演劇セミナー2011 第2回(報告)

◎舞台上で50を提示、残りの50は観客に委ねる-長塚圭史さん

 5月14日のワンダーランド演劇セミナー第2回、ゲストはこのセミナーシリーズ最年少、劇作家・演出家・俳優の長塚圭史さん。聞き手は演劇ジャーナリストの徳永京子さんです。

長塚圭史さん
【撮影=石井雅美 禁無断掲載】

 長塚さんは、セミナーの前々日に仙台から戻ったばかりで、震災のことからお話は始まりました。ロンドンで3月11日を迎えて感じたこと・考えたこと、「書きたい」衝動がつのっていた時期だったにもかかわらず、震災後は何も書けない状態が続いたこと、改めて書くことを検証して、新作『荒野に立つ』を書いていることなど話されました。

 長塚さんは、2008年から1年間イギリスに留学されましたが、それはとても大きな出来事だったようです。言葉や習慣の違う人たちと一緒にワークショップで作品を作る刺激的な体験から、「指導する」というような一方通行ではなく、役者も演出家も互いに能動的にやりとり・セッションをしつつ、一番いい方法を探し当てて作り上げること、本当に必要なものを見つけること、思考することと関わることが同時に進んでいくことの価値、豊かさ、喜びなどを改めて発見されたようでした。

 この「やりとり・セッション」という言葉は、観客との関係についても使われました。 「舞台上の人間が全てを提示するのではなく、舞台上では100考えてそのうちの50を提示し、残りの50は観客に委ねる。観客とのフェアな関係がいい」。
 役者はセッションのスキルを磨いているにしても、観客にはそのスキルが期待できないこともあるのでは? という問いには、「僕は観客を信用するから」と。観客は自分の想像力に気づいていないかもしれないけれど、舞台の上にいると、圧倒的な集中力が空間を占めていて、観客の想像力ははっきり分かるものだそうです。

第2回セミナー
【長塚圭史さんと徳永京子さん(水天宮ピット) 撮影=石井雅美 禁無断掲載】

 以前は、新しいものをどんどん追い求める喜びや面白さを感じていたけれど、今は、慌しく結果を求めるのではなく、ひとつの作品で得た新しいアイデアを次の作品でも試してみる、そのままに終わらせず追い続けて進化させ、長い目で見ることが大事だと思うようになったという長塚さんにとって、イギリス留学は本当に大きな転機になったようでした。

 聞き手の徳永京子さんからの定番質問「なぜ演劇なのですか?」に対する長塚さんの答えは「人間が持っている想像力を圧倒的に活性化できるものだから」。「いい役者とは?」には、「楽しめる人、遊べる人。遊べる人はいろんな可能性を見出して、面白いアプローチをするので、いいものができる」という答えでした。

 会場からの「創作のきっかけは?」という質問に、長塚さんの創作の秘密の一端が明らかに。もちろんきっかけはいろいろあるそうですが、これを言うのは憚られるんだけどなあと言いながら「夢で見た光景をもう一度見たくて書くことが結構ある」。『荒野に立つ』も「自分ではすっかり忘れていたんだけど、起きたときに話した言葉を妻がメモしてくれていて、そこから始まった」のだそうです!

 遠く新潟・神戸・京都・北九州などからも会場の水天宮ピットに集まった満員の受講者を前に、ときに、ふさわしい言葉を捜して考え込みながら、早口で話される長塚さんからは、伝えたい、表現したい、という気持ちが真っ直ぐに伝わってくるようでした。

 何回かお話が出た長塚さん1年半ぶりの新作、阿佐ヶ谷スパイダース『荒野に立つ』はこの夏、東京・大阪・福岡で上演されます。
 (編集部)

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