ブルーノプロデュース「ひとがた流し」(クロスレビュー挑戦編第4回)

 今回のクロスレビュー挑戦編は、北村薫「ひとがた流し」を舞台化したブルーノプロデュース公演を取り上げます。結成から3年あまり。「どうしようもなくアナログな身体を持つ俳優たちに、フィジカルな《思い出》とデジタルな《プロフィール》をフィードバックさせ、《記憶と記録》の離散と集合、断片と連続を描いていく」とWebサイトで自分たちの特徴を描いています。3月には写真家・小林紀晴の小説「暗室」を写真スタジオ(の暗室)を使って上演した彼らが、新聞連載の長編小説をどのように取り上げるか注目しました。レビューは星印による5段階評価と400字コメントです。掲載は到着順。(編集部)

大越勇磨(医療事務)
 ★★★★☆(4.5)
 小説から演劇へと表現を昇華させた演出家と、膨大な台詞を飲み込んで体現した役者と、原作の言葉の力強さの三位一体の魅力がありました。
 原作の言葉を削らない事は、冗長で退屈になるのでは。そんな懸念は観劇後に吹き飛びました。四季の移り変わりや、風景の描写は詩の朗読を楽しむ様な風情があります。非口語的な台詞の応酬や、要所で出てくる感情や心情の吐露は言葉が洗練されておりシェークスピア劇を見ている趣きがあります。そして演劇には光が、 音が、言語化出来ない機微を表わす声や動きがあります。小説と演劇の壁を乗り越えて新しい世界に降り立った作品でした。
 日常の連続が人生であるという普遍的で肯定的な人生観を、思い出で紡いだ物語でした。古くからの友人との間ではすんなり時間の流れが昔に戻るように、そして死後も近しい人達の記憶に生きているように。思い出や記憶の風景を重ねて見せるからこそ、若手役者が多いのが自然に見えました。
(4月22日19:00観劇)

プルサーマル・フジコ(編集者、フリーランサー)
 ★★★☆(3.5)
 挑戦編にふさわしい「背伸び」を感じた。第一部は、アイデアこそ豊富だけど肝心のセリフの言葉がスーッと素通りしてしまい何も残らず、率直に言ってこれは「失敗」だったとわたしは思う。だけど休憩時間をはさんで、中心人物のエピソードにフォーカスされてく第二部に突入した途端にすべてが一変した。特に膨大な量のセリフをそらんじていた千波(金谷奈緒)は、メガネの後輩・鴨足屋くん(スズキヨウヘイ)に再会するや息を吹き返して妖艶さを帯びる。そして余計な動きも文章も削ぎ落とされ、「ヒゲが痛いわ」のセリフと怪しげな飼い猫ギンジローのダンスだけで「それ」が見事に表現されていく。粋だなあ!と思った。そこに人間が連綿と繋いできた線の太さを(しかし軽やかに)感じて、しゅー、って気持ちになったのだ。これはもしかしたら、北村薫とゆう歳の離れた作家に挑んだからこそ獲得された彼らなりの手つきなのかもしれない。
 さて、だからこその第一部である。構成・演出の橋本清は、モザイク状にエピソードが語られていく原作のこの部分を、ふつう誰しも考えそうな「エピソードの編集カットによるスリム化」ではなく、むしろ遊び心満載&アグレッシヴに舞台化しようと試みたんだと思う。切ない声の歌姫、愉快な踊り子、センス抜群の音響サラウンド、そして小説における地の文と会話とをシームレスに繋いでいく意欲的な実験…。こうした一群の試作アイデアの中から、ブルーノプロデュースは彼らのオリジナリティと呼べる「新しい語り」を模索したのだろう。その心意気には「いいね!」ボタンを押したい。だけどそれらのアイデアをフィクションとして吊り上げていくための方策(魔法)は、足りていただろうか? あるいはもう一歩、客席に近づいてくるスリリングな気配はあっただろうか? いずれにしても、ブルーノプロデュースが志向していると(勝手ながら)思える「世界を肯定するピュアネス」のようなものが、彼らなりのやり方で、舞台の上にまざまざと降臨してくる瞬間をこそ観たいなあとわたしは思うのです。そして、その日はきっと来るなあと(これも勝手ながら)感じた。

藤原央登(劇評ブログ『現在形の批評』主宰/[第三次]『シアターアーツ』編集部)
 ★★
 昨年3月に上演されたチェルフィッチュ『私たちは無傷な別人であるのか?』。これは、岡田利規の強いイデオローグが働いた「舞台の小説化」というべき作品だった。
 対し北村薫の「小説の舞台化」を意図した本作は、上手くそれが達成されなかった。その意味でチェルフィッチュと対象的だった。 必要最小限の装置だけの何もない空間。ここで、地の文も含めて俳優は発語する。創り手は、その語りと人物の空間配置を主にして小説世界を立ち上げようと目論んだ。真っ白な空間は、観客の脳内で構築されたイメージを投影するキャンバス。この点『私たちは無傷…』と同様だ。
 だが俳優は多くの場面で、長くて情報過多な台詞を、余裕なく追いかけるだけに終始した。自然、観客は内容を把握すべく俳優の口元を凝視することになる。これではイメージを喚起するまでに至らない。それが3時間半続くことは大きな負担ですらある。
その結果、40歳を越えた今も尚、仲の良い3人の女性と、彼女たちを取り巻く人物が複雑に絡み合う物語が伝わり難くなった。
 乳癌に侵されたアナウンサーの千波。そんな彼女に長年憧れていた年下のスタッフがプロポーズする第二部。チェルフィッチュ『クーラー』を想起させるこの場面は確かに見応えがある。しかしそれは、対話で成立するシンプルな場面だったが故だ。
 小説を黙読することとは違う、舞台ならではの表現とは何か、その問いをここでの「会話」は投げ掛けていたように感じる。
 フラフラとした身体、地の文と喋り言葉を合わせた発語、原作者という絶対的な作者の存在。これらの要素がしばしば見受けられた。それ故、岡田利規とチェルフィッチュの作品が、良くも悪くも極めて小説的であることを逆照射する舞台だった。
(4月23日19:00観劇)

福田夏樹(演劇ウォッチャー)
 ★★★★
 会場に入りまず目を見張ったのは、客席も含め一面に張り巡らされた白い布。3時間半の長丁場も、柔らかな空間に余裕のある座席配置で、ゆったりとした気持ちで劇世界に入って行けた。
 原作小説は未読だが、小説をほぼそのまま演劇化しているらしく、朗読を聴きながら、ストーリーに併せたダンスを見ているような心地よくしんみりとした舞台だった。幼馴染三人はどの役も魅力的だったが、特に出色だったのは、千波役の金谷奈緒。ボーイッシュで凛々しく優しいその姿が、序盤の独り語りで示され、物語を通底する。
 終盤のハイライト、身体への負荷で感情の発露に変化をもたせる演出は東京デスロック仕込みだが、泥臭さがなく、柔らかな世界に無理なく持ち込まれており、感動を誘われた。また、小道具の使用にも、想像を広げさせられた。
 全体的に満足だったが、前半の若干の冗長さと、明らかなセリフのミスを勘案し、今後への期待も込めて一つ減らして星四つ。
(4月24日13:00観劇)

浜中峻(学生、建築デザイン専攻)
 ★★★★
 二部構成、3時間半の大作。
 序盤がきつかった。独特の演出と長い台詞を伝って膨大な情報を流し込み、畳み掛けるように物語を押し付けらる。大抵の人は放心してしまうのではないだろうか。例えるなら塗りたくった絵画のようである。だが、中盤から徐々に物語は解体されていく。平面的な情報は、誰かが重なったり、離れたりすることで複雑なレイヤー構造を露わにする。ごちゃごちゃの絵画は、実は何層にも重なったたくさんの写真であった。
 そうなると、後半、畳み掛けるようなセリフも不要になる。無言が、誰かの佇まいが、観客に自然と物語の解体(予感、悟り)を促していく。3人の踊り、牧子の踊りは言葉であった情報を1つ1つ記憶の中の景色へと昇華していく。
 情報の詰め込みとその解体。
 また詰め込みきれないことと、解体しきれないこと、やり切った後のやり切れなさ。
 本を読み終わった時と同じ、不思議な余韻がまだ残っている。
(4月22日19:00観劇)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★★
 とても長い、という点については、たぶん他のレビュアーも言及すると思うので言わない。原作の小説の文章に、なるべく手を加えずにお芝居にしたそうだが、このように長いものをうまく見せたことには脱帽。膨大な台詞を自分のものにした役者も、ずーっと言葉で語られるお芝居を、長時間見せた演出も、なかなかのものだった。台詞を「語る」側の大健闘はもちろんだが、「語られる」側の処理がよく、見る者の集中を妨げなかったことに見終わってから改めて気がついた。なかなかの手際である。40代の登場人物を20代前半の役者が演じることに(だいじょーぶ?と思って見始めたのに)あまり違和感を感じなかった理由は、ある種朗読劇のような作りにあったのかもしれない。それも含めて面白かった。最初に長さについては言わないと言ったが、この次見るときはもうちょっと短いのを見たい。人生折り返し点を過ぎるとね、じーっと座ってると腰痛になるんだよ。
(4月25日マチネ観劇)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★
 柔らかい言葉で紡ぎ出される北村薫の物語の風合いは、全編を通して感じられたし、飼い猫の役・主人公のパートナー役の俳優もちょっと奇妙ないい味を出していたし、カラフルな色彩を遊んだりする演出の工夫は楽しくも感じられた。
 それでもなお、3時間弱という上演時間は、筋を辿るためにあったのではないか、という印象が否めない。俳優は、しばしばナレーターのような役割を果たし、そんな時、長ぜりふを持て余すかのように噛んでしまったりするのが、気の毒でもあり当然でもあるように思われた。巧みな語り手がものした原作に、やや絡めとられたかの感がある。あそこまで綿密にストーリーを追わずとも、大胆な省略と再構成によって「命」についての新しい物語が語られたのなら、もっと迫りくるものがあったのではないだろうか。勇気や励ましというイメージは、できるだけ丁寧に扱いたいと感じる今日この頃でもあることだし。
(4月22日ソワレ観劇)

徳永京子
 ★★★★☆(4.5)
 若さが随所に散らばっていた。モノローグが基調にある長編小説を舞台化した勇断。朗唱と演技を一枚岩にして走らせ、観客に悟られぬまま演技のパーセンテージを高める企み。そのために仕掛けたさまざまな演出の知的なセンス。設定したそれら目標の高さと、届かないもどかしさ、と同時に見える「あとちょっと」の生々しさ、あるいは、ほんの一瞬、届いた喜び。そうした“若さの運動”でこの作品は終わると思っていた。だったら星は3つだった。
 ところが橋本清は1ヵ所だけ、老獪な演出を見せたのである。末期ガンの千波と、彼女に10年来好意を寄せていた鴨足屋(いちょうや)が初めて結ばれるシーン。千波の飼い猫であるギンジローとふたりの視線を交換し、ギンジローが興奮し、歓喜し、果てる様子を千波と鴨足屋に見つめさせることで、静かだが決定的に深いふたりの一夜を表現したのだ。これでやられた。私はしばらくブルーノプロデュースを見続けるだろう。
 蛇足だが最後にひとつ。公演中に橋本がツイッターで音楽スタッフの仕事を「誰かほめてくれないかな」とつぶやいた。少なくとも公演が終わるまで、称賛は願っても乞うてはいけない。若くてもその矜持を持たなければ、競争のスタートラインには加われない。
(4月25日マチネ観劇)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★
 ブルーノプロデュースが取り上げたのは、北村薫の話題作『ひとがた流し』。アラフォー年代に差し掛かった学校時代の女友達3人とその家族の物語が、純白のクロスに囲まれたステージでほぼ原作通りに展開される。特に母子家庭で育った女子アナ「トムさん」に光を当てた部分は、善き人々が織りなすひたむきなエピソードに彩られ、NHKで番組化されたのもうなずける純正のメロドラマ。がんに冒されながら年下のディレクターと結ばれ、精一杯生き抜くヒューマンストーリーだった。
 構成・演出の橋本はてらいなくこの作品に寄り添い、言葉を身体に乗せ、間合いや関係を創る見事な演出的才能を発揮しつつ、しかしこのドラマの流れにあっさり身を任せてしまう。そのナイーブな、あるいはピュアな肯定の感性は「ままごと」や「ロロ」にも通じる特徴なのだろうか。
 小説の舞台化なら TextExceptPHOENIX + steps「ニッポニアニッポン」公演(西悟志演出)の強烈な印象が忘れられない。暗幕で覆われた薄闇の舞台は紛れもなく、著者阿部和重(と演出)の焦燥と妄想のたぎる世界を出現させていた。それから数年。白布の汚れなきドラマ世界に無防備に傾斜していく若い才能に、あてどなき未練と口惜しさが湧いてくる。くそっ!
(4月23日19:00観劇)

【上演記録】
ブルーノプロデュースvol.4「ひとがた流し」
新宿タイニイアリス(2011年4月22日-25日)
原作:北村 薫『ひとがた流し』(朝日新聞社刊)
構成・演出:橋本 清

キャスト
平舘宏大 スズキヨウヘイ
岩佐みちる(演劇活性化団体uni) 金谷奈緒(青山ねりもの協会) 小島和明 重岡漠(青年団) 多賀麻美 南波早 堀内萌
石井優 井堰康貴 伊比井香織(ConRary、) 上村梓 後藤ゆいこ 杉田健介 中本章太 永井圭太 西田未希 畠山峻 浜中峻 早坂いおり 原麻理子 日高愛美 細木香代子 堀田創 牧野可奈絵 宮川竜一 山崎明日香 八日市英雄 米沢友美 涌井智仁 渡辺俊

※上演時間は約3時間半(第一部:2時間、休憩15分、第二部:1時間15分)
※4月25日(月)マチネ第一部の終演後、原作「ひとがた流し」の著者北村薫氏を迎えてアフタートーク。

スタッフ
音楽:涌井智仁
照明:板谷悠希子
演出助手:八日市英雅
宣伝美術:mannenyumi
WEB:平舘宏大(ブルーノプロデュース)
制作:幡野萌
企画製作:ブルーノプロデュース

チケット:料金(全席自由/前売・当日ともに)一般:2,300円 学生:2,000円


「ブルーノプロデュース「ひとがた流し」(クロスレビュー挑戦編第4回)」への17件のフィードバック

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  5. ピンバック: スズキヨウヘイ
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  9. ピンバック: 涌井 智仁
  10. ピンバック: 山端拓哉
  11. ピンバック: ふう
  12. ピンバック: 平舘 宏大
  13. ピンバック: Junnosuke Tada

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