3人で語る「2010年11月はコレがお薦め!」

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「月と牛の耳」公演チラシ
「月と牛の耳」公演チラシ

カトリヒデトシさんのお薦め
劇団競泳水着「りんごりらっぱんつ」(サンモールスタジオ11月12日‐23日)
イキウメ「図書館的人生Vol.3」(シアタートラム10月29日‐11月7日、HEP HALL11月16日~20日、アステールプラザ11月12日、西鉄ホール11月23日)
渡辺源四郎商店×東京デスロックカンパニー「月と牛の耳」(11月19日‐23日アトリエ・グリーンパーク、12月3日‐5日富士見市民文化会館 キラリ☆ふじみ

鈴木励滋さんのお薦め
dracom「事件母」(シアターグリーンBOX in BOX THEATER11月18日‐21日)F/T10
岡崎藝術座「古いクーラー」(シアターグリーンBIG TREE THEATER11月19日‐28日)F/T10
FUKAI PURODUCE羽衣「も字たち」(新宿ゴールデン街劇場11月9日‐25日)

徳永京子さんのお薦め
・生活舞踏工作室「メモリー」(にしすがも創造舎11月26日‐28日)F/T10
・「DRAMATHOLOGY/ドラマソロジー」(東京芸術劇場11月26日-28日)F/T10
マームとジプシー「ハロースクール、バイバイ」(シアターグリーンBASE THEATER 11月24日-28日)F/T10

カトリヒデトシさんカトリ 私はまず、劇団競泳水着「りんごりらっぱんつ」から。…お薦めするの、ちょっと勇気がいるんだよね(笑)。演劇について強いこだわりを持っている方なんかからは「トレンディドラマやるってなんだよ」とか、「あんなの演劇といえるのか」とか、「ホントにかわいい子が小劇場にいるわけないんだから、そんなの売りにするな」とか、いろいろ言われるんだよね。
鈴木 わかる気がするー。
カトリ かわいい女の子とちょっといい男が出てきて、淡い恋をしたりすれ違ったり、若者らしい今後の人生へのためらいがあったり〈22歳の別れ〉的なことがあったり…、というのはベタベタですよ、確かに(笑)。でも、観客にわかりやすい。気持ちを鷲づかみにするという点で評価してるんだよね。
鈴木 アー、ソウデスカ。
徳永 鈴木さんの合の手がスリリング!(笑)
鈴木 イヤイヤイヤ。で、どこがお薦めなんですか?
カトリ やってることはベタだけど、「恋愛」は大事でしょう(笑)。ドラマドラマって言われて、「物語」としても大したことないとも思われてるけど、それをセリフのセンス、うまく隙間をついてくる言葉で構成するのは中々だと思っている。
鈴木 アアー(天を仰いで)。作・演出の上野友之さんは優れた俳優だと思いますよ。KUNIO07「文化祭」もよかったし、「ソバージュばあさん」はほんとうにすばらしかった。
カトリ 競泳には、ネクタイしたサラリーマンが、会社帰りという感じで見に来る。そういう芝居も、観客の裾野を広げるっていう意味で、なきゃ困ると思ってます。90年代のTHEATER/TOPSみたいにね。
鈴木 そこから入っても、演劇に定着しないんじゃないですかね?
カトリ それはそうかもしれないとオレも思うよ(笑)。でもさ、小劇場に来てくれる客を開拓してる、とりあえず来てもらえるというのはすごいよ。みなさん、観劇後楽しそうに帰るし、ポストトーク聞かないし(笑)。上野くんは役者を見る目もあって、堀越涼(花組芝居)や玉置玲央(柿喰う客)とかの、今までと違う側面を掘り起こしたりしてきた。
だから今回、金丸慎太郎(贅沢な妥協策、国道五十八号戦線)や今村圭佑(Mrs.fictions)がどんな使われ方をされるのか楽しみ。そうそう、梅舟惟永(ろりえ)や篠崎大悟(ロロ)を見つけたのもここ。団員の女優たちもメキメキと力をつけてきたし、3人とも売れっ子になってきて慶賀の至り。
鈴木 僕は、本公演はこの前はじめて見たんだけど、ピンとこなかった。だから、ずっと見ている人たちには、いったいどこがいいのか、ちゃんとわかるように薦めてほしいんですよね。
カトリ 役者がのびのびと芝居をして、新しい魅力を開花させていくのは見てて楽しい。わかりやすいけど癖になるっていうか、月9みたいなもんだよ。
徳永 カトリさん、月9はご覧になっているんですか?
カトリ 確かに見てません(笑)。ずっと見ていたくなるってこと言いたかったけど、たとえが悪かった。今回は不評だなあ。「好きだからです」で、すましたくない。河合隼雄がいうように「愛とは『にもかかわらずの決意』」ですから(笑)、たった一人になっても応援します。見続けます。批評家としては失格かもね…。
 じゃあ次は、イキウメ「図書館的人生Vol.3」。もう前川知大さんもビッグネームになっちゃいました。文科省の芸術祭選奨新人賞を受賞しましたし。
徳永 読売演劇大賞優秀作品賞や演出賞もとってますね。
カトリ 最近、必ず地域公演を2つか3つ入れるようになりました。広島、福岡まで足を伸ばすという姿勢が、偉いなあと思います。で、私は「地方」という言葉は使わないようにしています。〈中心と周縁〉になっちゃうんでね。「地域」といいたい。東京も地域。現在、労演などの鑑賞団体の存続が厳しくなったりして、新劇系の劇団でも地域公演を打ちにくくなってる中、東京の生きのいい芝居を見せる姿勢はすごく評価ができますよね。いろいろとたいへんでしょうに…。
徳永 今度前川さんは、イギリスの劇場にレジデンスで留学して、自分の戯曲を英訳したものでワークショップをやるようです。東京で劇団を大きくすることよりも、いろんな場所に動いて積極的に動くことを重視されているのかもしれませんね。
カトリ いわゆる「下北スゴロク」が崩れ、ザ・スズナリなんかがベテラン劇団ばかりで、若手劇団が入る余地がなかなかない。で、動員が2000人を超えた時点で、次はどこでやるかが大きな問題になってます。東京芸術劇場やシアタートラムに上がれればいいけれど、そういうところでは1週間もできないし。パルコ劇場、シアターコクーンは遥かかなただしね。そんな中、売れてきた劇団のモデルケースであり、先駆的な試みとして、ここは貴重な存在だと思ってます。地域でワークショップしたりとか。イキウメは、三鷹芸術文化センター星のホール、青山円形、赤坂RED/THEATER、紀伊國屋ホールと、小屋も片寄らないよう、選び方を工夫しているように思いますね。今回は同名の短編集の3つめですが、1、2はよかった。NHKの「シアターコレクション09」でも放映されました、板垣雄亮(殿様ランチ)という怪優が出ます。前作では、自分のアイデンティティに悩む地獄の鬼という面白い役をやった。客演も脂っこい、いいところを連れてくるんですよね。カンパニーのメンバーもなかなか。
徳永 そうですか? 演出もあると思うんですけど、何人かはいつも同じような演技ばかりに感じます。前川さんに話を戻せば、圧倒的に演出家としてより劇作家としての方が力があると思いますが。
カトリ うーん、それはそうかも。2008年の「眠りのともだち」なんか、SF志向に走り過ぎて、説明が長くダルかったんだが、最近SF趣味くらいに押さえ、物語の構造がしっかりして、スッキリととてもよいです。
徳永 劇団を離れての前川さん単独の活動も目立ちますね。昨年、仲村トオルや池田成志が出た「奇ッ怪―小泉八雲から聞いた話」、パルコ劇場での「狭き門より入れ」は面白かった。今回のイキウメ公演のすぐ後には、やはりパルコ劇場で、佐々木蔵之介さんと大杉蓮さん主演の「抜け穴の会議室」という舞台も作・演出します。
カトリ 最後に、一番楽しみにしている、渡辺源四郎商店×東京デスロックカンパニー「月と牛の耳」を。作畑澤聖悟・演出多田淳之介の組み合わせが魅力的です。多田さんが、去年なべげん(渡辺源四郎商店)の本拠地、青森アトリエ・グリーンパークで「LOVE」を公演しました。ワークショップ発表会では若手に混じって畑澤さん自身が出演。〈演劇LOVE〉の2人ですから、その頃から
一緒にやろうという話が出てたんでしょうね。
鈴木 これは新作ではなくて、再演もされてますよね。「王子トリビュート001畑澤聖悟」では、いるかHotelが上演しました。
カトリ 記憶に障害が出る脳の病気で、起こったことが覚えてられない、いわゆるエピソード記憶ができない人の話。そういうのは、蓬莱竜太さんのモダンスイマーズ「五十嵐伝」、映画になって「ガチ・ボーイ」という名作があるし、ほかにも、映画「パコと不思議な絵本」の原作の後藤ひろひと大王の
「MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人」。どれも名作・傑作が多いです。
鈴木 映画監督の是枝裕和さんは、前向性健忘症の男性と家族を追った「記憶が失われた時…」というNHKのドキュメンタリーを撮ってて、「ワンダフルライフ」はそれに連なった映画作品。
カトリ 今ここを描きがちな演劇で、過去をどう差し込むかってのは大きなテーマだけど、過去が存在しなくなる人物というのは確かに魅力的な設定ですよね。そういう意味で、畑澤さんがどういうふうにそのモチーフを作品化しているのか興味がある。モデルが空手の大山倍達。実際の話が基になっているらしい。タイトルの「牛」は、大山が「牛殺しと言われた伝説の空手家」だから。
鈴木 畑澤さんは、おじいちゃんたちを使い始めてから、どんどんベタ寄りにいってるので、多田さんの演出というは、組み合わせとしてホントに楽しみです。

鈴木励滋さん鈴木 では僕の1本目はdracom「事件母」。
カトリ 私は「ハカラズモ」を見て、何にも感じなかった…。TPAMでやった短縮40分版だったせいかもしれないが。東京ではほとんどやりませんが、劇団としてはもう長いし、作・演出の筒井潤くんは、関西ではけっこう知られてる存在。
鈴木 東京では、同じく「ハカラズモ」を森下スタジオでやったのだけじゃないかな。「もれうた」で京都芸術センター舞台芸術賞2007をとったご褒美公演でしたね。なら、もうちょっと本格的な公演にできなかったのか?(笑)って思いましたけど。でもその時の「演出家フォーラム」のパネリストが豪華で、筒井さんのほかは、岡田利規さん・白井剛さん・松田正隆さんなど。「もれうた」は、俳優のセリフを録音したものを流して、しゃべらないで演じた作品。当然、身体とのズレは出てくるわけで、岡田さんは関心を示されるだろうという狙いはあったんでしょうね。
「ハカラズモ」もその演出方法を使ってます。コートがあり、ペタンクか何かのスポーツをやる人たちが対戦相手を待っている。スクリーンにはいろんな国のスポーツ憲章やルールなどが映し出される。セリフは、ここから(大阪の)日本橋まではどう行きますか?みたいな、どうでもいいようなことばっかり。で、筒井さんは、物語を描きたいとは思わない、物語の中にいる実感を描きたいみたいなことを言っていた。
徳永 ただ、チラシを読むと、今回はいかにもドラマっぽいですよね。
鈴木 いずれにしても、演出は直球では来ないだろうなと。単にストーリーを追ってけるような感じではないでしょうね。きっと東京では受けるし評価されると思う。実際、あちらではそう言われるらしいんだけど。
カトリ かといって、京都のインテリな人たちとも違って、そこまで理屈で作ってもいない。
鈴木 「ハカラズモ」のパンフに、こういうくだりがあります。パソコンに向かってたら、テレビで秋葉原事件の速報が流れて茫然とし、そのうちパフュームが歌い出して、そういえば昔、パフュームは秋葉原で歌ってたなあとか、その番組名が「SAVE THE FUTURE」だったとか。それを、神が作った物語だとまでは彼は言わないんだけど、偶然の積み重ねに響くものがあるというかね。正しい解釈の筋を提示して導くというのではなくて、そこに展開するものや余白から、それぞれが受け取れるものを受け取るということなのかな。うーん、見てみたいです。
次は岡崎藝術座「古いクーラー」です。今回ぜひ推したいのは、当日券も含めて、高校生以下無料だからというのもあります。
徳永・カトリ すごい!
カトリ キャストも、菅原直樹・召田実子・森本華・武谷公雄、中林舞などなど…
徳永 幕の内的に豪華なメンバーですね。
鈴木 神里さんは本も書くけれど、演出家の側面の方が強いですよね。2006年に利賀演出家コンクールで最優秀演出家賞もとってるし。演出家には、既存のものをぶち壊すという面と、今までなかった実験的なものを作るという面があるけど、彼のは、結果的にぶち壊しに見えて、実はそうじゃない。今までにないものを、不器用でも自分の中であれこれ探り出すタイプで、その頑なさが好きなんですよ。演出手法を固定してしまわずに、貪欲に模索を続けていくのは、相当不安定じゃないですか。えらい目にあうこともありますよね。
カトリ テキストは重視しなくていい、なしでもいいという「な」系だと私は思ってます。テキストはあるんだけど、いかにその鼻面をつかんでひきずりまわせるかという感じで、最近の小劇場では珍しく、舞台にカオスがボロボロッと出てくる。まぁ、そのカオスがどのぐらい深いものかは、まだ見えてこないんだけども。
鈴木 神里さんとの最初の出会いは最悪で、利賀で賞をとった直後に東京でやった作品。朝9時集合で、街を連れ回された挙句、最後に俳優が神田川で泳ぐ。
何てこった!と非常に腹が立った。
徳永 最悪だった第一印象から「でも次も行こう」への飛び越えは何だったんですか?
鈴木 僕はあまりにひどいと気になるんですよ。ここまでひどいことを、しかも一生懸命やるっていうのは何かあるんじゃないかって思わされて。その後も見続けて、やはり、いたずらに斬新さを目論む「パターン外し」ではないと感じられて、ずっとお付き合いしています。
最後は、FUKAI PURODUCE羽衣をまた。「も字たち」です。誰にも理解されなくても薦め続けます(笑)。
徳永 「誰にも」って(笑)。ファンは多いですよ。
カトリ 多いというより、熱いファンがいる。あと、役者たちが、出たいと思わないけど、何やってるんだろうって気になるって、割とみんな言うんだよね。
鈴木 トラムの「あのひとたちのリサイタル」は、世田谷区芸術アワード「飛翔」2008受賞公演として招聘された形。世田谷区民の皆さんがあんなの見たっていうのはおもしろかったんですが、意外に怒って出てく人はいなかった。ただ、アングラでダメねとか、よく言わない人が多いのもよくわかります。でも僕は、この人たちの切実さが好きなんですよね。男女の話ばっかりで、男女の組が何組も出る。洗練された形だったら、ピックアップして使うんだけど、全員にやらしちゃうんですよね。それも、意図してヘタウマ的にやってるんじゃなくて、ただただ熱くやりたいんだろうと。
徳永 ゴールデン街劇場で「Y.I」を見たとき、役者さんたちが舞台に出てくるドアのすぐそばに座ってたんですけど、開演直前にカーテン越しにものすごく荒い、緊張に満ちた深呼吸が聞こえてきて。こっちまでドキドキしてたら、ガーッと出てきた役者さんたち、すぐに床で絡み合って「好きだよ」みたいなね(笑)。
鈴木 そうなんですよ。それで、前にも言ったけど、性が生までに届く感じがいつもするんです。前回の東京芸術劇場の「愛死に」で、はじめて明確に死まで行ったんですよね。その先、何かが見えるかなと気になっています。
徳永 一般的な完成度を求める人は、ひょっとしたら怒るのかもしれませんが、「愛死に」の最後の歌なんか、全員が叫ぶように歌うから、歌詞が聞き取れない。でも、歌詞からはみだしたものが伝わって来ました。暗くて見えてないのに、全ペアが延々と絡み合ったり、効率で考えてないところがいいですよね。
鈴木 羽衣のこの過剰な押し付けがましさなんていうものもそうですし、筒井さんの台詞と身体のズレとか、神里さんのずっと探求し続けてく感じって、全部切実さだと思うんです。簡単にスゥーっと消化されないようにというか。見る人のどっかにひっかき傷をつけてやろうみたいな。そういう切実さがないトレンディドラマに付き合う時間が僕にはないんだよなぁ(笑)。

徳永京子さん徳永 私はフェスティバル/トーキョーの演目ばかりになってしまいました。プログラムが多いんですが、絶対に見逃すまいと思ってる2本が、生活舞踏工作室「メモリー」と「DRAMATHOLOGY/ドラマソロジー」。
カトリ 「メモリー」は、1時間と8時間のバージョンがあるんですね。
徳永 その8時間公演について、お話したいんです。作り手の中には作品を、たとえば90分とか、一定の時間内におさめることにこだわってる人がいますよね。観客の中にも、長時間のお芝居を避ける傾向がある。それもわかるんです。演劇は、大衆演劇をのぞけば、一度席についたら動くなしゃべるな飲むな喰うなってことが基本で、言ってみれば〈強制するエンターテインメント〉。でも私は、ある意味、暴力的とも言えるそのスタンスに、ちょっとしびれたりするんですね。
 去年、シアターコクーンで蜷川幸雄さんが「コースト・オブ・ユートピア」を、新国立劇場で鵜山仁さんが「ヘンリー六世」を、それぞれ本編だけで9時間以上かけて上演されました。長いから偉いとかいうつもりは全然ないんですけど、観客からそれだけの時間を奪っても伝えたいという覚悟は、やっぱりちょっとすごい。だって9時間って、起きてる時間の大半ですよ。3時間の芝居3本分より面白いと思ってもらえるものを見せる、という気持ちがないとできないでしょう。スタッフや役者さんにも負担を負わせるわけだし、よく演劇の魅力として言われる「同じ時間を過ごして感動をシェアしましょう」程度の認識とは、明らかにレベルの違う集中力とか技術が必要ですよね。でもそれらがうまく働いた時に、観客の体内には、長時間強制されたからこそ分泌してくるものがあり、時計と違う時間が発生する気がするんです。舞台に準じた時間というか。それは、生きていくための血液の流れや細胞の代謝ではないけれど生産的で、意味があるものです。そういうことができるのは、今、演劇以外になかなかないと思います。
 ちょっと話は飛ぶんですけど、藤あや子がなぜ色っぽいかと言うと、露出してないからですよね。着物という拘束服が、表現者としての強度を高め、観客の想像力をかき立てる。拘束とカタルシスには確実に因果関係があります。
カトリ 来年、杉原邦生くんが「エンジェルズ・イン・アメリカ」を7時間かけて上演するとか。8時間必要な芝居なら8時間やればいい、意味がなくてやったら怒りますけど(笑)。
徳永 だから作り手も観客も、長時間ものを恐れるなかれと思うんですよね。「メモリー」は、映像も使いながら、中国の歴史や作家の個人史を展開するようです。ロングバージョンは、役者さんはずっと舞台上でパフォーマンスしているんですけど、お客さんは出入り自由だそうなので、トライとしてもいいと思います。
 次の「DRAMATHOLOGY/ドラマソロジー」の構成・演出の相模友士郎さんは、京都造形大学映像・舞台芸術科卒。卒業制作が賞をとって注目され、伊丹市から市民参加の作品を作らないかともちかけられて、エルダー世代―お年寄りに話を聞きたいと応募をかけた。集まった方たちと何度か話をしながら、彼らの子供時代や恋愛や戦争体験、仕事などについて聞き出して、そのモノローグを積み重ねた作品が今回のものです。伊丹公演をF/Tのプログラム・ディレクターの相馬千秋さんがご覧になって感動され、ぜひにと主催公演に招かれたそうです。知名度と抜擢という点では、F/Tでも一番の目玉なんじゃないかと思っています。
 エルダー世代の演劇というとさいたまゴールドシアターがあって、メンバーは役者としては上手ではないんだけれども、演劇に向かって自分を丸ごと投げ出す─たとえはみ出してしまっても─表現体としての強さを感じます。「ドラマソロジー」はドキュメントなので、ぜひそれと比較したい。演劇ではないからといって、おじいさん・おばあさんが自分史を語れば形になるかというと、そんなに簡単ではないはずで、まだ20代の相模さんがどういう仕掛けでそれを構成しているのかも、とても知りたいです。
鈴木 個人史がドラマになるというのは、最近多いですね。ワークショップとからめてもやりやすいからなのかな。で、個人史を切り出して散りばめると、それっぽい作品になる。それに対する批判も、当然あるわけで、さらに全編がそれで。それから、映像だとあるシーンを切り取れるけど、舞台では繰り返すでしょ?カメラで撮影される時だって、それはすでに日常ではなく演じているともいえるけれど、舞台で再現しなくてはならないのはまさに演技で、公演を重ねて行く困難もありそうですね。つまり、繰り返しによる語り手の気持ちの劣化などの危険性も孕んでいますよね。ドキュメンタリー映像には表せないものが立ち上がるのを期待しますが。
カトリ 今の70代の人っていうのは、終戦・学生運動・高度成長・不況などなど、激動の昭和史を生きてるわけで、話だけでも興味深いのはわかるけど、それを単なる思い出話にはしないんだろうからね。記憶ってしゃべってるうちにゆがんじゃうし。
鈴木 極端なことをいうと、〈記憶の捏造〉とはいうけれども、そういうことを含めて人生、その人なんですよね。〈本当〉を解明しようっていうわけではないでしょうし。
カトリ 寺山修二の「実際に起こらなかったことも歴史のうちである」っていう、有名な言葉がある。事実なんて貧相なものだから、それだけで留まっちゃったらつまらないんで、優れたドキュメンタリーには創作性が必要なんですよね。
徳永 以前、蜷川さんのある舞台で、ト書きにある品々を全部舞台上に出しているのを観て、具象をどんどん積み重ねていってあるポイントを越すと、それは抽象、詩になるんだと感じたことがありました。オチのない個人史の断片を次々と積み上げていったとき、ある時点からドラマになるのではないか、そこに可能性を感じています。
最後は、マームとジプシー「ハロースクール、バイバイ」です。マームは前回公演しか見ていないんですが、とにかく衝撃が大きかった。作・演出の藤田貴大さんはいつも中学2年生の、主に女の子を扱っているそうで、それに対して、描く世界が狭いと批判する人もいるそうです。でも私は、その批判はあまり意味がないと思います。よく中2病って言いますけど、14歳を子供と大人の境目と見るか、子供でも大人でもないと見るかで、表現は相当違ってきます。藤田さんは後者で、どこにも所属していないがゆえの瞬間的なはかなさや凶暴さを、いかに強力かつ刹那に舞台表現に変換するかで格闘している。それには相当な粘りとさまざまな手法が必要なはずです。つまり、14歳が描きやすいということでは決してないし、14歳のここが好き、という趣味の転写でもない。描かずにはいられないものが14歳に集約されているから扱うだけで、そこにすごく信じられるものを感じるので、次の作品も期待しています。
(10月11日 東京都渋谷区内にて)
(初出:マガジン・ワンダーランド第213号、2010年10月27日発行。購読は登録ページから)

【出席者略歴】(五十音順)
 カトリヒデトシ(香取英敏)
 1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HP「カトリヒデトシ.com」を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katori-hidetoshi/

 鈴木励滋(すずき・れいじ)
 1973年3月群馬県高崎市生まれ。栗原彬に政治社会学を師事。地域作業所カプカプの所長を務めつつ、演劇やダンスの批評を書いている。「生きるための試行 エイブル・アートの実験」(フィルムアート社)やハイバイのツアーパンフに寄稿。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/suzuki-reiji/

 徳永京子(とくなが・きょうこ)
 1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tokunaga-kyoko/

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  3. ピンバック: FUKAIPRODUCE羽衣
  4. ピンバック: 高野しのぶ
  5. ピンバック: ミンヌ

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