劇団印象「父産」(とうさん)

◎思い切ってぶっ飛んだ、演劇常識に挑戦するみごとな爆笑劇
西村博子(アリスフェスティバル・プロデューサー)

劇団印象「父産」公演チラシ芝居は水ものとはよく聞くことばだが、ほんとにその通りだなあと改めて思った。鈴木厚人作・演出の「父産」を初め見た日、随所で客席に笑いが起こり、終わると熱い拍手が長く続いた。私もいっしょうけんめい拍手。口笛うまく吹けなくてカーテンコールに呼び出せなかったのが残念なほどだった。が、ラクは、周りから時々クスッと忍び笑いが聞こえるぐらい。同じように好感持った大きな拍手で終わったが、思いなしか、笑いを含んだというより、メッセージ受け取りましたといった感じの、マジメ拍手だった。ラクの方がセリフ噛む人もほとんどなく、舞台は遥かに分かりやすくなっていたのに、である。ラクに向ってどんどん盛り上がっていく……はずなのに!? ほんの一呼吸ずつのテンポの遅れか? それとも客席にまでビンビン伝わってきた、あれはあまりに真面目な俳優たちの緊張感のせいだったろうか? その点だけ惜しかった。

舞台はひきこもりの父親(園芸家すみれ)が、息子(加藤慎吾)の結婚を、とくに自分を去って彼女(斎藤真帆)の家に行ってしまうのを嫌がるところから始まり、その父の目には息子がまざまざと、ご飯をいっしょに食べてくれる息子(岡本祐介)や肩を揉んでくれる息子(竹原じむ)やに分裂していく-というふうに進んでいくので、父親が、普通の芝居で言ういわゆる主人公かな?と思って見ていた。父と親思い?の息子たちのつながりが、パンツの上からそれぞれ首を出してきた長くて赤い臍の緒の、それがまるで神経細胞のシナプスみたいに互いにぴったりハマリ合うことで示されるのが秀逸、爆笑だった。

が、話はそこから、父を嫌がり、何とか事無く父のもとから離れて行きたいと願っていた加藤慎吾の息子のほうに移って行った。かいつまんで言えば、息子が、出来ちゃった結婚のはずだったのに! 彼女のお腹の中に受精卵が着床していないと知って、その胎内に潜り込み、さきの臍の緒のシナプスたちをぶじ彼女のそれにつなぎ終え、羊水の中に戻すまで、である。危うく父親のお腹に宿り産み落とされそうだった二人を、自分の実の双子として取り戻すまで、と言い換えてもよい。彼が彼女の胎内に入るなど、考えてみればかなりエロっぽいシーンのはずだが、医者の、妊娠には受精卵が母親とまだつながらない時期がある、人工授精が可能なのもそういう時期があるせいだなどという解説?が入ったりして、へええなるほどと勉強したせいか、そういう感じはまるでなかった。

したがって、ふつうの作劇術から言えば主人公が途中で父から息子へと替わったと咎めなければならないのかも、だが、主題というか作者の発想、あるいは関心から言うと、父を拒み、ということは同時に父であることにも抵抗を感じていた(にちがいない)息子が、自分が父になることをきっぱりと引き受けるまで。ちゃんと一貫していたから不思議である。こんな常識無視の書き方もあり得たのだ。

息子は彼女の子宮の中に案内してくれたもう一人の彼女(毎陽子)-全体的に必死、まじめに力む傾向のあったなかで、この彼女の演技は実にスットボケていて楽しかった-から『子宮の歩き方』をもらい(笑)、彼女の胎内音か心音?かにじっと耳澄ますところで舞台は終わった。

第8回公演「父産」から
【写真は、第8回公演「父産」から。提供=劇団印象 禁無断転載】

きれいな床板と、初めキッチンの窓と見えて、そういえば湾曲していて静脈動脈入り混じった粘膜と見えなくもない背景とあいまって、のち子宮の入り口へと変わる穴だけの、シンプルだが気の利いた装置。幕が、引かれるのかと思ったら、そのままシュルシュルッと通り過ぎていってしまって(笑)父の部屋が直ちにフィアンセ母娘の部屋になったり彼女の胎内に変わったりの、演劇常識に挑戦するみごとな舞台転換。たとえば同じ衣装の息子たちがアレアレと言ってる間に左右から出て来て見るものを混乱させたり、同じ部屋同じ箱-食卓にも椅子にも使う-なのに母親(山田英美)のホップ、ステップ?によって別の家とすぐ分かるなど、よく工夫された演出とともに、今度の「父産」はこれがアノ劇団印象かと目を疑うほどの出来栄えであった。

もしもと、私は思った。もしも次の舞台もその次の舞台も……と、こういったアホみたいな爆笑劇を続けていくなら、ということは、今!この社会に生きている自分を実はヒソカにマジメに感じながら、しかしそれを深刻ぶって台詞説明的な劇なんかにするのでなく、思い切ってぶっ飛んだ、突拍子もない想像の羽を広がるままに広げてしまったような劇が続いていくなら、という意味だが、劇団印象は間違いなく演劇史に長い鼻を、ではない深い足跡を、刻みつけるにちがいないと。

チラシに「都会派スラップスティックコメディ」とあったが、今回の劇団印象の、愉快で奇抜な特色をぴったり言い表していたという印象にはどうも今イチ欠けるようだ。次は巧いキャッチも考えて欲しいと思った。私も思いついたらぜひ応募したい。
(2007.06.09 &11)
(初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第47号、2007年6月20日発行。購読は登録ページから)

【筆者紹介】
西村博子(にしむら・ひろこ)
NPO ARC(同時代演劇の研究と創造を結ぶアクティビティ)理事長。小劇場タイニイアリス代表取締役兼アリスフェスティバル・プロデューサー。大阪南船場にアリス零番舘-ISTもオープン(2004.10)。日本近代演劇史研究会(日本演劇学会分科)代表。早稲田大学文学博士。著書は『実存への旅立ち-三好十郎のドラマトゥルギー』、『蚕娘の繊絲-日本近代劇のドラマトゥルギー』I, II など-とは、実は世を忍ぶ仮の姿。その実体は自称「美少年探検隊長」。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/na/nishimura-hiroko/

【上演記録】
劇団 印象-indian elephant- 第8回公演「父産(とうさん)」
新宿・タイニイアリス(2007年 6月8-11日)

【作・演出】鈴木厚人
【出演】
加藤慎吾
園芸家すみれ(ポップンマッシュルームチキン野郎)
岡本祐介(ペピン結構設計)
片方良子
山田英美
斎藤真帆
毎陽子
竹原じむ(フルタ丸)

【スタッフ】
作・演出:鈴木厚人
舞台美術:坂口祐
舞台監督:川田康二
照明:内山和美
選曲・音響:勝俣あや
宣伝美術:大野舞”denali”
写真撮影:平澤賢治
制作:寺村淳史 海野紗瑶 北野絢子
プロデューサー:まつながかよこ
主催:劇団印象-indian elephant-

【料金】前売2000円・当日2400円(全席自由席)

【関連情報】
・<鈴木厚人さん> 劇団印象第8回公演「父産」(とうさん)(2007年6月8日-11日、
リスインタビュー

・<まつながかよこさん> 劇団印象第7回公演「愛撃」(あいうち)(2006年11月
22日-26日、アリスインタビュー
・<鈴木厚人さん> 劇団印象第6回公演「友霊」(ゆうれい)(2006年7月21日
-23日、アリスインタビュー


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