渡辺源四郎商店/中学生演劇体験ワークショップ発表公演「ココロとカラダで考えるいじめと正義~7日でつくる『ともことサマーキャンプ』~」

◎地域の演劇 可能性を開く
 カトリヒデトシ

中学生演劇体験ワークショップ発表公演チラシ みちのくに畑澤聖悟という巨人がいる。
 高校教員にして渡辺源四郎商店の店主(=主宰)。高校では年により演劇部も指導し、全国高校演劇発表会では99年「生徒会」で優秀賞・文化庁長官賞、05年「修学旅行」で最優秀賞・文部科学大臣奨励賞・創作脚本賞、08年「河童」では最優秀賞、今年は昨年度指導した弘前中央高校「あゆみ」で優秀賞を受賞。NHKで9月に放映された「青春舞台2010」をご覧になった方もいるだろう。06年には「修学旅行」で韓国青少年演劇祭に招待され、ソウル公演も行っている。劇作家としての彼はギャラクシー大賞ラジオ部門最優秀賞受賞をはじめ、日本民間放送連盟賞ではラジオエンターテイメント部門・ラジオ教養番組部門で最優秀・優秀賞を数年にわたり受賞し、平成11年度(99年)文化庁芸術祭ではRAB青森放送 制作の「シュウさんと修ちゃんと風の列車」で ラジオドラマ部門大賞を受賞している。

 今年で3年目になる渡辺源四郎商店(通称「なべげん」)の中学生対象の夏のワークショップ(WS)発表会が8月19-21日に青森市にあるアトリエ・グリーンパークで行われた。20、21の2日間観に行った。地域で行われる演劇WSとして極めてまっとうかつ戦略的、その正しさは多くのことを考えさせたので、ぜひ紹介したいと思いこれを書いている。

 現在、地域では観劇体験そのものが困難になっていっている実情がある。職場演劇や村芝居、さらにはいわゆる「ドサ回り」と言われる大衆演劇の巡回興行がすたれてしまい、また地域の中心となる公共ホールでの演劇公演も新劇劇団の消長と、各地の演劇鑑賞団体の運営が苦しくなったこともあり、公演数が減っていっている現状がある。どの地域でも学生演劇、アマチュアやセミプロとして活動する劇団はいるが、知名度は上がらず、全国的な活動には結びつかない。結果地域の中でも演劇自体の注目度が低く、演劇の中心は東京であるとの誤った考えがまかり通ってしまう。

 「劇場法(仮)」の議論の中で「創造」と「教育」ということが言われるようになった。その理念のひとつに演劇の普及が掲げられ、そのために劇場が教育活動を行うことがうたわれている。また現在の国語教育の柱のひとつとして自己表現とコミュニケーション・スキルの向上が掲げられるようにもなった。その流れが順調にいくならば、これからの10年で、演劇人が地域の社会教育、公教育の重要な一端を担うようになっていくかもしれない。

 この課題にうまく対応できるならば、だれもが演劇のよい観客になり、演劇を生活の一部、生涯の楽しみとするようになる可能性が開いていく。前衛や演劇自体の可能性を広げる「創造」の場としての劇場と異なる文脈で、演劇を提供していく場の構築、質の向上とそれを享受する観客の創造は喫緊の急務になっている。そのためには、良質な演劇体験を提供するのがまず第一であるが、実は演劇の面白さを体験するには、実際演じてみるのが一番てっとりばやい。しかも、やってみるだけのワークショップだけでなく、きちんと発表会(公演)まで行えば最上であるのはどなたにもわかっていただけることと思う。欲をいえばなるべく若い時にそれを経験してもらえるならば、遠回りではなく、結果的に最もまっとうな「観客教育」になっていく。そういう意味で、なべげんのWSは「教育」という点で度肝を抜かれるものだった。畑澤が行っているのは、今後の地域での演劇の在り方を考えるために、重要で先駆的な試みである。

 今年で3回目になる中学生WSは08年「修学旅行」、09年「河童」に続くものである。いずれも高校生が演じることのために書かれた作品である。「修学旅行」は最優秀賞を受賞後、さまざまな形で再演され、現在、秋田雨雀土方与志記念青年劇場のレパートリーとして全国公演が行われ07年より200回を越える上演がされている。「ともこ」は08年に劇団昴に書き下ろした「親の顔が見たい」を1時間という上演時間の制約がある高校演劇の条件を踏まえ書き直したものである。もちろん単に短くしたものではなく、高校生が演じるという観点から書き直しが加えられている。

 各年のWSはテーマが設けられている。08年の「修学旅行」は「ココロとカラダの平和教育」、09年の「河童」は「ココロとカラダで考える差別といじめ」、今年は「ココロとカラダで考えるいじめと正義」がテーマである。

 修学旅行で沖縄に行った高校生たちが基地の実情を見て、夜のおしゃべり、大騒ぎの中で、9・11からイラク戦争という世界の現実の流れを考えていき、やがて外交や戦争を追体験、シュミレートしていくという「修学旅行」。突如カッパになってしまった主人公と周りは友達関係を続けようとするのだが、次第にうまくいかなくなっていくシビアな話が「河童」。ずばりいじめ自殺がテーマである「ともことサマーキャンプ」。

 どの作品も畑澤の作家性、持ち味が発揮された作品で、「教育」性と鋭い考察を持っているが、高校生の実感や理想が盛り込まれ、教条的に陥ることなく、厳しい現実が盛り込まれている。表層的にならず、説教臭くもならないところがすばらしい作品群である。

 そういった意味でWSのタイトルはそれぞれ作品のテーマと密接な関係があるのだが、これだけ教育的なタイトルならば、「えっ?演劇?」と保護者に思われることもないだろう。それは実に重要なことである。

 発表会当日は上演の前後に保護者のインタビューを撮ろうと待ち構える地元局。ビデオを熱心に回す保護者たち。さらには収録のカメラマンと中継車のやりとりが、客席にまる聞こえだったなど、「観劇」という点では向かない環境であったが、発表会にこれだけの注目を受けるということ自体なかなかないことで、畑澤の取り組みが地域で評価されていることを示していた。

 元になった「親の顔が見たい」は私立名門女子高校のいじめ自殺という重たい話が主軸である。自殺した女の子の遺書に名前のあがった、いじめ加害者と目される生徒たちの親が呼び出され、学校側と善後策を講じるストーリーが縦糸である。

 その中で激烈ないじめの実態とそれぞれの親子関係が現れてくる。初めは頭から否定し拒絶していた保護者たちがやがて事態を受け入れざるを得なくなっていく中にサスペンスがある。悪には違いないことだが、悪と断罪するだけでは解決のつかない深刻な問題があぶりだされていく。容易ではない事後策を考えていく展開。模索と葛藤が絶望的に錯綜する苦い話である。現役の教員である畑澤が描く深刻なイジメのリアリティは凄まじい。学校側の場当たり的で後手後手に回る対応に現在の教育現場がえぐられ、実にリアルである。彼の教員という立場が今後の危ぶまれやしないかと、危惧するほどの鋭い描写がある。また「親の顔が見たい」という、平凡なはずの罵倒語が発せられる場と発する人物にも強烈な皮肉が込められる。

渡辺源四郎商店プロデュース公演 「ともことサマーキャンプ」から

プロデュース公演 「ともことサマーキャンプ」から
【写真は、渡辺源四郎商店プロデュース公演 「ともことサマーキャンプ」から。
提供=渡辺源四郎商店。禁無断転載】

 「ともこ」では、生徒が演じるにあたり、イジメたとされる生徒とその親を一人二役にした。そのことで生徒たちが無理して大人を演じてぎくしゃくする弊害を軽くし、さらに「親の顔」になかった、当事者たちが現れることによる直接性は緊張感漂うもので、オリジナルを見たものにもすばらしい脚本となった。サマーキャンプという勉強会合宿に舞台を移すことが、「事情聴取」と呼ばれる学校特有の隔離システムを無理なく有効に機能させ、そこで悪賢く打ち合わせし、口裏を合わせたり、「余計なこと」を話そうとする「仲間」にプレッシャーをかけたりする中学生たちの大人に見せない素顔の描写はなんともリアルである。

 一向に反省を見せない生徒たちにいらだちつつも、「本当のことを話して」としか迫れず、子どもたちになめられる新米担任の苦悩する姿や、穏便な収拾しか目指していない戯画化された管理職たちの姿は大人に胡散臭いものを感じがちな生徒たちにとって親近感のあるものだろう。また「イタコ」の孫という子が、「死んだともこが来てる」といいだすなど、青森ならではのアイディアもあり、これが重要な伏線にもなるのはたいへん巧みな改変であった。

 さて、実際のWSはどのようなものだったのであろう。
 当日行われたポストトークや配布された「演じて、観て、考える。なべげんの演劇体験ワークショップ」という08、09年の報告書でいくつか重要なことがわかった。

 今年は、6月に1日目としてワークショップオーデションを行い、応募の全員、男子6名名女子15名の21名を2チームに分けて始まった。ここにも畑澤の演劇の普及への意志が感じられる。8月の2~5日目が実際のWSで、6,7日目が発表会という日程である。

 つまり実質4日の稽古で中学生たちは台本も持たずに60分ほどの作品を上演するまでになるのである。昨年もWSに参加したものが8名いると聞いたが、その人気も指導力のゆえであろうと思えた。

 作品としてのクオリティもなかなかなものだと感じられた。なによりも、中学生が自信をもって生き生きと演じているのは感動するものがあった。

 先程述べたように、演劇の楽しみを知ってもらうには実際演劇を作り手として、経験するにしくはない。にしすがも創造舎や世田谷パブリックシアター、キラリ☆ふじみなどで作品づくりやバックステージツアーや制作のWSなどを子どもむけに継続的に行っているのはすばらしい意欲的な試みである。そういう公共劇場だからできることはもっともっと積極的に行って欲しい。しかし単一のカンパニーがそのような取組を継続して行う困難は計りしれないものがある。そこで畑澤は高校教員という立場を最大に利用し使いこなしている。アーティストとして優れているだけでなく、指導者としての優れた力が存分に発揮されている。

 WSには現役の高校演劇部員と卒業生たちが協力している。部員たちは秋に控える大会に向け夏休みは貴重な準備期間であるはずだが、座付きの畑澤の本ができあがらないため、多い部員を2チームに編成し、春からずっと「ともこ」を稽古したのだそうだ。それこそ上演できる形までに。そこに夏休みを利用して帰省したり、地元で就職したりしたオリジナルメンバーの先輩たちが協力する。両者がWSの中学生の指導にあたるのだ。

 具体的には中学生たちに配役ごとに一人ずつマンツーマンで密着する、さらに先輩たちがその両チームを役ごとに統括して指導する。中学生は二重に稽古をつけてもらえるのである。もうひとつは「シャドウシステム稽古」とよばれている。稽古中、担当する先輩たちが段取りとセリフを小声で指示しながら、中学生とともに舞台で動き、本番と同じように通し稽古をして行くのだという。動きながら体を使いながら、セリフと動きを同時にすぐそばにいる手本を見つつ、覚えて行くのだ。

 これは確かに効率がいいだろう。口立ては芝居の基本である。短期間で質が向上するのもよくわかる。たった4日でこれほどに仕上がるのはそういう仕組である。これなら指導者はつきっきりにならずともそれぞれにポイントだけ指導し、全体を見渡したアンサンブルをとることに集中できる。21名2チームという大所帯でも短い時間で稽古が進捗するだろう。

 生徒たちにとっても、年の近いお姉さんお兄さんたちとの稽古は楽しいだろうし、臆することなくのびのびと取り組めるにちがいない。その姿をぜひ見たいものだった。残念だった。

 これは高校部活というバックボーンがあるからこそなし得る高度な方法である。
 部活というのは、毎年新入生が入り、卒業生が去っていくという代替わりのサイクルがある。力のある顧問が継続したとしても、毎年毎年の一からの指導を行い、成長や過去の成果がストレートに下の代に伝わるわけではない。蓄積していくのは大変に困難だ。スポーツの強豪校といわれるところでも年によりレベルのちがいが顕著に現れ、勝ち続けるのは難しい。また先輩たちがやってきて、後輩たちを指導することはあったとしても、毎年やることも課題も異なるのだから、なかなかに伝達はうまくいかない。継続して作品をレパートリー化するメリットは多方面ではかりしれないものがあるだろう。

 畑澤が考える、演劇の普及には「地域への演劇人の供給」と「演劇愛好者の養成と拡大」といいった二重の側面がある。誰もがプロを目指そうとするのは地域ではムリが生じる。プロをめざすのもよいが、演劇が好きになり、観客として地域に留まってくれるのもよいという目標の設定である。現実的で強度のある目標だ。

 だから、その思想の中では代替わりはむしろ好ましいものとなる。いつまでも古参の団員が牛耳って新しい才能の開花が滞りがちなプロ劇団に比べ、新陳代謝を毎年繰り返していく高校部活においては、毎年の継続が裾野を広げ、地域に普及していくことに直接的に結びついていく。その結果、今回のように卒業生たちが集まり、卒業生だけでの公演もうてたのである。それはもちろん指導者も経験した彼女たちが成長した姿で上演したものである。単なる同窓会的なものとはかけ離れた、優れた公演だった。顧問としての気持ちを想像するに、どれだけの幸せだったであろうか。
(初出:マガジン・ワンダーランド第215号、2010年11月10日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
 カトリヒデトシ(香取英敏)
 1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。
演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HP「カトリヒデトシ.com」を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katori-hidetoshi/

【上演記録】
渡辺源四郎商店/中学生演劇体験ワークショップ発表公演「ココロとカラダで考えるいじめと正義~7日でつくる『ともことサマーキャンプ』~」
作・演出 畑澤聖悟
アトリエ・グリーンパーク(青森市、2010年8月19日-21日)

A班キャスト
ヨコオカ(校長)/フミヤ 榊史也(1年)
イシオカ(学年主任)/リユウ 澤谷理佑(3年)
フクシ(学年の教員)/ハヤシ  林美奈(1年)
シミズ(学級担任)/ジュラ 竹村朱羅(2年)
ミナ/ミナの母/エミ 上打田内恵美(3年)
カイ/カイの母/レベッカ  牧野レベッカ(2年)
サトミ/サトミの母/モエ  橋爪萌(2年)
サツキ/サツキの母/アユリ  佐渡歩里(2年)
ナツミ/ナツミの父/ユキコ  蒔苗有紀子(3年)
ホソヤ(新聞配達店長)/シンヤ  高坂真也(3年)
ともこ/ともこの母  木村紗香(1年)
B班キャスト
ヨコオカ(校長)/ユカ  高坂友郁(2年)
イシオカ(学年主任)/シュンペイ  大坂集平(2年)
フクシ(学年の教員)/ミサキ  豊嶋未紗樹(1年)
シミズ(学級担任)/レイナ  大友玲菜(1年)
ミナ/ミナの母/ユキ  相馬祐希(2年)
カイ/カイの母/ヒロナ  阿部紘奈(3年)
サトミ/サトミの母/コズエ  渡辺梢(2年)
サツキ/サツキの母/マユコ  清藤真由子(2年)
ナツミ/ナツミの父/イブキ  川村いぶき(2年)
ホソヤ(新聞配達店長)/ユウダイ  木島雄大(2年)
ともこ/ともこの母  木村紗香

スタッフ
脚本・演出・舞台美術/畑澤聖悟
照明/浅沼昌弘
ドラマターグ/工藤千夏
プロデュース/佐藤誠
制作/工藤由佳子、西後知春、柿崎彩香、秋庭里美、田守裕子
宣伝美術・イラスト 山下昇平
協力 青森県立青森中央高等学校演劇部、株式会社みどりや、青森演劇鑑賞協会、ESPACE、りんご屋、株式会社アール・キュー、株式会社T.E.S、株式会社アクト・ディヴァイス、株式会社グルーヴ、ジパング

入場無料(当日受付順にご入場)
主催:渡辺源四郎商店/共催:NPO法人アートコアあおもり
後援:青森市教育委員会、青森市PTA連合会、青森市、青森県教育委員会

▽渡辺源四郎商店プロデュース公演 「ともことサマーキャンプ」(記事中の舞台写真はこのプロデュース公演で撮影)
アトリエ・グリーンパーク (2010年8月20日-21日)
▼脚本・演出・舞台美術 畑澤聖悟
▼出演
牧野慶一
太田媛乃
長崎南美
夏井澪菜
坂口海
山内さとみ
有馬三菜
細谷拓弥
木村知子
畑澤聖悟
▼スタッフ
照明:浅沼昌弘
ドラマターグ:工藤千夏
プロデュース:佐藤誠
宣伝美術:山下昇平
制作:工藤由佳子、西後知春、柿崎彩香、秋庭里美、田守裕子
【協力】青森県立青森中央高等学校、株式会社みどりや、青森演劇鑑賞協会、ESPACE、りんご屋、株式会社アール・キュー、株式会社T.E.S、株式会社アクト・ディヴァイス、ジパング、株式会社グルーヴ、ビーンズワークス合同会社


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください