「身近な生活と隣り合わせに現れる異界」を、意表を突く着眼と巧みなストーリーで舞台化するイキウメ。今回は短編を積み重ねる図書館シリーズの第3弾。テーマは「食べもの連鎖」です。その舞台の舌触りと味わいはどうだったのか。立ち会った6人が五つ星と400字でレビューします。掲載は到着順。(編集部)
水牛健太郎(ワンダーランド)
★★
4話構成の短篇集になっているが、第3話が突出して長く、時間にして半分を占める上、第1話、第4話も登場人物などで、第3話との関連性が強い。だから第3話が全体の印象を左右するが、やや冗長で、不満が残る出来だった。不老不死となった元医者の話で、面白い設定なのだが、80年に及ぶ時間の流れが感じられず、「そういう設定でお芝居をしている」ように見える。言うまでもなくそれが事実だが、ほんの一瞬でいいから騙してほしかった。
第3話で決定的な結末を示唆した後に、第4話で同じ登場人物の平穏無事な姿を見せるのもどうだろうか。作・演出の前川知大にすれば何らかの意図や理屈はあるのだろうが、時系列的にも第3話の後だと思われるので、気になった。
いずれの話も、内容は面白いしセリフも気が利いていて、役者にも大きな不満はない。しかし、見ていてテンションがいま一つ上がらなかった。全4話の中では、第2話がいちばん面白かった。
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岡野宏文(ライター&エディター)
★★★
あまたの本が挿架された図書館のごとく、よろずの人生を彩り豊かにパックするオムニバス・シリーズの第三弾ですね。4話構成。テーマは「食」。明け暮れ変わらず達者な空間処理がひどく見やすい二時間半でありました。ちょっと見やすすぎる疑いすらある。第一話が秀逸。ベジメニューを存分にうまい肉料理と感じて二週間騙されてしまった夫の、誰が誰を裏切ったのか判然としない泥沼的な怒りというか、渚に漂う片側の開いた片平なぎさばりな憤怒というか、いやよく分からないけど、そういう持って行き場のないグロテスクな煩悶を構造化した。つまりここで起きているのは、妻からの夫に対する「生理の強姦」ですね。しかも善意の。このあと、モラルなき者を排除するには究極はこちらもモラルを破るしかない、といった苦い真理に嘆息させる第二話など、ささやかだからこそ、かえって人の魂を危うくさせる問題を浮き彫りに。やっぱ人間玄米だと教化され帰路に。
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都留由子(ワンダーランド)
★★★
食にまつわるエピソード4話が並ぶオムニバス。装置や照明がとても美しく、場面転換もスピーディかつおしゃれ。よく切れる刃物できれいにカットされた手の込んだ美しいケーキみたいな印象。生きている限り「食べる」というくびきから放たれることはないこと、無意識のうちに「食」によって「生」のあり方を規定されているかもしれないことを、改めて気づかされ、とても面白かった。不老不死の食事療法を扱う第3話がいちばん長く、メインのエピソードだと思われるが、ややくどい気がする。第2話の希少動物・環境保護を心がける万引きスペシャリストの話、その視点にちょっと意表を突かれ、全体の中ではいちばん面白かった。役者もうまいし、台本もうまい。カッコイイ台詞満載。ちょっとカッコよすぎる気がするのは個人的好みでしょう。蛇足ながら、玄米は洗ってすぐには炊けません。一晩浸水するのがおいしく炊くコツです。
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中尾祐子(フリーライター)
★★★★
「食」をテーマにした短編4作の連続上演と聞いた時は選択範囲の幅広さを訝った。しかし結果として、食べることは生きることという自明の警告を再認識させる構成に成功している。
昨今の自然食への傾倒をシニカルに描く。完全菜食を目指す妻と肉を食べたい夫の葛藤、万引き男の美学など馴染みやすい展開や流れるセリフ回しで観客を温める。メインの第3話で瞬く間に、怪奇現象をモチーフに日常感覚をひっくり返す独特の世界へと誘い込む。
全4話は独立しつつも繋がっているので、会話の一つ一つが前後で共鳴する。その度に観客も反応するということは舞台に引きつけられた証。今後はこの観客とのキャッチボールで演技も更に柔らかくなるだろう。全体のバランスや引き際も手抜かりなく、物語の中盤で背筋の寒くなる重圧感を受けても、観た後は目が覚めたようにすっきりとする。食べることは恐ろしい行為だと思い出させた約2時間は得がたい経験に。
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今井克佳(大学教員、「ロンドン日和&帰国後の日々」)
★★★★
若さやら勢いやら奇抜な発想やらの小劇場にそろそろ疲れて来た頃に、内容のあるストーリーで勝負してくれる芝居は嬉しい。現代の菜食ブームを揶揄した最初のエピソードのくすぐりが上手く、ひきこまれるもそうした視点はその後展開しなかったように思えるのは残念。続くのは、いつもの前川流の現代怪異譚。日常の価値観や倫理観がずれていく感覚の苦さがいい。食をテーマとしつつも食欲の湧く話ではないのだが。各エピソードのバランスが悪く、連携もよくないように感じたが、当日パンフの記述でコース料理に模しているということでやや納得。それでももう少し、登場人物の繋がりや見終わった後のカタルシスが欲しい気もする。一見突飛な物語を支えるのは、俳優たちのキャラクターと演技力だろう。微妙な感情の揺れを表現できる人が多い。そして伊勢佳世を見るのがイキウメを見る動機の大半を占めている私は、今回も素敵だった彼女の魅力で星を1つ増やしてしまうのである。
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大泉尚子(ワンダーランド)
★★☆(2.5)
4話からなるオムニバス。イキウメの連作は、話から話への移り変わり方が絶妙! サブタイトルの「食べもの連鎖」には二重三重の意味があるのだが、それが、このつながり感の巧みさと相まって、脳の不思議なところを刺激される効果を生んでいる。いわゆる食物連鎖とは異なる食べもの連鎖というのが〈輪廻〉とちょっと重なって見えてきたり。仏教では、輪廻にからめとられているのは苦しみで、解脱してそこから抜け出すのが目標、みたいな感じだと思うけど、この連鎖からは、はずれるのが幸せなのか不幸なのか?… ちなみに、ベジテリアンの「肉を食べる人は欲望の奴隷、私は自分の体の支配者」「ベジ料理はうまいでしょ。主義が入ってるからね」といった肉食系なセリフは妙な説得力を持つ。役者の動きはリズミカルでスピーディ、マイム的なところも、部分と全体が噛み合って実に滑らかな運び。それなのに、星の数がやや控え目になってしまったのは…うまくできすぎていて、ひっかかるところがない、スムーズ感が物足りなさにつながってしまうというところだろうか。
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【上演記録】
イキウメ「図書館的人生Vol.3 食べもの連鎖」
■EPISODE
#1 人の為に装うことで、誰が不幸になるっていうんだ?
#2 いずれ誰もがコソ泥だ、後は野となれ山となれ
#3 人生という、死に至る病に効果あり
#4 マヨネーズの別名は、全体主義的調味料
上演時間は一幕 約2時間10分
[東京公演]
世田谷・シアタートラム(2010年10月29日-11月7日)
[作・演出] 前川知大
[出演] 浜田信也/盛隆二/岩本幸子/伊勢佳世/森下創/窪田道聡/緒方健児/大窪人衛/加茂杏子/安井順平/板垣雄亮
[スタッフ]
美術:土岐研一
照明:松本大介
音響:青木タクヘイ
音楽:安東克人
衣装:今村あずさ
ヘアメイク:西川直子
演出助手:石内エイコ
舞台監督:谷澤拓巳
制作:中島隆裕 吉田直美
演出部:棚瀬巧 上嶋倫子 渡邊亜沙子
宣伝美術:末吉亮
舞台写真:田中亜紀
提携:財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区 TOKYO FM
助成:文化芸術振興費補助金
協力:公益財団法人セゾン文化財団
運営協力:サンライズプロモーション東京
主催:イキウメ /エッチビイ
[大阪公演]
HEP HALL(2010年11月16日-11月20日)
主催 イキウメ /エッチビイ
[広島公演]
アステールプラザ中ホール(2010年11月21日(日)
主催 TSSテレビ新広島、(財)広島市文化財団 アステールプラザ、イキウメ / エッチビイ
[福岡公演]
西鉄ホール(2010年11月23日)
提携 西鉄ホール(西鉄ムーブ128)
制作協力 ピクニック
主催 イキウメ /エッチビイ
「「初日レビュー2010」第5回 イキウメ「図書館的人生Vol.3 食べもの連鎖」」への1件のフィードバック