連載企画 観客が発見する 第1回

年10本見る人が1000人単位でいてほしい
 新道喜一郎さん

―舞台を作る人たちや、作られた舞台上の出来事だけから演劇を考えるのではなくて、見ている人も含めて演劇を考えてみたい、というのがワンダーランドの隠れコンセプトです。これまで劇評やレビューを書く人は研究者や評論家、演劇関係者が多かった。でもそれはある種、特別な観客でしょう。おそらく新道さんは劇場に通う回数は多いけれども、演劇の専門家との意識はないし自分のキャリアには結びついていないですよね。

新道:特別の利害関係はないですね。

―そういう観客のみなさんに話を聞くと、演劇や舞台の隠れていた魅力が逆に明らかになるのではないかと考えたのが今回の企画の発端です。

見る芝居は年400本超

-早速ですが、新道さんは年間、芝居を何本くらいご覧になってるんですか。

新道:400本くらいですね。もう5年くらい続いてます。その前はもうちょっと少なくて300本くらいでしたけど(笑)。週末の土日にマチネ(昼公演)ソワレ(夜公演)をみると4本になります。1年は52週でしょう。計208本ですね。それで半分クリア(笑)。その他にも祭日があるし、平日の19時30分スタートだとだいたい見られます。まあ、週8本見れば400本は超えるわけだから、週1日くらい芝居見ない日があっても、平日4本見て週末4本見れば、結果として400本を超える(笑)。別に400本見ようと思っているわけじゃなくて、見た結果が400本なんです。

―芝居を見ない日があって、ということは、休もうと思う日があるのですか。

新道:いや、たまたま見たいものがないのです。もちろん仕事とか旅行とか、友人と会うなど他の用事で見られない日もあります。結果的に月曜日から水曜日は芝居を見ない日があったりする。逆に週末に1日3本見たりとか。この間びっくりしたのが、平日、仕事終わったあとに2本見られたことですね。22時スタートという芝居があった。それなら頑張って19時の芝居に行けば見られるな、と(笑)。

―それでも東京の公演数は年間400本どころじゃないですよね。

新道:昔、情報誌の『ぴあ』が出てる頃に数えたことがあります。ある週の公演掲載数を調べて、それを1年間だから52倍して、そのうちまともに活動しているところは年間2回ぐらい公演打つから半分にして、とか考えて大体年間で2500団体くらいが活動しているはずだ、と推定しました。

―その膨大な公演の中から、どういう基準で芝居を選んできましたか。

新道:基本は面白かった公演の作・演出家が関わるところは見る。あとは見たことのある良い役者さんが客演している舞台。それに(レコードの)ジャケ買いじゃないけど、チラシで選ぶかな。いちばん変な選び方は、マチネがこの時間にあって、ソワレがこの時間にあるから、その間のこの時間ならこれが見られるな、と選ぶことがありますね、やっぱり(笑)。例えばマチネで14時から16時まで下北沢で見て、ソワレを19時からアゴラで見るんだけど、どうやってその間の時間つぶそうかな、じゃあ、間で下北沢で見られるこの芝居見よう(笑)。ほんと時間と場所だけの問題なんです。なぜそんなに見るかと言うと貧乏症なんですよ。自分が見なかった芝居を、あとから面白かったって言われるのが非常に悔しい。面白かったと言われるような芝居は見ておきたいじゃないですか。映画と違って、芝居はすぐ終わっちゃう。だから宝くじを買うみたいなことはありますよ。

なれそめは…

-新道さんはもともと芝居が好きだったんですか。

新道:子どものころ好きだったと思うんです、学芸会とかの範疇で。映画も好きで、中学のクラブ活動で8ミリ映画を撮ったりしてました。生まれは札幌なんですけど、『スターウォーズ』とか『宇宙戦艦ヤマト』とかパロディ特撮モノを作ってました。
 大学生になると、知り合いの女の子から、芝居やってるから見に来てと言われたら、普通は断らないじゃないですか(笑)。それで見に行ったんですけど、たまたまそれが「ミスタースリムカンパニー」* だった。

*ミスタースリムカンパニー(Mr. SLIM COMPANY)1975年11月、深水三章が東京キッドブラザース脱退後に旗揚げしたロックンロールミュージカル集団。その後、海外から帰国した、兄・龍作が加わって活動した。

―それが演劇にハマるきっかけですか。

新道:そのときは芝居もそんなに悪くはないな、面白いなという程度ですね。勤めてから10年くらいは、たまに見に来てって言われてミスタースリムカンパニーを見に行くくらい。そのあと転勤で関東近辺にいた頃、東京に帰ってきて暇なとき芝居を見てみようかとふと思った。当時は『ぴあ』がほとんどの演劇情報を載せていたので、それを読んで自分の意思で初めて見たのが「キングモンキー3世」という劇団の旗揚げ公演だったかな。「夜明け前のモンキーショー」(1995年、新宿・シアターサンモール、作・福島三郎、演出・厳万太郎)という作品で、それは面白かった。だから別の芝居も見に行こうと思って出かけたのが、劇団ジャブジャブサーキット** の「ランチタイムセミナー」(1997年、こまばアゴラ劇場)*** でした。
 その頃から演劇の情報を知りたいと「えんげきのぺーじ」**** を見たりしていました。珍しいことに当時、ジャブジャブサーキットはサイトを持っていた。まだインターネット黎明期の平和な時代で、掲示板の「荒らし」などもない、古き良き時代でした。そこに書き込みをしたりして、劇団員とか他のファンと交流することができた。書き込みしたことから、芝居を見に行ったときに役者さんと劇場で話をしたりできました。

** 劇団ジャブジャブサーキット 1985年岐阜大学OBを中心に旗揚げ。岐阜を拠点に活動。作・演出は、代表は、はせひろいち。「日常と非日常の境目を切り取る作風が多く、ワンシチュエーションの会話劇が持ち味」(劇団サイト)。’93年池袋演劇祭優秀賞、’95年と’97年にシアターグリーン賞。’01年と’06年に名古屋市民芸術祭賞。はせ作品は’99年、’04年、’06年の3回、岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされた。
*** 「ランチタイムセミナー」公演 「演劇◎定点」サイトのまねきねこさんが絶賛してる。
**** えんげきのぺーじ 1995年にネット上で始まった「小劇場演劇の総合情報サイト」。略称「えんぺ」。 公演、劇団情報のほか、観客が書き込める「一行レビュー」が注目を集めた。

―ジャブジャブサーキットは作り方もオーソドックスだし、演出もしっかりしていますね。

新道:そこも魅力的だけど、題材も面白かった。「ランチタイムセミナー」(1997年12月)はペルーの日本大使館公邸人質事件(1996年12月-97年4月)を扱っていました。NHK特集などをよく見みます。社会派というか、ドキュメンタリー番組が好きなんです。この舞台は題材も内容も面白かった。それで劇団のHPを見たりしていました。岐阜を本拠地にしていて、岐阜から来ている劇団を見ている東京の人なんて少ないでしょう。そんな劇団のHPに書き込みしているような人たちは、もっと少ない。東京の中でもかなり芝居を見ているおかしな人たちなんです(笑)。そこで、おかしな人と知り合うきっかけになりました。
 そのご縁でニフティのパソコン通信時代から、演劇関係の人が集まってるF-STAGEという会議室の終わり頃にちょこちょこっと顔を出すようになり、いまもその人たちに知り合いが多いんです。F-STAGEからえんげきのぺーじに流れてきた人、逆にえんげきのぺーじからF-STAGEに流れる人もいました。演劇関係の人が劇団の枠を超えてネット上で集まる場所って当時はほぼそこしかなかったんですよ。

ジャブジャブサーキットとチェルフィッチュ

―演劇は20年くらい見ているということになりますよね。数多く見たうちでやっぱり、記憶に残っていて、今でも思い浮かぶ芝居はありますか。

新道:ジャブジャブサーキットは好きなんで、「非常階段」や「ランチタイムセミナー」は覚えてます。「非常階段」のオープニングで携帯電話を切るように言うシーンはすごくスマートだった。お通夜の日の台所が舞台になっているんです。冒頭のシーンは俳優のひとりがお通夜に来ている客で、もうひとりが迎える側の家の人という設定の芝居です。お通夜の席で携帯電話が鳴ってうるさいので、ああいうの、注意しといたほうがいいですよ、みたいな話をする…。

―そのおもしろさを説明すると…。

新道:そんなぁ。素人が説明できるんだったら劇評家になってるでしょう。なぜ芝居にするかと言えば、言葉や文章にできないから芝居にするわけでしょう。「だからもう、とりあえず見ろ」って言うしかないですよ。ジャブジャブサーキットの舞台はとっても知的で面白い。ちゃんと伏線張って、回収している。まず構成がちゃんとできてる。その上、入ってくる情報も面白いし、下品にならない。

―ほかに印象に残っている作品はありますか。

新道:チェルフィッチュの「3月の五日間」ですね。

―六本木のスーパーデラックスの公演をご覧になったんですか。

新道:いえ。2004年の第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル*****。会場は、今は無き品川のスフィアメックスですね。チェルフィッチュ自体はその前から知っていました。ジャブジャブがらみで横浜の大西一郎さん(ネオゼネレイター・プロジェクト主宰)と知り合いで、彼の芝居を見に行ったりしていて、チェルフィッチュも横浜を本拠に活動していたので、見に行ってたんです。チェルフィッチュが面白くもなんともないときから見てたんだけど、あの公演はびっくりしましたね。それまでは、新しい演出手法をいろいろ試してたんだけど、「あ、新しいね、斬新だね、だけど別に面白くないよね」だった。「三月の5日間」はチョー現代口語演劇で、誇張表現ではあるけれど、リアルなからだとことばを使って表現していて、内容も面白くて衝撃を受けました。あの公演を見ることが出来たのは幸せだった。

***** ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル 小劇場界の登竜門と言われた公募制の演劇フェスティバル。1990年代に始まり、2007年の第15回以降、活動停止している。

―そういうことがあるから見逃したくない…。

新道:あとになって、あれ面白かったって周りから言われたら悔しいよね、やっぱり。

―でもそのために年間400本ですか。はずれの舞台も多いでしょう。

新道:知っているところに行ってる限り、大はずれはあまりない。初めて見るところはやっぱりはずれが多いね。

―ほかに大化けしたのは。

新道:ガーディアン・ガーデンで見たヨーロッパ企画の「冬のユリゲラ-2002」は面白くなかったんだけど、わざわざ関西から来てるからって見た。ジャブジャブのこともあって、地方から来てる劇団は頑張ってるなあと思って見に行くようにしているんです。そのあとに見たのが「ロードランナーズ・ハイ」(2002年)だったかな。それがぼくはすごく面白かった。ヨーロッパ企画は毎回手法を変えて、いろんなことに挑戦している。毎回面白いかと言うと、必ずしもそうではないんだけど、そのあとに見たのは「囲むフォーメーション」(2003年)で、これもまたすごく面白かった。

―新道さんが面白いという舞台を並べてみると、新道さん流の面白さが浮かび上がってきませんか。

新道:それが浮かび上がらないんですよ。基本的には会話劇が好きで、青年団を見に行ったりするんですけど、だからと言って少年王者舘も好きですしね。KUDAN Projectも青年団も、両方面白いと思うひとの頭はおかしいのかもしれない(笑)。でも表現として突出していれば面白いんだろうなと思いますね。

―中学時代に夢中だった映画とは違いますか。

新道:映画とは違いますよね。生であることで情報量が圧倒的に違うじゃないですか。映画はここを見せたいというところを見せる。舞台上ではもちろん演出家がここを見せたいというところはあるんだろうけれど、見せたい役者だけが動いてるわけじゃなくて、役者はそれぞれ自分の背景を持って、舞台上で動いているわけだから。

―この俳優が出演している見たいということはありますか。

新道:東京デスロックの夏目(慎也)君とか。最近衝撃を受けたのは、こないだの「僕たちが好きだった川村紗也」の「山笑う」公演(作・演出 松本哲也@小松台東)で、すごい夏目君、かっこいいと思って見てたんだよね。役で彼がかっこいい二枚目なのは初めて見た気がする。

観劇代で軽自動車を買える

―新道さんは仕事のかたわら芝居を見ているわけですが、いまの職場はどこですか。

新道:八丁堀です。

―職場で演劇の話をしますか。

新道:しないですね。ぼくが劇場に通ってるのは知ってるけど、年に400本見てるのは知らない。テレビで時代劇見るのが好きとかいう人がいるから、じゃあ時代劇の芝居見に行く?と誘っても反応がよくない。それだったらいいや、と思ってしまう。
 でも、やっぱり見に行く人が増えないと駄目なんですよね。公演を年間100本以上見る人が東京だと100人単位でごろごろいるじゃないですか。その人たちがいると劇団の経済としては回るんだろうけど、年に10本見る人が1000人単位でいてくれないといけない。

―そうですね。1人で400本稼いでいる方がそう言うから重みがあります(笑)。

新道:劇団や劇場側に考えて欲しいのは、時間帯をもっと柔軟に設定したらいいのにということです。1時間そこそこの芝居が夜の8、9時に始まるのもいいだろうし、土日や祝日には芝居見てから食事に行ける時間帯に普通にやってもいい。やってるところはやってるけれど、平日の早い時間帯、お母さんたちが子どもの夕食の前に間に合うみたいな。でも開演時間が14時や19時で固定されている。なんでそうなんでしょうね。

―入場料についてはどう思いますか。

新道:映画は1800円でしょ。それに対抗できるような設定にしてほしい。今はちょっとあがったけれど、五反田団は1000円台。演劇公演の入場料が高いという理屈は分かりますよ。映画みたいに一斉公開できないし、役者の時間を拘束して、一生懸命作った道具も1週間そこらでお役御免です。そりゃあコスト構造は考えれば分かるんだけど。初めてみる人割引とか、お友達割引などは、人を誘うモチベーションにはなりますよね。

―新道さんは「観劇法人」を作ってましたね。

新道:あれは今は活動休止中です。こまばアゴラ劇場の支援会員制度ができたときに、法人支援会員という枠があって、5万円払うとチケット50枚くれる。それを12、3人で300枚くらいのチケットをシェアするという任意団体を作ったんです。平田オリザさんに「任意団体でいいですか」と聞いたら「いいですよ」という返事だったので、知り合いに声をかけたんです。

―チケットは自己負担ですか。劇団からの招待はありますか。

新道:自己負担です。招待は年間1、2本あるかな。毎年の出費はたぶん、軽自動車を買えるぐらいですよ。例えば車好きな人は年間100万円ぐらいかけるだろうし、テニスクラブに入ってたら、道具や会費で50万円ぐらいかかるでしょう。そういうことを考えたら、趣味ってそんなもんかな、と思います。

新道喜一郎さん
【写真は、新道喜一郎さん。「心臓部だけ」の約束だった。渋谷の喫茶店】

―趣味と考えて劇場に通っていながら、もう少し大勢の人たちが芝居に触れる機会があったほうがいいという話を聞いていると、背筋がピンと伸びますね。ありがとうございました。
(2014年12月30日、渋谷の喫茶店で)
(聞き手・構成=北嶋孝、広澤梓 撮影=広澤梓)

【略歴】
新道喜一郎(しんどう・きいちろう)
 1964年生まれ。札幌出身。都内私立大学文系学部在学中に芝居を見始める。就職して10年ほどして見たジャブジャブサーキット公演がきっかけで本格的な観劇の道へ。今では年間400本超を見る。勤務先は某業界団体(出向中)。


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