初日レビュー第9回 柿喰う客「愉快犯」

 「初日レビュー2011」の第1弾は、いま最も元気な劇団の一つ、柿喰う客の新春公演「愉快犯」です。独特のせりふ回し、見得を切るかっこよさ、スピード感あふれるステージは今回も健在でしょうか。9人が五つ星と400字コメントで新春の舞台に切りこみました。どうぞご一読ください。掲載は到着順です。(編集部)
 (注)柿喰う客は「CoRich舞台芸術まつり!2010春」でグランプリを受賞。今回の本公演、昨年末のワークインプログレスともに、こりっち(株)がスポンサーとなって実施された。

 

▽水牛健太郎(ワンダーランド) 
 ★★★☆(3.5)
「愉快犯」公演 15度くらいの傾斜が放射状についた半円形のコマのような舞台は、役者に緊張を強いる一方、あらゆる場面にドラマチックな色彩を添える。斜面の上に役者が並んで立つだけで、あるいは向かい合うだけで絵になる。まして役者の動きは決めのポーズの連続で構成されているから、いやが上にも効果は高まる。身体とセリフのリズムの連動が生み出す気持ちよさ。役者にも技術と華があって、実に見ごたえのある舞台だった。
 破天荒な舞台づくりの一方で「家族が大切」という脚本の価値観の保守性は残念。作・演出の中屋敷法仁自ら認める確信犯的な部分だが、古今東西、確固たる信念の持ち主に一流の作家はいない。既成の価値観を疑うのが作家の務めであり、日常生活で家族思いのよき人間であることと、作家としての人格とは全く別であることに気付くべきだ。

 

▽手塚宏二(こりっち(株)所属、演劇コラムニスト)
 ★★★★★
 観終わった後、難しいことは何にも考えないで、演劇ってほんとに面白いなあと思える公演。久々にそういった公演に再会した。赤テント時代の状況劇場。初期メンバーのつかこうへい事務所、鴻上尚史の第三舞台、そういった忘れていた感動にまた出会えた。
 物語は琴吹家という超ラッキーな一族に突然降りかかる不幸。時にサスペンス的であったり、時にホラーチックであったりしてもそれらは全て味付け、彼らはただ子供のように、舞台上で演劇を楽しんでいるのだ。その楽しみ方があまりにかっこいいので、ただただ、我々は見とれ、心ときめかしてしまうのだ。
 壮大な物語に登場するのはたった5人。たった5人で芸劇の広い舞台を狭く感じさせる凄さ。劇団員だけなのに豪華キャストと感じさせる役者陣の魅力。歌舞伎のように様式美さえ感じさせる中屋敷演出。何から何までが新しい伝説を作り始めている。天才中屋敷法仁がこれからどこへ進んでいくのか、楽しみでならない。

 

「愉快犯」公演▽麓 香緒里(高校生)
 ★★★★☆(4.5)
 傾斜のついた、荒波のような舞台の形。歌舞伎のような効果音。役者がそこに立ち、声を発するだけで既にエンターテイメント性を感じられる場所だった。
 そこで始まった喜劇。聞いていて心地のいいリズム感のセリフは、どれだけ大きなリアクションでも、どれだけ言わなそうなセリフであっても、おもしろいと言って許せる。どころかこれが正解だと思えた。もちろんそれは、聞き取りやすい滑舌の良さありき。
 なんだか嫌な気持ちの残る舞台でもなく、バカな事やって笑わせるだけの舞台でもなく、ちょこちょこジャブを入れてきて、ニヤニヤ笑ってしまう。その中にどうなるんだろうというストーリー展開へのドキドキ感と、それをどんどんあおってくれる光や効果音がぴったりのタイミングで入ってくる。楽しくって後味もスッキリとして、お正月のめでたい気分の中にとっても相性良く溶け込んできていた。

 

▽中尾祐子(フリーライター)
 ★★★
 カラフルに色分けした扇形を組み立てたステージを目にした途端、どんな舞台になるのかと期待させられた。開演前の掴みはまずまずのよう。ステージの構造と同じように水平ではなく、常に斜めに傾いたバランス感覚で生きている家族4人3世代と「ポリスウーメン」が最後まで息つく間もなく暴走する。擬音・擬態語、ギャグ・駄洒落、耳になじみのあるワンフレーズ・キャッチコピーなどをふんだんに盛り込んだセリフ回し(噛まなかった技量に拍手)、身体を床にぶつける勢いの肉体派演技。漫画をそっくりそのまま実写で見るとこんな具合だろうかと感じたが、舞台という虚構さが前面に出てかえって潔い。
 この作品の笑いは会場全体で揺れるようなものではなく、クスクスと吹き出してしまうような質であることは承知だが、リーフレットにある通り、やや「当たって砕け」てしまったのがちょっと残念。お客さんももっと柔らかく受け止めても良い。でも、新春公演にふさわしい破天荒ぶりで星3つ。

 

▽大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★★
「愉快犯」公演 新春にふさわしく、めでたくもにぎにぎしい舞台。扇面をランダムに立体化したような劇的に斜めってる(!?)床面も、ちょこっと晴れ着のニュアンスのある衣装も、ポップにカラフルで目に楽しい。劇団結成5周年の記念公演だそうで、ご挨拶興業の趣をもちつつ、歌舞伎っぽかったり宝塚チックだったりもする、派手で大振りだけど滑らかな身体の捌き、早口で調子よくたたみかけるようなセリフ回し、コッテコテのストーリーなどがふんだんに盛り込まれていて充実感もある。家族愛の物語、一家5人のうち何と2人が○○○しまう!のだけれど、ほのぼの系の枠におさめていないのが、ありそうで意外にないと思う。テンポの良さが一過性の笑いに流れず、うまさが新鮮味のなさにつながっていない。オリジナルな文法と線の太い展開手法が確立され、柿喰う客が、ほかとはひと味違う場所を確保していることを改めて知らされた、というのは、決してご祝儀としての言葉ではない。

 

▽齋藤理一郎(会社員)
 ★★★★☆(4.5)
 お芝居の内側では、紡がれる家族の物語にとどまらず、紡いでいく役者たちの力量に強く心を惹かれました。表現力に圧倒され、やがては物語が役者たちを生かし役者を見せるために組み上げられたようにすら感じられて。そうなると役者たちの表現たちのひとつずつがますます映え、際立ち、瑞々しく、心地よく、豊かでおもしろい。洗練された外連、動きの切れ、艶を持ったセリフ回し、擬音の多用やフレーズの繰返し。歌舞伎を模したような部分も効果的。見栄を切る刹那に加えて浄瑠璃の如く「柿喰う客」流に地を語るリズムも秀逸。物語の枠に、繋がれるのではなく生かされた役者達を観るのが本当に楽しい。その楽しさがあるからこそ成り立つラストシーンが実に鮮烈。観客を巻き込む態の刹那が芝居に取り込まれることで芝居の大外の枠組が浮かび上がって。その作意の提示の鮮やかさに鳥肌が立ちました。

 

「愉快犯」公演▽永岡幸子(社会人学生)
 ★★★
 初柿喰う客。『愉快犯』なんて人をくったタイトルだと高をくくっていたのに、一杯食わされた。
 お気楽に暮らす金持ち一家の長女が事故死。娘の死を受け入れられない父親は、刑事と共に犯人探しを始める。全編シリアスなサスペンス調に描くことも可能な物語は、独特なリズムと抑揚を持つハイテンションな台詞回しと、台詞につられるようにして繰り出されるアクションの合わせ技によって(表層的には)コミカルに展開される。台詞もアクションもビミョーに意表をつく変拍子で、軽い混乱に見舞われたものの、次第にペースに乗せられてしまった。混乱しつつも乗せられていく感覚は小劇場演劇に初めて触れたころに味わったそれと似て、新しいものに出会ったのに、どこか懐かしい感じ。本筋と無関係に飛び出すギャグ(?)から昭和っぽい香りがするのもご愛嬌、フフッと笑ってしまう。真犯人にたどり着くまでの過程は、もうひとひねり欲しかった気もする。

 

▽都留由子(ワンダーランド)
 ★★★★
 舞台が円錐形をしている! 海老一染之助が回す和傘の柄をはずして置いたような、ぺちゃんとした円錐形の舞台。その斜面で役者は思い切った動きを見せる。よく動く身体を見るのは気分がいい。歌うようなリズミカルな台詞、見得の連続のような動き、「実ハ」「実ハ」で明かされる事情、対話している二人がどちらも客席を向いているなど、まるで歌舞伎のようだ。先祖代々ラッキー+ハッピーだった一族が、突然直面した不幸に独自の方法で対処するのだが、その物語以上に、舞台上で行われることそのもののパワーにぐいぐい引き込まれる。役者は達者で、声も台詞もよく、動きも魅力的。ただ、結婚や家族に関して何だか古くさい台詞があって、その扱いがちょっと飲み込めず、それだけは宙ぶらりんな印象が残った。今の若い人の家族観ってそうなの?ともあれ、今年初めて見た芝居が、パワフルで、すっぱり気持ちのいい舞台だったのは幸せだった。

 

▽北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★
「愉快犯」公演 独特の節回しに切れがあり、セリフに華がある。円錐状の舞台を若さいっぱいに動き回ったり見得を切ったり、彼ら彼女らの演技・演出は心地よい。劇画ならぬ「劇演」とも言いたくなるほどのドライブ感だろう。
 しかし家庭内殺人のミステリー仕立て、となればどうしても「物語」のしがらみから抜けるわけにはいかない。筋立ての平仄が合うだけでなく、構成や強度が否応なく問われてしまうのだ。荒唐無稽が売り物ではないのだから、身体表現のテンションを高めるだけでなく、人物造形や犯行動機をちゃんと練り上げてね、中屋敷さん。「演劇界の舞城王太郎」的存在になってもらうためにもハードルは高いほうがいい。同じ円錐状の舞台だった「傷は浅いぞ」公演(2007年)は4年前なのに、アイドル勝ち抜きゲームの物語はもっと密度が濃くスリリングだった。「物語」を軽く見てはいけない。舞台で必ず復讐されるのだから。

【上演記録】
 柿喰う客 2011年新春公演『愉快犯(CoRich舞台芸術まつり!スポンサード公演
 作・演出 中屋敷法仁
【東京公演】東京芸術劇場小ホール2(2011年1月7日-16日)

■出演
 七味まゆ味
 コロ
 玉置玲央
 深谷由梨香
 村上誠基
■スタッフ
 美術:原田 愛
 照明:富山貴之
 音響:上野 雅
 音楽:佐藤こうじ(SugarSound)
 演出助手:入倉麻美
 舞台監督:棚瀬巧+至福団 

 宣伝美術:山下浩介
 宣伝写真:
  [撮影]堀奈津美(*rism/DULL-COLORED POP)
  [着付]笹島寿美
  [メイク]田中順子
  [衣裳]呉服おぎはら
 記録:飯田裕幸

 制作助手:時澤香保里/萩谷早枝子
 制作:赤羽ひろみ/斎藤 努/田中沙織
 制作協力:ゴーチ・ブラザーズ/PAMC
 企画製作:柿喰う客

【大阪公演】
 芸術創造館(2011年1月21日-25日)
 主催:大阪市
[乱]=1/13(木)19:30と1/23(日)18:00の回は全配役をシャッフルして上演する特別ステージ「乱痴気」公演。
 各ステージ終演後に演出家と出演者によるアフタートーク。
 ※上演時間は約80分。

■チケット前売料金 一般2800円(1/8~11まで)/3300円(1/13~25まで) 学生2000円 高校生以下1000円 初日特割2500円 平日昼割2800円
※当日券は前売500円増。
[WEB]http://kaki-kuu-kyaku.com/

■ワークインプログレス
 ■2010年12月14日(火)19:30 会場:KAIKA@京都
 ★トークゲスト:松本雄吉(維新派)
 協力:アートコミュニティスペースKAIKA
 ■2010年12月16日(木)19:30 会場:急な坂スタジオ@横浜
 ★トークゲスト:中野成樹(中野成樹+フランケンズ)
 共催:急な坂スタジオ
 ■2010年12月18日(土)18:00 会場:水天宮ピット@東京
 ★トークゲスト:手塚宏二(こりっち株式会社)

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