Chim↑Pom「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」

◎「熱の伝播」から「出会う奇蹟」へ アーチスト集団が仕掛ける「破壊」
伊藤亜紗(ダンス批評)

「ellieZABETH」2007 bag
「ellieZABETH」2007 bag 36x25x15cm photo : 森田兼次(Kenji Morita) &copy 2007 Chim↑Pom courtesy Mujn-to Production, Tokyo

ヴィトンのバックをひっさげ、すらりとのびた長い脚で仁王立ちする金髪ギャル・エリイ。顎をツンとかたむけてポーズを決めているようでも、細い体とはにかんだ笑顔のせいでどこかあどけなさを残すアムロ・プリクラ世代の彼女だが、Chim↑Pomは、そんなエリイを紅一点のミューズ的存在とする男5人女1人の計6人から成るアーティスト集団である。「アーティスト集団」という活動形態が美術の分野ではそもそもめずらしいといえるが、その数が「6」もいるというこの半端な多さこそ、Chim↑Pomの作品を面白くする仕掛けであるようにみえる。

そんな彼らがいま取り組んでいるのが、「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」なる一連の活動だ。2007年はちょうどダイアナ妃没後10年の年にあたる。そこで彼らは、「中学生のころ、TVでセレブが地雷撤去しているのを見てあこがれた」というエリイの夢をかなえるべく、「アコム発HIS経由」で本当に一路カンボジアへと旅立ったのである。現地では、地雷撤去活動を個人で行う元兵士「アキラ」が設立した地雷博物館に一ヶ月間滞在。そのあいだに作品を数点制作し、その成果はギャラリーでの展示(@無人島プロダクション11/8-12/8)やメイキングシーンを収録したDVDといった形ですでに公開されている。ただし、アーティストとして作品を発表することはこのプロジェクトの目論見の一部でしかない。その意味で先日行われたチャリティーオークション(12/15@P-House)は重要であり、というのもアートもその一部である資本主義のシステムに自らをプラグインしつつ、収益の寄付という形でこのシステムとカンボジアの現実をバイパスさせることこそ、彼らのほんとうの目的だったからである。

「カンボジアで制作された作品」といっても、実際の制作は破壊による。すなわち茂みの陰に掘られた小さな穴に、エリイの私物であるヴィトンのバックやベルト、財布、プリクラ帳、iPodを埋め、石膏でできた等身大エリイともども、集めた地雷によって爆破させることによって「製作」したのである。東京・六本木のオークションの会場では、この爆破シーンが大きく写し出されるなか、高級ブティックよろしくショーケースに入れられた作品たちが顧客達のまえに陳列された。木っ端みじんのヴィトン・バック「ellie ZABETH」と「MIZUNO TAKASHI」(もちろんTAKASHI=村上隆)や、メダルのようにケースに収められたドロドロのLVマーク「OKABELT」、片足がとれ義足をはめられた「Venus」、空き缶のようにつぶれた「iNAPod」……。それらはまぎれもなく、今まさに競売にかけられようとしている、そして今後コレクターたちの投機の対象となるであろう「商品」のたたずまいであった。一品ずつが落札されるたびに、「セレブ」の位置がスライドする。セレブ=エリザベス?エリイ?落札者?(ちなみにellie ZABERHの落札額は44万円=32義足)

「アイムボカン」プロジェクト

「アイムボカン」プロジェクト
【写真は「アイムボカン」プロジェクトから「SPEECH」(上)「ばくはつ」(下)。ともに2007 DVD &copy 2007 Chim↑Pom courtesy : Mujin-to Production, Tokyo】

爆破といっても、そこで最大になっているパラメータは「偶然」ではなく「奇蹟」である。あえて美術ではなくパフォーマンスの範疇で彼らをとりあげたい理由もここにある。制作に先立つプラン(アイディア)こそが重要であり、制作はそのプランを実行する過程にすぎない、という点で彼らはコンセプチュアルアートの系譜に連なるが、プランに突き動かされた彼ら(まさにプランこそChim↑Pom作品の制作者ある)がさまざまな困難にぶちあたりそれを奇蹟的に解決していく「強運」としか言いようのない求心力とバイタリティは、プラン実行=作品制作の過程を数ヶ月にわたるパフォーマンスと呼びたくなるような、人間が行動することの面白さにあふれている。「偶然」がたんなる結果の予測不可能性だとすれば、それを「奇蹟」に格上げするのは予期せぬ結果の素晴らしさ、そしてそれに伴う興奮だ。彼らの興奮の源泉は多くの場合、何らかの他者と奇蹟的に出会うことにある。たとえば前作「オーマイゴッド」シリーズでは、樹海探索中にたまたま発見した引きこもりだったらしき自殺者の「遺書」や「首つりに使った木」を、ふつうなら「さすがにこのまま作品に使う訳にはいかないよね…」などと遠慮するところ、まさにこの発見じたいをひとつの授けられた奇蹟的出会いとして作品化すべく、ギャラリーのなかにそのまま置き入れていた。

あるいは今回のメイキングDVDはまさにそうした「出会う奇蹟」のレポートのようにさえみえる。カメラにむかって語るエリイの口元に途中から先がない腕を「マイク」と差し出す青年の笑顔が印象的なのはもちろんのこと、気づけば国家機関までをも巻き込んでいるらしいカンボジア軍らしき兵士の姿、最大の協力者である「アキラ」の存在など、メンバーが現地のひとびととのあいだに築いた関係によってプロジェクトがじかに燃料を供給されていく。そのさまは、このDVDを形式・内容ともにすばらしいドキュメンタリーにしている(このDVDはドキュメンタリー番組のフォーマットを借りている)。

ところで、冒頭にも書いたように「6人」という数字は面白い。「6」という数は、多かれ少なかれメンバー同士の「温度差」を抱えた集団になるからだ。2-3人ならプランの考案者と実行者は基本的に一致しているだろうが、「6」となると、考案者が他のメンバーをその気にして説得し、自らのプランを実行してもらう「熱の伝播」という契機が生じる。オークションに先だって行われたトークショーでも、リーダー卯城はそのことについて語っていた。「だれかが本気になってもうひとりに伝染すると、ほかの人がもう嫌とはいえない雰囲気になる」。情熱にしろわがままにしろ、ひとりの狂気じみた思いつきの持つ力がメンバーを動かし、ひいてはメンバーを超えてさまざまな出会いの奇蹟を引き起こす。こうした「熱の伝播」は、ふつうなら公にはならないいわば「オフレコ」や「楽屋裏」の次元だが、この作品制作=パフォーマンスは、数ヶ月もつづくこととあいまって、熱の動いていく過程を見る思いがする。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第73号、2007年12月19日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
伊藤亜紗(いとう・あさ)
1979年東京生まれ。東京大学大学院にて美学芸術学を専攻。現在博士課程。ダンス・演劇・小説の雑食サイト「ブロググビグビ」も。08年1月に超自由な批評誌「Review House」を創刊。

【上演記録】
Chim↑Pom「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン

■展覧会
2007年11月8日(木)-12月8日(土)
opening reception : 11月8日(木)6-8pm
会場:無人島プロダクション(東京都杉並区高円寺南3丁目)

■「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」チャリティーオークション
日時:2007年12月15日(土)
会場: P-House

入場料 無料


「Chim↑Pom「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」」への5件のフィードバック

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  2. ピンバック: 高木 大輝
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  5. ピンバック: こうめちゃん

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