リクウズルーム「ノマ」(クロスレビュー挑戦編第19回)

「全世界のあらゆる場所、あらゆる瞬間に散らばっている言葉が、ぎりぎりのイメージでつながりながら、連なっていく」と宣言するテキスト。「“全貌が見えない”時代のあたらしい舞台エンターテイメント(?)、14人の俳優が、身体と世界観をさらしながら、そこに立ちます」と自らのWebサイトで呼び込む今回の公演。2007年12月に始めたソロユニットは4年後にどんな舞台を見せたのか-。5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順です。(ワンダーランド編集部)

黒木仁(団体職員)
 ★★★

「ノマ」公演チラシ
公演チラシ(撮影=青木祐輔)

 言語明瞭意味不明、役者が独白するセリフを追い続けて観ていた。会話を成り立たせようといった意図はない。すれ違いでもない。ただ自己をそれぞれが主張し続ける。14人もの俳優が機関銃のようにしゃべり続ける。それもわかりそうでわからない言葉を発する。現実に押しつぶされそうな主人公が、ネアンドルハインヅガーなるものを追い求めたストーリー。それさえ、チラシのストーリーでみて知った。退屈な現実から逃避し、とてつもない難題に挑戦したらハチャメチャにならざるを得なかった。一種の遊びとして面白い。でもそうしたシュールさを求めるなら笑いが欲しかった。セリフを追っていくだけではわかりにくさだけが印象として残る。それでは多くの共感を得ることが出来ない。私がこの舞台をもう一度観たいし、知り合いに観ることを勧めたい。しかし、意味不明なセリフのられつの中に笑いを入れると積極的に推薦できる。
(12月3日14:00 の回)

石橋源士(ドラマトゥルク)
 ★★★★
 佐々木透の作品に触れる時、ロールシャッハテストを受けているような感覚を覚えることがある。あの地と図、どちらに焦点を合わせたらよいか分からなくなる心理テストである。役者から次々と繰り出される台詞は、一見本題とは関係が無いようでありながらその輪郭線をぼかしつつも確実に物語をある方向へと導いていく。今回あぶり出しの絵のように浮かび上がってきた世界、それは禅の十牛図のようでもあり、錬金術に登場する哲学の山のようでもあった。ホーリーマウンテンの頂上を目指し、登山という行為を経ることにより、山そのものとなってしまった主人公。その変質と変容の過程は、あらゆる場所とあらゆる瞬間に散らばっている言葉と身体を通して織物が織りあがっていくように展開され、ある地点へと着地する。そこから見えた景色は、俯瞰図的な視点による見晴らしの良さとはまったく異なる、実行した者のみが至ることのできる突き抜けの世界であった。
(12月5日14:00の回)

山崎健太(早稲田大学大学院表象・メディア論コース)
 ★★
 見知らぬ国においてけぼりにされた。そんな舞台だった。
 徹底的に意味を奪われたセリフ。唐突な場面転換。どこかズレた衣装。リクウズルームの世界はシュールレアリスティックだ。
 そこでは意味の代わりに俳優や空間の存在感が立ち上がる。オープニングの鈴木燦の立ち姿の異様な迫力。場面転換における照明の切り替えや何の脈絡もなく鳴り響くポップミュージックも鮮烈だ。中盤、背景となっていた黒い壁が倒れ、客席まで巻き上げられる花吹雪と背後に現れる満天の星空はハッとするほどに美しい。
 だが、生き生きとした知覚は長くは持たない。見知らぬものにもやがては慣れる。セリフは単調、かつしばしば滑舌が悪く、詩のような言葉の魔力は半減する。唐突な場面転換も続けば単なるサプライズになり下がる。魔法が解けてしまえばそこに残るのは意味を結ばない言葉の羅列と猥雑な身振りだけであり、それを楽しみ続けることが出来るのはごく一部の観客だけだろう。
(12月4日19:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★☆(2.5)
 徹頭徹尾、理解できないように作られた戯曲だった。3語くらいならかろうじて意味が通るものの、4語を超えるととたんに意味がわからなくなる台詞で、身体の動きだけを見れば、役者たちは普通に言葉を交わし、行動しているように見えるのだが、台詞の内容が全く理解できないので、完全にちんぷんかんぷんなのだ。隠されたメッセージがあるのかもしれない、と思って見始めたが、早々にその考えは放棄した。「意味をたどらずに、ただ見る」ことにはあまり慣れていなくて戸惑ったが、意味もわからないのに、妙に引力のある舞台だった。役者の迫力、おかしな具合につながった意味の通らない台詞のおかしさ、突然流れるポップミュージック、とても美しい舞台装置、鮮やかな転換、へんてこな衣装。何が引力だったのだろう。残念ながら、私にはあまり面白いとは思えなかったのだが、でも、見てよかったと思う。
(年12月5日19:30の回)

「ノマ」公演の舞台写真1
【写真は、「ノマ」公演から。撮影=青木祐輔 提供=リクウズルーム
禁無断転載】

齋藤理一郎(会社員 RClub Annex
 ★★★☆(3.5)
 中盤くらいまでは、舞台にあるものが観る側に向きあうのではなく客席の反対側に向かって構成されているような感じがしました。台詞、仕草、シーンの繋がり…、それらが演技の向こう側にある表層とさらにその先にある架空の眼差しにむかって態をなす姿を奥から観ているような不思議な感覚に捉われて。
 通常とは異なるベクトルで表現されるから、舞台上の語られる言葉も繋がりが拾いきれず、イメージもどこかいびつにふくらんでは消えていくのですが、でも、コンテンツが十分掴みとれない中でも、世界が外からのまなざしに対する意識を持ち続け散漫になることがないから、観る側も次第にその中に閉じ込められることに慣れ、シーンごとの空気、さらには内面の鮮やかな広がりにも心を奪われてしまう。
 終盤、世界に向かい合うように観る側の視座が戻され、さらにはその表層が切り開かれて。別の角度からの内心の移ろいや記憶の醸成への具象にも目を瞠る。
 終演時にはとても秀逸な心の描写に触れた印象が残りました。
(12月6日19:00の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★☆(星2.5)
 マシンガントーク的なセリフ、てんでにポップでカラフルな衣装。そして、山下達郎「RIDE ON TIME」、Kinki Kids「硝子の少年」、岸田智史「きみの朝」ほか、かなりの音量で次々に繰り出されるベタな音楽。確たる筋はつかめないままに、物語の過剰と空回りなスピード感が舞台に充満するのを感じた。後半、後ろの黒壁がばったり倒れて空間が現れる、その手法自体は新しくないかもしれないが、バックに描かれていた星座が不思議に軽やかな印象を残す。
 当日パンフを見ると、実は、老人介護をしている男の冒険物語だったみたいで「今回の佐々木演出ではこのようなストーリーを発見しました」とある。作・演のご当人でさえ、台本から物語を発見する、そんな作品だったわけか、なるほど~。幸か不幸か、観客である私はそのストーリーのほんのちっぽけなかけらしか見出せなかったが、あそこに溢れ出たエネルギーには確かに押されたなあ…と思うのだ。ただし、それだけで舞台を持たすのは、なかなかに難しい。次はもっと別の手も見せてもらいたいなあ。
(12月5日14:00の回)

西尾佳織(作家、演出家、鳥公園主宰)
 ★★★☆(3.5)
 とても面白かった。一体どういう方法で、何を目的に作ってこういうことになったのだ? と大変興味を持った。ので、考えてみました。(ここから先は想像です)

「戯曲」として、言葉の羅列がある(ところどころ面白い、センス良い)
→これって何なの? どう読める? ここに何かを見つけられる?
→稽古場で何か(物語というか、体系というか、戯曲をある総体にしているルールのようなもの)が見つかる
→じゃあその何かをみんな(演出家、俳優、スタッフ)の中心に置いて、更に色々やってみよう(ただし、その「何か」をやることが目的ではない)
→出てきたものを、いい感じに調えよう!

……というようなことなんではないか。もしそうだとしたら、こんな時間と胆力の要る作り方を、よくストイックになさるなぁと思うけれど、作・演出の佐々木さんはきっと、そのやり方でないと出来ないことをやろうとしているのだろう。
 話が飛びますが、例えば「ノンポリ」という言葉があって、私は八割方その意味が「ノンポリティクス」だと分かっている。んだけれど、でもちょっと、「あれ?『ノンポリシー』?」とも思っている。そして同時に、ポリ袋のふにゃふにゃの質感が思い浮かんでいる。
 そういう、辞書には載っていない、個人個人が勝手に抱いてしまっている言葉のイメージの網の目にタッチしてくる瞬間を、『ノマ』を見ていて感じた。それはきっと、分かりやすい物語に染まっていい気分になるよりも、随分面白いことだと思う。
 完成度には不満が残る。でも作品の成立が、俳優のパフォーマンスの如何にゆだねられるしかないことも含めて、可能性を感じる。
(12月5日14:00の回)

藤原ちから/プルサーマル・フジコBricolaQ
 ★★★★☆(4.5)
 事前に台本を拝見したけども、日常会話の断片や独白があるばかりで、まったく意味不明。しかもナスカの地上絵みたいな謎めいた記号が書き込まれている。ヤバいと思った。そして実際に舞台を観てみて、可笑しくてしかたなかった。まるで宇宙人の演劇だった。
 当日パンフには「*今回の佐々木演出ではこのようなストーリーを発見しました」とあり、わたしはアフタートークで佐々木透本人からその驚くべき創作方法を聞くことができた。さらに印象深い言葉「ネアンドルハインヅガー」や「ノマ」の意味するところも。でもここには書かない。とにかく、宇宙規模の神秘から日常の些細な暗号的要素にいたるまで、幅広く好奇心を向けている佐々木透のこの変種ぶりに今は心から拍手を送りたい。演劇に新しい可能性をもたらしてくれる気がする。
 もう1回観たいと思わせる中毒性は、俳優たちの力に拠るところも大きい。ただし演技の質にムラが大きいと感じるし、まだまだこの方法論は未完成だと思う。屯田兵のような気持ちで行けるとこまで行ってほしい。極寒の地かもしれないけども、真のネアンドルハインヅガーを発見するその日まで……。
(12月3日19:00、12月5日14:00の回)

「ノマ」公演舞台写真2「ノマ」公演舞台写真3「ノマ」公演舞台写真4
【写真は、「ノマ」公演から。撮影=青木祐輔 提供=リクウズルーム 禁無断転載】

徳永京子(演劇ジャーナリスト)
 ★★★★
 知的なしつらえの、実は遊び心満載の玩具箱か。ふざけたしつらえの、実は知的な実験室か。どちらと受け取るかで、作・演出の佐々木透に用意される将来が変わりそうな気はするが、私は遠慮なく、権威方面と逆向きの前者を選ばせてもらう。
 というのは、せりふとストーリーが完全に乖離した独自のフォーマットは、確かに小難しい顔を持ち、俳優に課したスキルは低くないものの、ルールさえ了解すればコネクトできるポイントは無限で、接続のコツをつかんだ観客にとっては、舞台上のあらゆる事象が、どこを見て何を聞くかによって、時に宇宙のサーガの断片、時に元カレと元カノの焼けぼっくいのワンシーンと、自分をさまざまに楽しませてくれるエンターテインメントの種になり得るからだ。佐々木の戯曲はそれだけの言語を用意し、演出はひとりひとりの俳優に畜熱と発熱の時間を用意する。観客に向けられたその姿勢を仮にツンデレと呼ぶなら、ツンのハードルを超えた者に対するデレデレぶりは、知的な実験室と呼ぶことをためらわせる。
 だがそれはマイナスなどでなく、権威という演劇の甘い呪縛からゆるりと逃れる、それこそ知的な方法ではないかと思うのだ。
(12月3日19:00の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 この舞台を2度見た。作品が観客をたばかっているのか観客に挑んでいるのかよくわらなかったからだ。再度見て衒学的に茶化す狙いは感じられなかった。むしろ不定形のおもしろさが前面に出て終始退屈しなかった。とは言っても挑む中身はよくわからない。
 なにせ台本は、小難しい論文と日常会話をシャッフルしたような困惑の束。そこに図形や記号の指示が書き込まれている。だから当日プログラムで「物語を発見した」と言われても、探索と架橋の作業は簡単にできるわけがない。弄ばれたかとの疑いすら湧いてくる。しかもプレスト基調のテンポと目くるめく場面転換によって、考えるいとまは与えられないまま。作品が想定する観客像は余りにも鋭くて繊細、賢くて剛力、あるいは余裕たっぷりの寛容人なのではないだろうか。
 でもさ、そんなセンスも力も余裕もないのに、2度目は折々ケタケタ笑いながら見ていた。身体は反応したのだ。痙攣かもしれないと疑いつつ、それを根拠に★を付けた。もちろん2度目なので差し引いて。
(12月5日14:00、12月6日19:00の回)

【上演記録】
リクウズルーム「ノマ」
アトリエ春風舎(2011年12月2日-6日)

作・演 佐々木透
出演
榎本純子(月刊口遊)
小田さやか
尾杉悠(害獣芝居)
春日井一平(劇団上田)
片岡佐知子(ク・ナウカ)
くにとうまゆみ
黒木絵美花
鈴木燦
タカハシカナコ
葉山勇気
平吹敦史(元バビィ)
山田裕子(第七劇場)
渡邊晴樹
佐々木透

宣伝・美術 青木祐輔
照明 南 星(Quintet☆MYNYT)
音響 森内美帆
企画 リクウズルーム
制作 渡辺美帆子事務所

協力
アゴラ企画、青年団、三木プロダクション、New Teeth Productions、ク・ナウカ、劇団井手食堂、第七劇場、劇団上田、月刊口遊、害獣芝居

*ポストトーク ゲスト
◇藤原ちから(編集者、BricolaQ主宰) 12月3日 19:00
△佐々木敦(批評家) 12月4日19:00

料金 前売 ¥2500 当日¥2800 平日昼間割引 ¥1800


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