地点「はだかの王様」
レイジーブラッド featuring Reykjavík!「The Tickling Death Machine」
杉原邦生/KUNIO 「更地」
劇団競泳水着「リリィ」

◎台風一過―KYOTO EXPERIMENT2012報告(第2回)
 水牛健太郎

 以前どこかで書いたけれど、身分というのは演劇そのものである。「この人は王様だ」という「お約束」の上にすべてが築かれ、それが否認されるや王冠は奪い取られる。「身分は演劇だ」というのは比喩ではない。ただの事実だ。だっ
て、誰かが誰かより、「生まれつき高貴である」なんて、現実じゃありえない。お芝居の設定以外の何だと言うのか。それが一国を挙げての大掛かりなものだったとしても、お芝居に違いはない。

 「はだかの王様」というお話の鋭さは、身分というもの(というか、ありとあらゆる「AさんはBさんよりも偉い」)の演劇性というものを、容赦なく暴いてしまうところにある。一見のんきな寓話のようで、その刃はすべての虚飾を切り裂く。
誰の身の周りにも、一人や二人、「はだかの王様」にたとえたくなる人がいるのではないか。会社の上司とか。劇団の主宰とか。や、特定の劇団の話じゃないですよ、もちろん。

 さて、地点の「はだかの王様」は、もちろん最初からお芝居の王様である。王様(小林洋平)は気弱な表情で、リンゴを頭の上に乗せて、「りんごの唄」を歌っている。そんなにわるい人じゃなさそうだ。着飾ってはいるが、ちょっと哲学者っぽくて、人間はみなはだかだ、というようなことも言うのだった。この人は個人的に、そんなにはだかの服が嫌でなかったようで、ニュータイプのはだかの王様のようだった。

 改めて言うまでもないかもしれないが、地点の俳優さんはみな上手い。童話らしくくっきりした、おかしみのあるキャラクターを嬉々として演じているようすが、見ていて楽しかった。詐欺師を演じた安部聡子と石田大の何とも言えない怪しさは最高だった。石田が大げさな身振り手振りで盛り上げるのに対し、安部は存在自体から怪しさが匂ってくるような演技で、好一対となっていた。

*

 レイジーブラッド featuring Reykjavík!『The Tickling Death Machine』の会場のMETROというのはライブハウスというのか、クラブというのか。場違いな居心地の悪さを感じながら、待つことしばし。始まってみたら、これは要するにライブだった。しかし、これがKYOTO EXPERIMENTの演目であることは何となく納得させられるものがあった。歌手の女性(エルナ・オーマスドテル)が、たいへんパフォーマー体質で、自意識のありかが、ふつうのミュージシャンとは違っていたのだ。

 彼女は歌そのものというよりも、「歌を歌う自分」を表現手段としている。歌はかなりうまいし、本格的なミュージシャンとそん色はない。彼女はスピリチュアル傾向の憑依系の歌手である。「悔い改めよ」とか「新しい次元へ行こう」とか言う。そう叫びながら、首を激しく振ったり、のどがかれそうなほどシャウトしたりし、床に転がったりもする。

 彼女はそういうキャラを、明らかに演じている。自分のパフォーマンスを見つめ、コントロールしている冷静な意識が見えるのだ。だからといって、そこに真実が宿らないわけではない。まさに、俳優やダンサーのパフォーマンスと同じことである。ふと隣を見ると、目を閉じて、「新しい次元に行こう」という呼びかけに答えようとしている観客もいた。

 後で当日パンフを見ると、エルナ・オーマスドテルはアイスランドでは知られた振付家だということだ。杉原邦生/KUNIO の『更地』を見たときに、隣の席にそのエルナさんが座っていた。言うまでもないが、全くふつうの人のようすであった。話しかけて「昨夜は面白かったです」みたいなことを言ってもよかったのだろうが、それも照れくさいし、結局何も言わずに済ました。

*

 「更地」は太田省吾の代表作ということで、読んだことはないけれど、今回の公演から見るに、だいたいこんな話だ。

 中年の、既にハイティーンの子供のいる夫婦の話。長年住んでいた家が取り壊されて、更地になったところを、二人で訪ねて昔の思い出に浸る。仲がいい。しかし、二人の間には、これからの人生を共にするかどうかを真剣に考えているような、かすかな、しかしかなり深刻な、危機の気配が感じられる。「更地」というのは、子育てがひと段落し、老年に差し掛かるにあたって、いったんここらで白紙に戻し、区切りをつけて、さあ、これからどうしましょう、というような寓意。やり直すも自由。別れるもまた、自由だ。

 杉原邦生の演出は、なめらかで工夫があって、色々面白いものだった。でも最後はけれんに過ぎた。虹の七色は目にまぶしすぎる。そこからは、もう始められない。この感じを正当化する理屈はない。50歳になっても、60歳になっても、きらきらしたいと思う人はいる。今はたくさんいるだろう。みんな若くありたい世の中だ。何歳になっても、青春&ドリーム、ラブ&ピース。けっこうな話。ただ、私はそうじゃないというだけだ。

*

 本当は小学校の音楽室で、黒板には五線譜の黄色い線が入っていた。それを除けば、美術教室としての見立ては完璧だった。思いや情熱を長年吸いこんできた空間だけが持つ、透明でどこか切ない空気。劇団競泳水着『リリィ』は、その中で演じられるにふさわしい作品だった。

 芸大を志望する女子高校生。美術予備校の若い女性教師。女子高校生は教師に淡い恋情を抱く――。水彩のようなタッチで、ストレートに描かれているが、さりげなくうまい。十二浪のマサオさんのエピソードも、おかしくてそれでいて爽やかだった。台風の中、出かけたかいがあった。いい作品を見せていただいた。

【著者略歴】
 水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランド編集長。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。東京大学法学部卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。2011年4月より京都在住。元演劇ユニットG.com文芸部員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ma/mizuushi-kentaro/

【上演記録】
地点『はだかの王様
公演日時 9月22日(土・祝)~ 26日(水)

対象年齢 5歳~
チケット料金
一般      前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
ユース・学生  前売 ¥2,500/当日 ¥3,000
シニア     前売 ¥2,500/当日 ¥3,000
子ども     前売 ¥1,000/当日 ¥1,000
※ユースは25歳以下、シニアは65歳以上、子どもは5歳~高校生
※全席自由
会場:京都芸術センター 講堂
【原作】 ハンス・アンデルセン
【脚本】 戌井昭人
【演出】 三浦基
【出演】 安部聡子、石田大、窪田史恵、河野早紀、小林洋平
【舞台美術】 杉山至+鴉屋
【照明】 藤原康弘
【音響】 堂岡俊弘
【衣裳】 堂本教子
【舞台監督】 大鹿展明
【宣伝美術】 納谷衣美
【制作】 田嶋結菜
【製作】 地点
【共同製作】 KYOTO EXPERIMENT
京都芸術センター制作支援事業
【助成】 芸術文化振興基金、EU・ジャパンフェスト日本委員会
【主催】 合同会社地点、KYOTO EXPERIMENT

レイジーブラッド featuring Reykjavík!『The Tickling Death Machine
9月26日 (水)  21:30-
  27日 (木)  21:30-
※18歳未満、高校生入場不可
チケット料金
一般      前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
ユース・学生  前売 ¥2,500/当日 ¥3,000
シニア     前売 ¥2,500/当日 ¥3,000
※ユースは25歳以下、シニアは65歳以上
※ドリンク代¥500別途
※オールスタンディング
公演場所:METRO
【構成】 エルナ・オーマスドテル、ヴァルディマール・ヨハンソン
【音楽・脚本・振付】 レイジーブラッド、Reykjavík!(ヴァルディマール・ヨハンソン、オーアス・ハルグリムソン、ヘイクル・マクノソン、クリスチャン・フレール・ハルドソン、アオスゲル・シーグルソン、グエムントゥル・ビルギル・ハルドソン)
【音響】 リーヴェン・ドゥセラール
【照明】 シルヴァン・ラウサ
【制作】 エスター・ウェルガー・バルボザ、ア・シャララ・プロダクション
【共同製作】 クンステンフェスティバルデザール、コーパヴォグル町
Thanks to The National Theater of Iceland, our mothers and fathers, KIMI Records and Reykjavik Loftbru
【主催】 KYOTO EXPERIMENT

杉原邦生/KUNIO KUNIO10『更地
9月27日(木)~30日(日)
チケット料金
一般       前売 ¥2,500/当日 ¥3,000
ユース・学生   前売 ¥2,000/当日 ¥2,500
シニア      前売 ¥2,000/当日 ¥2,500
小・中・高校生  前売 ¥1,000/当日 ¥1,000
※ユースは25 歳以下、シニアは65 歳以上
※全席自由
会場:元・立誠小学校 講堂
【作】 太田省吾
【演出・美術】 杉原邦生
【出演】 武田暁(魚灯) 、大窪人衛(イキウメ)
【舞台監督】 大鹿展明
【照明】 魚森理恵
【音響】 齋藤学
【衣装】 植田昇明(kasane)
【宣伝写真】 堀川高志
【宣伝美術】 外山央
【Web】 ヨシダホーセー
【演出助手】 土屋和歌子
【演出部】 楠海緒
【制作】 小林みほ
【協力】 イキウメ、エッチビイ、魚灯
【製作】 KUNIO
【共同製作】 KYOTO EXPERIMENT
【主催】 KYOTO EXPERIMENT

劇団競泳水着リリィ
脚本・演出|上野友之
出演|細野今日子 川村紗也 ほか
9月28日(金)~9月30日(日)
会場:元・立誠小学校 音楽室

チケット料金
前売・当日|2500円
高校生以下|無料(枚数限定・要予約・劇団のみ扱い)


「地点「はだかの王様」
レイジーブラッド featuring Reykjavík!「The Tickling Death Machine」
杉原邦生/KUNIO 「更地」
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  1. ピンバック: 薙野信喜

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