観客参加型のC.T.T.活動が根付く

 C.T.T.(Contemporary Theater Training)という現代演劇の試演企画が10年あまり前から京都で実績を重ね、今年から名古屋でも地元演劇関係者の手で始まりました。いきなり本公演を開く前に、演劇 … “観客参加型のC.T.T.活動が根付く” の続きを読む

 C.T.T.(Contemporary Theater Training)という現代演劇の試演企画が10年あまり前から京都で実績を重ね、今年から名古屋でも地元演劇関係者の手で始まりました。いきなり本公演を開く前に、演劇愛好者の前で開く試演会+合評会という形態のようです。小劇場の各団体が集団で組織する観客参加型ワーク・イン・プログレスという点に特色があるかもしれません。名古屋のほか、広島にも活動の輪が広がっているようです。
 ハンドルネーム「しおこんぶ」名で演劇ブログ「観劇の日々」を運営している柿内幹さんに、名古屋で始まったこの新しい活動に関して寄稿していただきました。

◎観客参加型のC.T.T.活動が根付く 名古屋に小劇場版ワーク・イン・プログレス
 柿内 幹(演劇ブログ「観劇の日々」主宰)

 京都で1995年から始まったC.T.T.(Contemporary Theater Training)という試みが、名古屋で2回目を迎え、着実に根付いてきたようです。

 現代演劇の訓練と位置づけられたこの試みは、人・物・金が集まり難い状況にある地方の小演劇にとっては大きなメリットがあります。既に京都では60回以上の上演会が開催されていることからも判る通り、継続して上演して行けるシステムが出来上がっています。ここまでお膳立てができていれば、やらない理由を探す方が難しいのではないでしょうか。

 以下にC.T.T.の概要を、offiicialサイトから引用してみます。

C.T.T.とは”Contemporary Theater Training”の略で「現代演劇の訓練」の意味です。「とにかく場数を踏まないと俳優は上手くならない、でも自分で公演を企画するのは大変」「演技や演出が実験でき、それを検証する開かれた場が必要なのではないか」「本公演に先立ち、試演会を行える場があることはいろいろなメリットがあるのではないか」「演技、演出、戯曲のプレゼンテーションの場が必要なのではないか」これらを実現できる場を実現しようという発想されのがC.T.T.です。”work in progress”つまり「完成品のためにいろいろ試している過程」の発表の場と理解下さい。

 1995年に京都で発足したというこの試みは、京都・アトリエ劇研で継続的に続けられ、既に60回以上の上演会が行われていて、参加した役者さんや劇作家・演出家の中からは全国的な活躍をされる方も現れているようです。

 2007年1月に名古屋・京都間をつなぐ企画「C.T.T. Selection In Nagoya」が開催され、名古屋でもC.T.T.名古屋事務局が発足しました。名古屋では七ツ寺共同スタジオを中心に若手・ベテランの壁を越えて活動しています。「C.T.T. nagoya」サイトによると、次のような特徴が挙げられています。

 <C.T.T.上演会の特徴>
・制作資金集めや舞台の確保、設営などの負担がかからない
・お客さんやこの会を運営する事務局員と直接作品について語る場がもてる
・簡単に申し込みができ、すぐ上演できる
・ まじめに演劇の技術向上や作品性向上を望む人を、事務局が積極的にバックアップする姿勢がある
・ 他の団体や・演劇関係者と交流がもてる
・ キャリアなどに関係なく誰でも参加できる「開かれた」場である
・ 頻繁に開催される
・ 特定の作品性や手法をひいきするものではなく、もちろん政治活動や宗教の普及、商売のためにうものではない
・ 事務局員は実際に演劇活動を行っている者で構成される
・ 現在の技量よりも、「作品や演劇に対する志し」や、「こうしていきたいという意識」を評価する
・ この場で出合った、優れた作品、俳優、劇作家、演出家を事務局が支援できる
・ 名古屋と京都間での連携を生かし、関西への遠征もサポートする事が出来る。

 この試演会の主なシステムは次の通りです。

 上演側の参加費は出演者、演出家等主たる参加者一人当たり2,500円、上演時間は30分。客席は雛壇桟敷で、照明は地明かりのみ事務局が用意。それ以上が必要な場合は各団体負担。音響効果は各団体負担。上演3カ月前頃に申し込み受付を開始、2カ月前には参加団体(2~3団体)を決定、40日前には演目、参加者等チラシに載せる情報締め切り、1カ月前より公演告知を開始して上演という流れになります。

 名古屋事務局員は寂光根隅的父(C.T.T.名古屋事務局長/双身機関主宰/演出家)、柴田頼克(Team Shot Works代表)、松本信一(俳優)、にへいたかひろ(よこしまブロッコリー代表/劇作家/演出家/俳優)吉川和典(電光石火一発座代表/劇作家/演出家/俳優)。

 観客側は上演協力金として会場に400円、C.T.T.に400円、参加団体に各50円を入場時に一括して事務局に支払う。つまり、参加団体が2団体であった場合の入場料(参加費)は900円、3団体であった場合は950円となります。

 観客は上演協力金の内、参加団体に支払う分を投票権として保有(参加団体が2団体であれば2票、3団体であれば3票)して、上演後に投票する。一つの団体にまとめて投票しても、それぞれ投票しても、棄権してもよい(ただし棄権しても返金はされない)。公演終了後に投票数かける50円を各団体に支払います。

 上演側にとっては、音響、照明無しで、観客から50票を獲得できれば、一人分の劇団参加費はペイできるわけです。会場の都合もあるため、まず間違いなく開催日が平日になるということを除けば、障害となるものは見当たらないでしょう。

*

 C.T.T.名古屋vol.2では3団体の作品が上演された後、試演会最大の特徴である観客を交えての合評会が行われました。

 最初の上演となった双身機関の「ソラ ハヌル ランギット」は、国境を越える演劇シリーズの一つで、岸田理生カンパニーの最後の公演となったものとのこと。

 戯曲そのものの台詞やストーリーを追うのではなく、役者の身体を通じてコトバと身体の在り方や関係性を改めて見直していくものであるように見受けられました。とすれば、開場時から舞台上に配された役者がオブジェの様にみえたのは、これから語られることがすべてこの役者の身体を通して行われるのだという決意表明ともとれます。

 コトバそのものの意味ではなく、そのコトバが発せられる背景だったりコトバの裏に隠された感情を探っていくことで、コトバの持つ本来の意味さえ疑わしくなっていくのは刺激的でした。われわれ日本人は、戦時中コトバを奪った経験を持っています。コトバを奪われるとはどういうことか、その恐怖を孕みながらコトバの本質を追求していくこの戯曲を通して、母国語とは何か、文化とは何か、深く考えさせられる内容でした。

 2番目の上演となった団☆計画サブリミナルリミット「出張ステージIN C.T.T.」は、屋外やコンサートホール、商店街などで年間90ステージをこなすという杜川リンタロウの一人芝居。しかしながら、本来は足を止めて観てもらうための動きや喋りが、劇場では必要以上に饒舌に映ってしまうのが残念。上演後の合評会でもこの点については観客から厳しい指摘がされていました。

 内容についても童話や神話を一人芝居としてほぼそのままこなしていくものであったため、大人がそのまま観たのではやや物足りないものでした。合間にクイズを出すなど観客との関係を築こうとしていましたが、観客のノリによってかなり左右されてしまうものとなってしまいました。

 全体的に子供向けの内容を劇場で上演した印象でしたが、今時の子供向けアニメは大人でも感動できる仕掛けが用意されています。劇場で上演するのであればもう一工夫が必要であるように思いました。

 3番目の上演となったアーノルド.S.ネッガーエクスプロージョンシステム「耳をすませば幻聴」は、人間の聴覚に焦点を当てた作品で、コメディー&ホラーといった内容。幻聴が聞こえる青年と欲望に忠実な警察官、父親に性的虐待を受ける女性といった人物達が登場するが、まだまだ作品として完全にはまとまっておらず正に実験的なものだったと思います。

 それでも、人間は可聴領域外の音(聞こえない音)にも影響を受けているのではないかという興味と、それによってどの様な影響があるのかという無知への恐怖がうまく配分されており、本公演への期待が膨らみました。

 C.T.T.名古屋vol.2の参加団体は、いずれも試演会の後に本公演を予定している中での上演ということもあり、非常に熱の入った試演会となりました。

 中でも双身機関は、第一回岸田理生アバンギャルドフェスティバルの参加作品として7月に東京のこまばアゴラ劇場での上演を予定していますが、名古屋での上演予定がないためこの試演会が名古屋で観劇できる最後の機会となりました。名古屋の試演会でブラッシュアップされた作品が東京でどの様に評価されるのかは楽しみなところです。

 また、アーノルド.S.ネッガーエクスプロージョンシステムは昨年活動休止を宣言しており、今回の試演会が実質的な復活公演でした。試演会への参加を活動再開への足がかりとすることで、本公演への宣伝効果としてももちろんですが、観客の動員見込みを量ることもできそうです。今後は観客の反応を確かめてから上演規模を決めていくということも可能となるかもしれません。また、不足する技能や知識、スタッフを募集するという出会いの場としての機能も期待できそうです。

 この試演会は、本公演を上演するにあたり課題となるスタッフ、場所、費用が整備されることによって手軽に上演することができる反面、照明や小道具等が制限されることで誤摩化しが効きません。戯曲や役者の身体表現が試される格好の場になるでしょう。

 観客にとっても、上演後に行われる合評会で意見を言える場があることで、より作品と関わっていくことができること、複数の団体の公演を格安で試し観ることができることは大きな魅力です。

 特にこの試演会の最大の特徴である合評会は、他の観客からの意見を聞くことができるため、新しい視点(楽しみ方)を発見することができる可能性が高い。これは、観客にとってより演劇を楽しむための試みともなるため、積極的な参加が望まれるところです。

 しかしながら、現段階では、観客の側からは活発な意見が出難いのも事実。何について観客に問いたいかを明確にするなど、もう一歩工夫が必要であるように思います。

 いずれにせよ、C.T.T.という試みによって、地方の小演劇がどのような変化をみせるのか楽しみでなりません。

【筆者紹介】
 柿内幹(かきうち・もとき)
 1974年生まれ。愛知県在住の会社員。名古屋を中心に観劇。ハンドルネーム「しおこんぶ」で個人ブログ「観劇の日々」(URL:http://shiokonbu.no-blog.jp/kangekinohibi)を運営中。

【上演記録】
C.T.T.nagoya vol.2
七ツ寺共同スタジオ(2007年6月18日-19日)

双身機関「ソラ ハヌル ランギットのための0-2章」
作 岸田理生
出演 小林なつみ・松本信一・石原愛子・砂原かづき・酒井菜月・碓井秀爾・北崎覚子
団☆計画サブリミナルリミット「出張ステージIN C.T.T.」
出演 杜川リンタロウ
アーノルド.S.ネッガーエクスプロージョンシステム「耳をすませば幻聴」
作・演出 シルベスタ・カヒローン
出演 井上貴仁・井上佳則・加藤真・田崎建・堂園未来

【関連サイト】
・C.T.T. official blog http://cttkyoto.jugem.jp/
・アトリエ劇研(京都)http://www.gekken.net/
・C.T.T. Hiroshima http://ctthiroshima.jugem.jp/

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