「LAST SHOW ラストショウ」(作・演出 長塚圭史)

 東京・渋谷のパルコ劇場が昨年の「ピローマン」に続いて阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史を起用。今回(「LAST SHOW ラストショウ」)は演出だけでなく、風間杜夫、永作博美、古田新太らの俳優陣を迎えて書き下ろす新作舞台を … “「LAST SHOW ラストショウ」(作・演出 長塚圭史)” の続きを読む

 東京・渋谷のパルコ劇場が昨年の「ピローマン」に続いて阿佐ヶ谷スパイダースの長塚圭史を起用。今回(「LAST SHOW ラストショウ」)は演出だけでなく、風間杜夫、永作博美、古田新太らの俳優陣を迎えて書き下ろす新作舞台を企画・制作しました(7月1日-24日)。長塚は昨年「第4回朝日舞台芸術賞」「第55回芸術選奨文部科学大臣新人賞」をダブル受賞し、いま脂の乗っている時期らしく、期待に違わぬ作品だったようです。


 パルコのWebサイトによると、物語はTVディレクターの石川琢哉(北村有起哉)が名子役として一世を風靡し、いまは夫を支えるタレン美弥子(永作博美)と幸せな新婚生活を送るところから始まります。そこに突然、長らく行方不明だった琢哉の父・勝哉(風間杜夫)が訪れ、予測のつかない行動で少しずつ美弥子に接近していく…。琢哉が取り組むドキュメンタリー番組の主役、動物愛護家の渡部トオル(古田新太)がそこに絡んだりして、愛情と刺激に飢えた大人たちの恐ろしい喜劇が幕を開ける、とのことでした。

 「踊る芝居好きのダメ人間日記」サイトの「あおし」さんは、「敬愛する長塚圭史の新作です。ひと言で例えるなら感情のジェットコースター。いやもう、振れ幅大き過ぎです」とした上で、「ある時は想像を絶するほどの戦慄ホラー作品、ある時はカルト的な猟奇作品、そして愛と感動のファンタジー作品、そんな多彩な表情を持った作品です。(略)恐がって、笑って、そして泣いて、全くもって長塚圭史という才能に感情を弄ばれた気がします」と賛嘆していました。
 「Somethig So Right」のBlankPaperさんも「期待にたがわず、すごかった。衝撃的な内容ではあるが、作中のいくつかの出来事が、いかにも荒唐無稽で、かえってコミカルで現実離れしているため、深刻になりすぎないし、死・消滅というかたちであれ、救いが用意されているため、心に食い込んで消えないが、後味が悪過ぎることもない」「長塚圭史は今絶好調だと感じさせるに足る、非常に印象的な作品」と書き留めています。

 役者もすばらしかったようです。
「古田さんは緩急自由自在で相変わらずの上手さです.社会道徳を平然と超えてしまう狂気を愛嬌をもって演じられる人です.でもって啖呵切ると身震いするほどかっこいい」(「mamiの観劇覚書」)
「永作博美、全ての出来事のきっかけである女性を可愛らしく演じてた.童顔で細くて一見いたいけだけど絶対に負けない芯の強さを感じるので、今回のような巻き込まれ被害者をやっても痛々しくならない」(同上)
「父親役の風間杜夫が予想以上の怪演です。最初は殴ったり刃物で脅したりしつつもなんか優しい部分もあるのですが、途中で取材対象者役の古田新太にそそのかされたあたりからどんどん狂っていき、最後で気がつくまでの流れが素晴らしい」(「某日観劇録」)

 舞台の背景に「放射性廃棄物処理場」か「原発」らしい施設が見えていたそうです。「Somethig So Right」は「この廃棄物処理場の近くという設定が、全体のストーリーに終末的な影を与えるとともに、背景として大きな意味を持っているのではないか」として次のように指摘します。

廃棄物処理場の放射能が、そもそもこれらの人物、特に動物愛護家のアブノーマルな習性を生み出したとも考えられないか。やはり最終部に近く、爆発音が起こり、廃棄物処理場の事故が暗示される。放射能が漏れ、この登場人物たちは(すでに死を選んだ者もいるが)遅かれ早かれ死に絶えるのであり、犯罪者や事件の関係者として重い生涯を生きていく者はいないのだ。その意味で作者は全てを消滅させる設定を与えており、自分にはそれがなんとも優しく思えた。様々な意味で用意周到である。

 「某日観劇録」も同じ背景を目にとめながら、また別の解釈を複数予測しています。

今回の芝居ですぐそばに建てられている原発の問題が借景というか、扱われています。最後の場面で何が起こったのか確認しようとしてテレビをつけ、だけどそれをすぐに消してしまう。これを私は、北村有起哉の設定とあわせて、遠くの他人事より自分の身近のほうが大変だから、まずはそっちに集中しろよ、という意図に解釈しました。だけど、すぐそばで大きな問題が起こっているのにそこに目を向けない、という意図にも取れますし、向ける余裕のない人が今はたくさんいる、という意図にもとれます。演出家の意見を聞きたいところです。

 この「借景」の見方が分かれても、作品や俳優たちの演技を評価する点では足並みがそろっています。長塚人気が高い理由が想像できますね。

[上演記録]
LAST SHOW -ラストショウ-
作・演出 長塚圭史
出演 風間杜夫、永作博美、北村有起哉、中山祐一朗、市川しんぺー、古田新太

東京公演
PARCO劇場(7月1日-24日)
大阪公演
梅田芸術劇場 シアタードラマシティ(7月28日-31日)

投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

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