悼む言葉と鳴り止まない拍手と 扇田昭彦さんを送る会

扇田昭彦さんを送る会
【扇田さんを偲ぶ野田秀樹さん。東京芸術劇場。 ひばりタイムス提供 禁無断転載】

 演劇評論家の扇田昭彦さんが5月22日に亡くなって1ヵ月余り。東京・池袋の東京芸術劇場プレイハウス(中ホール)で7月6日(月)夕、演劇関係者ら約600人が集まって「扇田昭彦さんを送る会」が開かれた。扇田さんが好きだったというベートーベンの交響曲第6番「田園」が流れるなかで、故人との印象深い出会いを語り、突然の別れを悼む言葉が舞台上の遺影に手向けられた。

 最初にマイクの前に立ったのは、演出家・俳優の串田和美さん。「5月1日のトークライブの場で一緒だった。そこで別れたまま。さよならを言うのはとても難しい」と急逝を受け止めかねる気持ちを述べた後、「私たちが『黒テント』を立ち上げて最初の旅公演に出かけるとき、リュックを背負った朝日新聞記者の扇田さんが同行した。それが初めての出会いだった」などと思い出を語った。

 評論家の川本三郎さんは元朝日新聞記者。「もう時効だから初めて明かします」と断った上で、「不祥事を起こして朝日新聞を辞めさせられた」川本さんが苦しい文筆生活を続けていたとき、扇田さんが朝日新聞に匿名コラムを書かせてくれた。「本当は許されなかったはずなのに、下っ端の私に執筆の機会を与えてくれた。知的でやさしい、品のある方であると同時に、侠気(おとこぎ)のある方だった。無名の小劇場に足を運んだのも、侠気の精神があったからではないか」と述べた。

 扇田さんは東京芸術劇場の企画委員を務めていた。同劇場芸術監督の野田秀樹さんは「学生時代のころからぼくの芝居を見てくれた。もう40年にもなる」と語り、2011年にルーマニアのシビウ演劇祭に一緒に出かけたときのエピソードを紹介した。「演劇祭でおもしろい芝居を見たら、『あれはおもしろいよ』と教えてくれるだけでなく、チケットを手配し、席まで取ってくれた。演劇批評を書く前に、『おもしろかった』というシンプルな心情をいつも持ち続けていた方だった」と述べた。

 ビデオ映像で思い出を語るシーンも。学生時代からの友人だったフランス文学者の巌谷國士さんは、扇田さんが「ロマンチシズムの持ち主だった」と話し、俳優の渡辺美佐子さんは「気に入ったときは『おもしろかったよ』と大きな目をクリクリさせて楽屋にきてくれた姿を思い出す」と語った。テレビ番組に出演して、扇田さんと話し合う唐十郎、蜷川幸雄両氏の映像も舞台上のスクリーンに映し出された。

 最後に「送る会」実行委員会代表の桑原茂夫さんが、学生時代から長い交友のあった扇田さんとの最期のエピソードを語った。

 亡くなる22日の午後、扇田さんから携帯電話がかかってきた。「『頼むぞ。よろしくな』と何度も繰り返した。ほかの言葉が聞き取れなかったのが残念。病院では、まだ2歳半のお孫さんが臨終までベッドの枠を握ってじっと扇田さんを見ていた。その姿を見て『生命の引き継ぎ』を感じた」と言う。「聞き取れなかった扇田さんの言葉は、ここに集まったみなさんへの感謝とお礼と励まし、それに心からの期待(という「引き継ぎ」)だったのではないか」と語った。

 最後に「送る会」の企画に協力し、支えてくれた関係団体や個人の名前を次々に読み上げた。「扇田さんのお世話になったこれら後輩たちが熱い思いで本日の会を実現した。そう考えると、この会の主演、演出は扇田さんではないか。その扇田さんはいま舞台上にいる。これまでの仕事を讃え、感謝の気持ちをこめ、拍手を持って本日の会の幕を閉じたい」と締めくくった。その言葉が終わると同時に、客席の大きな拍手がしばらく鳴り止まなかった。
 その後、献花の列が続き、ロビーで故人を偲ぶ懇談の輪ができた。

 「送る会」の司会は劇作家、演出家の永井愛さんと、俳優、演出家の木野花さんの2人が務めた。献花台は舞台美術家の島次郎さんが担当した。

配布された小冊子
配布された小冊子の表紙
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  参加者に配布された小冊子には、「扇田昭彦の-こんな舞台を見てきた 抄録」と題して1960年から2015年まで舞台を見続けた扇田さんの劇評の一部やコメントが年代順に掲載されている。表紙には、次の言葉が引用されていた。

「一生を棒に振る」という言い方があるが、
私はひたすら舞台を見ることで
「一生を棒に振り」、
しかもそれを心から楽しんできた。
劇作、演出、演技など、
優れた才能が結集した舞台に触れるのが、
何よりも刺激的だったからだ。
              ――扇田昭彦

 

(北嶋孝)

【関連リンク】
・演劇評論家の扇田昭彦さん死去 西東京市芝久保町在住(ひばりタイムス
・扇田昭彦さんを送る会・詳報(1~8、ソナエ・産経デジタル
・扇田昭彦さんを送る会(松井今朝子のホームページ、2015年07月06日
・「扇田昭彦さんを送る会」のもよう(内田春菊の基礎体温日記II、2015-07-07
・扇田昭彦さんを送る会(梁塵日記、2015/07/06

 

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