が決定された当時も、そしていま現在も、歴史の傍観者にすぎないからだ。いや、少なくともこれは自分だけではない。何よりも、舞台の上の登場人物たちがそうであった。
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