王子小劇場主催「佐藤佐吉演劇祭2012」の全公演(10本)をクロスレビュー形式で取り上げる第1弾(通算第31回)は、劇団競泳水着「Goodnight」公演です。
「競泳水着」は2003年に旗揚げ。ラブストーリーを映像的に見せる「トレンディードラマ」シリーズを上演して注目されました。2009年に劇団化してからは「積み上げられた何気ない日常の記憶から、現代における家族・恋人・友人などの人間関係を丁寧に描いた作品を上演」(劇団Webサイト)。今回は「生きていくことは可笑しくて物哀しくて、愛おしい。劇団競泳水着がお届けする夏の一夜の群像劇」とありましたが、実際はどうだったのでしょうか。5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。各レビュー末尾の丸括弧内は観劇日時です。(編集部)
▽黒木仁(団体職員)
★★★★
イタリアンレストランを貸切にして、元アルバイト店員の送別会を計画した。
その一夜で起きるてんまつがコメディタッチで描かれる。
10人の登場人物が出演。
送別会は水道・ガスが使えなくなったということで、中止となり別な飲み会に合流して飲もうとなって、ばらばらと帰っていく。
近所にある水道管が破裂したので、レストラン近くの一帯が水道止まり、ガス管も影響されて出なくなってしまう。
水道が出ない、ガスも使えないとなれば、料理一つ出せない。
料理の出せないレストランって、悲劇なのか喜劇なのか。
それが一人一人のうまくいかない生き方を象徴している。
送別会だって開くことができない。
ままならない生き方にいらだち、反抗し、あきらめ、次に可能性を見出そうとする。
あの時ああすれば良かったと思っても、遅すぎた現実もある。
でも、次の飲み会に参加して、気分転換を図ろうとするそれぞれがいる。
成り行き任せの生き方を反省しても、それは戻ってこない。
でも、それを否定することもない。
そのまま受け入れ、また次の日を迎える。
また、同じように生活している。
観客の多くを映し鏡にする舞台をつくった。
じゃー、グン・ナイ、お休みなさい。
ぐっすり眠って、また明日。
そんなふうに静かに終わる芝居です。
(6月26日19:30の回)
▽都留由子(ワンダーランド)
★★★★
住宅街に開店したばかりのイタリアンレストラン。次の場面はその5年後。集まったオーナー兄弟妹、従業員、元従業員、その友人たち、融資している銀行から来た若い銀行員のやりとりで、その間に起きたことがだんだん見えてくる。オーナー兄弟の喧嘩別れ、経営不振、ふた組の恋人たちの別れなど、それぞれにあのときこうしていれば、あんなことをしなければという思いがあり、また、知らないうちに誰かの背中を押していたことが分かったりして、特別な大事件もない、ほぼひと晩の出来事を面白く見せてしまう。脚本は、誰でも持っている、後悔とまでは呼べないけれど心にひっかかっている出来事を呼び覚まして、台詞を聞き取ることに関してストレスフリーな役者の力で、結局は何も解決していない幕切れなのに、その先にも、大変かもしれないけれどちゃんとそれそれの道がつながっていることを感じさせた。
(6月22日19:30の回)
▽小林重幸(放送エンジニア)
★★★
強烈な個性を持つキャラクターを多人数配してやや強引に場面を進行しつつ、会話の端々で人物の関わり合いを提示して、結果的に「関係の演劇」を構築したこの脚本の構成は見事。芝居のリズムは各キャラクターが担っていて、緩急とメリハリを作り出していて飽きることが無い。一方、心に響く切なさは人物間の関係性から醸し出されており、通り一遍なキャラクター芝居で終わらない、哀愁を引きずるテイストに仕上がっており、役者の好演も奏功してレベルの高い舞台に仕上がった。
若干スラップスティクのテイストが濃すぎる感もあり、各キャラクターの背景を知るためのエピソードがもう少し必要かと思えるし、ラストも、やや、やりっ放しで、もうワンシーン欲しいところではあるが、ほぼ、一夜のお店の中のシーンのみで、時間の流れまでを意識させる、想像の膨らむ話を紡ぎ出したのは作家の筆力の賜物と言えよう。
(6月23日19:30の回)
▽大泉尚子(ワンダーランド)
★★★★
小さなイタリア料理店を舞台に、オーナー・スタッフ・バイト・客など数人の男女が繰り広げる人間模様。さして意表をつく展開や奇を衒ったキャラクター設定もなく、兄弟間の微妙な関係や、生まれたり消えたりするいくつかの恋バナなどが、さりげないタッチで滑らかに交錯していく。TVドラマにも応用できそうな筋運びなのだが、舞台としての奥行きも。絵に喩えれば「図(=描かれているもの)」と「地(=バック)」の「地」を描いて「図」を浮き上がらせる手法というか。たとえば、近くの水道管が破裂して、店の奥の部屋が水浸しになるという場面では、身振りひとつ、セリフ一言で、実際の舞台には現れていない部分を一瞬のうちに立ち上がらせ、そういう小さな積み重ねが徐々に厚みになってくる。
看板女優の大川翔子は、時に動物性の匂いを放ちそうな色っぽさでドキッとさせられるが、この舞台ではきょどりっ放しのダメな銀行員役で、新しい一面を垣間見せた。
佐藤佐吉演劇祭の皮切りとして、かなり気合が入っていたのではないだろうか。その意気を買いたい。
(6月22日19:30の回)
▽齋藤理一郎(会社員 個人ブログ rclub annex)
★★★
レストランを舞台にした群像劇。会話などからシンプルに編み上がる時間もあれば、企みや意外さをもったエピソードも差し入れられて。ランチやコンビニのトイレといったトリガーからオーナーの性格や店の空気、さらには従業員たちの心情が導き出される。
かつてその店で働いていた女性が語る現在が、酔った態で従業員の過去を浮かび上がらせた女性客や店の経営状態を示した女性銀行員に、働くことの現実と想いを語るという予想外のロールを与えたりも。
そうして作り手が直球や変化球を織り混ぜてしたたかに組み上げた一夜の顛末には、キャラクターたちの刹那の姿にとどまらない今そうあることの必然までが垣間見えて、その時間の質感に捉えられる。
役者たちも、観客に居心地のよさまでも感じさせる舞台美術も実に魅力的。ただ、惜しむらくは、戯曲にプロローグと現在を繋ぐ部分や一夜の先に見えるものの描き込みがやや欠けていて。キャラクターたちがそれまでの日々に抱えたものや明日への予感に十分な膨らみがなく作品を少々物足りないものにしているように感じられました。
(6月23日19:30、7月1日19:30の2回)
▽中野雄斗(学生)
★★★☆(3.5)
義兄のレストランを手伝う弟と、それをとりまく人々が描かれる。と思ったらあっという間に3年が経過し(月日の流れは速いものだ)、弟は独立し自分の店をもっていた。しかし、義兄の店を出た直接の原因はどうやら別のところにあるらしく、さらにそれぞれ店の経営が傾いているという。義兄の店の元バイトが仕事で北海道へ行くため送別会を開くことになったのだが、そこに弟が現れて……。
ていねいに作り込まれた舞台装置や、そこに立つ魅力的な登場人物たちがやさしくあたたかみのある劇世界を展開しており好感がもてる。親しい間柄でさえ日々のすれ違いは起こってしまうが、そうしてできた溝を埋めていくさまがリアルで心に残る。典型的なドラマになってしまいそうなところだが、アクの強いキャラクターが脇を固めており飽きさせない。室内劇にしては役者の声量が大きく、演技がかった台詞回しも含め芝居臭さが悪目立ちしてしまったのが残念。
(7月2日18:30の回)
【上演記録】
劇団競泳水着「Goodnight」(佐藤佐吉演劇祭2012 オープニング作品)
王子小劇場(2012年6月22日-7月2日)
脚本・演出 上野友之
出演:
大川翔子 川村紗也(以上、劇団競泳水着)
阿久澤菜々
岡田あがさ
菅野貴夫(時間堂)
黒木絵美花
澤田慎司(FUKAIPRODUCE羽衣)
篠原 彩
瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)
竹井亮介(親族代表)
前売3,000円 当日精算3,300円
当日券3,500円 高校生以下無料(全席自由・税込)
アフタートーク<15分程度>
6/24(日)18:30 ゲスト:岡田あがさ 瀧川英次
6/26(火)14:30 ゲスト:黒木絵美花 竹井亮介
6/28(木)14:30 ゲスト:阿久澤菜々 管野貴夫
7/1(日)18:30 ゲスト:澤田慎司 篠原彩
スタッフ
舞台監督 本郷剛史
美術 坂本遼
照明 島田雄峰(lighting Staff Ten-Holes)
音響 星野大輔
衣裳 富永瑞木
演出助手 松本紗良 中川真奈
映像撮影 西池袋映像
写真撮影 下田直樹
WEB広報 P’s #ffb900
宣伝美術 [図案]立花和政 [イラスト]庄子佳那 [写真]永西永実 [ヘア・メイク]伏屋陽子
制作 会沢ナオト
制作助手 齋藤陽子
カンパニースタッフ 細野今日子
企画・製作 劇団競泳水着
協力
イマジネイション 王子小劇場 株式会社クィーンビー zacco 時間堂 自転車キンクリーツカンパニー 七里ガ浜オールスターズ 親族代表 FUKAIPRODUCE羽衣 フォセット・コンシェルジュ 舞台美術研究工房 六尺堂 mono.TONE Corich舞台芸術! ロングランプランニング株式会社