◎劇場の意欲と志が見える 佐藤佐吉演劇祭2012を振り返る(座談会)
小林重幸(放送エンジニア)+齋藤理一郎(会社員)+都留由子(ワンダーランド)+大泉尚子(ワンダーランド)(発言順)
||| 粒ぞろいのラインナップ
-最初に全体の感想、感触をうかがってから個別の主題を取り上げ、演劇祭や劇場の活動への期待と意見も併せてうかがいたいと思います。クロスレビューは原稿到着順に掲載していますが、トップ掲載が多かった小林さんからうかがいたいのですが。
小林:10作品はいずれもレベルがそろっていました。これはつまらないという作品が無かった一方で、突出した作品もない、演劇の枠から激しくはみ出る舞台もありませんでした。粒ぞろいではありましたが、王子小劇場でなければ見られない作品がもっとほしかったという気もします。
-粒ぞろいというのは、前回前々回と比べての印象ですか。
小林:王子は芸術監督がいてセレクションしてますから作品のレベルはそろいやすい。毎回ある傾向の作品が一定のレベルに収まっているのではないでしょうか。
-齋藤さんはいかがでしたか。
齋藤:粒がそろっていたのは間違いないですけど、それぞれの劇団や作品の特徴や試みはきちんと出ていたのではないでしょうか。また、セレクションの結果だと思いますが、ある程度力を蓄えているにとどまらない、そこからさらに踏み出す力のある劇団がそろっていたように感じました。今回参加した10劇団のうち9劇団の公演は過去にも見たことがありましたが、この演劇祭での舞台ではこれまでにない面を見ることができたり、新しい表現に触れることもできた。参加劇団にとってこの演劇祭は、新たなステップにもなっていたのではないかと思います。
-芸術監督はじめ、劇場スタッフの目の確かさがうかがえるということでしょうか。
齋藤:そうですね。現在のレベルに加えて、これからの可能性というか劇団の一歩先を見て参加劇団を選んでいると思いました。
-都留さんはいかがでしたか。小林さん、齋藤さんは王子劇場の常連とも言えるほどしばしば足を運んでいたと思いますが、都留さんはこれまであまり通っていなかったようですが。
都留:演劇祭の全作品を見たのは今回が初めてでしたが、とてもおもしろかった。個々の作品はもちろんですが、まとめて見ると全体としてもっとおもしろい。しょっちゅう行きたくなって定期を買おうかと思ったぐらいです(笑)。
大泉:物語系というか、ストーリーを重視した舞台が集まっていたと思います。しかも骨組みがしっかりしている作品が多かったという印象です。10演目を全部見て、王子小劇場がだいぶ身近に感じられるようになりました。ところでこのところ、吉祥寺シアターや三鷹市芸術文化センター、横浜のKAAT(神奈川芸術劇場)やSTスポット、富士見市のキラリ☆ふじみ、それに千葉の三条会のアトリエなど、首都圏でも都心から少し離れた劇場が頑張っていますよね。王子もそのひとつで、この演劇祭にはそんな劇場の個性がよく表れていると思いました。演劇の世界が活気づくためにも、こういう催しを続けてもらいたいですね。
-新宿、渋谷、下北沢など小劇場が集中していた地区でこれからも演劇活動が続くのは間違いないでしょうが、ちょっと離れたところでも、いくつかの劇場が活発に活動を続けています。王子はその中でも独自の地位を占めていますね。
昨年ワンダーランドはフェスティバル/トーキョーの主な公演を劇評セミナーで取り上げました。今度の佐藤佐吉演劇祭ではクロスレビューで全公演を取り上げました。こういう企画は、個別の公演を取り上げるとともに、フェスティバルや演劇祭全体の活動を知ってもらいたい、注意を払ってもらいたいというねらいがあります。芸術監督の下で、その劇場がどういうラインナップをそろえているか、どういう公演を組み合わせるか、劇場自体の方針と活動にもっと注目してもらいたい、触れてもらいたいという気持ちがありました。
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