演劇セミナー2011 第4回(報告)

◎この先ずっと、忘れられそうな頃まで語り続けること-野田秀樹さん

野田秀樹さん
【撮影=石井雅美 禁無断転載】

 申し込み多数で嬉しい悲鳴を上げた今季のセミナーですが、その中でも一番人気だったのが7月30日(土)のこの回。会場には、これまでにも増して、数多くの受講生が詰め掛けました。ゲストは、劇作家・演出家・俳優、そして東京芸術劇場の芸術監督として八面六臂の活動ぶりをみせる野田秀樹さんです。

 聞き手の徳永京子さんが「野田さんの作品では、たとえば昨年の『ザ・キャラクター』ならオウム真理教について、なぜ今これを取り上げるのかといった質問が出るのですけど?」と問いかけると「何で今? ということに、きっと関心がないんだと思います。原発にしても、今は発言が相次いでいるけれど、来年、5年後、あるいはもっと先の忘れられた頃に、どれくらいの人間が考え続けられるかの方に興味がある」とのこと。
 これは、日本の戦後を振り返って、1945年8月15日を境に、日本人の信仰心のど真ん中にあった天皇という存在が共同体から消え、〈神〉が〈人間〉になった空白についても、古い話と片付けず、ずっと語り続けなければならないといったことにもつながると話しています。

 さて野田さん、3月11日の地震の時は、教授である多摩美術大学の実技試験の真っ最中。立場上うろたえられなかったそうですが、言葉を交わした受験生たちに一体感を感じつつ、この中から何人か落とさなければならないのだという思いもよぎったとか。

 公演期間中だったNODA・MAP「南へ」は一時休演ののち、5日後には再び幕を開けました。当初は、舞台・客席双方がピリピリと張り詰め、空席からもある種の存在感が感じられて、普段とは明らかに異なる空気があったといいますが、10日を過ぎた頃、客席で寝ている人をみつけて、少し元に戻ったのかと思ったというリアルな話も出ました。

 恒例となった質問の「いい演出とは?」に対しては「演出が見えないのがいい演出。役者がやらされているなと客席に気付かれたらダメですね。アドリブを飛ばしているかのように、スッと流れていくのがいい」というお答えが返ってきたほか、こんなやりとりも。

野田秀樹
【写真は、震災前後の公演を語る野田秀樹さん。撮影=石井雅美 禁無断転載】

徳永「いい俳優とは?」
野田「若い時、自分をスゴイと自負してたのが、ある時点で、大したことないなあと思い始めているような役者さん。そういう時に、人間の苦しみが見えて面白いんです」
徳永「天狗の鼻がちょい折れたくらいの?」
野田「いや、かなり折れたくらい(笑)。うまいと思ってる人は一番タチが悪いよね(笑)。苦しんでる人は運動神経だけでやらないし、考えなくちゃいけないから、何か違うものを出してきます」
徳永「野田さんご自身は役者さんとしては?」
野田「そこにはふれないで!(爆笑)」

 受講者とのQ&Aタイムでも時間いっぱい話し、ゲストを迎える最後の回だった第4回も、盛り上がった雰囲気のうちに無事終了しました。
(編集部)

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