劇団オルケーニ「ショックヘッド・ピーター」

◎一流の観客、三流の観客
 林あまり

「ショックヘッド・ピーター」公演チラシ
公演チラシ

 芝居は半分、いやもしかしたら半分以上、観客がつくるものかもしれない。劇団オルケーニ「ショックヘッド・ピーター」を観て、ハッとした。眠っていた頭を殴られたみたいな気分だ。

 子どもの指がハサミで切られ、ぴょんぴょんとハネては床に落ちる。―恐ろしいシーンのたび、私はそっと隣の席の男の子(小学一年くらい?)の様子をうかがっていた。こんなコワイの見て、大丈夫かな…と。思わずにいられなかったから。

 しかし! そんな心配など、一瞬にして消し飛んでしまった。男の子の向こう側の若いお母さんが大笑いしているではないか。その目は小さな子どものように「次は? 次はどうなるの?」と、待ちきれない興奮でキラキラしている。
 男の子は、お母さんの楽しそうな顔を見て安心したようだ。ゆったりと椅子に身を預けて、お母さんの顔と舞台を交互に見つめてはニコニコしている。

 ―すごいなあ、このお母さん。

 第一級の観客である。彼女は子どもの反応など気にすることなく、舞台に集中しきっている。私は自分が恥ずかしくなった。

 49歳、未婚、子ナシの私。芝居が始まってしばらくは「残酷」シーンに腰が引けて(もし私に子どもがいたら、これ、見せられるかなあ…)と、舞台に集中できなかった。
 大人ぶった傲慢な態度。私こそ、この芝居で描かれている、身勝手でいやらしい大人そのものじゃないか。三流の、下の下の観客。それが私だ。

 同じシーンを観て「キモチワルイ」ときめつけるのも「おもしろい」と目を輝かせるのも観客の側である。
 「ショックヘッド・ピーター」は、私に演劇の基本を「しつけ」てくれた。

【編注】
 この原稿は「劇評を書くセミナー東京芸術劇場コース」第1回(合評会)のために書かれました。受講者の執筆した劇評は、>> セミナーページをご覧ください。(編集部)

【筆者略歴】
林あまり(はやし・あまり)
 1963年東京都生まれ。大学在学中から短歌で注目 れた。演劇活動にも関心を寄せ、主に小劇場のレビューや評論を新聞、雑誌で手がける。NHKテレビの演劇番組の司会も。成蹊大・武蔵野大 多摩美術大非常勤講師。また作詞に坂本冬美のヒ ット曲 「夜桜お七」などがある。歌集に「MARS☆ANGEL」 「ベッドサイ」 「スプーン」など。現在、演劇誌「テアトロ」でリ レー劇評を隔月連載中。劇評を書くセミナー2012東京芸術劇場コース講師。

【上演記録】
ジャンク・オペラ『ショックヘッド・ピーター ~よいこのえほん~』(東京芸術劇場リニューアル記念 TACT/FESTIVAL 2012)
東京芸術劇場シアターイースト(2012年9月1日-9日)
※就学年齢以上のお子様との同伴鑑賞をおすすめします。
※ハンガリー語上演・日本語字幕つき

作・演出
作:ジュリアン・クラウチ/フィリム・マクダーモット/タイガー・リリーズ(音楽)
 ハンガリー語版翻案:パルティ・ナジュ・ラヨシュ
 ハンガリー語版演出:アシェル・タマーシュ
出演:劇団オルケーニ(ハンガリー)
★:上演45分前より、TACT/FESTIVAL 2012 「ひつじ」開演(観覧無料)。

チケット料金
前売 一般:4,000円 / こども(高校生以下):1,000円 / 親子セット券:4,500円(高校生以下対象) / 65歳以上:3,000円 / 25歳以下:2,500円
【障害者割引】一般席4,000円を10%割引。付添は1名まで無料。

主催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
   東京都/東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)
後援:駐日ハンガリー大使館 外務省
協力:国際交流基金
助成:平成24年度文化庁「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」
*本公演は東京文化発信プロジェクト事業。
*TACT/FESTIVALは、子どもだけでなく親子で、そして大人だけでも楽しめる海外の上質なパフォーマンスを招聘し、各地の“夏”を盛り上げようという公共劇場の連携事業企画。2010年には東京劇術劇場、まつもと市民芸術館、びわ湖ホール、2011年には新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあが加わり、4つの公共劇場で上演されました。

「劇団オルケーニ「ショックヘッド・ピーター」」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: yasu sato

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