零式「返事」

◎「閉塞感」のない肩すかし 人物設定が凝りすぎか  小畑明日香 『半寝』で第24回新風舎出版文化賞出版化推薦作選出、 前作『ブリキ・ゴーレム』で2005年佐藤佐吉賞優秀脚本賞など、 多くの脚本賞を受賞している劇団零式の、 … “零式「返事」” の続きを読む

◎「閉塞感」のない肩すかし 人物設定が凝りすぎか
 小畑明日香

『半寝』で第24回新風舎出版文化賞出版化推薦作選出、
前作『ブリキ・ゴーレム』で2005年佐藤佐吉賞優秀脚本賞など、
多くの脚本賞を受賞している劇団零式の、最新作『返事』をついに見に行けた。
一昨年『半寝』のチラシを見てから気になっていた劇団だったので、
こまばアゴラ劇場での公演が決まってとても嬉しかった。
なっておくもんだ、劇場支援会員。

中央に高台が作られているので、舞台の前面は半地下のような形になっている。
舞台の両端には高台の周りを囲むように、
赤錆にまみれた鉄の柱が数本ずつ建てられている。
高台の下、下手奥には古びた溶鉱炉が置いてある。
開けると熱風を挙げて炎が燃え盛り、その火が赤々と鉄柱を照らす。
全編を通して殆ど照明の当たらない、この「ある南の島のリサイクル工場」は、
闇の中で誰かが溶鉱炉を開けるたびに赤く照らされて観客の目を射る。

火に照らされた舞台の中で、少女とラムネの瓶だけが青い。

加藤めぐみ演じる少女の幽霊は、
広島の原爆で焼け残ったラムネの瓶にとり憑いている。
彼女は原爆が落ちる前から既に幽霊で、
昔友達だったラムネ売りの青年にとり憑いていた。
青年は原爆で焼けて壁に貼り付いた影になり、
ラムネ瓶は少女の未練が染み付いて何度燃やされても溶けない。

・・・と、いう「原爆の際の一エピソード」とは
あまり関係なく本編が進んでいく。
ある日島に記憶喪失の男が流れ着き、
島の人達と一緒にリサイクル工場で働き始める。
島の住人たちは、「海の向こうでは戦争をしている」「平和なのはここだけだ」
と言いながら暮らしている。

記憶喪失の男に惚れて人の姿になった魚なんかも登場したりと
いちいち風変わりな人々が登場してくるが、
全体を通して見るとちょっと人物設定が凝りすぎている気がする。
人々の中で唯一海の向こうを知っている浦賀も
「助けて」と書いた手紙をビンに詰めて海の向こうに流し続ける
何時夫(いつお)も
「誰一人海の向こうを知らない」という状況を前提にしたキャラクターなのに、
具が多すぎてごくごく飲めないスープとでも言おうか、
キャラクターや意味深な台詞が目を惹きすぎて
状況設定が頭に入っていかないんである。

海の向こうを知る浦賀は、唯一少女の幽霊が見える人間でもあり、
少女にお願いされて工場長達を説得し、リサイクル工場をラムネ工場に変える。
浦賀はリサイクル工場で働いているわけでもなんでもないので
今ひとつ説得力を持たないまま説得のシーンは終わるのだが、仮に
「海の向こうを知っている人=特別=工場長も何となく逆らえない」という
力関係が生きていれば、
もっと印象深いシーンになったと思う。

何時夫は島では知恵遅れで口も利けない風を装いながら、
潮の流れの関係で絶対に向こう岸には届かない手紙を
ビンに詰めて流し続けている。
台詞の端々からもタイトルの『返事』に
最も深く関わっている人物だと思うのに、
芝居全体に閉塞感がないので彼の気持ちが妙に空々しく見える。

役者個人個人の持ち味は存分に出ている。
だけどなんだかプロモーションビデオみたいなんである。
加藤めぐみ(少女)の、佐野陽一(浦賀)の、酒井和哉(何時夫)の、
あるいは他の出演者の誰かの、一人のプロモーション。
加藤めぐみに至っては終演後すぐチラシを確認し
「2000年新井哲と二人で旗揚げ」というのを知って
「やっぱりね」と納得するぐらいに、作品の雰囲気を一人で作り上げていた。
『返事』って新井哲から加藤めぐみへのラブレターなのかもしれない。
ご本人達には全くお会いしたことないけど、
そう勘繰らせてしまう作品であった。

ギャグやダンスシーンで排したい「閉塞感」や「原爆の傷跡」が
それぞれの役者の中にしか無いから、
明るさが明るさ以上の意味を持って迫ってこない。
だから爽やかなのかもしれないし、共感得やすいのかもしれない。
ラムネのCM代わりに『返事』を放映したら相当効果あると思う。
でも作品としてはどうだかな。
脚本家の受賞歴を見て話に興味を覚えていた一個人としては、
いささか肩透かしを食らった感もあった。
(初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第4号、8月23日発行。購読は登録ページから)

【筆者紹介】
 慶應義塾大学2年生。中学時代からの脚本執筆や役者経験を経て現在に至る。
「中学校創作脚本集2」(晩成書房)「中学校のクラス劇」(青雲書房)など
に脚本収録。

【上演記録】
 零式第8回公演「返事~泣きながら書いてください 代筆は許しません 読
み返さずに出してください 海のムコウへ」
http://www.zero-siki.net/8.html
作・演出 新井 哲
こまばアゴラ劇場(7月22日-31日)

[出演]
 加藤 めぐみ(零式)
 岡田 あがさ(零式)

 中山 玲(スターダス・21)
 石井 壮太郎(ダムダム弾団)
 佐野 陽一
 武田 力(エメルパス)
 酒井 和哉
 大友 久志
 白川哲次

[スタッフ]
 舞台監督:秋尾 雄輝
 舞台美術:福田 暢秀(F.A.T STUDIO)
 音響:高橋 秀雄(SoundCube)
 照明:松本 永 (光円錐)
 小道具:橋口 安那
 WEB:小松尚寿、小原光二(25Labo.)
 宣伝美術:小峰 あいか
 制作協力:杉山 葉(制作集団Quarter Note)
 零式サポートメンバー:森 貴裕/小峯 遙

 企画制作:零式、アゴラ企画、こまばアゴラ劇場
 主催:アゴラ企画、こまばアゴラ劇場
 協賛:トンボ飲料


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