Port-B「個室都市 京都」

◎環境の演劇
 高橋宏幸

 「環境」という言葉が流行している。エコロジーという言葉などは、そこから派生した代表的なものだろう。実際、最近ではエコ・クリティシズムという言葉も輸入されつつあり、批評や作品を作る際のタームの一つになりそうな雰囲気もある。むろん、環境についての現代的な視野は、なにもいまに始まったことではない。日本では公害問題を発端として、60年代以後の学生運動期に於ける自主ゼミなどが挙げられるように、それは演劇の動向がラディカルに問い直された時期と同時代性がある。そこに、リチャード・シェクナーの「環境演劇」という言葉を挙げてもいい。

 環境のなかで、そこに生起するものが、いかに影響を与え、また与えられるのか。昨今の演劇では、そのような環境の負荷をかけて作品を創ろうとする傾向は目立たなくなってしまった。しかし、それは何も特殊なことではない。かつて叫ばれた「いま、ここ」という言葉は、その場所をとりまく環境によって、上演される舞台がどのような形態ともなることを示していた。少なくとも、劇場のなかで俳優と観客が過ごす一過性の時間は、常に空間とともに変容するという認識があった。そして、その空間は劇場内のみにとどまらず、外部である街そのものからの影響を受け、街自体にも影響を与えた。都市論の隆盛は、劇場論とも不可分な関係だ。

「個室都市 京都」公演から
写真は、Port B「個室都市 京都」から。
【撮影=清水俊洋 提供=KYOTO EXPERIMENT 禁無断転載】

 Port-Bの『個室都市 京都』は、否が応でもその場所を取りまく環境の問題を作品に導入する。これは、2010年に新たに京都で始まった国際フェスティバル、「KYOTO EXPERIMENT」の一つとして上演されたのだが、まずその特異な作品の形式から説明する必要があるだろう。それは先にフェスティバル/トーキョーの一環で開催された『個室都市 東京』と比較して見るとわかりやすい。作品の基本的な構造は同じだからだ。

 『個室都市 東京』のときは、池袋の西口公園にプレハブ小屋が建てられて、個室ビデオ店やマンガ喫茶のような趣で24時間営業された。もはや観客というより参加者は、棚に並べられたたくさんのDVDの中から選んで、個室に入ってそれを観る。そのDVDには、西口公園周辺にいた人たちに敢行された、矢継ぎ早に繰り出される質問とその応えのインタビュー映像が収録されている。普段、何気なく目にして素通りする風景に溶け込んでいた人たちの断片とでもいうべき、さまざまなイメージを個室で観ることになるのだ。

 それは、なにもインタビュー映像だけを見て、それぞれの人や場所の認識をあらたにするだけではない。そもそも、池袋西口公園という場所の風景も、プレハブ小屋は異化する。むろん、公園といっても、それは池袋という都市の一区画にある特異な公園だ。実際、その異化する場としてあった『個室都市 東京』のプレハブ小屋が、日が経つにつれて、今まであった風景に馴染んで溶け込んでいくように見えるのも、池袋の西口公園という都市のもつ機能だろう。それは都市の風景というものが、異化する要素を常に飲み込み、常態化させる要素を含みこんでいるからだ。公演期間の終了に伴い、一時の喧噪が終わり、その場所はもとに戻る。微かな痕跡も、わずかな違和感を含みつつ、かき消されていく。それは、都市のフェスティバルという機能の一つと類比的に語れる。

 この作品が、フェスティバルという枠組みで開催されたことにも関連するが、普段見慣れた都市の風景を異化するという機能においては同じだからだ。フェスティバルという祝祭的な空間の環境を、これは作品に敷衍するような形で捉えている。また、フェスティバルという補助線を必要とする作品といってもいい。

 『個室都市 京都』は、そのような作品の構造やフェスティバルという状況は同じでも、当たり前だが、場所をはじめとして環境の設定の違いが、そこで受け取る感覚をまったく別のものにする。なかでも開催場所が、京都駅ビルのなかでも、にぎわいが届いてこない、おくまったフリースペースのような一角になったことは大きい。また、24時間営業ではなくなって、定められた営業時間内で参加者はDVDを観る。そのインタビューは、京都駅周辺で収録されたものだが、京都という古都ならではの固有性が浮かび上がるだろうという参加者の予想をうらぎって、むしろ京都の玄関口であるターミナル駅として行き交う人たちの発言が多い。むろん、観光客などもいるが、関西一円から来る人たちの通過点という場所の機能を照らし出すのだ。

「個室都市 京都」公演から
【写真は、Port B「個室都市 京都」から。撮影=清水俊洋 提供=KYOTO EXPERIMENT 禁無断転載】

 それを、単に作品が東京の場合と比べて小ぶりになったということもできるが、空間や駅ビルという場所がもつ環境を異化するための異物として『個室都市 京都』の会場があるのではなく、その場所の機能を個室でDVDを観ることによって参加者は受け取る。その点だけでも、先の作品との現れは違うだろう。
 実際、ターミナル駅として通過してしまう京都駅とそのビル周辺の役割を再認識させることは興味深い。

 また、個別のインタビューの傾向も、すべてを聞いたわけではないので類推になるが、おそらく東京と京都という、それこそ風土とでもいうべき環境の違いは、統計をとれば分析的に見ることもできるだろう。東京のインタビューの傾向が、全国から来てたまたま都市の一角に居合わせたものたちの一瞬の邂逅をとらえるならば、京都は関西一円で行き来する人たちという地域色がより強い。

 インタビュー時間は短い質問と単純な応えなので、すぐに終わる場合もあれば長い場合もある。概して京都の方が自身の意見について語る時間が長いのではないか。それは、実際に正しいかは問題ではなく、かつて紋切り型にいわれた、東京と関西の地域の差として、たとえば自己主張が東京に比べて関西は強いのではないかなど、関西の風土を感じさせる。そのように思わせてしまうこと自体が、作品の構造にそれぞれの環境の負荷を組み入れることができる形式の強みだ。

 そして、東京、京都の場合でも、開催されている周辺をめぐるオプションツアーがある。京都の場合は駅ビルをツアーするのだが、巨大な建物の隙間とでもいうべき場所をかいくぐって歩くと、ターミナルとして見慣れた場所でも、通ることのない場所があることに気付かされる。ツアーの最終地点では、大阪の西成地区の釜ヶ崎の労働者たちの映像が映し出される。それは、直截的になんの関係があるのかわからず、いささか唐突に映るが、駅ビルという華やかな場所と近くて遠いその場所との階層の差はなにを意味しているのかとは感じる。

 その距離感とでもいうべきものは、このフェスティバルとも同様だろう。京都のフェスティバルそのものといかに連動しているのかは確かにつかみづらい。

 だが、作品のタイプとしては、環境というものが複合的な要素が微細に絡み合うことによってなにか一つの大きな系に集約されることなく複雑系の世界として現れるように、この作品も見ているものにゆるやかに場所の持つ空気とでもいうべきものを知覚させる作品であるとはいえる。

 さまざまな環境の影響を受けつつ、それはなにかをラディカルに問う姿勢は、60年代の環境の演劇という視点を継承しつつも、表れとしてはまったくいまの形の作品となっている。この作品は、環境の要素をどのように入れるかということにおいて、今後も展開することが可能なものだろう。
(初出:マガジン・ワンダーランド第225号、2011年1月26日発行。無料購読手続きは登録ページから)

【筆者略歴】
 高橋宏幸(たかはし・ひろゆき)
 1978年岐阜県生まれ。演劇批評。日本近・現代演劇研究。日本女子大学、桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。『図書新聞』や『テアトロ』で演劇批評を執筆。共著『Theater in Japan』(Theater der Zeit)、論文に「マイノリティの歪な位置」『つかこうへい』(文藝別冊)、「00年代の演劇空間」(『述4-文学10年代』)など。

【上演記録】
Port-B個室都市 京都」(京都国際舞台芸術祭/YOTO EXPERIMENT 2010)
会場:京都駅ビル(2010年11月12日-21日)
*集合場所=JR京都駅ビル7階 東広場(駅ビルシネマ隣)

〈個室DVD鑑賞〉
 平日17時~22時、土曜日・日曜日12時~22時(最終日は17時まで)
〈オプション・ツアー〉所要時間:約15分
 平日18時~21時、土曜日・日曜日13時~21時(最終日は16時まで)

ポストトーク
高山明とゲストによるアーティスト・トークです。
日時:11月15日(月)21時頃より(フェスティバル・フォーラム終了後)
場所:flowing KARASUMA 2階
料金:無料(※申し込み不要)

料金・チケット
個室DVD鑑賞 1時間=500円(30分延長ごとに200円追加)
オプション・ツアー=1人1,000円

システム
DVD鑑賞 個室ブースで京都駅近辺の映像作品を選んで鑑賞。
オプション・ツアー DVDを鑑賞したらツアーへの参加がおススメ(当日、受付にて申込み)↓
?ツアーの最終地点で待ち受けるものとは?

スタッフ
構成・演出:高山明/ドラマトゥルク:相馬千秋/映像:遠藤幹大、村川拓也/インタビュアー:伊藤彩里、伊藤寧美、増田美佳、和田ながら/美術:江連亜花里/舞台監督:大鹿展明/技術:藤原康弘、竹崎博人/プロジェクト・メンバー:芦谷康介、鴨嶋美幸、桐田知樹、富松悠/制作:小倉由佳子、川那辺香乃、和田ながら

出演
リサーチにより決定

製作:Port B/共同製作(オリジナルバージョン):フェスティバル/トーキョー/助成:公益財団法人セゾン文化財団/協力:京都駅ビル/主催:KYOTO EXPERIMENT


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