笑の内閣「ツレがウヨになりまして。」(クロスレビュー挑戦編第28回)

 「笑の内閣」は2005年の結成。劇団HPには「馬鹿馬鹿しい下ネタから、芝居中本当にプロレスをやるプロレス芝居をしたり、時事ネタも得意」とありました。今回は「愛国心を問う思想系ラブストーリー」だそうですが、その実体やいかに-。レビューは★印による5段階評価と400字コメント。掲載は到着順。末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)


水牛健太郎(ワンダーランド編集長)
 ★★★

公演チラシ
公演チラシ

 吉田寮で右翼を批判する芝居をするというベタな企画だから、そこそこ見やすくて普通に笑えれば合格点だと思っていた。その基準は充分満たしていた。もちろん内容も表現ももっとひねった方が私は好みだが、何せ風刺的なセリフが出るや大声で笑ってみせるような客がついているので、あまりひねるとその人たちが笑えなくて困るわけだ。こんな環境でいい芝居をするのは大変だし、本人たちも「いい芝居」より政治的なことの方が大切なのかもしれない。それはそれでOKだ。
 いまの言論環境は棲み分けが進んでしまっている。ツイッターをしていても、私のタイムラインには私がうなずける意見しか入ってこない。意図的に違う意見を排除したつもりがなくてもそうなる。壁の(たとえば)左側を「自分の側」と決めてその囲いの中だけで表現をした方がうけもいい。壁の向こう側に届く表現をするのは大変な割に報われない。そんなことを要求するほど図々しくはないつもりだ。
(5月27日19:00の回)

西尾孔志(映画監督、京都造形芸術大学講師)
 ★☆(1.5)
 舞台上、役者が手をぷらぷらさせている。熱演すると両の拳を握る。皆が台詞をよく噛む。芝居に関心が無いのだろうか。舞台空間には無神経に置かれたソファ。表層に魅力はない。平凡な主人公がネット右翼にハマッていく心の過程は一切描かれず、ネットから拾ったギャグを台詞に散りばめただけの文化祭レベルの脚本。だがこの劇団、企画力が武器だ。最近の映画のタイトルを1文字変えたキャッチーなタイトル。題材はネット右翼や嫌韓。アフタートークに鈴木邦男氏を招き、僕が観た回では終演後に「株主総会」が催され、劇団総裁の高間響氏が解任された。そういうのは面白い。サブカルを全身に浴びてイイ子に育ち、やりたいのは正統や王道より、「チョイ悪」くらいなおフザケ。作品の完成度よりイベント性の高さを目指し、目の前の同年代が笑ってくれたらそれで「胸熱」。でもおよしなさい。企画だけじゃ若い企画マンに早々食われる。生き残るためには表現の精度でも勝負して欲しい。
(5月27日13:00の回)

広瀬泰弘(ブログ「習慣HIROSE」主宰))
 ★★★
 もっと挑発的で、過激な芝居を想像していたのだが、これはたわいもないコメディで、ただ笑いながら、無邪気に見ていれば、それだけでいい作品だ。安易な映画のパロディーで、全く罪もないが、毒にも薬にもならない。ふつうならもう少しブラックな笑いを展開し、ドラマにも奥行きを持たせなければ芝居として恥ずかしいし、だいたい間が持たないはずだ。なのに、「ツレがウヨクになってしまって、さぁ大変」と、ただそれだけ。
 それを2時間見せるのだ。しかもネット右翼という存在を、バカにするのでも、弁護するわけでもない。この題材をもとにして、軽くストーリーの表層をなぞるだけ。せめて、「今という時代の気分」としてでも、これを受け止められたのなら、まだ納得いくのだが、ただひたすら無邪気なだけで、腹を立てる気にもならない。うんこ、しっこで、笑いを取ろうとする子供と同レベルの芝居である。だが、この驚くべき確信犯的単純さ、素直さは、ある意味これはこれで凄い。つまらない理屈とは隔絶した世界を展開してくれる。
(5月27日19:00の回)

中西理 (演劇批評誌「act」編集長、演劇舞踊批評、ブログ「中西理の大阪日記」)
 ★★★
 若い世代の演劇は政治性や社会に対する問題意識が希薄なことが多い。そのなかで笑の内閣はコメディータッチを貫きながら、政治性のある時事問題を素材としていて、その立ち位置はきわめてユニークだ。表題の「ツレがウヨになりまして。」は映画「ツレがうつになりまして。」のもじり。映画の主演女優、宮崎あおいの元夫・高岡蒼甫のフジテレビ韓流批判騒動をモデルに彼氏が当然ネット右翼になってしまった女子大生、あおいの悲喜劇を描いた。ネット右翼(ネトウヨ)を取り上げている。だが「反韓流」活動の対象をスーパーのKARA握手会阻止としたことなどあまりに戯画的。軽佻浮薄にも見え突っ込みどころも多い。それがこの集団の課題だろう。
 ただ、一方では登場する言説はいかにもネット的、2チャンネル的。そこが燐光群など以前の社会派演劇とは大きく異なる。よくも悪くもゼロ年代以降の感性を感じさせる。全面的評価は難しいが、可能性も感じさせた。
(5月27日13:00の回)

【上演記録】
笑の内閣「ツレがウヨになりまして。
京都大学 吉田寮食堂(2012年5月26日-28日)
作・演出:高間響

出演:
鈴木ちひろ(劇団紫)  上蔀優樹  眞野ともき  由良真介  藤井麻理  髭だるマン  焼酎ステラ(劇団ZTON)  高間響
スタッフ
作・演出:高間響
舞台監督:正學居士
照明:山本恭平
音響:神田川雙陽(劇団粋雅堂)
衣装:藤井麻理
宣伝美術:末山孝如(劇団酒呑童子/会華*開可)
人間魚雷:川崎一輝

料金:
早割(4月中に予約):1000円
前売り:1500円
当日:2000円
新入生無料(学校の種類は問わない)

アフターイベント:
[26日13時の回アフタートーク]
★ゲスト 鈴木邦男氏(新右翼団体一水会最高顧問)
[28日13時の回アフタートーク]
♪ゲスト 塩見孝也(元赤軍派議長)
[27日13時開場中イベント]
■[開場中イベント]「総裁とダービーを見よう!」(注・予想してみるだけです。その場で馬券は買えません)
[27日13時アフターイベント]
■「笑の内閣 株主総会」
[27日19時アフタートーク]
◆ゲスト 寺脇研氏(京都造形大教授 元文部官僚 ミスターゆとり教育)
▲[上記以外の上演終了後]
髭だるマンの恋愛相談室

【参考】
 鈴木邦男の愛国問答(「マガジン9」連載第100回 「ツレがウヨになりまして。」を観て


「笑の内閣「ツレがウヨになりまして。」(クロスレビュー挑戦編第28回)」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 西尾孔志
  2. ピンバック: 笑の内閣【前】総裁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です