東葛スポーツ「ビート・ジェネレーション」(クロスレビュー挑戦編)

「ビート・ジェネレーション」公演チラシ
「ビート・ジェネレーション」公演チラシ

 「東葛スポーツ」は金山寿甲(カナヤマ・スガツ)によるソロユニット。2007年から活動を始め、ヒップホップカルチャーの影響を受けた作風だそうです。今回の第5回公演は「ケルアック『路上』も、ギンズバーグ『吠える』も、バロウズ『裸のランチ』も、完読する事なく書棚にリリースした東葛スポーツなりの『ビート・ジェネレーション』」(同サイト)。どんなビートやカルチャーが飛び出すのでしょうか。出演者の顔ぶれにも注目ですね。レビューは★印と400字コメント。掲載は到着順。レビュー末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)

佐々木敦(批評家)
 ★★★
 二度目の東葛スポーツ。オチが衝撃的だった前作に較べると、物語的要素は更に薄め。ヒップホップへのリスペクトに加えてビートジェネレーションへのこだわりが延々と述べられるのかと思いきや、なぜかいきなり「4分33秒」とか出てきて謎なような分かるような。演劇の役者たちが無理矢理ラップをするという、考えてみたら相当倒錯的な趣向にすべてが込められているところがあるが、上手くないなりに温かく見守る的な雰囲気が次第に生じてくるから不思議。やや冗長なのと、シーンの繋ぎがぎくしゃくしてるのを直せば、もっと締まってくるのだろうが、あんまり格好良くキマってしまっても、なんか違うような気もする。ただラストはもう少し盛り上げてくれたりしてもいいかもしれない。本気じゃない感を意識的に狙ってるのは確かだが、アイロニーをもっと極めるか、パフォーマンスの精度をよりアゲてゆくべきか、次作あたりが勝負になりそう。
( 9月23日 14:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★★
 何が、なんで面白かったのか、ずっと考えているがよく分からない。だけど面白かった。という時点でレビュー失格。申し訳ないです。
 広いオープンスペースに、ビールケースでできたかなり高さのある島様物体があり、マッチョな男性が上に乗り、寛いでいる。受付をしていた男性二人が手提げ金庫を下げて来て、位置につき、開演。ロウソクを灯してインスタレーションなどしていた女性二人がどうも飛行機に乗っているようである。江戸の道の解説。死神と自由の女神(先の筋骨隆々氏)のラップ対決。ラップって、歌舞伎の外郎売みたいだ。落語「死神」のオチのところを、さっきの死神と、MCをしていた男性が演じる。鬼コーチ(♀)が自由の女神(♂)とMC(♂)にフレンチキスの特訓をさせる。関連がありそうななさそうな映像・画像が背景に次々に現れる。そしてみんな元ネタがあったことが、終演後、映像で明らかになる。こんなのをいくら書いてもちんぷんかんぷんだろう。でも面白かった。びっくり分で★多め。
(9月22日14:30の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 終演後、ネタ元である立川談志の噺や「オレたちひょうきん族」などの映像が流れる。ああ成程~と納得するが、これまでありそでなかった一粒で二度美味しい仕掛けだ。出演者も、これで面白くなかったら詐欺でしょ、というくらいの曲者揃い。
 イントロでは、ダンスっぽい「インスタレーション」のバックに、歴史的瞬間や人物の写真が映し出される。林立するハーケンクロイツの旗、暗殺直前のケネディ、チェ・ゲバラ、月面着陸、大統領に就任したオバマetc. 舞台前面に並べられた小さなキャンドルに火を灯していくのが、ありがちな鎮魂のパフォーマンスのパロディとは言わないまでも、どこかをくすぐられる感覚。その後、自由の女神 VS 死神のラップ合戦、鬼コーチに指導を受けての男同士のキスなどのコントが続く。機内アナウンスを係員がラップでやり乗客の喝采を浴びるという、実際にあったことらしき映像。それに連動するかのように、女二人が椅子に座っていたのは実は飛行機の座席で、それもツインタワーに突っ込む寸前のというシチュエーションに持ち込む―。
 大文字の歴史を今の身体で捉え返して笑い倒す、とはいえ日常に刻み込まれた歴史は確かにあったんだよネ、という往復をさりげに感じさせるセンスは絶妙!
(9月22日14:30の回)

齋藤理一郎(会社員 個人ブログrclub annex
 ★★★★
 開演前は雑然とした印象の舞台、冒頭の「インスタレーション」が醸し出すものにいきなり心を染められるが、すぐにその裏側が晒されて舞台に次々と重なっていく様々なニュアンスに埋もれていく。前半は、描かれるものが、脈絡ない可笑しさの羅列に感じられる。
しかしながら、個々のシーンの演技や映像の重なりに観る側の興味を舞台に繋ぎとめる切れがあり、やがて「黄金餅」の言い立てあたりでこの舞台がコラージュしているものの意図やそのクオリティに気付くと、シーンの一つずつが冒頭の記憶にまで遡ってとてつもなく面白くなる。
 演劇、落語、TV番組、音楽や事件、元ネタ全ての知識はなかったが、そもそも作り手のセンスで抽出されたネタ自体に面白さやインパクトがあり、剽窃の態を表現へと塗り替える作り手の創意やそれを支える役者たちの圧倒的な技量は原典のスピリットや質感を新たな切っ先を持った笑いへと昇華させて。後半にはシーン間のつながりも生まれ、間が冴え、ラップが踊り、映像が作りこむ舞台のリズムにも取り込まれて。荒々しく舞台に引き入れられるような感覚はなかったが、気がつけば、静かにドップリと嵌っていた。
終演後の元ネタ開示の工夫も、表現の秀逸さをさらに際立たせていた。
(9月23日 14:00の回)

藤原ちから/プルサーマル・フジコ(編集者、BricolaQ主宰)
 ★★★★★
 「松村翔子によるインスタレーション」とその「それっぽさ」を佐々木幸子が揶揄する冒頭は要するにソーカル事件(*ググるべし)。ジョン・ケージの「4分33秒」を引き合いに出しつつ、観客の勝手な深読みや、アーティスト気取りのまがい物などを大胆不敵にディスり出す。とはいえ安易な「メタ視点」に留まらない張力(?)に好感を持った。
 主宰・金山寿甲の手つきはまるでDJかVJ。あらゆるアイデアがバカバカしいけど、かなりハイレベルな知識とユーモアに裏打ちされている。過去のサブカルチャーの様々な断片を、くだらないデタラメなものまで含めて併呑し(←ここ重要!)、ほとんど神話の域にまで高めてしまうアクロバティックな胆力(篠原正明のギリシャ的肉体美も貢献、笑)。ヒップホップのライムやビートに載せていく鮮やかな話法も楽しい。レフェリー・森翔太がジャッジする自由の女神vs死神のビーフ(ディスり合い)とか最高でしたわー。
 終盤、彼らはオチを探し始めるが、9.11の映像も、首をくくる案も却下される。殺すことも死ぬことも許されないのだ。そして行き着いたのは「オレたちひょうきん族」最終回の饗宴(1989年)! なるほど「ビート」で全ては繋がる(笑)。ふざけてるけど、本家と同じくヴィヴァルディの「四季」をちゃんと流すなど、その模倣(本歌取り)は丁寧でリスペクトに満ちたものだ。様々なタレントたちの名前が流れていく23年前のエンドロールを見ていると、2012年の日本に生きるわたし(たち)のルーツを眺めているような敬虔な気持ちになった。
 この突き抜けた挑戦と挑発とデタラメな遺伝子の継承に敬意を表して★5つで。「演劇」っぽい慣習に囚われない劇場空間の設計もよかった。できれば東京の好事家のみに喜ばれるマニアックな方向に流れず、いつか超満員のオーディエンス総立ちの凄いスケールの作品をつくってほしいです。
(9月23日 14:00の回)

【上演記録】
東葛スポーツ第5回公演「ビート・ジェネレーション」
原宿・Vacant(2012年9月22日-23日)
出演
 松村翔子(チェルフィッチュ)
 佐々木幸子(野鳩)
 篠原正明(ナカゴー)
 森翔太(ex悪魔のしるし/ロマンス教室)
 堀口聡
脚本 金山寿甲
演出 金山寿甲
照明 椿昌道
チラシデザイン、音響、映像、制作 金山寿甲
料金 1,500円

「東葛スポーツ「ビート・ジェネレーション」(クロスレビュー挑戦編)」への4件のフィードバック

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