振り返る 私の2011

 慌ただしい年の瀬。新しい年を迎えるためには、ここらでちょっと身をかがめ、呼吸を整えてこの1年をかえりみようか-。そんな気持ちから始めた年末回顧企画「振り返る 私」シリーズも今年で8回目。記憶に残る3本とコメント300字という現行方式になってからは7回目になります。今年も多くの方々の参加で多彩な内容になりました。40人余りの「この1年」が凝縮しているので、「小劇場2011」の輪郭と流れがぼんやりながら立ち上がってくるような気がします。掲載は到着順です。(編集部)

志賀信夫(舞踊批評家、舞踏批評サイト主宰)

CAVA「BARBAR」公演チラシ

  1. ジェローム・ベル「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン
  2. CAVA(サバ)「BARBAR」
  3. 山下残「庭みたいなもの

・コンセプト先行の印象があったベル作品だが、これはコンテンポラリーの前衛でありつつ、エンターテイメントの傑作。カラオケダンスの発想で、ノンダンスなのに笑い楽しみつつ本当に凄いと鳥肌が立つ。観た人は闇の「イマジン」で何を想像したか。
・海外でも評価されたマイムのCAVAは進化したエンターテイメント。仏タンゴバンドも一級だが、生演奏がこれほど合う舞台は日本にない。
・コンセプト的緩さが魅力の山下残だが、奇妙な船のような建築物の中を通り客席へ。それが舞台セットとなり日常的な人々の動きが非日常を生む。この発想はまさに残ならではで、もっとも注目する存在。
・フランスダンスイヤー、玉野黄市帰国公演もトピック。
(年間観劇数 250本)

清末浩平(文学研究、ブログ「documents」 )

「海の牙」公演チラシ

  1. 東京芸術劇場主催公演「チェーホフ?!
  2. 劇団海賊ハイジャック(「特別航演」)「罵詈のシャトー
  3. 劇団唐ゼミ☆「海の牙」

 本当に素晴らしいものに順位はつけられない。上記の序列は、私が観た順番でしかない。
 1は、タニノクロウが圧倒的なセンスで、チェーホフのあまり知られていない作品を横領。わけの分からない爽快感があった。
 2は、現代日本に生まれた本格的不条理劇。何時間でも観ていたかった。脚本はクレバー、演出は衝撃的(PINK FLOYDの楽曲の使い方の切れ味!)。
 3についてはすでに劇評を書いたが、2011年に私が演劇を観ながら涙を流したのは、この作品だけだった。
(年間観劇数 約60本)

カトリヒデトシ (劇評家、カトリ企画プロデューサー、ブログ「地下鉄道にのって」 )

「サブウェイ」公演チラシ

  1. マーム とジプシー「あ、ストレンジャー
  2. 三条会「失われた時を求めて~第7のコース「見出された時」~」
  3. 極東退屈道場「サブウェイ

 今年は3月に倒れて前半はよろよろしていたが、6月からは立ち上げたカトリ企画で公演2回、リーディング2回と後半すっかり忙しくなり、熱心な観客とはいえなくなってしまった。よって小劇場の趨勢をかたるのも難しくなった。その中で、復帰直後に見た2本。「死んでたらみれなかったじゃん」と死ななくてよかったと思えた、「あ、ストレンジャー」、「失われた…」の完結編が2011年の私の特別になった。また、地域とつきあっていてよかったと思えた本年OMS戯曲賞受賞の「サブウェイ」。時間や場所を越えた邂逅にしみじみした3本を今年の3本としたい。中の人然としたような不遜を排除し、来年も演劇好きなオジさんが変なことしてるというスタンスで謙虚に行きたい。
(年間観劇数 250本)

田中伸子(演劇ライター、ブログ「芝居漬け」)

「チェーホフ?!」公演チラシ

  1. 東京芸術劇場「チェーホフ?!
  2. 東京デスロック「再/生」プロジェクト
  3. TPT 「プライド

 震災が演劇人たちに「なぜ今芝居を作るのか」という活動の基本動機を思い起こさせ、クリエイターとしての自覚を促したように思う。その意味で良質作品に恵まれた1年だった。そんな中、選んだ3作品はパフォーミングアーツの特性としての、複製不可能なライブ=現場の目撃者だけが得られる忘れがたい珠玉の時間・体験を味わわせてくれた。得に「チェーホフ?!」においては視覚で、「再/生」では個々の身体の感性、さらにはその各所で作品を作り直すという方法論で、そして「プライド」では俳優の演技によりその優位を得ていた。
(年間観劇数 320本-年末まで)

三橋 曉(コラムニスト、個人ブログ a piece of cake!ミステリ読みのミステリ知らず) 

「in her twenties」公演チラシ

 順位ではなく、観た順です。(次点も含めて)テーマに対するしなやかで自在な姿勢がまぶしかったトープレ、一発屋でないことを祈るのみ。石原正一ショーは、前回の東京公演から5年ぶりだが、見違えるほど良くなった。翌日また足を運んだのは、今年はこれだけ。不思議なナカゴーは、折り返してからがすさまじいね。高畑遊の破壊力に唖然。他にKAKUTA、ドリチョコ&MCR、空想組曲、カムヰヤッセン、ホチキスが過大になりがちな期待を裏切らなかった。山の手事情社「傾城反魂香・道成寺」は別格、私的ブライテストホープは月刊根元宗子の「この世で一番幸せな家族」でした。今年も色々あったけど、個人的に大きいのは第三舞台の終焉を見届けたことかな。満たされない思いも残るけど、人生は続く、観劇も続く。
(年間観劇数 150本前後)

高田匂子(主婦)

「MEMORIES」公演チラシ

  1. 文学座アトリエの会「MEMORIES」(テネシー・ウィリアムズ1幕劇一挙上演)
  2. 方の会「しんしゃく源氏物語
  3. TBスタジオプロデュース「

 1は、記憶に残ったという意味で、文学座だけれど入れました。特に「ロング・グットバイ」に対して。2は、戯曲のちからがすごい!
 それから、劇作家・坂本鈴の作品。例えば、バトル形式のシェークスピアフェスティバル「ガチゲキ」(王子小劇場)の参加作「夏のひと夜のアバンチューる」や、劇団劇作家主催の劇読み! vol.4「ナマクラ」。ごく普通のOLの日常を、マンガのふきだしのように出して、それを演劇にしてしまうワザにたいして。
(年間観劇数 126本)

宮本起代子(因幡屋通信/因幡屋ぶろぐ主宰)

「被告人ハムレット」公演チラシ

  1. ミナモザ「エモーショナルレイバー」(シアタートラム ネクストジェネレーションvol.3
  2. 明治大学演劇集団 声を出すと気持ちいいの会「被告人ハムレット
  3. 劇団フライングステージ「ハッピー・ジャーニー

 1は作品が持つ力を新しい劇場で存分に発揮し、2は古典戯曲を大胆に読み解く試み。3は昨年夏から秋のできごとを追いながら、いつのまにか3.11以降のこの国と自分たちについて深く考えさせるものだ。
 結果的に3.11を直接反映していないものを選んだことになる。震災や原発事故の影響は計り知れないが、決して忘却するのではなく、演劇の創造は3.11を乗り越え、自由に力強くあってほしい。衣食住の困難を具体的に解決する力はないけれども、それらが満たされてなお思い悩む人の魂を豊かに養う役割が、演劇にはあると信じているからだ。
 来年はこの国の真価が問われる。演劇においても作り手側だけでなく、受けとる側もこれまで以上に真剣勝負でありたい。
(年間観劇数 151本-12月23日まで)

玉山悟(王子小劇場代表/芸術監督)

「劣る人」公演チラシ

  1. ナカゴー「バスケットボール
  2. 悪い芝居「駄々の塊です
  3. elePHANTMoon「劣る人

 今年はなんだかんだでまるで見られない1年でした。ナカゴー、悪い芝居は終わったあとに高揚感が、elePHANTMoonは終わったあとにズッシリとした疲労が感じられる作品でした。ナカゴーは阿佐ヶ谷アルシェの3本立てのうちのひとつ。「月餅」もとんでもなくおもしろかったです。
 上で挙げた以外で印象に残ったのはバナナ学園純情乙女組、極東退屈道場、The Dusty Walls、まごころ18番勝負といったあたりです。
(年間観劇数 100本から200本の間)

片山幹生(教員、ブログ「楽観的に絶望する」)

「ダイダラザウルス」公演チラシ

  1. 桃園会「ダイダラザウルス
  2. 国分寺大人倶楽部リミックス2
  3. ままごと「わが星

 「ダイダラザウルス」:ほとんどつぶやきといってもいいような断片的なことばが舞台上の人物のあいだで交換される。脈略のない夢のような世界を登場人物に寄り添い彷徨っていると、暗闇の中に詩情に満ちた懐かしい風景が浮かび上がってきた。
「リミックス2」:極上の黒いウェルメイド・プレイ。露悪的で悪趣味な表現によって、「愛・青春・死」というあまりにも定型的な主題が、逆説的に、力強く示されている。国分寺大人倶楽部は来年二月の「ハローワーク」の再演をもって無期限に活動を停止するという。間違いなく傑作なので多くの人に見て欲しい。
「わが星」:ドラマなど存在しようがないように思える平凡な日常を、独創的な仕掛けによって、演劇的なファンタジーに変換した。日常性の美を歌う現代のオペラ。
(年間観劇数 約100本)

山田ちよ(演劇ライター、サイト「a uno a uno」)

「夢謡話浮世根問」公演チラシ

  1. 架空の劇団(番外公演)「瓦礫と菓子パン~リストランテ震災篇
  2. 流山児★事務所「夢謡話浮世根問(うたはゆめうきよのねどい)」横浜公演
  3. 劇団B級遊撃隊「土管2011」東京公演

 架空の劇団は盛岡市の劇団で、PAW YOKOHAMAなどの主催で相鉄本多劇場で開かれた「東北・復興WEEK」に被災地の劇団として招かれた。「自分たちは被災者でないから、その思いを表す舞台はできないが、被災した人への取材をもとにした芝居なら、横浜で演ずる価値があるのでは」と避難所の食事、物流が途絶えた時に食べたものなどを題材にした。その劇場に来る人が自分たちに何を求めるのかを探り、それに応えながら自分たちらしさを磨いていく創作姿勢も評価したい。「夢謡話浮世根問」は流山児祥と、脚本も書いた北村想の二人芝居。全共闘に関わった人たちの30年後という設定が面白く、北村独特の緊張感とおかしさの味付けもよかった。
(年間観劇数 約130本)
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【注】
* 劇場名や上演月日は、各地で公演している場合などに付けた。
* 作者、訳者、演出家名も、3本の選択に関係する場合などに付した。
* リンク先は2011年12月28日現在のURL。このあとサイトの改廃、ページ内容の変更、リンク切れなどが生じるかもしれません。ご注意ください。

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