岡田利規 × 中野成樹「チェルフィッチュ、世界的超感染力のゆくえ」

◎自分が使ってる言葉と、生活している動きを肯定的に提示したい
高野しのぶ(「しのぶの演劇レビュー」主宰)

アートカフェvol.7チラシ2007年5月に代表作『三月の5日間』の海外ツアーを行った、チェルフィッチュの岡田利規さんを迎えた「ポスト海外ツアートーク」に伺いました。聞き手は中野成樹さん(中野成樹+フランケンズ)。仲良しのお2人の歯に衣着せぬトークに笑いながら、岡田さんがパリとブリュッセルの舞台芸術業界に触れて、「いま思うところ」を聞かせていただきました。
岡田さんと中野さんが話された言葉を、なるべくそのままにご紹介することを心がけたレポートです。

1■ブリュッセル(ベルギー)

岡田:チェルフィッチュの会場はカイシアターステュディオ(Kaaitheaterstudio’s)というところ。煉瓦がいいなと思ったから、使わせてもらったんだけど。座席は150席で、『三月の5日間』の再演をやった六本木のスーパーデラックスと同じような空間の大きさ。

岡田:ブリュッセルのクンステン・フェスティバル(Kunsten FESTIVAL des Arts)は素晴らしいフェスティバルで、10数箇所で同時に3~4つのパフォーマンスが行われるんだけど、アーティスト同士が交流ができるプログラムになっている。フェスティバル開催中、僕は本番1週間前に行かせてもらったので10本ぐらいはみたかな。そうやって交流できるようにしてくれている。

岡田:「フェスティバル・センター」っていうバーのスペースがあって、(イスが)掘りごたつみたいになってるから俺らは「養老の滝」って呼んでたんだけど(笑)、そこにみんなが集まるのね、終演後とか。いつも誰かが飲んだり食べたりしてる。例えば僕は「かもめ」をやった人と仲良くなった。他のフェスティバル・ディレクターも来てて、話ができる。これはブリュッセルという町が小さいからできるんだと思う。みんな夜の2時とか3時とかまでいて、歩いて帰る、みたいな。東京では難しいよね。

中野:村上(中野さんの劇団に所属している俳優・村上聡一さん。今回のツアー出演者)に聞いたら、「ブリュッセルではドカドカ受けてた」って言ってたけど。
岡田:お客さんのリアクションはわかった。楽しんでくれてる感じでよかった。

2■パリ(フランス)

岡田:チェルフィッチュの公演はパリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon a Paris)の事業の一環として上演されたから、「日本文化」をいう枠組みの中でとらえられていたように思う。ブリュッセルと比べるとパリのお客さんの方がおとなしかった。

岡田:ブリュッセルが小さい町だったからだろうけど、後から行ったパリは大きくて、東京みたいだった。
中野:ニューヨークにも行くんだって?
岡田:ニューヨークは再来年。この前行ったけど、東京と変わらない。

3■舞台芸術は教養のある人が楽しむもの?

岡田:自分と異なるものに対して寛容な態度をとれるかどうかには教養が必要で、教養がある人は、例えば(日本人の)僕の作品も受け入れられる。ヨーロッパには演劇層というのが確実にあって、それが教養がある人が楽しむジャンルとして確立してた。

岡田:ブリュッセルは観客がおしゃれだった。それはファッションの面ではなくて、観客が明らかに教養のある人たちなんだよ。文化的で、教育を受けている、いわゆるeducatedな人たち。すごい尖がった作品を若い人や老夫婦も観に来てて、客層はさまざまだった。でも「いない人種がいる」って思った。有色人種がいると、それは決まって呼ばれたアーティストやアート業界の人だった。例えば貧しい労働者の人たちとかは、絶対に劇場にはいないの。ベルギーでは舞台は教養のある人のものだった。

マンスリー・アートカフェvol.7

マンスリー・アートカフェvol.7
【写真は岡田利規さん(左)と中野成樹さん。 提供=横浜・急な坂スタジオ 禁無断転載】

岡田:ヨーロッパは人種の問題って、貧富の問題と明らかにリンクした形で顕在化していて、社会が多様性をどう受け入れていくかが、差し迫った問題で、世界中からアーティストを呼ぶフェスティバルも、そうした中から開かれる必然性みたいのがある感じがした。で、チェルフィッチュもその中に取り込まれていったということなのかな、と思う。

岡田:日本の演劇界については・・・慣れ親しんでいるから説明するのは難しいんだけど。日本の演劇界はいろんなことから近くて、ブリュッセルよりも良いかも。お金についてはそりゃあ日本は恵まれてるわけじゃないけど、どこを軸にするのかだよね? 日本のお金がまわるかまわないかは重要ではなく、日本はものすごい重要。どっちがいい悪いじゃなくて、ニューヨークはお金がまわってない感じがして、それは日本と似てた。

この後、「どんな観客に自分の作品をみてもらいたいか?」という議論になりましたが、お2人とも「大前提として、多くのいろんな客にみてもらいたい」という気持ちを確認するに至りました。

中野:教養のある人に“も”、みてもらいたい。そう思ってるだけだな。誰でもいいね。

4■ヨーロッパには演劇のマーケットがある

岡田:ヨーロッパでは演劇も商品なのね。日本では絵画展で入場料を払うけど、それは絵画自体のマーケットじゃないでしょう。ヨーロッパでの演劇は絵画がオークションにかけられるような感じで、シビアに面白い。
中野:じゃあ、チェルフィッチュをみたディレクターの反応って「この芝居、買っとけよ」みたいな感じ?(笑)
岡田:うん、ものっすごく乱暴に言うと、そんな感じ。

中野:ヨーロッパに行く意味は?
岡田:お金がまわる可能性がある。マーケットとして成立していて、リハーサルへの報酬なんてヨーロッパでは当たり前だし、そこは100%日本よりも良いところ。例えばツアーを組む、フェスティバルに参加するなどしてヨーロッパの金を手に入れれば、活動を持続できる。そういうのは夢としてある。つまり、お金を生む対象として西ヨーロッパに行くメリットは明らかにあるってこと。ただ、活動を続けていくためのお金はもちろん欲しいけど、お金の事情もあってヨーロッパに居続けるかもって考えると、すごく怖い。今のところ、日本で
作ることができる身体性を持っているアドバンテージはものすごく大きい。だから簡単にはそれは手放せない。

中野:ヨーロッパで初演をする可能性は?
岡田:生き延びなきゃいけないから、そういう話が来れば、それはあるかもしれない。ただ、向こうで作ると別のものになる可能性がある。
中野:海外との共同制作は?
岡田:僕が決めることじゃないっていうか、それもまたチャレンジングなことだよね。やってみたい、とは思います。

岡田:これは自慢なんですけど~、日本からこのフェスティバルに呼ばれたのは11年ぶりで、それまでに呼ばれたのは勅使河原三郎さんとダムタイプなんです。でも梅田宏明さんという日本人のダンサーさんに会って、彼は日本人だけどヨーロッパに住んでる。活動をまわしていくならヨーロッパだからっていう理由。今は日本でイタリアの企画に参加してるのかな。

5■チェルフィッチュの独自性

中野:チェルフィッチュに似てる作品はあった?「他にない」と言われたのかどうか気になったんだけど。
岡田:役を移行させるのが1つあった。それはブラジル人演出家(エンリケ・ディアズ)の「かもめ」で、素晴らしかった。いろんな役を何人もチェンジしていて。でも前にやった「ハムレット」の方がもっとすごかったんだって。

岡田:フェスティバルに来てたディレクターの何人かに会って話すと、「みたことない」と言ってる人が多かった。でも僕は世界を知ってるわけじゃないから、他にないかどうかなんて本当のところはわからない。

岡田:日本では「リアリズムの演技=新劇」という定義が昔からあったけれど、それは実際は違います。舞台で普段のようにしゃべる演劇はヨーロッパではもっと当たり前にあるので、演技の自然さの部分では、チェルフィッチュは突出しているわけでは全くないと思いました。

6■字幕について・言葉より俳優

ベルギーの公用語はフランス語とフラマン語。2つの言語の字幕を舞台の上手と下手、そして舞台奥の壁の3面に表示されたそうです。

岡田:字幕は出来が良かったみたいです。訳してもらったものをフランス語がわかる人に見せても好評で、出るタイミングも大丈夫。「こういう風な日本語なのだろう」とわかってもらえればいいので。俳優と字幕の綱引きに(俳優が)負けないで、観客に字幕をあきらめてもらうぐらいの気持ちで。字幕は重要だけど、その程度のものでしかないんです。でも伝わったと思います。

岡田:字幕があるから観客は上(字幕)を見て、下(舞台)を見て、疲れちゃって、そして途中であきらめる。それでよかったと思う。本当の核の部分では、(字幕は)問題にはならなかったと言える。言葉よりも、俳優の身体の方が大切。

岡田:英語の人は平気で英語で話しかけるけど、日本人はいきなり日本語で話しかけないでしょう。だから日本語が通じない観客の前で演技すると、テンションが入ってバランスがくずれるかも?と思った。「どーせわかんないんだよね、日本語?」って気持ちになって。言葉は身体と密接にリンクしてるから、身振りがないがしろになると困る。

岡田:2日目は(そういう症状が出て)出来が悪かった。言葉のレベルで客席のリアクションが変わった。具体的な結果としてカーテンコールが4回から3回になったでしょ(→ゲストの俳優に話しかける。俳優さんがうなずく)。だから「伝わっちゃってる」と思った。それで海外でやる時の解決の方法がわかったのね。よく行く(たどりつく)ありがちな結論だけど、「言葉は伝わらないけけど、パフォーマンスの出来は伝わる」ってこと。いつもと同じことをやればいいんだとわかって、ホっとした。日本語を大事にしようと思った。

出演していた俳優さんが2人(瀧川英次さん、山崎ルキノさん)ゲストとして参加されていました。

瀧川:楽しかったです。観客が外人だなっていうだけで。日本と同じ。外国だからといって変わらない。
山崎:特に日本と変わらずに出来たと思う。日本語がわからない人たちがみるのが面白いと思った。

7■言葉に過度な期待をしていない

観客からの質問がありました。

1.「海外の観客は日本語がわからないから、パフォーマンスから言葉が欠落したとも言えると思います。そして今、言葉より俳優だということをおっしゃっていますね。岡田さんは小説も書かれていますが、言葉の役割は小さいんですか? また、海外では小説の執筆はされたのでしょうか?」

岡田:演技の言葉の意味やテクスチャーは大切です。俳優のパフォーマンスの大切な要素です。手触りというか。でも僕は結局、演劇は俳優だと思っています。その俳優のパフォーマンスに言葉が必要だ、という考えです。

岡田:日本語っていうときに、単語とか文法のレベルの、アプリケーションとしての日本語、みたいなのと、日本語によって思考する、というレベルの、OSとしての日本語、というのとがある気がするんです。で、これはヨーロッパ滞在中に小説の仕事が捗らなかった言い訳なんですけど、その時の状態って、アプリケーションは日本語を使っているあいだもOSは英語、みたいな感じになっちゃってて。これはたぶん僕が英語がへたくそだからだと思うんですけどね。日本語OSが起動しなくって(笑)、それで小説は進みませんでした。

岡田:翻訳って何なんだろう? よく翻訳された本を読むんだけど、俺が読んでるコレは一体何なんだ?って思いますね。だから、僕は言葉に過度な期待をしていない、です。

2.「関西でも創作をされていましたが、関西弁でも大丈夫なのですか?」

岡田:記される言葉に依拠しないから、別の言葉でも方法としてできます。ベケットをやった時にも思ったので、関西弁へのアレンジはささいなこと。

8■何も新しいものはない。僕は自分なりに答えを出しているだけ。

岡田:僕の身体表現が「日本っぽい」「東京っぽい」というのはあると思う。仮にそれを“言葉と身体の関係性”と呼ぶとして、ある程度切り離してみたりすると、方法論としてみることもできる。そういう意味では他にないかもしれない。でも、「身体は大切だ」とか「セットなんていらない」ということはいろんな人が既に言っていることで、僕は別に新しいことはやっていないです。演技についてもスタニスラフスキー(の考え)とそんなに変わらないと思うし、そのレベルではチェルフィッチュに何も新しいものはない。ただ、僕は自分なりに答えを出しているだけ。

中野:じゃあ、チェルフィッチュが別に新しいわけじゃないとすると、なぜ他にはないんだろう?
岡田:その宣言を本当に実現してないだけなんじゃないかな? どんなことでも「最高に面白いストーリー」とか、言うのは簡単。日本にもそんな劇団あるよね、きっと。
中野:あぁ、うたい文句をつくるのね。
岡田:でも、本当に面白いストーリーを追求しているところって、ないんじゃないかな、なんとなく。

岡田:テキストと身体を切り離すのは、言葉ではよく言われるけれど、実際やってみるのは大変。例えばテキストはものすごい誘惑をしてくる。媚態を振りまいてくるというか、とても大きな力を持っている。テキスト振り切るのは難しい。でも僕はそれはできると思ってて(やっている)。

岡田:「やると言う」ことと、「書く」ことと、「本当にやらせる」ことと、「実際にやる」のは全然違う。実際にやるのはものすごく大変。
中野:そうだよね。すっごく大変だよね。
岡田:でも僕は「やる」といって、やらせてるだけだけどね。厳しいとは思う。それをできる人(俳優)を選んでるから。

中野:公演って、何回やるのがいい? 15公演とか?
岡田:やりすぎるとダレるというのはクリアしたと思う。「目的地」の時に。
中野:毎回新鮮な感じでやるコツは?
岡田:コツ? ないない。
中野:俺、3回で飽きちゃうんだよな。
岡田:言葉からどう離れるか。だよね。

9■日本に居なきゃ、つくれない。

岡田:日本人はたぶん、「日本は特殊なんだ(だから理解されにくい)」と思っている気がする。でも、世界中の全部が特殊なんだから、日本人が特殊なわけじゃない。実際のところ、別に特殊じゃなかった。卑屈というのは、裏を返せば傲慢だと思う。そんな風に思う必要ない。

岡田:「世界に通用する」という言葉があるけど、日本仕様を世界仕様に変えるようなことは、したくないと思った。そうなることについて僕は、「あ~ぁ(がっかり)」とか「(呆れて)ハイハイ」とか、言ってみたら「もうろくしちゃったかな」という印象を持っていて、そういうのは不幸だと思う。

岡田:僕は日本人で、日本で生活していることからあの身体性が生まれたんだと思っているから、向こうに居すぎるとあの動きができるなくなるんじゃないか、という恐怖がある。(ツアーに行ったことで)そう感じたのが、良かった。今の強さの源は日本だとわかった気がした。今、自分が作ってるものを海外でレジデンスでやると作れない。
中野:なるほど、日本じゃないと、作れないってことね。

岡田:「日本の今の若者は云々~」ってよく言われるでしょ? 僕は自分が使ってる言葉と、生活している動きを肯定的に提示したい。優れてるとか美しいとかは関係ない。たまたま日本人に生まれて、面白いと思っているから、それを演劇に使う。日本を大事にしたい。

中野:こうなっちゃったら“岡田利規はヤバイぜ”ってこと、ある?
岡田:例えばヨーロッパに移住したとして、そこで今みたいな作品を作って「俺の中の日本が~」とか言い出したら、「焼きがまわったな」と思ってもらっていい(笑)。どうなっちゃってもありだとも思うけど。

10■高野がインタビューしました「一番嬉しかったことは?」

高野:岡田さんが、このツアーで一番嬉しかったことは何ですか?
岡田:俳優がチェルフィッチュの仕事で生活に必要なだけのお金を、もしかしたら得ていけるようになるのかもしれないと思えたこと。楽観的すぎるかもしれないけれど、ヨーロッパにその突破口があるような、その光明が見えた気がして、それが僕にとっては一番大きな収穫でした。
(2007年6月29日、横浜・急な坂スタジオ)
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第50号 2007年7月11日発行。一部削除、修正して掲載。購読は登録ページから)
岡田利規著作一覧(amazon.co.jp)

【著者紹介】
高野しのぶ (たかの・しのぶ)
大阪府生まれ。東京都在住。青山学院大学文学部・英米文学科卒業。現代演劇ウォッチャー。「しのぶの演劇レビュー」主宰。
・Wonderland掲載劇評一覧 http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/takano-shinobu/

【開催情報】
チェルフィッチュ、世界的超感染力のゆくえ-ブリュッセル・パリ公演徹底レポート』(マンスリー・アートカフェvol.7)
横浜・急な坂スタジオ(2007年6月29日)
■ゲストスピーカー■
岡田利規(チェルフィッチュ
中野成樹(中野成樹+フランケンズ

▼入場料:1000円(1ドリンク付)
▼主催:急な坂スタジオ (NPOアートプラットフォーム)
▼協力:プリコグ
▼助成:アサヒビール芸術文化振興財団

【関連情報】
Kunsten FESTIVAL des Arts(ブリュッセル公演)
Toshiki Okada / Chelfitsch Five Days in March
http://www.kaaitheater.be/document_cache/238_en_07_05_16_-_Toshiki_Okada_-_Five_Days_in_March.pdf;jsessionid=CCCDB4FE2433340BDA1E77F33F5B9BA1
(pdf, 528KB)

・Conversation with Toshiki Okada
http://www.kfda.be/en/node/198

・Au KunstenFestivalDesArts, Toshiki Okada danse avec les maux.
http://www.festivalier.net/article-10545572.html

・chelfitsch ≪ Cinq jours en mars ≫ (パリ公演)
http://www.mcjp.asso.fr/pavril2007/spect/chelfistch/index.html

・東京外国語大学平成19年度 第4回特別講演会『21世紀の言葉と身体と表現
日時:2007年7月13日(金) 18:30-20:00
場所:府中キャンパス 研究講義棟 101教室マルチメディアホール
鼎談者:岡田 利規(チェルフィッチュ)宮沢 章夫(劇作家、演出家、作家)
内野 儀(東京大学大学院教授)

・インタビューランド第1回 岡田利規(チェルフィッチュ)「自分にフィットした方法で いま を記録したい」聞き手・柳澤望。(Wonderland、2005.4.5)


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