たまごプリン「さいあい~シェイクスピア・レシピ」

◎野菜が問う「愛とは?」 踏み潰したい才能を発見
 鈴木アツト

 踏みつけたくなる才能がある。自分が信じる真っ直ぐなメッセージを、剛速球で投げてくる若い才能。その才能が創る舞台は、エネルギーに満ち溢れ、なによりそこに表現されたイメージが年長者にとってはあまりに斬新だった。こういう時は、まだ若いうちに、その才能がまだ芽のうちに、踏み潰しておくに限るのだが、今回、私が見つけてしまったその才能が創り出した作品は、コンクリートの道路を突き破って生えてくるど根性野菜をモチーフにしたパフォーマンスで、その舞台と同じく、踏み潰しても、私の足を突き破って生えてきそうなのである。

 たまごプリンが、第1回せんがわ劇場・演劇コンクール・オーディエンス賞凱旋公演と称して上演した「さいあい~シェイクスピア・レシピ」は、いじめられっ子の女子高生が、コンクリートの道路を突き破って生えてくる野菜(これをど根性野菜と呼ぶらしい)たちに、シェイクスピアを教えていく、という筋立てだ。筋を上記のようにまとめてしまうと、「え?なんかベタな子供向けの演劇?」「これおもしろいの?」と思えてしまう。たまごプリンのチラシを見ても、シェイクスピア劇の衣装を着た野菜が描かれているだけ。「野菜たちが?シェイクスピア?」というコピーも、シンプルすぎて、内容が全然想像できない。しかし、この芝居はおもしろかった。形容に困るほどの見たことのないおもしろさがそこにあった。野菜を擬人化し、シェイクスピア劇をとおして、人間の女の子と交流させるという彼らの手法は、まだ誰もやっていないだけでなく、人間とは何なのか?という根源的な問いを、演劇的に立ち上げている、とてもすごい発明だと私は思う。何よりそのパフォーマンスは、誰にとってもわかりやすい。

 舞台は、家や学校の悩みを抱えた主人公の女子高生が道路に身を投げ、自殺しようとするところから始まる。トラックのヘッドライトに見立てられた照明が彼女を包み、キキーッとブレーキ音が響いたその瞬間、舞台の中央から緑色の物体が飛び出てくる。それはサッカーボールよりちょっと大きいピーマンだった。しかもそのピーマンには人間の顔がついている。ピーマンのかぶりものをした役者が、舞台の床から顔だけ突き出したのだ。続いて全身が現れる。ピーマン役者が「出ちゃった?」と片言の日本語でつぶやくとそれに続いて、ナス、玉ねぎ、トマト、ブロッコリー、にんにく等々、様々な野菜(のかぶりものをした役者)が飛び出してきて、ダンゴムシが土の中で蠢いているかのような滑稽かつ喜びに満ちたダンスを踊り始めた。こうして、ど根性野菜と主人公の女の子との不思議な交流が始まる。

 女の子は、畑実(はたけみのり)という名前にも関わらず、野菜が嫌いだった。そして、野菜が嫌いな人間はたくさんいると彼女は言う。それを聞いた野菜たちは人間にいや実に自分たちのことを好きになってもらいたくて、人間についてもっとよく知ろうとする。そこにたまたま、実が持っていたシェイクスピアの台本(彼女は演劇部に所属しているらしい)があって、シェイクスピアの台詞には愛という単語がいっぱいある。それに気づいた野菜たちは、愛を連呼しながら、シェイクスピアには賞味期限がない?愛には賞味期限がない?野菜には賞味期限がある?と野菜目線でシェイクスピアや愛を自分たちと比べていく。そして、愛をより深く知るべく、シェイクスピア劇のダイコン役者になっていく。野菜たちは、言葉がまだうまく喋れないから、その意味でも大根役者なのだ。

 野菜たちはシェイクスピアの4つの戯曲を、実際に演じながら、人間にとっての愛とはどういうものなのかを理解しようとする。まず、テーブル稽古で戯曲の解釈を検討していくのだが、野菜だけにその視点がユニークで、シェイクスピアが見当違いな方向に解釈されてしまうのがとても微笑ましい。そして解釈に行き詰まるとその疑問を抱えながら奴らは踊り出す。まるでその疑問の答えは身体が答えてくれるんだ!と叫んでいるかのように。

 劇中劇および劇中ダンスである「ロミオとジュリエット」、「真夏の夜の夢」、「オセロー」、「ヴェニスの商人」の使い方のうち、特に「ロミオとジュリエット」が良かった。許されない恋の始まりから二人の悲しい別れまで、わずか5日間の物語をたった5分にまとめましたと、野菜たちが早回しで見せるロミジュリは、人間の恋愛の滑稽さを存分に茶化していて、腹を抱えて笑った。少しピンと来なかったのが「オセロー」だった。野菜たちがハンカチ落としで遊びながら、愛を形にしようとする虚しさを表現しようとしているのだと感じたが、そのハンカチ落としの部分がオセローのパロディーとして不十分だし、そこから取り出される愛は証というキーワードもやや強引な印象を持った。ただ、中途に多少の甘い点はあるとしても、野菜たちがシェイクスピアの戯曲から取り出した愛とは何か?の答え=愛はある時は熱く、ある時は薬で、キスで、証で、バランスで、重くて、哀しくて、痛くて、欠点で、色で、心で、といった言葉を探し当てていき、ついには、愛がお弁当に見立てられていくクライマックスは、本当に素晴らしかった。

 たまごプリンは、コンテポラリーダンサーの集団だと私は見た。しかし、劇中のダンスシーンが非常に演劇的に成立していたのは、この作品が、言葉がまだうまく喋れない野菜たちが、他に方法がなくて、言葉になる前の想いや気持ちを踊って表現するという構造を獲得しているからだろう。それは敢えて洗練さを拒否した凸凹なダンスだ。でも、だからこそ土臭く生命感に満ち溢れている。また普通なら引いてしまう「愛とはどういうものかしら?」という大仰なテーマも、野菜がシェイクスピアを学ぶというよくわからない行為のせいで、素朴で素直なものとして、観客が受け止めることができてしまう。今作品は、演劇とダンスの高次元の融合の成功作だと思う。たまごプリンの次作品でのさらなる飛躍を待ちたい。
(初出:マガジン・ワンダーランド第229号、2011年2月23日発行。無料購読は登録ページから)

【著者略歴】
 鈴木アツト(すずき・あつと)
 1980年東京生まれ。脚本家/演出家。劇団印象-indian elephant-主宰。慶応大学SFC卒業。CM制作会社を経て、2004年4月から演劇活動に専念。blog 「ゾウの猿芝居
ワンダーランド寄稿一覧 :http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/suzuki-atsuto/

【上演記録】
たまごプリンさいあい~シェイクスピア・レシピ
調布市せんがわ劇場(2011年1月27日-30日 )
キャスト:
浅井裕子 石井友樹 一平杏子 川越美樹 柴田千絵里 清水ゆり 中井沙織 平井千尋 本山三火 鈴木拓朗

スタッフ:
作・演出・振付 鈴木拓朗
照明 山岡裕子
音響 北原慎治
舞台監督 木村健太
宣伝美術 来住真太
制作 中山佳奈

料金 一般2,300円 市民割引2,000円 学生(大学生以下)1,800円 親子チケット3,500円(子どもが二人以上の場合、一人につき別途1,000円加算)
★1/27(木)19:30の回は、プレビュー公演のため1,800円

主催: たまごプリン
共催: 調布市、 調布市せんがわ劇場イベント実行委員会


“たまごプリン「さいあい~シェイクスピア・レシピ」” への 7 件のフィードバック

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