パセリス「あたりまえのできごと」(クロスレビュー挑戦編第25回)

「あたりまえのできごと」公演チラシ
 「演劇の面白さ」と「日常の面白さ」を作品にして提供したい-。パセリスの公式ブログにそう載っていました。その二つが幸福に出会う場面はどのように舞台に出現したのでしょうか。
 クロスレビューはいつものように、5段階評価と400字コメントです。じっくりご覧ください。掲載は到着順。末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)

宮本起代子因幡屋通信発行人)
 ★★
 一見シンプルだがステージ上部エリアや映像も巧みに使い、テンポのよいやりとりで楽しくみせる。出演も兼ねる作者が女優5人の個性を的確に把握しているのだろう。好感のもてる舞台だ。
 出演者全員による軽快なダンスが次第に激しくなっていったとき、複数の物語がどのように展開、あるいは収束するのかと身を乗り出したが、ものたりない印象をもった。
「『斬新っぽいことをどう見せよう』という作品づくりを目指す」(公演チラシより)のは、ある意味で賢明だ。しかし手法に凝るよりも、まずはみずからの演劇的必然を突きつめる必要がある。何を見せたいのか、自分が伝えたいことは何か。たとえ暗中模索の過程であっても、探そうとしている姿勢が伝わるだけで、客席の空気は変わるはずだ。
 作者は何気ない日常会話や街の風景に対する繊細で機知に富んだ感覚をお持ちである。それが点描の連続に留まるのではなく、芯のある1本の作品に結実することを願っている。
(3月16日 19:30の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★
 短い作品が5編。オートメーションで人間の願いをかなえる神様とか、恋愛ドラマにツッコミを入れてドラマの行方を変えてしまう視聴者とか、着想が面白く、第4話までそれぞれ最後のオチでくすっと笑ってしまった。最後の第5話で、読んでいるマンガの内容が第2話のエピソードだったという具合にゆるくつながるのだが、そのつながりはなくても困らない程度のゆるさである。前の4話を受けて新しい世界が見えるのか、全5話を貫くオチが来るのかと期待していたので、ちょっと肩透かしだった。パズルみたいに全体でひとつの絵にして驚かせてほしいとまでは思わないが、お団子をつなぐ串くらいはないと、もったいないだろう。「『斬新だと思ったものは既に誰かが思いついている』という悲観的な視点から(略)作品づくりを目指す」とチラシにあったが、既に誰かが思いついているのなら、ぜひ誰も思いつかなかった串でつないでもらいたかった。
(3月17日14:00 の回)

齋藤理一郎(会社員、個人Blog:RClub Annex
 ★★★☆(3.5)
 どの作品にも描き方に恣意的なシンプルさがあって。余分な前置きも不必要な説明もなく、必要なエッセンスだけが舞台に提示されそれぞれの世界を展開していく。そのことが作品から重さを排しくっきりとした質感を生みだしていたように思います。
 作品ごとに異なる作り手の企みがあって、単にアイデアを具現化させるだけではなく想定を半歩こえるような踏み込みが生まれていて。色とりどりにおもしろさへの感性が刺激される。役者たちも安定していて世界を支える旨さや力も随所に感じて。
 一番惹かれたのは公演のタイトルとなった最後の作品、女性たちの時間や行動の切り取り方が洗練されている上に、音楽に乗せた日々のルーティンの組み上げが実に鮮やか。
 舞台上にあるものは毎日の断片や刹那のコラージュにすぎないのに、日々を生きる女性のビビッドな感覚や女子会のリアルな雰囲気がしなやかに伝わってきました。
(3月17日14:00 の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★
 五話のオムニバス仕立て。チラシには「今回は、宇宙人になったつもりで、人間の『あたりまえ』について考えてみようと思います」とある。何だかBOSSのCMみたい。たとえば第五話で女子会をやる4人の子それぞれの部屋。劇中に流れるperfume「ワンルーム・ディスコ」さながらの単身者暮らしが、過不足なくお洒落に切り取られている。ただ、宇宙人の視線というには、こういうあたりまえさの捉え方に、特にハッとするようなもの、あるいはギョッとするようなものが感じられない。
 断続的に曲が流れ、思い出すままに挙げてみると(記憶違いもあるかもしれないが)、山口百恵「横須賀ストーリー」、石原裕次郎「嵐を呼ぶ男」、沢田研二「TOKIO」、GLAY「彼女の”Modern…”」、CRAZY KEN BAND「1107(イイオンナ)」、Ego-Wrappin’ 「くちばしにチェリー」、加山雄三「君といつまでも」などなど。昭和・平成歌謡というくくりなのか、懐メロ的に耳には心地よく届くが、それ以上の効果や意味はどこいら辺にあるのだろうか? と思ってしまった。
(3月15日19:30 の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 「衣食住(the life)」をテーマにした短編5作品と聞いて、かもねぎショットが結成当初はじめた「生活ダンス」(「婦人ジャンプ」)シリーズを思い出した。後片付け、拭き掃除、洗濯、調理など、主婦の日常動作をダンスにするというアイデアのはしりだった。
 それからふた昔が過ぎて、パセリスが切り取るのは単身男女の暮らし。職場で異性をゲットする「プレゼンテーション」やオカルトばやりの世を写した「呪いの動画」「オートメーション」に時代の移り変わりが見えるけれど、最後のタイトル作「あたりまえのできごと」に、この公演の特徴が良くも悪くも現れていた。
 前出のかもねぎショットは、まじめにやればやるほどおかしさのボルテージが上がり、涙が滲むほど笑いころげて、やがてブーメランのように視線がわが身に戻る。そんなステージだった。パセリスは歌もダンスも楽しい。楽しくなければ始まらないが、あとひとつ、ワサビか山椒のような薬味がほしい。彼女彼らが戻る具体的な生活が-。ウキウキした「行き」と同時に、ドキドキする「帰り」があるから舞台がおもしろいのではないか。軽快で楽しい舞台を目指す人たちが少なくなったいま、もっと磨いて伸びて、大きくなってほしい。
(3月20日14:00 の回)

【上演記録】
パセリス第九回公演「あたりまえのできごと」
王子小劇場(2012年3月15日-20日)
※上演時間は約90分。

作・演出 佐々木拓也
出演:
大石洋子(劇団俳協)
通地優子
佐藤ユウ(中野笑店)
佐々木拓也
辻麻由(ボーナス・トラック)
堀米忍

スタッフ:
【舞台監督】大友圭一郎 小川信濃
【照明】萩原賢一郎(アルティプラノ)
【音響】丹羽康之
【宣伝美術】飯塚美江
【チラシイラスト】3103
【制作】神谷はつき(ファルスシアター)
【企画・製作】パセリス
【協力】アルティプラノ/王子小劇場/(株)ロングランプランニング/劇団俳協/シバイエンジン/中野笑店/ファルスシアター/ボーナス・トラック

*アフターイベント:
16日(金)19:30~終演後:もやもやパセリス劇場版
17日(土)19:00~終演後:もやもやパセリス劇場版
18日(日)15:00~終演後:もやもやパセリス劇場版

※託児サービス
3月17日(土)14:00開演の回 イベント託児・マザーズ 0120-788-222
要予約 0・1歳児/2000円 2歳以上/1000円

チケット(前売り日時指定・全席自由席)
前売:2500円、当日:2800円
学生:1500円(学生証提示)
※Twitter割引:Twitterで「パセリスなう。」とつぶやいた画面を受付に見せるだけで200円割引。
※みんなで見ればお得割:3名様以上の予約で一人のチケット料金を2200円に割引(学生は適用外)
※「なんにもゆるしてあげない」半券割引:パセリス第八回公演「なんにもゆるしてあげない」の半券で500円割引。
※リピーター特典:当公演の半券で2回目以降980円。
どの割引も併用可能。

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