DULL-COLORED POP「ショート7」

◎エロチシズムの上で弾けるポップコーンのように
三橋 曉

「ショート7」公演チラシ人は見かけによらぬものだし、必ずしも名が体を表すわけではない。そんなことは百も承知なのに、ついつい抱いてしまうのが先入観というやつだ。
しかし、これを必ずしも悪癖と決めつけるわけにはいかない。というのも、先入観がいい意味で裏切られたとき、そこには少なからず驚きの快感があるからだ。そして、いやます快感は、自ずと好奇心へと繋がっていく。のっけから個人的な話で恐縮だが、DULL-COLORED POPへのわたしの興味は、まさにそのケースなのだ。

ありがちな話だが、きっかけは信頼するブログの好意的な劇評だったが、彼らに対する好奇心に拍車がかかったのは、〝にび色のポップ〟という気になるネーミングにつられて覗いたホームページで、レイアウトはシンプルだが、色使いやデザインに抜群のセンスが感じられるサイトが目に飛び込んできたときだ。さらにカラフルで洒落た次回の公演告知のチラシを見るにつけ、わたしの中で「お洒落な芝居」という先入観が勝手に出来上がってしまったと思しい。

そんなこんなで、彼らの公演としてはvol.5にあたる『Caesiumberry Jam(セシウムベリー・ジャム)』@タイニイアリスに初めて足を運んだわけだが、他愛のない恋愛劇でも見るようなお気軽な気分は、開演間もなく見事なまでに吹っ飛んでしまう。深刻な過疎化が進むロシアの寒村を舞台に、異様な緊張感の中で展開していく物語は、原発事故としては過去最大の惨禍といわれるチェルノブイリの後日談だったのだ。悲劇的な事件を描いて暗く沈みこむような物語に、最初は心の中が暗転するようなショックを覚えたが、間もなくそれはそこはかとない興味へと変わった。人間の生命を扱う物語で本物の土を舞台上に持ち込むアイデアや、随所に挟み込まれる屈折感のあるユーモア感覚が、観終えたあとも強く心に残った。

そして、vol.7の『JANIS -Love is like a Ball and Chain』@タイニイアリスは、さらに嬉しい驚きに満ちていた。生きながらブルースに葬られたロックシンガー、ジャニス・ジョプリンの死の直前の数日間を描く本作だが、ジャニス役の武井翔子の本家さながらにディープなブルースナンバーを歌いこなす歌唱の力も去ることながら、バックミュージシャンの演奏力、さらには劇場をまるまるライブハウスに仕立ててしまう大胆不敵な趣向に、観客も思いきり遊ばせてもらった。

さて、ちょっと遠回りさせてもらったが、本題の「ショート7」の話だ。企画イベントにも積極的にも参加しているDULL-COLORED POPには、過去に短編作品も数多く上演しているが、今回はそこから主要な作品を再演すると同時に、新作も加えてのオムニバスで上演するという短編づくしの企画公演である。

わたしにとって3回目のDULL-COLORED POPとなるわけだが、二度あることは三度あるとはよく言ったもので、またもやわたしはある予断を抱いていた。というのも、小劇場のシーンにおける短編のオムニバス公演は、昨今ちょっとしたブームの様相を呈しているけれども、個人的には猫も杓子も、という印象があったからだ。ごく一部の成功例(イキウメの「図書館的人生」などがそうだったように思うが)を除いては、熟成不足の作品を見せられることが多く、安易なお手軽感はどうしても否めないところだろう。

そう、DULL-COLORED POPの「ショート7」も、ちょっと言葉は悪いが、場つなぎ的な公演ではないかというのが、その予断だった。しかし、それは誤りだったようだ。短編の棚卸し的な意味合いに留まらず、DULL-COLORED POPという劇団にとって、ある意味で重要な公演になったと思う。

上演されたのは、次の7作品である。ちなみに上演形態だが、1~4までをAグループ、5~7をBグループとし、2つのプログラムに分割して上演された。

1.ソヴァージュばあさん(原作:モーパッサン)出演/堀川炎(世田谷シルク)、和知龍範、佐野功、堀越涼(花組芝居)
2.Bloody Sauce Sandwitch 出演/ハマカワフミエ(国道五十八号戦線)、佐々木なふみ(東京ネジ)、千葉淳(東京タンバリン)
3.15分しかないの 出演/堀奈津美(DULL-COLORED POP)、桑島亜希、境宏子(リュカ.)、千葉淳(東京タンバリン)
4.アムカと長い鳥 出演/清水那保(DULL-COLORED POP)
5.息をひそめて 出演/堀奈津美(DULL-COLORED POP)、佐野功、田中のり子(reset-N)
6.エリクシールの味わい 出演/岡田あがさ、清水那保(DULL-COLORED POP)、小林タクシー(ZOKKY)、千葉淳(東京タンバリン)桑島亜希、佐々木なふみ(東京ネジ)、田中のり子(reset-N)、ハマカワフミエ(国道五十八号戦線)
7.藪の中(原作:芥川龍之介) 出演/堀越涼(花組芝居)

やや駆け足になるが、個々の作品を観ていくと、まだ4×1h project Playでの上演も記憶の新しい「ソヴァージュばあさん」は、そのときの時間堂の黒澤世莉演出と大きな違いはない。原作の奇妙な味をそのまま舞台にスライドさせたのは、やはり翻案者のお手柄だろう。間近な再演という意味では、今年3月に15 minutes made vol.5に参加した「15分しかないの」もそうだが、都会で暮らすOLの孤独を映す三人一役というトリッキーな手法もユニークだし、女もタフじゃなければ生きていけないと肩肘を張るヒロインが、最後にはちらりと覗かせる本音が切ない。これまた絶妙の脚本だと思う。

一人芝居の「アムカと青い鳥」と「藪の中」は、2006年にDULL-COLORED ANTI-POPと銘打った『4 nudists』の中の2本だ。今回の公演のひとつの成果として、その存在感を再認識させてくれた所属女優たちの大きな頑張りがあると思うのだが、「アムカと青い鳥」のファニーで翳りもある主人公を憑かれたように演じる清水那保は、まさにはまり役の素晴らしさだ。(そもそも、あて書きか?)一方、あまりに有名な黒沢明の映画「羅生門」とはまた違った興味で芥川の原典を再構築してみせる「藪の中」も、花組芝居からの堀越涼の熱演もあって、よく出来た推理小説を読み解いていくような快感を体験した。

前段に所属女優云々と書いたが、過去にわずか2つの公演しか観ていないわたしが言うのもおこがましいが、清水那保と堀奈津美のふたりは、これまでどうも印象が薄かった気がする。キャスティングの問題なのかもしれないが、今ひとつ個々の魅力が前面に出てこない物足りなさのようなものがあった。そのわたしのモヤモヤしたもどかしさを一気に吹き飛ばしたのが今回の「ショート7」だったのだが、堀奈津美に関していえば、「息をひそめて」がめちゃくちゃいい。最初は甘くてやがてそれが苦味に変わっていく恋愛の妙味を、絶妙の存在感で演じてみせる。一昨年、高円寺のライブハウスUFOクラブで行われた「猫道ロックフェスティバル’07」が初演だったが、わたしはソールドアウトで観られなかったという思い出もあって、個人的に今回のベストアクトはこの作品だと思っている。

唯一の新作「エリクシールの味わい」は、飲尿趣味をテーマにミュージカルを仕立てあげるという話題性もさることながら、妙な方向へブレることなく、ミュージカルのルールにのっとって、きちんと大人のファンタジーに昇華しているところが見事だ。サイコロジカルに掘り下げて行く展開とともに、わざわざ達者な岡田あがさを起用した意図が見えてくる。劇団の充実の証しともいうべき堂々の新作だと思う。

ところで、一見テーマも出自もばらばらな今回の七本だが、通底するテーマがあるとすれば密かにこれだろうと思っているのが、エロチシズムだ。昨年のギリギリエリンギAnother Works Vol.3が初演だという「Bloody Sauce Sandwitch」のスラップスティックな不条理劇の裏側にも、やはり強いエロチシズムが流れているのを感じる。エロチシズムという鉄板の上で、賑やかに弾けるポップコーンのような作品といえば、そのひたすらシュールで愉快な空気を少しでも説明したことになるだろうか。

正直言えば、作品ごとに出来、不出来の多小の不揃いはあるのだが、さまざまな工夫を凝らして、過去とは別の命を吹き込もうというスタンスが演出にはうかがえたし、単なるおさらいではなく、リベンジでのぞむ役者たちの意欲も十分に覗けたと思う。それでいて、出来上がった作品のひとつひとつは、堅牢に過ぎることなく、観客側に受けとめ方を選択する余地を残しているあたりがなんとも心憎いところだ。
過去の作品を中心とした短編公演と聞けば、これまでを振り返るものと誰もが思うだろう。しかし、今回の「ショート7」は、DULL-COLORED POPの歩みを総括する意味を持ちながら、単なるたなざらいに終っていないしたたかさがある。短編公演という形を借りて、合計7編で都合7通りのこれから先を見据えた試行錯誤を効率よく成し遂げたといってもいいかもしれない。
劇団としてひとつの節目であるに違いない今回の公演だが、これからも観劇に予断という悪癖を持ち込むわたしのような観客に、さらに強烈な不意打ちを食わせるDULL-COLORED POPであり続けてほしいと思う。
(初出:マガジン・ワンダーランド第143号、2009年6月10日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
三橋曉(みつはし・あきら)
1955年、東京都生まれ。ミステリ・コラムニスト。「本の雑誌」「波」「ミステリマガジン」「このミステリーがすごい」「新刊展望」「週刊現代」他に書評コラムや映画評を執筆中。共著書に「海外ミステリー事典」(新潮社)など。

【上演記録】
DULL-COLORED POP vol.7.7『ショート7
■演目
[Aプログラム]
●アムカと長い鳥
●Bloody Sauce Sandwitch
●15分しかないの
●ソヴァージュばあさん
[Bプログラム]
●藪の中
●息をひそめて
●エリクシールの味わい

■7本ぜんぶの作・演出 谷賢一(DULL-COLORED POP)
■出演
[Aプログラム]
◆清水那保ひとり芝居 『アムカと長い鳥』 出演:清水那保(DULL-COLORED POP)
◆傑作短編小説を翻案 『ソヴァージュばあさん』 出演:堀川炎(世田谷シルク)、和知龍範、堀越涼(花組芝居)、佐野功
◆平成空想不条理劇 『Bloody Sauce Sandwitch』
出演:佐々木なふみ(東京ネジ)、ハマカワフミエ(国道五十八号線線)、千葉淳(東京タンバリン)
◆重なる声、ずれる身体 『15分しかないの』
出演:堀奈津美(DULL-COLORED POP)、桑島亜希、境宏子(リュカ.)、千葉淳(東京タンバリン)
[Bプログラム]
◆堀越涼ひとり七役 『藪の中』 出演:堀越涼(花組芝居)
◆堀奈津美’s哀愁恋愛劇 『息をひそめて』 出演:堀奈津美(DULL-COLORED POP)、、佐野功、田中のり子(reset-N)
◆岡田あがさ主演・業界初飲尿ミュージカル『エリクシールの味わい』 出演:岡田あがさ、清水那保(DULL-COLORED POP)、小林タクシー(ZOKKY)、ほか

■スタッフ
舞台監督:小林慧介/音響:長谷川ふな蔵/照明:松本大介(enjin-light)/照明オペレーター:朝日一真/作曲・演奏・音楽監修(『エリクシールの味わい』):伊藤靖浩/アクティングコーチ(『ソヴァージュばあさん』):黒澤世莉/衣裳:中埜愛子/舞台美術:鮫島あゆ&グラマラスキャッツ/宣伝美術:小林タクシー(ZOKKY)/制作:池田智哉(feblabo)&ヴァージンボーイズ

■協力
東京バビロン、Pit北 /区域、にしすがも創造舎、タイニイアリス、ZOKKY、リュカ.、東京ネジ、東京タンバリン、reset-N、国道五十八号戦線、世田谷シルク、花組芝居、フォセットコンシェルジュ、柿喰う客、演劇集団砂地、小劇場レビューマガジン「ワンダーランド」、アロッタファジャイナ、 MU、チェリーブロッサムハイスクール、*rism、芥川龍之介(『藪の中』原作)、ギ・ド・モーパッサン(『ソヴァージュばあさん』原作)

■料金 前売:2,500円 当日:3,000円 学生割引:500円引き(受付にて学生証をご提示下さい)リピーター割引:半券ご提示で1,000円引き

■アフタートークイベント:キャバクラード・ポップ
4/29(水) 中屋敷法仁(柿喰う客・代表)
4/30(木) 船岩祐太(演劇集団 砂地・演出)
5/01(金) 北嶋孝(小劇場レビューマガジン「ワンダーランド」編集長)
5/02(土) 松枝佳紀(アロッタファジャイナ・主宰)
5/03(日) ハセガワアユム(MU・主宰/プロデューサー)
5/04(月) 小栗剛(チェリーブロッサムハイスクール・座付作家)
5/05(火) 夏井孝裕(reset-N・主宰)


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