バストリオ 「Very Story, Very Hungry」(クロスレビュー挑戦編)

「Very Story, Very Hungry」公演チラシ

 バストリオは2010年から今野裕一郎が主宰するユニットとして本格的に活動を開始しました。メンバーや形態を変えながら「映画や演劇や写真などの表現手法によって、対象をフラットに捉え、コラージュの手法を用いて実際的なものへと捉え直すことで独創性のある作品を作りだす」とWebサイトで述べています。今回の舞台はスペイン文学の古典「ドン・キホーテ」の枠を借り(たふりをし)ながら、映像あり、ダンス(的な身体表現)あり、寓話性を帯びたエピソードが次々につながる不思議な時間。手強い公演はどうとらえられたのでしょうか。今回は投稿が少ないのが残念ですが、レビューは5つ★による評価と400字コメント。掲載は到着順。レビュー末尾の括弧内は、それぞれの観劇日時です。(編集部)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★
 レストランに喩えると…料理はどう味わったらいいのかハタと困惑。と言いつつも、素材はキラキラと光を放つほどに素晴らしく、席を蹴るには未練が残り過ぎて…というのが、率直な感想だ。
 コンクリート打ちっぱなしの広い舞台には、逆さまに吊るされたビニール傘、天幕を思わせる透けたカーテン、壁にかけられた鹿の頭と動物の絵等々、イメージをそそる道具立てが揃い、衣装も、時代や場所を超える抽象性を素敵に堪えていた。唐突ともいえるダンスの挿入や、鉄のドアを思いっきり飛び蹴りしたり、数人での宙返りなど、暴力的ともいえる身体性の提示は鮮烈。
 一方、劇の流れはつかみ難い。テキストには「ドン・キホーテ」が使われていたが、ごく断片的なもの。牧場の牛がいなくなり牛乳がとれなくなるが、その後再開するという話も出てきて、原発事故と復興を連想させるが、そのほかの様々なエピソードと同じく、その場にぶちまけられていたといった印象が強い。
 これならいっそ野外でやってくれと言いたいほど蒸し暑い会場は、少なくともこういう作品の観劇には無理があるのではないだろうか。観客が辛い分、俳優も試されるというもので、それぞれに健闘していたが、とりわけロシナンテ・ドンキホーテ役の八木光太郎と橋本和加子がブレない存在感を放っていた。
(8月30日19:30の回)

藤原ちから/プルサーマル・フジコ(編集者、BricolaQ主宰)
 ★★
 映像や画像をテロップのように貼り付ける手法によって、同期/非同期が混在し、「現在」から身が引き剥がされるような心地がする。舞台美術もセンスがよい。そしてヌーヴォー・ロマンを彷彿とさせる、前進することを忘れたかのような時間の流れに、序盤こそワクワクした。最近の演劇ではあまりお目にかかれない作風が出現しそうな感触があった。
 ところが思ったほど伸びない。確かに質感はあるものの、逆に言えば質感しかなく、舞台を成立させるためのモチベーションや必然性は空洞のままに思えた。イメージを繋いでいくこうしたパッチワーク型の芸術においても、何かしらの(静かでもいいが)熱い魂は必要ではないか? 語りえないものの前にやむにやまれず佇む態度と、語れるはずなのに語らない韜晦趣味的な態度とは決定的に異なる。わたしには今作は後者に思える。ドン・キホーテがモチーフとして用いられていたけれども、あの盲目的な突進力は影を潜め、ナルシスティックな全能感だけが残ってしまった印象。
 奥のサイド席には扇風機もなく、気を失いそうなくらい暑かった。百歩譲ってさておくとしても、あの空間設計からして、場内のあらゆる場所で様々な出来事が勃発するに違いないと期待したのだが、実際は単に見切れが生じるだけだったのも残念。個性的であるはずの役者たちのアクトは(比喩的にも、文字通りの意味でも)いつも遠くのほうで為され、そのままブツ切れに消えて、なかなかこちら側にまで踏み入ってこない。すべては淡いままだった。それも確かに質感だが、わたしにはナイーブな態度に思える。
(8月30日19:30の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ☆なし
 横浜馬車道の元倉庫、BankART Studio NYKホールが会場。太い柱があちこちに立つ天井の高い変形の平土間で、どの席からもどこかが死角になり、見えない部分が必ず残る。その場所にとてもフィットした作品だった。残響で台詞が聞き取りにくかったり、柱の影になって見えなかったりするのは、一般的には困ったことだと思うのだが、聞き取れないとか見えないということを含めた総体がこの作品だったと思う。
 ストーリーはあるようでよく分からないし、目の前で起きることもつかみどころがなくて、どうしたものかと思ったのだが、にもかかわらず、歪めた身体、突然走り出す人、頭につけている紙の耳、舞台奥で寝転がっている人たち、子供用プールの中の水など、妙な、目が離せない引力があった。☆をつけられなかったのは、途中から会場がとてもとてもとてもとても暑くなり、申し訳ないことに、全く舞台に集中できなくなってしまったから。もっと条件のいいところでちゃんと見たかった。
(8月29日 19:30の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ―
 横長の広いホールに、キホーテ、サンチョ、ロシナンテが登場して旅に出るのは古典小説の枠組み通り。扉が開き、消えた街を探す。手掛かりはまだ出来ていない地図。それを完成しようと牛乳を飲み、森に入る…。となると、遊園地再生事業団の「モーターサイクル・ドンキホーテ」というよりは、まるで「ヒネミ」の世界。時間の頻繁な往還だけでなく、物語の世界も入れ子構造に仕立て、初期チェルフィッチュもどきの超おしゃべり口調の長ゼリフまで取り込んで賑やかだが、構成は緩く隙間の多い作りだった。
 バストリオ公演をみるのは2度目。今回は「物語」を取り込んだというが、登場人物の動きやドラマの継起を後追いしても物語にはならない。「場」のエネルギーとぼく(ら)の抱える「文脈」が感応するとき、物語の基点になる心象風景が立ち上がるはずなのに、うまく点火しない。彼らが意識的に外しているのかもしれないとの予感も。だから「―」は無星ではなく棄権でもない。「いま」をとらえる実験や試行は、可能性を開くのに時間がかかる。3度目の観劇を待ちたいと考えて、今回は「保留」。
(8月29日 19:30の回)

【上演記録】
バストリオ #4 『Very Story, Very Hungry
横浜・BankART Studio NYK   NYKホール(8月29日-9月2日)
上演時間 約1時間45分

作・演出・映像/今野裕一郎
出演/秋山莉沙 伊藤羊子 石田美生 狗丸トモヒロ 児玉悟之 今野裕一郎 酒井和哉 砂川佳代子 橋本和加子 萬洲通擴 平石はと子 深川奈緒美 八木光太郎

音楽/杉本佳一(FourColor/FilFla/Vegpher)
衣装/告鍬陽介(catejina)
衣装・舞台美術/安食真
宣伝美術・音響/児玉悟之
記録写真/松下壽志
照明/奥田賢太
演出助手/新穂恭久 鈴木徳至 福嶋芙美
制作手伝い/鹿毛綾 北村恵
制作/橋本和加子
協力/シバイエンジン JAZZ 時々自動 フォセット・コンシェルジュ
主催/バストリオ

★アフタートーク
8月30日(木)19:30の回 – ゲスト:佐々木敦氏(批評家)

チケット
料金:予約/2,500円 当日/2,800円 全席自由(高校生以下は無料)
リピーター割引/1,200円


「バストリオ 「Very Story, Very Hungry」(クロスレビュー挑戦編)」への2件のフィードバック

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