◎コンセプトは「ことばの彼方へ」 F/T12が10-11月に
東京からの文化発信を目指す第5回フェスティバル / トーキョー(F/T12)の記者会見が9月12日、リニューアルオープン間もない東京芸術劇場で開かれた。今回は主催12演目、公募11演目を含む内外の多彩なプログラムによって、「震災復興の糧となる新たな想像力を生み出し、国際都市トーキョーから再び世界へと、東京ならではの創造性を発信」(「開催趣旨」)するという。会期は10月27日から11月25日までの約1ヵ月間。東京・池袋を中心に開かれる。
F/T12のコンセプトは「ことばの彼方へ」。「震災以降、おびただしいことばがリアルやネット空間に広がり、私たちの感覚を覆い尽くした」と言うプログラム・ディレクターの相馬千秋さんは、「ことばを軽視する意味ではなく、演劇の重要な要素である言葉、『演劇のことば』を手掛かりに、氾濫することばの中に埋もれている声に耳を澄ませ、震災後の新たなリアルに向き合いたい」と述べた。
昨年のコンセプトは震災直後の衝撃を受けて「私たちは何を語ることができるか?」だったが、今年はさらに一歩進んで「新たなことばによって不確かな現実をつかみ直したい」としている。
主催プログラムでは、オーストリア出身のノーベル賞作家、エルフリーデ・イェリネクを特集し、三作品が連続上演される。震災や原発事故に呼応して書き上げられた戯曲『光のない。』は地点の三浦基、『光のないⅡ』はPort Bの高山明による演出。そして第二次大戦終結直前、パーティーの余興に200人のユダヤ人が虐殺されたという史実に基づく『レヒニッツ(皆殺しの天使)』は、イェリネク作品をしばしば手がけているスイスのヨッシ・ヴィーラーが演出する。
【写真は、F/T12 記者会見から。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】
そのほか、ブログやツイッターを駆使するなど多彩な上演形態を試みるマレビトの会『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』、昨年の公募プログラム『ツァイトゲーバー』を高く評価された村川拓也の『言葉』、宮澤賢治の詩「原体剣舞連」(詩集『春と修羅』)にインスパイアされた勅使川原三郎のダンス『DAH-DAH-SKO-DAH-DAH』の再演。また、6年ぶりとなるポツドールの無言劇『夢の城―Castle of Dreams』、クリエーションの場を韓国にも置き、自ら未知の隣国との出会い、対話を図った岡崎藝術座の新作『隣人ジミーの不在』など。
海外作品では、ジャン・ミシェル・ブリュイエール / LFKs(フランス)『たった一人の中庭』、メヘル・シアター・グループ(イラン)『1月8日、君はどこにいたのか?』、クレタクール(ハンガリー)『女司祭―危機三部作・第三部』、グリーンピグ(韓国)『ステップメモリーズ―抑圧されたものの帰還』。
また、その範囲をアジア全域に広げた公募プログラムは180件もの応募があり、インドネシア・中国・台湾・韓国・シンガポールらの11作品が選出された。国内からは、ジエン社、ピーチャム・カンパニー、ヒッピー部、重力/Note、集団:歩行訓練の5団体が公演する。
連携プログラムとして、NODA・MAP『エッグ』ほか6つの舞台作品、池袋の街に多数の人たちのパフォーマンスを繰り広げる『F/T モブ』、シンポジウムや テアトロテークなど多彩な企画も用意されている。
プログラムの説明に先立ってあいさつした実行委員長の市村作知雄さんは「今年のプログラムを決める話し合いの中で、芸術表現における性的表現がどうあるべきかについて時間を割いた」と述べ、「芸術表現における性的表現を規制しようとする動きには反対する。法律には従うけれども、日本ではむしろ場内よりも場外に、街の中に、露骨な性的表現が氾濫していることの方が問題ではないか。ヨーロッパなどは逆なのに」と語っていた。相馬ディレクターも「いつも打合せにない市村発言にはきりきり舞いさせられる」と場内の笑いを誘いつつ、「芸術表現と社会的規範が緊張関係になることはよくある。表現がどこまで迫れるか、いつもギリギリの線を考えながら進めるべきたと思うし、そうしている」と述べた。
今回、公募プログラムに選ばれた団体(バナナ学園純情乙女組)が5月公演中に観客とトラブルを起こしたことなどから結局、参加取消しとなった。これらの発言はそのプロセスで「芸術表現における性的表現」が内部討議されたことを反映しているのかもしれない。
その後開かれたキックオフ・フォーラムには、神里雄大、高山明、松田正隆、三浦大輔、三浦基、村川拓也の各氏が参加。作品をめぐってことばを交わした。
“隣人”をテーマにする神里さんは、海外で物取りに迫られ散々な目に合った体験をリアルに語り、三浦大輔さんは、今作は性描写の過激さがことさら強調されるが、わかりやすくポップな作品なので、そんなに恐がらないで来てくださいとアピール。松田さんはタイトルにもあるアンティゴネーについて、死者に向かうことばや眼差しを持ち、今われわれがやろうとしていることにつながりがあるのではないかと語った。
高山さん、松田さん、三浦基さんの演出助手を務めたことがあるという村川さんは、震災後の失語状態から対話劇を考えたが、準備のための取材をまとめても「弱っちいことば」しか出てこなかったという。今回の舞台では、手話者・要約筆記者を伴い、その弱っちいことばの共有を試みる。
三浦基さんは、自分が舞台を見る際もことばが聞こえてこないし、それは、この国では演劇は社会制度を変えられないということだといい、イェリネクのように外国の最高水準のものを持ってきても、それを流布するといったことはできない、だから寺山修司がいうように街に出なくてはいけないが、自分はこの中でも福島に行かないタイプの人間であり、不利ではあるが劇場にいることを選択して歴史を考えたい、と述べた。
最後に、高山さんがこんな話を披露した。ドイツの黒い森の中の修道院に無言の行がある。修道士たちに唯一許されたゲームは、2チームに分かれ、たとえば都市や果物の名前などを書き上げて数を競うという単純なもの。それを聞いて、自分が作りたい作品はそういうものだと感じたという。また、非日常的時空間を立ち上げるのに、麻薬を打って劇場に入れば何でも面白いのだという問いかけに対する答えは、まだ出てこないと。
こうしたやり取りが、互いのズレを安易に噛み合わせることなく時間いっぱい続き、各作品の構想の独自性をも思わせた。
F/Tは東京芸術劇場など池袋界隈の文化拠点を中心に開催する国際的な舞台芸術フェスティバル。東京都や東京都歴史文化財団などが「世界的な文化創造都市・東京」を目指して2009年2月にスタート。これまで観客は累計22万人を超すという。内外から集まる先鋭的なラインナップと参加型プログラムが話題を集め毎年開催されてきた。昨年からアジアに目を向けた企画、プログラムが始まっている。
(編集部)
【参考情報】
・プログラム、公演日程などの詳細は、F/T12 webサイトで >> http://www.festival-tokyo.jp/
・F/T12公募プログラム 「バナナ学園純情乙女組」参加取消しの決定について>> http://www.festival-tokyo.jp/news/2012/07/ft12-koubo0702.html
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