劇団桟敷童子「風来坊雷神屋敷」

●上演時間・・・約1時間50分 ●観客数・・・・・約150人 ●放水量・・・・・(推定)10トン超 ●可動面積・・・(推定)100平方メートル超 (以下、公演の舞台装置や演出手法について具体的に言及していますので、これか … “劇団桟敷童子「風来坊雷神屋敷」” の続きを読む

●上演時間・・・約1時間50分
●観客数・・・・・約150人
●放水量・・・・・(推定)10トン超
●可動面積・・・(推定)100平方メートル超

(以下、公演の舞台装置や演出手法について具体的に言及していますので、これから観劇予定のかたはご注意ください。)


 王子にある飛鳥山公園の広場に現れた「特設天幕劇場」は、パイプの骨組みにシートを張ったテント状のもの。客席は目算で120~130席程度ですが、こけら落とし(?)となったこの日は通路部分を含めてかなり詰めて収容した結果、150人ほどが埋め尽くしました。隣の観客とは肩や足が触れ合うといった感じでしたが、段差による腰掛け式で各自に座布団も用意されたため、まったくの地べたにゴザのみというケースに比べればかなり快適といえます。

 舞台の左右には、谷里の風景のセットが木で組まれ、そこに照明器具もうまく収められていました。舞台前方の上部に配されたパイプがシャワーのごとく雨を降らし、その真下の溝が川として水を受ける仕組みになっています。この日は上演の少し前から雨模様。天幕のシートを打つ本物の雨音が芝居にシンクロするという野外公演ならではの天然の演出が加わりました。

 公演のパンフレットによれば、日本には、捨て子や孤児、病気の子供などを、生贄にするためだけに育てていたという史実があるようです。物語の舞台は戦国時代の雷神峡日陰谷邑(らいじんきょうひかげだにむら)。ここでは大雨によって川が氾濫するため、龍神の怒りを鎮めるべく毎年生贄を捧げています。この年もそうした生贄専門の阿呆丸と呼ばれる娘が派遣されてくるのを期待しますが、阿呆丸が現れなかったときには村の長である重蔵の娘、志乃が生贄になる番。そこに風来坊の興櫓木(こうろぎ)が現れ、「龍神を退治する」と言い出します。

 劇中、刀による戦闘シーンが多用されました。興櫓木(池下重大)や重蔵(原口健太郎)などがサシでやり合う場面は見応えがあったものの、複数の役者が入り乱れる状況においては、いわゆる殺陣としてみると「ぬるい」と感じられる場面があったのも事実です。もっとも、さほど広くない舞台上を10名近くの役者が立ち回る構成を考えれば、やむを得ずといったところかもしれません。

 佳境に向けてポイントになったのが、阿呆丸(板垣桃子)のモノローグ。切なくも力強く慈愛に満ちたその語り口に、評者の左右にいた観客はたまたま二人とも目頭を押さえていました。評者自身の心情を振り返ってみても、「自分が生贄になって死ぬ」と頑固に言い張る阿呆丸の姿には心底いらだちを覚えたりもしましたが、それは結局、板垣桃子の演技にそれだけ魅入ってしまっていたということでしょう。

 「あいつだ。あいつがやって来た」「龍神がすぐそこまで来てらあ」。結局、生贄を捧げることなく村は大洪水に見舞われます。轟く雷鳴とともに左右から大量の水が放出され、舞台全体を30秒近く見事なまでに覆い尽くし、物語自体がカタルシスを迎えます。水をふんだんに使った野外公演というと、たとえば新宿梁山泊の「人魚伝説」が有名ですが、今回の桟敷童子の演出もそれに勝るとも劣らない印象を残したといえそうです。

 ラストの重蔵と阿呆丸が村から旅立つ場面では、二人は劇場を飛び出して公園の木々の向こうへと20~30メートルも進んでいきますが、そのとたん、劇場の天幕がゆっくりと後方へ移動を始めたかと思うと、やがて舞台から客席の前方半分ほどにかけてぽっかりと秋の夜空が広がりました(幸い、雨は一時的に小降りに)。あたかも開閉式のドーム球場のようで、上方の照明を設置するためのやぐらも姿を現しました。劇場の一部が可動式という仕組みは野外公演ではおなじみですが、星の見える夜であれば、また違った趣になったことでしょう。

秋雨に龍神荒ぶる飛鳥山

(吉田ユタカ 2005.10.15)

劇団桟敷童子「風来坊雷神屋敷」
■場所:北区・飛鳥山公園内 特設天幕劇場
■日程:2005年10月15日(土)~10月30日(日)
■ 作 :サジキドウジ
■演出:東憲司
■美術:塵芥
■財団法人東京都歴史文化財団
  平成17年度創造活動支援事業
■北とぴあ演劇祭参加
■第60回記念 文化庁芸術祭

「劇団桟敷童子「風来坊雷神屋敷」」への3件のフィードバック

  1. 初登場、大歓迎です。
    それにしてもいきなり「●放水量・・・・・(推定)10トン超」とあったので、何ごとかと思ったのですが、読んで納得でした。その昔ぼくがみた新宿梁山泊「人魚伝説」の上野・不忍池公演は池を有効利用したスペクタクルでしたが、劇団桟敷童子も「水」に挑戦したのですね。桟敷童子はいつもがっちり物語を組み立てるので、はまれば病みつきになるかもしれません。これからもよろしくお願いします。

  2. 劇団桟敷童子『風来坊雷神屋敷』@飛鳥山公園内特設天幕劇場

    ぽっかりと時間が空いた代休の火曜日、劇団桟敷童子『風来坊雷神屋敷』を観てきた。
    場所は北区飛鳥山公園内にある特設天幕劇場。
    いわゆるテント公演というやつだ。

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