庭劇団ペニノ 「小さなリンボのレストラン」

――気違いMealパーティーのAbsurd劇―― 庭劇団ペニノ 「小さなリンボのレストラン」   話題のユーメー劇団、立見の当日券求めて並ぶ行列を尻目にゆうゆうA席に着席するのも悪くないのかも知れないが、面白いから見てみ … “庭劇団ペニノ 「小さなリンボのレストラン」” の続きを読む

――気違いMealパーティーのAbsurd劇―― 庭劇団ペニノ 「小さなリンボのレストラン」

  話題のユーメー劇団、立見の当日券求めて並ぶ行列を尻目にゆうゆうA席に着席するのも悪くないのかも知れないが、面白いから見てみたら?日ごろ信頼するシアター・ゴア-からのミニコミ、地図を片手にやっとのことで劇場を探し当て、さあ、何が展開するかドキドキしながら見ていく気分はこたえられるものではない。いわんやそれが期待以上の舞台においておや!である。 庭劇団ペニノの「小さなリンボのレストラン」はそういう、久しぶりの芝居見の醍醐味であった。


 舞台は骨董店かとみまごうほどごちゃごちゃっとした、汚いレストラン。タイトルにレストランとあるからレストランなのだろうが、カンテラ風のシャンデリア?や鹿の頭の剥製を見れば猟師小屋かも知れないし、出入口の庇に生えてるぺんぺん草?がこっち側に伸び、舞台バナはほんものの土、蕪なんかも植えてあるところをみると、ひょっとしたらここはかつての天野天街、内外逆転の世界みたいだし。そんな奇妙空間にシスターと呼ばれる女と寺山修司の大山デブ子のような女性と山高帽?かぶった紳士の三人が順に現れ、それぞれの食事をまあ済ませるといえば済ませるまで。ウエイトレスが「いらっしゃいませ、これはこれは本日はお日柄も良く、<略>ねえ。心よりお待ちしておりました」「ご予約の○○様でいらっしゃいますでしょう?」と尋ねるたびに、それは男女に否定されるから、ここはゴドー空間。客たちはポッツオー、ラッキーの末裔だったのかも知れない。

  その上彼らの食事はといったら! 背丈ほどもある皿の大山盛りを見る間に平らげ、楽譜メニューをピアノで弾きだす女性。ちっとも出てこない料理に札束を勘定し続けるシスター。豚の角煮を注文しながら最後までありつけない紳士――それはまるで「不思議の国のアリス」の気違いティー・パーティ、おっ!とではない、気違いMealパーティであった。昔、absurb theatreという海のあなたからの言葉が“不条理”劇なんてムズカシー日本語に訳されてしまったので、こういう、何が起こるかわからない、まるでワケ分からん可笑しな芝居をAbsurd劇といえば誤解を招くかも知れない。またこの小さなレストラン、言葉が決して噛み合わない私たちの日常にどこか似通うというには、この小品、あまりにささやか、大げさすぎると反論されるかも知れない。けれども庭劇団ペニノが見据えている(であろう)未来も含めて、私はあえて言いたいと思う。これは私たちの今居るAbsurb世界だった、と。

  もちろん、そう言い切ってしまうには躊躇がないわけではない。たとえば匂いや土や皮むき器の林檎やぶっちゃける赤ワイン、天井からしたたるネバネバなどなど、創り手はおそらく、意味の頭理解ではなく体感として直接伝えようとしたのだろう。が、その企みが、たとえば、よく拵えてはあるもののまるで食感に関わりのない料理たちや、終始目潰しくらわすシャンデリアの光や、何より、せめて意味不明の台詞にでも耳澄ますぐらいしか仕方のない、何にも伝えない俳優たちの体や声などによって、裏切られることが少なくなかったからである。

  作・演出の名はタニノクロウとあった。今言ったことがクロウ氏の目指すものだったかどうか、一度の出会いに断言することはできない。けれども、彼の狙う、何かこれまでの芝居にはない不思議世界が将来、観るものに十全に伝わっていくためには、これから山あり「谷」あり、散々「苦労」するにちがいない――そんな予感とこれからへの快い期待に、いま私の体は、クスクス笑っている。  (西村博子 5/27 所見 「Cut In」第28号=2004年7月号所載)

庭劇団ペニノ
第9回公演 「小さなリンボのレストラン

作・演出:タニノクロウ
公演日:2004.4月29日(木)~5月16日(日)
追加公演 5月20日(木)、21日(金)、27日(木)、28日(金)
場所:はこぶね
料金:前売 ¥1200 /当日 ¥1500

CAST
野平久志
絹田ぶーやん 
島田桃依
瀬口タエコ

STAFF
舞台美術/谷野九郎
照明/谷野九郎
音響/谷野九郎
チラシ画/谷野九郎
制作/小野塚央・野平久志
Web/定岡由子
製作/puzz works