バナナ学園純情乙女組「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」

◎Jを継ぐもの
 坂本秀夫

「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」公演チラシ
公演チラシ

 そもそもヲタ芸※1 とは、アイドルライブにおけるファンの声援や手拍子が発展・多様化・様式化し、応援形態が踊り・パフォーマンスのようになったものである。アイドルライブで複数のファンたちが声・動きを合わせるという行為自体は70、80年代からあったらしいが、「L・O・V・E・○○(アイドルの名前等)」などのように現在のヲタ芸と比してシンプルなものであり、ヲタ芸としての現在の形態になったのは、アイドル冬の時代を経過した後の、00年代初頭から中頃―モーニング娘。中期頃―からだ。これは代表的(歴史的)なヲタ芸の多くが、この時期のハロー!プロジェクトの楽曲に合わせるものやそこから発展したものであることからも裏付けられる。つまりヲタ芸は、その発生・発展においてモーニング娘。(97年~)の隆盛と切り離せない文化といえる※2。
 「バナナ学園純情乙女組」がその文脈に乗っている(乗ろうとしている)ことは明白だ。

 例えばバナナ学園の公演では多数のアイドル楽曲が使用されるが、中期以降のモーニング娘。の曲―つまりヲタ芸を打つ※3 にあたって代表的な曲―が多い。さらに言ってしまえば、大衆性を担保することによりコミニュケーションツールと化したオタク文化に則って、オタクに人気・知名度の高いアニメ・ゲーム・ボーカロイドの楽曲が多用されるバナナ学園ではあるが、モーニング娘。の曲においては、一般的に知名度の高い『LOVEマシーン(99年)』や『恋のダンスサイト(00年)』などの使用率は低く、ヲタ芸界隈で人気かつ有名な『Go Girl~恋のヴィクトリー~(03年)』や『Ambitious!野心的でいいじゃん(06年)』などが多用される。

 これらから、ただのアイドル文化だけでなく<アイドルオタク文化>へ根拠を求める姿勢がはっきりと読みとれることは言うまでもないだろう。

 そして、その文脈を小劇場というジャンルで共有することが困難であることも自覚しているだろう。例えば、今回の公演も含め、バナナ学園の作品の終盤によく出てくる「とこ様、とこ様、ダメ出しキボンヌ※4」を見てみよう。これは、藤本美貴の『ロマンチック浮かれモード』の間奏に入れる代表的なオタ芸※5「ミキ様、ミキ様、お仕置きキボンヌ」をオマージュしたものであろうが、そもそもこれはヲタ芸の中では藤本美貴向けに発展した例外的なパフォーマンスである。何故、藤本美貴にお仕置きをお願いし「ミキ様」となったかは、藤本美貴が後輩メンバーに対しチンピラの様なキレ方で先輩風を吹かせていた楽屋での会話が盗聴され、さらにWEB上にUPされるに至り、ファンたちに広く知られることとなった事件に由来する。これが、ややツリ目でキツい印象がありサド疑惑(ネタだろうが)のあった藤本の容姿や、リーダー在任中の品川庄司との岩盤浴デートのスキャンダルなどとも相まって、藤本美貴を(さらには藤本美貴のファンを)茶化すようなヲタ芸として完成されたものだ。それら背景をどこまで背負おうとしているかは不明だが、演出家(とこ様)への「ダメ出しキボンヌ」へと換骨堕胎している※6。と、たった1フレーズ理解しようとするだけでも、これだけのリテラシーが要求されてしまう。

 こういった類のオマージュやパロディはバナナ学園の作品には数限りなくある。もちろんその中に小劇場の文脈をも取り込む抜かりのなさも見せる、この作品でいうなら「情念」(!)と言う字が書かれたメッセージボード※7 を客席に向けて掲げる箇所などは明確にそれだ。

 さらにそれらが同時多発的に進行するバナナ学園の作品において、その手のオマージュや引用を舞台で表現するという意味・効果・文脈まで読み取るということは、かなりの困難を要する。そもそも単純に情報量が多過ぎて、さらに速度も速くて、文脈を理解していたとしても1度や2度観た程度では、それら情報を処理しきれない。だいたい音量が大き過ぎて台詞を聞き取れないことなど当たり前にある。そして、これら意味の読み取りが困難であるという状況の形成も、前提である。情報量、参照項が多すぎて追いつかない、という状態を意図的に作り出している。

 いや、本質は、恐らく、それら引用等が意味を持たない場合の方が多い点、ではないか。途中、綾波レイや涼宮ハルヒ、ルフィ※8 のコスチュームを纏った者が現れる。これら強固な文脈に立つキャラクターを表しながら、それは特に意味を孕まない。記号ですらないかもしれない。その一方で、スクール水着を着用する者にはハイソックスを履かせる(水着としての本来の用途とはズレる=フェティシズムへの希求)というオタク向けのマニアックな配慮は忘れない。つまり共通の文脈を下地に、オマージュとパロディで戯れている、その姿、「コミニュケーションツールと化したオタク文化」の現在を批評性をもって開いて見せてくれているのだ。

 これらはコスチュームのみには留まらない。途中、歌と踊り以外の人と人とのやり取りや、演劇的な場面が挿入されたりもするが、これらもアニメ・ゲーム的な想像力の産物のそれにより行われている。東浩紀のいうところの「ゲーム的リアリズム」に根ざした、「透明ではない文体」によりつくられている。「自衛隊パイロット募集」などの横断幕を掲げようとも、その想像力は∀(ターンエー)ガンダムのクライマックスを一人二役で語り出す場面と等価だ。同様に、薄暗い照明の中で多数の役者が倒れ落ち暗くなっていく、「死」を案じさせる場面とその次の瞬間には何事も無かったかのように(断絶し)歌や踊りを再開し「再生」を感じさせる場面を続けるという構成も多用されるが、これなどもアニメ・ゲーム的なそれであり、大塚英志の「死なない身体」を想起することも出来る。

「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」写真1「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」写真2「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」写真3
【写真は「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」東京公演から 撮影=Cycline_A
提供=バナナ学園純情乙女組 禁無断転載】

 では彼女らはマニアックな趣味の世界で戯れているだけなのか。しかし、彼女らの作品には表面の喧騒とは裏腹に、切実さや批評性を感じる。

 ドラゴンクエストやファイナルファンタジー、少年ジャンプやエヴァンゲリオン、モーニング娘。を、それこそ神話のように接してきた世代である彼女らには、我々には、この様なものしかなかったのだ。それがどれだけジャンクなものであったとしても。同じキズを持つものとして共感できてしまう。そして、表面はバカバカしいパフォーマンスだが、疼くものを感じるのは、彼女らの作品がそれらへの客観的な視点を強く持っているからだろう。鏡となり我々の姿を見せている。それは同時に、バナナ学園をやっている自分たち自身への冷徹な視点でもある。自分自身のキズを抉ることにより観客のキズと共鳴させているのではないか。参照項の多さにより、それらは閉鎖性を超えて普遍性をも獲得し得る。

 JCやJK※9 のような制服を着た男女が多数現れる。永遠の学生をやらされ続けるオタク文化・産業(アニメ、マンガ、ゲーム、ラノベ等)ともとれるし、またわざわざ生着替えを見せることなども含め、オタク産業によるハーレム系作品の乱立や大手マスコミ等による過剰なF戦略の元で、恋をする女と女にしか根拠を見出せない男が「カワイイ」という価値観だけを至上のものとしていった(されていった?)姿だろう。決して、JKっぽい制服を着て歌い踊る状態に戯れているだけではないことは、脈絡無く挿入される男女のまぐわいのシーンからも明らかだ。男はそれぞれ相手を入れ替えながら腰を振るが、衣装のコスプレぶりや音楽がクラブミュージック系※10 のものであることから、ピンクサロンなどの安い性風俗店や乱交パーティーを連想せざるを得ない。派手で空虚な照明もその想像を加速させる。男女が抱き合いキスをする場面もわざわざ爆音の元で行われる。恋愛を揶揄しつつも、そういったものしかなかったのだ。故に、それを手に舞台をやるしかない。舞台上のテンションとは裏腹に陰惨な気持ちになってしまう。大雑把なマスゲームに見せかけて、相当に計算している。

 また、これら音楽と映像と同時多発するパフォーマンスのモザイク・コラージュ性も重要だ。無意味に有名アニメの人気キャラクターのコスプレをするのと同様に、有名なアニメ、ゲーム、アイドルソングを独自に無目的にコラージュしている※11。原曲ではなく、アップテンポヴァージョンであったり、イントロ、Aメロ、サビがそれぞれ別の曲であったりだ。『AKB48』→『ももいろクローバー』→『創聖アクエリオン』などで勝手にコラージュメドレーを作ったりしている※12。アンコールでよく使用される曲など『らきすた』→『ケロロ軍曹』→『サクラ大戦』※13 と有名曲のコラージュの形として極めてわかりやすい。

 多数の参照項が表面的には意味を持たない、独自のパロディやコラージュの飽和、同時多発性、まるでマッドアニメ※14 のようであり、我々の接しているポップカルチャーの状況を象徴的に見せてくれる。劣化コピーの劣化コピーが氾濫しているポップカルチャーの現在であり、それは我々の現在ではないか。

 では、状況を開いて見せることにより、その批評性を持った表現において何をしようとしているのか。

 客席に水をかけたりわかめ等を投げ入れたり、客席に入り込んだり、マイクを握り観客をアジテーションしたりはしているが、彼女らが真に行おうとしていることは、「主客の転倒」ではないか。

 サイリューム※15 を振り回しながらヲタ芸に興じる者たち、メッセージボードを掲げアピールする者たち、アイドルソングやアニメソングを歌い、さらにアニメの名場面を一人で演じ始める者たち。これらは全て、ファン(観客)の行動だ。特にヲタ芸やメッセージボードは、アイドルライブの最中にファン(観客)が舞台上のアイドル(表現者)に対して行う行動だ※16。それを舞台上で役者たちが観客に対して行っている。アイドルに対し己の存在をアピールする行為を、舞台上から客席に向かって行っているのだ。「私はここにいます」「私を見て下さい」と。であるならば、最終的に観客を舞台に上げ、パフォーマーたちが客席へ移るという形態も、この「主客の転倒」を激しく明確にしている。

 しかも、観客を舞台に上げる前には観客に対しヲタ芸の指導を行い、一緒にヲタ芸を打とう、という場面が存在する。もちろん、そう簡単にヲタ芸など打てるわけが無い。一人前の観客としてヲタ芸を打つことが叶わなかった我々客席の者たちは、最早、貧弱な表現者として舞台に上がる(上げられる)しかないのだ。舞台上で客席に晒される我々。そして、表面的には幸福感溢れる撮影会や握手会を経て舞台は終わっていく。「主客を転倒」させ鏡のような状況を作り出しているが、こんなに残酷な鏡は無い。

 1億2千万人という中途半端に多い人口は、この小さな島国をある程度内需でまわしていけるだけの規模の市場を用意した。それが過度に進行したのが90年代だったのではないか。その90年代に育ち、00年代を経過した者たちから、この世代の受け取った文化として、出てくるべくして出てきたといった感のある表現だ※17。アニメやマンガの実写化や安い性風俗店、オタクショップやアダルトショップを思わせる景色。極めてジャンクで猥雑だ。ある種グロテスクともとれる。しかし、彼女らにはそれしかなかった。故にそれを用いて表現するしかない。生身の者が偶像(アイドル)に記号(アニメ・ゲーム)になれる訳が無い。それを自覚した上でその過程を開いて見せるしかない。Jの落とし子たちがJを武器に反逆しているのだ。滑稽で閉鎖的でどうしようもなく下らないが、切実でもある表現となっている。それはヒステリックな自傷行為のようでもあるだろう。私たちはこんなにも奇形化してしまいました、と。

 だがしかしそれは同時に、今日の演劇との距離、今日の演劇の困難さ、今日の演劇の貧弱さ、を示すものとなっている。彼女らが自覚しているように現代アート等のジャンルでの方が評価されるような表現であるにも関わらず、彼女らは小劇場を志向している。芸術なり文化なりに押し込められた現在の「演劇」は、最早アングラを気取ることは難しいだろう。彼女らがメッセージボードに「情念」と書いて掲げる行為を拡大解釈するならば、ヲタ芸が(あるいはそれを用いるバナナ学園こそが)ネオ・アングラと言えるのではないか。

 そして、またこのように批評されるであろうことも織り込み済みでやっているであろう事は想像に難くない。ネタっぽくしかマジを語ることが出来ない事に自覚的なカンパニーだ。で、あれば危惧されることは今後の彼らの活動だ。今日の、他のオタク文化、オタク的想像力は、バブル崩壊以降の「終わらない日常」であるとか「失われた20年」であるとかに根ざしている。しかし、3・11以降、その閉鎖的な空間に居続けるか否かの選択を迫られているのが、現在のオタク的想像力の立ち位置であろう。そして多くは、自閉的な空間に留まり続けようとしているように見える※18。ここに至ってバナナ学園はどう活動していくのか。再び、その現象自体を批評性を持って開いて見せるのだろうか。そこでは内容に変質があるのか。そう、皮肉なことにJの落とし子たちの武器は早くも賞味期限が迫ってしまった。

 しかし彼女らなら、その状況そのものを表現として取り込んでいってくれるのではないだろうか。この作品のように、悪ふざけの喧騒とその裏の切実さと共に。

 ※1・ヲタ芸。オタ芸とも。「アイドルオタクの芸」の略称らしい。本稿では一般的な「ヲタ芸」の表記で統一する。パフォーマンス化(芸化)しているものだけをヲタ芸と呼ぶことが多いが、本稿では便宜上、ヲタ芸から派生した掛け声等もヲタ芸として扱う。
 また、振りコピ(振り付けコピー=アイドルやアニメ等のオリジナルの振り付けと同じ踊りをする。これもバナナ学園では多用される。)も厳密にはヲタ芸とは別のものだろうが、オタクたちのパフォーマンス文化として、似たものとして扱う。
 ライブ会場の客席などで行うものとして発展したが、現在は会場の前の広場で行われたり、イベントスペースやクラブなどを貸しきってヲタ芸を行われたりと、応援ではなくヲタ芸そのものを目的とした集会も多い。コスプレダンパ(ダンスパーティー)などのイベントもこれに類するものだろう。
 自分たちが盛り上がるためのパフォーマンスとしても発展した側面もあり、ライブ中にアイドルそっちのけでヲタ芸に興じる者も多い。一方で地下アイドルなどの距離感の近いアイドルなどは、ファンのヲタ芸を喜んでくれたり、地下アイドル自身がヲタ芸を披露したりなども。
 他の多くのオタク文化同様にコミュニケーションツールとなっているともとれる。ライブ会場への意識が「アイドルのライブを楽しむこと、応援すること」から「オタク仲間と会うこと」へと目的が変化するアイドルオタクは一定数存在する。

 ※2・現在は、アイドルの楽曲だけでなく、アニメのオープニングテーマ中でのアニメキャラの振りコピなど多様化している。またアイドルを見ても、アイドル戦国時代と言われる現在、ヲタ芸も多様化している印象を受ける。繰り返しになるが、その成立はモーニング娘。(97年~)の発展―00年代初期~中期―によるものであると考えられる。
 前後するが、アイドル冬の時代とは、おニャン子クラブの解散(87年)からモーニング娘。の登場まで(80年代後半から90年代後半まで)の約10年間を指す。アイドル氷河期、アイドル不毛の時代とも。ソロアイドルは多少いたが、アイドルグループがかなり少なかった時期。

 ※3・ヲタ芸をすることをヲタ芸を「打つ」という。踊るとはあまりいわない。

 ※4・とこ様=二階堂瞳子(とうこ)の愛称と思われる。
 キボンヌ=「希望する」という意味のネットスラング。最近は一時期より使用頻度が減っている(この語の流行が去った?)。

 ※5・代表的なヲタ芸である。が、基本系である「ロマンス」「PPPH」「マワリ」「ロミオ」などとは異なり、独自に発展した例外的集団パフォーマンスでもある。

 ※6・こういったファンの受け取ったものへのリアクションについてだが、「AKB48」(06年~)になると変化がある。(結成は05年だが本稿ではメジャーデビューの年で統一しているので06年とする)
 「AKB48」はこの手の、ファンからのフィードバックを汲み上げ共有するという形になっている。結果、作られたアイドルを享受するというのではなく、ファンとアイドルが同じ方向を向き、参加・共有するという形になっている(地下アイドル文化の手法とも)。
 最近のわかりやすい比較例としては、AKBメンバーの篠田麻里子が、(現在の)メンバー中最年長かつ高身長であることやTV番組のドッキリ企画でチンピラのようなマジギレをしてしまった疑惑等を含め、「まりこ様」「まりこさん」等の愛称で呼ばれている。これを取り込んだ形で、篠田が初センターを務める楽曲のタイトルは「上からマリコ(11年12月発売予定)」(キャッチコピーは「お姉さんがおしえてあげる」)であり、さらに同曲を用いた「ぷっちょ」のTVCMでは「なにがほしいか言ってごらん」「このぷっちょ野郎!」などと発言する。フィードバックの例としてわかりやすく、藤本美貴の件と比較するなら、少なくともあの時期のモーニング娘。はファン(観客)との関係においてそこまでの形には到達出来ていなかったと言える。
 初音ミクなどのボーカロイドも、楽曲やキャラクター性をファンたちが参加・共有し発展させていくという点では類似しているのではないか。後述するバナナ学園における観客とパフォーマーの関係の「主客の転倒」は、これらの現象を汲み取った結果とも見ることができる。

 ※7・クロッキー帳などにメッセージ(場合によっては指示)を書いて掲げ見せるもの。正式名称かどうかはわからないが、本稿ではメッセージボードと表記する。
 アイドルライブでファンが客席から舞台上のアイドルに向けて掲げる「ここにいるよ」とか「○○愛してる」などシンプルな声援が書かれていたり、茶化すような内容やネタ的なものが書かれていたりと多様。舞台上のアイドルに対し一観客(不特定多数)である自分の在りか・声を伝えようとするという点ではある程度は共通か。

 ※8・綾波レイ=人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(95年~)のヒロイン。
 涼宮ハルヒ=『涼宮ハルヒの憂鬱』の主人公。ライトノベル原作(03年~)でアニメ化(06年~)や映画化なども。00年代のオタク文化を代表する人気作。ライトノベルバブルの牽引作でもある。
 ルフィ=『ワンピース』の主人公。漫画原作(97年~)でアニメ化(99年~)映画化も多数。週刊少年ジャンプで連載継続中。単行本は累計2億5千万部。初動発行部数、初動週間売り上げなどで国内出版上様々な記録を待つ大ヒット作。

 ※9・JC=女子中学生。JK=女子高生。他にもDS=男子小学生。JD=女子大生。などいろいろある略称。元はWEB上の売春(援交)サイト等での隠語であったが、近年ネットに広く普及した。さらに、TVの報道番組で同語が使用されたり、『JSガール』なる雑誌も出版され出したりなどの現象も。

 ※10・バナナ学園はアニメ、ゲーム、アイドル、懐メロ系の楽曲や近年のJポップ曲を多く使用しているが、クラブミュージック系のものもそれなりに使用する。クラブカルチャーについては無知なのでよくわからないが、その文脈を踏まえてみるとまた違った見え方があるのかもしれない。

 ※11・付け加えるなら、これらヲタ芸パフォーマンスがコラージュとして成立する背景として、ヲタ芸のリズムの取り方の特性が存在する。「ロマンス」「PPPH」「マワリ」「八の字」などの基本的かつ代表的なヲタ芸をリズムで分解すると、<ただカウントを取っているだけ>である。そして多くのJポップの楽曲が3拍子ないし4拍子というカウントを取りやすい形で作られている。結果、ヲタ芸は他のJポップ楽曲に流用しやすい。ノリのいいヲタ芸師(ヲタ芸をする人のこと)とカラオケに行けば、オタク文化と全く関係の無い曲でヲタ芸を打ってくれたりする。
 さらに付け加えるなら、Jポップが近年のオタク産業と同様に、如何に画一的な消費文化に拠っているかの証明ともとれる。7拍子などのカウントの取りづらい音でパフォーマンスをする維新派と比較すると面白いかもしれない。

 ※12・AKB48=06年メジャーデビューから現在も人気を博しているアイドルグループ。バナナ学園の作中にて、『Beginner(10年)』のイントロ部分だけ抜き出し使用している。
 ももいろクローバー=結成08年、メジャーデビュー10年。数度のメンバーの加入・離脱により現在は『ももいろクローバーZ』の名で活動。クイックジャパン誌上で特集が組まれたりし、AKB48後にアイドル戦国時代を制するのではと言われているアイドルグループの一つ。バナナ学園の作中にて、『Beginner』のイントロの後に同グループの楽曲『行くぜっ!怪盗少女』が突然挿入される。
 創聖のアクエリオン(05年)=マクロスシリーズの河森正治によるロボットアニメ。主題歌を用いたパチンコCMで人気に火がつくという稀有な作品。その菅野ようこが手がける主題歌が有名で、バナナ学園の作中でも『怪盗少女』に続いて、突然挿入される。
 つまり、出自の異なるオタクに人気の楽曲を用いて独自コラージュメドレーを作っている。

 ※13・らきすた=女子高生たちの日常を扱った、空気系・日常系などと分類される4コママンガ(04年~)。アニメ化(07年)もされた人気作。アニメ版の制作は『涼宮ハルヒの憂鬱』のアニメ版と同じ京都アニメーション。オープニングテーマ『もってけ!セーラーふく』が曲中のアニメキャラたちのダンスと相まって人気曲であり、バナナ学園のアンコールでコラージュ使用されている(曲の挿入部だけを抜き出している)。
 ケロロ軍曹=地球侵略にきたカエル似の宇宙人の日常を描いたギャグマンガ(99年~)。この作品自体、著名なマンガ、アニメ、特撮、ゲーム作品等のオマージュに満ちている。アニメ化(04年~)もされ、このテーマ曲もバナナ学園のアンコールでコラージュ使用されている(『もってけ!セーラーふく』の挿入部分の後に唐突にこの曲の一部が使用される)。
 サクラ大戦=セガより発売されたセガサターン用アドベンチャーゲーム(96年)。演劇、ロボット、オカルトなど幅広い要素のある作品で作中のアニメーションもハイクオリティ。続編は5作目(05年)まで発売されている。主題歌である『檄!帝国華撃団』は息の長い人気曲で、同じくバナナ学園のアンコールでコラージュ使用されている(『ケロロ軍曹』の曲の後にこの曲の有名な箇所である台詞を含むパートが使用される)。

 ※14・マッドアニメ=MADムービーの中で(主に日本の)アニメのみで作られたもの。特撮も素材として利用する場合があるが、マッドアニメとして括られることが多い。

 ※15・サイリューム=ケミカルライト。お祭りの屋台などでも売っている科学発光による照明器具。ルミカ、ルミカライトとも。アイドルライブなどで棒状のサイリュームをファンが曲に合わせて振る姿はよく見られる。
 バナナ学園の受付の売店で販売していた。流石である。

 ※16・ただ厳密に見ると、※1 でも述べたようにそれぞれ事情が異なるので注意が必要に思える。
 ヲタ芸=客席でのファンの行動が起源だが、今やライブ会場外の広場で行ったり、ヲタ芸を打つことを目的にしたイベントが催されたり、ライブ中の会場でもアイドルそっちのけでヲタ芸を打つことが主目的になる者が多数いたりと、アイドルライブから自立した自分たちの盛り上がりのためのパフォーマンスと化している側面も多分にある。オタク文化のコミュニケーションツール化の一貫ととるべきか。
 メッセージボード=これはそこまでの変化は無いように見える。が、シンプルなもの故様々な状況で流用が可能なものである。
 アイドルソングやアニメソングを歌いアニメの名場面を一人で演じ始める=これも会場での行動というよりはアイドルファンやオタクたちが自分たちの 盛り上がりのために行う行動だ。

 ※17・ヒップホップを演劇に取り込んだ柴幸男(ままごと)もバナナ学園とも同世代であり、ヒップホップ文化が日本で広まったのが80~90年代であることを考えると(特に、ラップがJポップなどの日本のポピュラー音楽にはっきりと取り入れられ、ニューウェーブなどではなく一般的なものとなっていったのは90年代以降と感じる)、バナナ学園とは柴幸男(ままごと)の別の可能性を生きているとも考えられないだろうか。
 そして、バナナ学園はオタク文化を利用している分だけ、より内向的な日本オリジナルを、その状況を、表しているように見える。

 ※18・ややこしいのは、オタク産業に類する作家たちの中でも少数の鋭敏な者は、この現実に対応しようとしているように見える点である。そして、そちらの方が名作を創りそうな気配も感じる。それ自体もオタク文化の中で消費されていく気もするが(作中でも曲が使用されているアイドルグループ「ももいろクローバーZ」が東北復興応援と取れる曲を歌ったり等)。あるいは、作家と消費者が多少乖離したりするのだろうか。今後の動きを見定めたい。

 ※注釈が多く読みづらいかもしれないが、これこそがバナナ学園の作品を表している気がしている。

【筆者略歴】
 坂本秀夫(さかもと・ひでお)
 1982年、岡山県生まれ。ライター、研究者。現在、京都を中心に活動。関西の演劇批評系フリーペーパー『とまる。』誌上にて「京阪神の小劇場史について本気出して考えてみた」を連載中。
 次号のAICT関西支部批評誌「ACT」や次号のアトリエ劇研・ART COMPLEX1928スケジュール冊子「OR」に寄稿予定。

【上演記録】
バナナ学園純情乙女組『バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!
構成/演出 前代未聞∞二階堂瞳子
・京都公演 元・立誠小学校講堂(2011年10月15日-16日、全4回公演)
・東京公演 シアターグリーン BIG TREE THEATER(2011年10月26日-11月1日、全13回公演+1ワークショップ)
ポストパフォーマンス・トーク
出演:二階堂瞳子+ゲスト
ゲスト:
10/15 15:00 杉原邦生:KUNIO 主宰 “GroundP★”コンセプト/
10/16 12:00 池浦さだ夢(男肉du Soleil・団長))
二階堂瞳子聖誕祭!!!10/16日[日]12:00&16:00の2授業分のチケットと京都までの登校バス付!!!修学旅行生のための特別課外授業開催!!!

紅組出場者
風林火山★前園あかり
(以上、バナナ学園純情乙女組)
白組出場者
起死回生☆加藤真砂美
難攻不落☆野田裕貴
(以上、バナナ学園純情乙女組)
自暴自棄★石澤希代子(犬と串)
百発百中★一色洋平(早稲田大学演劇研究会)
不老不死★伊藤今人(ゲキバカ/梅棒)
残虐非道★海田眞佑(劇団ウミダ)
大胆不敵★大柿友哉(害獣芝居)
満身創痍★紺野タイキ(FLIPLIP)
頭脳明晰★榊菜津美
勇猛果敢★高橋宏行
外柔内剛★高村枝里
超素敵顎★佐賀モトキ
欲求不満★だてあずみ。(TRAPPER/Minami Produce)
眉目秀麗★成田里奈
支離滅裂★服部由衣
温故知新★引野早津希
豪華絢爛★間野律子(東京デスロック)
日進月歩★三科喜代
品行方正★三塚瞬
大器晩成★森川奈津美
魑魅魍魎★山内大輔
酒池肉林★吉原あおい
恋愛足算★小方竜二※京都大会のみ
無我夢中☆粟野友晶(劇団てあとろ50’)
冠婚葬祭☆今野雄仁
脱無一文☆大森美里(劇団大森美里)
波瀾万丈☆梶井咲希
傾城傾国☆河嶋遥伽
臥薪嘗胆☆郷家真之(劇団S.A.R)
一発逆転☆小林和也
落下彼氏☆小林由紀
才色兼備☆佐野恵子
文武両道☆戸谷絵里
弱肉強食☆中峰健太(東京バンビ)
威風堂々☆古川侑
七転八起☆保坂藍
神出鬼没☆松崎浩太郎
百戦錬磨☆森一生
正々堂々☆山岡貴之
閑話休題☆山田麻子
天真爛漫☆吉原小百合
傍若無人☆ばんない美貴子(The Gunzys 原子力事業部)※京都大会のみ
容姿端麗☆吉武奈朋美※京都大会のみ

★☆スタッフ
大会委員長/二階堂瞳子

爆音楽教師/ミ世六メノ道理(体験)
銀幕教師/矢口龍汰(ウィルチンソン)
運動場監督教師/喜久田吉蔵
運動場設計教師/角田知穂
閃光教師/内山唯美(劇団銀石)
体操着教師/山内彩湖、浅利ねこ
髪飾り教師/ばんない美貴子(The Gunzys 原子力事業部)
委員長補佐/瀧澤玲衣、羽原寛子、あんな、小笠原悠紀
電子情報板教師/吉武奈朋美
紙情報デザイン教師/ヨシダサオリ
イラスト教師/Kハジメ
制作教師/杉生みゆき
制作統括教師/樺澤 良

共催 立誠・文化のまち運営委員会(京都公演)
フェスティバルトーキョー(東京公演)
宣伝協力 株式会社ネビュラエクストラサポート
主催 バナナ学園純情乙女組、劇団制作社

「バナナ学園純情乙女組「バナ学バトル★☆熱血スポ魂秋の大運動会!!!!!」」への9件のフィードバック

  1. ピンバック: Jinpei
  2. ピンバック: ブルーバード
  3. ピンバック: 梅田 径
  4. ピンバック: m.y.
  5. すみません。著者の坂本です。

    ※12の部分の『怪盗少女』ですが、正しくは『行くぜっ!怪盗少女』でした。お詫びして訂正させて頂きます。

  6. ピンバック: ブルーバード
  7. ピンバック: ケースケ
  8. ピンバック: เจดีพูลส์

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください