劇団しようよ「ガールズ、遠く-バージンセンチネル-」(クロスレビュー挑戦編第27回)

「劇団しようよ」は、作家・演出家・俳優の大原渉平と、音楽を担当する吉見拓哉を中心に結成。「団体名のぱっと見のダサさによって印象に先手を打ち、劇場にてそれを覆すように努めながらも、覆さないまま晒すかのように見せかけて、実はきっちり覆すのかもしれない」(劇団HP)そうです。今回の作品は、2011年7月から路上を中心に展開してきた《4のつく日のパフォーマンス》『ガールズ、遠く』の劇場完結版。「総勢11人の出演者が蝶のように舞い、蜂のように刺す70分」と述べています。どのような公演だったのか。レビューは、★印による5段階評価と400字コメント。掲載は到着順。末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)

森山直人(京都造形芸術大学教授、演劇批評、現代演劇論)
★★☆(2.5)
 「きっとこの芝居を作った人たちは、ただ心の底から泣きたかっただけなのだろう」ということは強く伝わってくる作品である。不穏なたとえが許されるなら、ここでは主役級の役者たち(男子)は自傷行為のように泣きじゃくる(ストーリーの上でも号泣と去勢は完全に重ね合されている)。その意味ではとても痛ましい。痛ましいがやはりそれは「少年の心の叫び」の域を出るものではなく、一本の表現=作品としては自立していない。一人の少年が生まれてから死ぬまでの成長過程を普遍的な視点でとらえようとするドラマツルギーは柴幸男に似ているが-私は柴を評価しないが-、テクニックの自立性という点ではままごとの方が上である。コロス的役割を果たす役者たちが手にする小型ハンドマイクや、登場人物の内面の動きになど一切共感することなく仕事しつづけるムーヴィングライト、それに生演奏などは、もう少し自覚的に使えば効果が倍増しただろう。
(4月17日19:00の回)

水牛健太郎(ワンダーランド編集長)
 ★☆(1.5)
 たとえば漱石の『夢十夜』の第三夜は文庫本で四ページに満たないが、数万字に及ぶ批評や分析が行われてもなお、語り尽くされない。小説は、単なる単語や文章の集合以上の、独自の生命(比喩だが)を持つ構造体だから、このようなことが起きる。演劇も同じ。セリフや演技の集合以上のものである。
 この作品は、強すぎる観念の壁に阻まれて目の前の女性と「出会う」ことができない男を主人公にしている。作品そのものにも同じ病がある。この頭でっかちな作品が出会い損ねているのは「劇」というものだ。よく練られた言葉、身をよじって心の苦しみを訴える役者。それらをいくら集めても、「劇」はそこに立ち上がらなかった。
 音楽との関係も難しい。表現者として二本の脚で立っているギタリスト吉見拓哉に、作品自体が依存してしまっていると見えた。作・演出の大原渉平は独り立ちを真剣に考えるべきだ。
(4月28日15:00の回)

中西理(演劇批評誌「act」編集長、演劇舞踊批評、ブログ「中西理の大阪日記」)
 ★★★
 劇団しようよは悪い芝居などに俳優として参加している大原渉平の主宰する劇団。ただ現在メンバーは大原と今回も生演奏で音楽を提供した吉見拓哉だけなのでプロデュースユニットと考えた方がいいのかもしれない。「ガールズ、遠く」は実は大原と吉見の2人が毎月4がつく日(4日、14日、24日)に路上パフォーマンスとして行ってきた路上パフォーマンスの集大成的な公演となった。
 性に対する葛藤があからさまに語られるなど内容があまりにも「中2病」じみていて、最初はちょっとついていけないような気分だったが、終わりまで見ると見ごたえがあった。大原自身の分身を思わせる「僕」という男が登場して、生まれてすぐから老齢になるまで人生の時々の「僕」に「僕1」「僕2」などと名を付けて、何人もの俳優が演じ継いでいく。こうした手法はマームとジプシーやままごとといった東京のポストゼロ年代の劇団との共通点を感じさせポストゼロ年代特有の特徴を共有している。ただ一方でセリフは拡声器を使っているが、それがどういう効果を生んでいるのかいまひとつはっきりとはしない。おそらく、路上パフォーマンスとしてやっていた時には必要だった演出が残っているのだと思われたが、そのあたりは先に挙げた東京の劇団とくらべ稚拙さが目立つのも確かで発展途上の感が強かった。
(4月28日15:00の回)

【上演記録】
劇団しようよ 「ガールズ、遠く-バージンセンチネル-」
京都・東山青少年活動センター創造活動室(2012年4月26日-30日)

【出演】石原慎也 西村花織(月面クロワッサン) 玉城大祐(劇団発泡鉄) 出村弘美 宗岡ルリ 脇田友 地主辰生 井戸綾子 阿部潤(イッパイアンテナ) / 大原渉平 吉見拓哉

【策・演出】大原渉平(劇団しようよ)
【音楽・演奏】吉見拓哉(劇団しようよ)
【ドラマトゥルク・制作】稲垣貴俊
【舞台監督】稲荷(企画集団FRONTIER)
【音響】中野千弘(BS-Ⅱ)
【照明】西崎浩造(キザシ)
【舞台美術】小西梨絵
【宣伝美術】田佐印子(劇団しようよ)
【WEB】田中誠人 桑折慧 【演出助手】住川愛
【衣裳】宗岡ルリ
【フライヤー写真】(表面)鈴木トオル (裏面)山口真由子 (役者写真)田佐印子(劇団しようよ)
【制作協力】坪井梢 成田果央
【共催】(財)京都市ユースサービス協会
【製作】劇団しようよ
【協力】イッパイアンテナ 月面クロワッサン 劇団発砲鉄 企画集団FRONTIER キザシ BS-Ⅱ 東山青少年活動センター

◆アフタートーク/ゲスト(敬称略)◆
26日(木)19:00 … 杉原邦生[KUNIO]
27日(金)19:00 … 作道雄・丸山交通公園[月面クロワッサン]
28日(土)15:00 … 出演者トーク・大原渉平欠席裁判
28日(土)19:00 … 岡田太郎[悪い芝居 / Jamokashi / Rude Stompers]
29日(日)11:00 … 中谷和代[劇団ソノノチ]
29日(日)15:00 … ピンク地底人3号[ピンク地底人]
*30日(月・祝)13:00の回はアフタートークなし

前売1000円 当日1300円◎ プレビュー公演800円
過去公演映像上映会 500円
27日15時…劇団しようよvol.2『茶摘み』
28日11時…劇弾ジャスティスアーミー最終撃『亡骸達の都市伝説』

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