「最前線の演劇知」(後期)第2回報告

◎無茶ぶりを続けると役者に艶がでる-松尾スズキ(大人計画)

 クロストーク150分「最前線の演劇知」(後期)第2回が2012年1月14日、東京・日本橋の水天宮ピット(東京舞台芸術支援センター)で開かれました。普段ほとんど人前で語らない松尾スズキさん(大人計画)の登場で、会場は満員となりました。

 「人前で話すのは10年ぶりくらい。平田オリザさんや平田チルドレンたちも話しているなか、松尾が何を考えて演劇をつくっているのかみんな分からない。ここらで話しておかなければ」という松尾さん。「演劇を始めた理由から聞きたい」という徳永さんに、松尾さんは演劇の原点から、「大人計画」旗揚げ当時のこと、劇団主宰としての考え方、演劇と他分野との対比などにも触れ、松尾さんの足跡を軸に身体論や劇団論があふれた150分でした。

 子どものころから人前に身体を晒すことに抵抗を感じ、身体コンプレックスを抱えていた一方で、部屋でひとりマンガを描きながらジョン・ベルーシや財津一郎のモノマネをして激しく動いていたという松尾さん。”使ったことのない筋肉を使っている人”に惹かれていたそうです。

 大学の演劇研究会の部室で、別役実やつかこうへい、唐十郎らの戯曲を読んで「分からないけど、役者が発したらかっこいいだろうな」という台詞と出会い「話は分からなくても台詞が役者の体をもって立ち上がる」ということを学んだと話していました。

 影響を受けた人は? という質問には「特別にはないが、つかさんも清水邦夫さんも悪の匂い、不良っぽい感じがあった。実生活では言ったこともなかったけど、芝居でなら馬鹿野郎と言ってもいいんじゃないかと思った」と応えていました。

 就職して一時演劇から離れた後、通勤途中にあった池袋のシアターグリーンで芝居を見るようになり「学生の頃にやっていたようなアングラっぽいものに、今までに見てきたコメディやシュールさを取り込んだらおもしろいのではないか」と考えて演劇活動を再開しました。

松尾さんは劇団主宰を演劇界というデパートで「松尾包丁」を売る包丁売りと例えました。切れない包丁、変な形の包丁。それを紛れ込ませて「おもしろいでしょ? この包丁セット」と売るのだそうです。

松尾スズキさんと徳永京子さん
【写真は、松尾スズキさんと徳永京子さん 撮影=石井雅美 禁無断提供】

  「無茶ぶりを続けると役者に艶がでる」といった演出論や、いかに劇団の俳優に自立してもらうか、後進を育てるかという話もありました。

 「大人計画っぽくやらかしちゃってください」などとと言われることもあるそうですが、そんな予定調和の「らしさ」からは逃げたい、イメージを固定されたくないとも。広く見てもらえるような作品『キレイ』の後に、楽しめる人をピンポイントで絞った芝居をやったり、「その年に何を考えているか、企んでいるかで(劇団のイメージが)変わっていくようにしている」と話していました。

 昨年は演出が1本だけでしたが、今年は3本。芝居で仕掛けていきたいとのこと。「死ぬまでにあと何本書けるのか、慎重に選んでいきたい」と意欲を語っていました。今後も松尾さんの活躍が楽しみです。
(文責編集部)

◇大人計画の公演予定:「ウェルカム・ニッポン
 2012年3月16日〜4月15日 下北沢 本多劇場
 2012年4月18日〜4月22日 大阪 シアタードラマシティ

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