ジェニー・シーレイ演出「R&J」(ロミオとジュリエット)

◎“平等に、不平等”という希望
 安達真実

「R&J」公演チラシ
「R&J」公演チラシ

 舞台は、現代のとあるコミュニティーカレッジの一教室に始まる。「シェイクスピアを学ぼう」というテーマの講座が開講され、その初回には、多様な受講生達が集う。そこで、数年前まで女優をしていたという茜先生(金崎敬江)の「実際に演じてみるのが一番」との提案のもと、教材として『ロミオとジュリエット』が選ばれ、劇中劇として展開してゆく。

 多様な受講生達、と言ったが、まず姿形からして様々である。いわゆる障害者も含まれている。ろう者や、左手首から先の欠損者、身長110㎝の小人症の者、日本人もいれば、イギリス人もいる。多様なのは外見のみならず、ひきこもり気味で、親に申し込まれてしぶしぶ出てきた青年もいれば、逆にやや躁病的にアッパーなテンションの者もいる。役と同時に実際がそうである者と、単に役としてのみそうである者とが混在している。
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「宮澤賢治/夢の島から」(ロメオ・カステルッチ構成・演出「わたくしという現象」、飴屋法水構成・演出「じ め ん」)
「無防備映画都市-ルール地方三部作・第二部」(作・演出:ルネ・ポレシュ)

◎劇評を書くセミナー2011 F/T編 第2回 課題劇評

F/T2011 ワンダーランドが毎年開いてきた「劇評を書くセミナー」は今年、フェスティバル/トーキョーと提携して始まりました。
 第1回のトークセッション(9月25日)は入門編でしたが、第2回以降は劇評を書く実践編。公演をみて劇評を書き、受講者と公演や劇評の中身を話し合う機会になります。
 第2回(10月1日)で取り上げたのは、F/Tの委嘱作「宮澤賢治/夢の島から」(ロメオ・カステルッチ構成・演出「わたくしという現象」、飴屋法水構成・演出「じ め ん」)と「無防備映画都市-ルール地方三部作・第二部」(作・演出:ルネ・ポレシュ)でした。
 字数は2000字から4000字前後。いずれの公演も野外で開かれ、既成の枠組みから逸脱するような手法と展開だったせいか、セミナー受講者は原稿執筆に苦しんだようです。
 講師は新野守広さん(立教大教授、シアターアーツ編集委員)でした 。新野さんが執筆した2本を含めて提出された計8本の劇評が取り上げられ、ゼミ形式で2時間半余りしっかり討論されました。セミナー終了後の喫茶店で、講師の新野さんを交えてさらに話が尽きませんでした。
 以下、受講者執筆の6本を提出順に掲載します。原稿はセミナーでの議論を踏まえて再提出されました。すでに掲載されている新野さんの劇評と併せてご覧ください。
“「宮澤賢治/夢の島から」(ロメオ・カステルッチ構成・演出「わたくしという現象」、飴屋法水構成・演出「じ め ん」)
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世田谷パブリックシアター「現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』」

◎現代能楽集シリーズの転換点か?
 今井克佳
 
「現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』」公演チラシ 到着が開演ギリギリになってしまった。世田谷パブリックシアターの三階に駆け上がり、やっと座席に着くと、舞台は既に明るく、いかにも「能楽集」らしく、シンプルな木製に見える大きな台座がステージ上に広がり、また台座の後方に、舞台奥に向かってかなり深く、尻つぼみに空間が続いている。もちろん、橋懸かりらしきものもなく、実際の能楽堂形式とはずいぶん異なってはいる。また台座や後方の細くなっていく空間(これが橋懸かりの代わりなのかもしれない)のそこここに長方形の穴があくようになっており、上演中はそこから俳優が現れることもしばしばだった。遠い席から見たこともあり、まずはこの舞台美術(堀尾幸男)に目がいった。
 世田谷パブリックシアター「現代能楽集シリーズ」は、従来、小劇場であるシアタートラムで上演されてきた。舞台空間のプランは様々だったが、トラム程度の小空間が、「現代能楽集」にはふさわしいように思えていたので、この大空間に少し戸惑いを覚えた。だが、古典能に現代風の演出を加えた「能楽現在形シリーズ」などもここで上演されていることを考えれば、それほど違和感のある設定ではない、と思い直した。
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ポコペン舞子「もう少し待っててください」

◎愛すべき“ブス”のゆくえ
 安達真実

「ダンスがみたい!13」チラシ 仮に、“ポップでキュート、ときどきブス。”という種類の魅力があるとしよう。軽やかで愛らしい、だけでは物足りない。ときにちょっとヘンテコなのがカワイイ、と。
 例えばそう、ファッションで言うところの「東京ガールズ」(裏原系、ロリータファッション等)は、抑圧的な日本社会において、自分たちだけの居場所を、ファッションというツールの活用によって獲得しようとし、消費を通してしか文化を創り出せなかったとされる。が、ここで敢えて、このポコペン舞子(ブス)というダンスカンパニーを、そして彼女たちを取り巻くまなざしを、「東京ガールズ」の文脈で捉えるとするなら、それはそれで、おもしろいかもしれない。
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サンプル「ゲヘナにて」

◎哄笑のディストピア
 芦沢みどり

「ゲヘナにて」公演チラシ
「ゲヘナにて」公演チラシ

 会場に入って舞台を真正面から見た時、その存在感にまず圧倒された。住宅の屋根ほどの傾斜がついた八百屋舞台は、プロセニアムの中に造り込まれた八百屋ではなく、一個の構築物としてホールのスペースにどんと置かれている。したがってそこには袖もないし幕もない。その斜面の上に、布団、椅子、扇風機その他、細々とした家財道具が、どれも学生四畳半下宿ふうの安っぽさで散乱している。この舞台面を、下手客席側に設置された二段構えの照明の列がかっと照らし出しているので、席に就いた観客はいやでも舞台をまじまじと見ることになる。<こんな急斜面で芝居ができるのかしら。それにしても汚いなあ>と思って見ているうちに、そこには生活用具だけでなく土管ふうの物体や天窓のような開口部があることに気がついた。―この光景をどこかで見たような、という思いがふつふつと湧いて来る。そうだ! 3.11の大津波で流されてゆく家々の屋根と、津波が引いた後の瓦礫の中に残された靴の片方、おもちゃ、電気炊飯器などなど・・・あれそっくりじゃない? あの日以来繰り返し映像で見せられた光景なのにすぐに気づかなかったのは、たぶん、屋根は屋根、瓦礫は瓦礫として別々に見ていたからに違いない。もちろんこの装置と「あの日」を結びつけるのは早急すぎる。創り手はそんなことは考えていないのかもしれないから。でも、いったん抱いてしまった印象は、錯覚であれ妄想であれなかなか消えるものではない。そんなわけで筆者は「あの日」を引きずりつつ『ゲヘナにて』の舞台を見ることになった。
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MU「5分だけあげる」

◎素カレーは偉大
 小畑明日香

「5分だけあげる」公演公演チラシ
「5分だけあげる」公演チラシ

 『5分だけあげる』・上演時間55分、平台で舞台、一回り小さい平台を上に重ねて上演スペース、主に教室と、そこへ向かう廊下で起こる、学級崩壊した小学校(パンフレットに寄れば「ぶっ壊れた6年2組」)での物語。
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福岡と北九州の演劇・ダンススポットを訪ねて

◎福岡と北九州の演劇・ダンススポットを訪ねて
 大泉尚子

 6月末に、九州にある公共ホールで働いていらした栗原弓枝さんのご案内により、福岡と北九州で演劇やダンスにかかわっておられる方々を訪ねた。お会いしたのは、NPO法人「FPAP(エフパップ)」の高崎大志さん、「枝光本町商店街アイアンシアター」の市原幹也さん、「劇団こふく劇場」の永山智行さん、「北九州芸術劇場」の泊篤志さん、NPO法人「Co.D.Ex(コデックス)」のスウェイン佳子さんなど。2日間という短い日数ではあったが、地域の舞台創造を支える活動の一端にふれることができた。
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The end of companyジエン社「私たちの考えた移動のできなさ」

◎豊穣な貧しさを編みあげるために
 綾門優季

「20年安泰。」公演チラシ
「20年安泰。」公演チラシ

 『20年安泰。』という、どう甘くみても少々喧嘩腰なタイトルの付されたこのショーケースは、芸劇eyes番外編として企画され、ロロ、範宙遊泳、ジエン社、バナナ学園純情乙女組、マームとジプシー(上演順)の5団体が参加し、それぞれ25分程度の短編を上演した。
 ジエン社「私たちの考えた移動のできなさ」は、そのちょうど真ん中3番目に上演され、大きくはないもののあまりにも漠然としているためにとっかかりがなく取り除きがたいしこりを僕に残した。バナナ学園純情乙女組に立ち向かうために辛うじて温存しておいた体力さえじわじわと奪われ、終演後、体内を循環しているのは真っ白な虚脱感だけ。「してやられた」と呟いた。思いのほか反響しなかった。
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荒川チョモランマ「偽善者日記」

◎熱が伝わるとき-偽装とベタの間で
 梅田径

「偽善者日記」公演チラシ 劇場MOMOに足を踏み入れれば、舞台中央に鎮座まします螺旋階段のデカさに度肝を抜かれ、同時に不安も覚える午後四時前。荒川チョモランマ『偽善者日記』の観客席は千秋楽を控えてほぼ満席である。
 まず諸注意と主宰の挨拶があった。続いて、元気いっぱいに「エアロビを披露いたします!」の号令がかかるやいなや、俳優たちが満面の笑顔で、舞台いっぱいにあらわれた。モーニング娘。「恋愛レボリューション21」のリズムにあわせて軽快かつ爽やかなエアロビが始まるも、センターに陣取った男の子は階段に足を取られてうまく踊れないようだ。センターのタコ踊りに主宰がぶちギレ、舞台にあがって説教をはじめたかと思いきや、あかりが落ちて暗転した。
 再び照明がつくと、エアロビの時とまったく同じ姿勢で、スーツ姿の男性が上司の女性に怒られている……。

 劇の始まりだ。
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NODA・MAP「南へ」

◎分からないことにチクッとする自虐的嗜好への思慕
 岡野宏文

「南へ」公演チラシ 野田秀樹の演劇は面白い。
 野田秀樹の演劇は分からない。
 このふたつのフレーズを上手に貼り合わせると、こういう命題が出現する。

 世の中には、さっぱり分からないくせに飛びっ切り面白いものがある。

 なかなか頼もしい言葉ではある。とくに演劇を愛し、志すものにとって。
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