カプセル兵団 「臥龍頂上伝」「幽幻夢想」(同時期上演)

 映像に似せるのは逆効果 面白いんだからちゃんと売れ    縁あって見に行ったら面白かった、ということにとてもイラついている。面白いものを作っているのに、どうしてちゃんと売らないのか、と思う。  中国活劇三部作で、一部・ … “カプセル兵団 「臥龍頂上伝」「幽幻夢想」(同時期上演)” の続きを読む

 映像に似せるのは逆効果 面白いんだからちゃんと売れ
 
 縁あって見に行ったら面白かった、ということにとてもイラついている。面白いものを作っているのに、どうしてちゃんと売らないのか、と思う。
 中国活劇三部作で、一部・二部を同時上演した後に日を空けて完結編を上演するのだそうだ。全編カンフーもりもりの「ワイヤレスワイヤーアクション」がウリなんだそうだ。アクションスターなんかも起用したそうだ。でもね、ぜんぜん説得力無いんだよ、公演チラシがCGばりばりだったら。二つ折りチラシの中の宣伝文句なんて読まないんだよ、表に役者の写真と物語の筋しかなかったら。だいたいいくら同じ小屋だからって乞局の当日パンフに折り込むなよ、血と暴力と田舎の因習が舞台なんですよ乞局は、それを見に来る人に「これが面白い演劇だ!」ってぶちぬいたカンフーチラシ渡すなよ、小屋主も考えろちょっとは。
 自分たちが作ってるものの何が面白いのかわかってないんだべ?


 シリーズ二作目の「幽幻夢想」を最初に見た。秦の始皇帝によって漢民族の中国統一が行われてから十年後、とある村で、統一に伴って滅ぼされた人達の末裔がそれぞれに決起する物語である。翌日見たシリーズ第一作「臥龍頂上伝」はその前の戦国時代に遡り、主人公のロンが頂上覇王拳とゆう、ケツの毛が抜けそうに少年ジャンプな名前の拳法を修得して旅に出るまでの話。

 物語の構成もアクションも、「幽幻夢想」の方が面白いと思った。つーかワイヤレスワイヤーアクションって要するに、役者を黒子が持ち上げて飛び上がらせるってだけなんですよ、いやすごいのはわかるんですよ、タイミングとかさ、でもワイヤーアクションもへったくれもなく2時間休憩なしで殺陣やりまくりの「幽幻夢想」の圧倒的なスピードを見ちゃうと、人に持ち上げてもらってぴょんぴょん飛んだり蹴りを入れさせてもらったりする「臥龍頂上伝」は詐欺っぽくすら見えてしまう。
 他人の手を一切借りない殺陣には有無を言わさない迫力があった。「幽幻夢想」は流れっぱなしの音楽が突然途切れても多分かっこよかった。爆音の音楽の向こうに無言の役者がいて殺陣をやっているのがわかる。

目の前に俳優がいるということが演劇の最大の特長、であるなら「幽幻夢想」はやっぱり演劇だ。

 「臥龍頂上伝」も黒子が踊ってくれたらよかったのに、俳優持ち上げるついでに。黒子が堂々と舞台上に出てくるのはぜんぜんかまわないけど、「臥龍頂上伝」の演出のように登場して仕事して退場するだけでは単に観客に「見ないふり」を強要することになってしまう。それなら人間より、細くて見えにくいワイヤーのほうがいいべ。 
 黒子が殺陣の後ろで踊っても赦される劇だったと思う。カンフー映画になんとか近づこうとして必死、に見えるチラシの印象を大きく裏切って、「幽幻夢想」「臥龍頂上伝」双方とも、スーパーサイヤ人に変身するわ仮面ライダーに変身するわ、決闘の場面の半分ぐらいはギャグ。一切の衣装替えがなく、
「胸の筋肉がむきむきっ、むきっ!服がべりべりっ!」と役者が喋っては「南斗水鳥拳!」と必殺技を放ち、また技が上手く決まらなかったりして敵役がそれにつっこむ、が繰り返される。
ま、あれです、いい大人が鍛えた体を持ち寄って戦隊ヒーローごっこをやっていると思えばいい。間延びしそうなものだがギャグで進めていい場面の入れ方がとても上手いので、ヒーローごっこと真剣な決闘との落差にひきこまれる。

 ヒーローごっこの場面があるのも、裸舞台に役者が出てきて「竹林の中を歩いている俺」と言えるのも、本当の中国活劇にはない「照れ」だと思う。舞台上で演じることそのものに対して、照れがある所がすごくよかった。乞局見に行く人間にも共感できる芝居だった。だからそこを宣伝しろよ! 必殺技の名前をチラシの表にびっしり書けよ! 
作ってるものはとうに映像を越えてるのに作り手の頭がまだ映像至上主義からぬけだしていない。だいたい「まるで映像を見ているかのような臨場感を味わえる」と言われて3500円も払うだろうか。無料動画を始め映像は今、家で、無料で、見るものである。映像からはみだす部分こそが得がたい魅力になる。

 アクション系エンターテイメントを舞台でやりたがる人達の欠点は、考えるのを極端に嫌うことだ。誰にでもただ面白がってもらえる劇を、と言いながらチケットノルマしょいこんで身内にしか売らない、なまじ体が丈夫だからやたらバイトする、「将来どうするの?」と言うと「今が楽しければいいじゃんそんなの!」と満面の笑顔で牙をむく。別にあたしが考えすぎで太りすぎでワキガでひきこもりで若干歯周病の文科系だから言うんじゃないが、本当に面白いと思ってもらいたいならもう少し芝居を商品として見てほしい。わかりやすくて楽しんでもらえる芝居、と言う割に、思い入れが先行しがちなのも体育会系の弊害である。
 見応えのある内容だったことが、部外者ながらひどく歯がゆい。

<上演記録>

<日時>
12月
12日(金)19:30 『臥龍頂上伝』
13日(土)14:00 『臥龍頂上伝』
     19:00 『幽幻夢想』
14日(日)14:00 『幽幻夢想』
     19:00 『臥龍頂上伝』
15日(月)19:30 『幽幻夢想』
16日(火)19:30 『臥龍頂上伝』
17日(水)18:30 『幽幻夢想』

<出演者>
『臥龍頂上伝』
田中 精/吉久直志/北出浩二/
佐久間紅美/市川利奈/おぐらとしひろ/
五十嵐勝平/大島紘子/野崎雅志/
高坂雄貴/幣奈緒子/中山 浩/
アライタカシ/青木清四郎/伊藤十楽成
田口リサ/Algos/吾郷絵利華

『幽幻夢想』
田中 精/北出浩二/木本悦也/森澤碧音/
西沢智治/下橋美紀/小森秀一/高間慎一朗
千田剛士/岡本ひろき/石神まゆみ/周 晴奈/
広田さくら/田中 聡/吉久直志/高橋誠

会場:笹塚ファクトリー
(笹塚ファクトリー提携公演)

チケット
前売り/当日:3500円 
3公演通しチケット9000円(劇団のみ扱い)
日時指定、全席指定

劇団ホームページ 
http://kapsel.chanbara.biz/

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