第14帝國「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」

◎帝國は若者の郷里たりうるか
 馬塲言葉

第14帝國公演チラシ
第14帝國 公演チラシ

 ラフォーレ原宿といえば、個性的な若者の集まる原宿のシンボル的存在でもあり、ビル内にある決して大きくないミュージアムは、展示場、ライヴハウス、そして舞台へと頻繁にかたちをかえる。そんな場所で、毎月演目をかえながらの七ヶ月連続公演まっただ中にある劇団第14帝國を観劇した。台風にみまわれ交通機関の運行もままならない九月最終日、満席ではない、ささやかでどこか密やかな空間でも、オープニングのシンプルな演出、その迫力に衰えは感じられなかった。オンブラッタ。スピード感のある曲名からそう名付けられた、リズムにあわせた力強い旗振りだ。男性のみで構成された劇団ならではの無骨さと、複雑な繊細さを最大限に生かしたものである。

 第14帝國の出演者は全員が軍服着用、その名の通り、第14帝國という架空の世界を舞台にしている。全員が軍人ということからも予想はつくが、この世界にはつねに国同士の戦いがある。とするとどんな深刻な物語なのか、と思われるかもしれないが、基本的には非常にフランクに、時にコントや一発芸ともとれるやり取りを重ねながら、舞台は進んでいく。これだけ要素の多い物語は、老若男女問わず、と言うよりは、恐らく一定の知識と感覚―と言ってもごく一般的なもの―を持ち合わせた若者向け、という印象がある。どこへ行き着くのかと途中はらはらさせられるのだが、最後にはきちんと本来のコンセプトにたどり着くよう入念に練られているので、できればひとつひとつの小さな要素を拾っていけるのが理想である。

「物質世界の臣民諸君よ、精神世界、我が第14帝國にその身を置きながら物質世界に縛られた哀れな臣民諸君よ、全てが今宵はじまり全てが今宵終わる。全てが無であり無が全てである。」

 冒頭、脚本と演出、主演をこなす楠本柊生氏が決まって高らかに叫ぶ決まり文句である。舞台を含む全ての芸術とは本来そのようなものであって、故に現在まで衰えることなく続く数々の表現がある。近年、特に音楽業界、演劇業界というものが衰退の一途をたどっているのではないか、と感じられても無理のない状況が現実にある。奇をてらえば一時の注目は得られるが、第14帝國は、こういったかたちを貫いたまま二十年の時を乗り越えてきた劇団だ。目に映らない底力というものは、そんなところから湧き出るものかもしれない。

 戦闘に明け暮れる第14帝國最強の軍隊、ライヒス・リッター。ある時、地図に載っていない城を数人の軍人が発見する。城内では、常識では考えられないような出来事が連発し、恐れを感じた彼らが城を去ろうとすると、その中のひとり、少佐の地位にある男に謎の仮面がついてきてしまう。この仮面というのが、実は、訳あって、帝國元帥である楠本氏自身が銃殺しなければならなかった古い友人の亡霊なのだが、大阪弁で軽快に人々を騙し、帝国を混乱させていくのである。と書くと非常に重々しい話に聞こえるかもしれないが、そこはやはり「精神世界」。私たちが日頃眠っているあいだに見た夢というのは、目が覚めればおかしなところがたくさんあって、とうてい理にかなわないものだが、夢の中にいる時はなぜか疑問をもたず、自然に感じてしまう。

 同様に、前述のような状況でも、支離滅裂な笑いの絶えない芝居が続く。ある者は仮面の口車にのって仮病で任務をずる休み、ある者は仮面を教祖と信仰し、お布施としてクレジットカードまで渡してしまう、ある者は仮面の物まねを見破れず、元帥はしどろもどろになりながら刃に追われるなど、テンポ良く物語は佳境へと向かう。非現実的な世界観を保っていきながらも、こういった場面でのいわゆる「ネタ」は時事物であったり、誰もが知っているなにかのパロディであったり、ある意味非常に俗で、親しみ易いものばかりなのだ。

「幸福というものは、人の不幸の上にしか成り立たないものなのか。それならば、全ての人間の幸福を願うことは欺瞞であろうか」最後、楠本氏の語りによって舞台は終わる。人は幸せになるために生まれてくるという、言い尽くされた言葉が新鮮に響くのも、「精神世界」ならではのことなのではないだろうか。

「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」公演写真1
「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」公演写真2
【写真は「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」公演から。撮影=さわきみのり 提供=第14帝國 禁無断転載】

 今回の演目、元帥がやってくる Yar!Yar!Yar! を観劇するのは実は三度目で、前回は渋谷O-EAST公演であった。14帝國では、その世界観から、いくつかの独特な単語、名称が定着しているようだが、そのひとつが、出演メンバーをリッターと呼ぶことである。リッターは毎回多数が入れ替わるそうで、その度に各リッターの個性を引き出す努力が行われている。ここでは、たとえば「影が薄い」という、本来欠点ともとれる性質までもキャラクターとして確立が目指される。今回フィーチャーされていたリッターがまさにそれで、前回より華々しくはないにしろ、台本にしっくりとくる面白みは充分に発揮されていた。まさに、リッター達の成長、キャラクターとしての定着を全員で支え合っている様に、口元をほころばせる観客も多い。

 14帝國ではその軸に沿って、これまで様々な試みが行われてきたようだが、そのひとつが、他方面で活躍する役者のみならず、ヴィジュアル系ミュージシャンの積極的な起用である。演劇界には音楽界ほど明確なジャンル分けはないと認識しているし、必要もないと感じるのだが、第14帝國をもしジャンル分けするのなら、やはりヴィジュアルシーンにも、劇団としてある種異端の地位を築き、働きかけをしてきたと言える。こういった、本来繋がることのない結びつきは、どちらの観客、ファンからしても一時の戸惑いを生むことがある。しかし、この舞台上では、リッターたちのバックボーンを最大限に生かしたキャラクター作り、演出が行われている。

 多くの方向へ向けて窓を開いており、覗いてみるものは誰でも歓迎する姿勢を崩さない。当然のことながら、役者としての発声、身体表現にはまだまだ充分でない部分も感じられる。毎月行われてきた公演は、十月で一旦間をあけるようだ。ひとつの区切りとなる次回の公演に彼らがどのような成長を遂げているか、一観劇者として見守るものである。

 さて、この舞台の特記すべき特徴として、前半と後半の間に、架空のトーク番組「オールナイト14」が用意されていることだ。舞台の中央にテーブルが運ばれ、そこへ主要リッターが集合する。ボトルからグラスに水が注がれ、和やかな雰囲気で舞台の内容に触れながらトークが展開される。ここでも各リッターの個性を引き出しつつ、前半の内容が自然に整理されていく。豊富な例え話による解説から、買い出し中におこったトラブルまで…。そしてさりげなく、後半注目すべき点を言い残し、舞台本編へと戻る。正直私は最初、蛇足ではないかと感じていたのだが、ここでの会話も自然に行われているようで綿密に準備されているのだろう。しかしそれを感じさせない、本編にはない脱力感が心地よく、観劇に親しみのない者でも気後れせず佳境へ入っていくことができる土台となっている。

「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」公演の写真3
【写真は「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」公演から。撮影=さわきみのり 提供=第14帝國 禁無断転載】

 起承転結、というものがある。例えばハリウッドドラマや、現代もてはやされる物語のほとんどは、悪い意味での力みが強く、「さあ、今日は○○をみるぞ」という気合いや心持ちがないと気疲れしてしまうことが多い。お涙頂戴、ではないが、共感しなければならない、感情移入しなければならない、「あちら側」から「こちら側」への要求が、あまりにも断固としていて、それぞれの捉え方が否定されつつあるように感じる。おそらくそれは、精神は自由だと主張、保証されながらも、いつしか平準化されてしまった、平和な国の人間の、誘導に対する欲求なのだろう。そして、そのような平和があるからこそ、軍隊や戦闘を主に進める舞台が、ユーモラスであって許されるのも事実だ。

 しかし第14帝國は答えではなく、問いかけである。我々がある日二時間の夢を見て、目覚めた後に強要されることがなにもないように、単純に楽しい夢だったと思うもよし、ひとつ考えてみるもよし、否定するもよし、忘れてもよし。夢と違う点といえば、また見に行くことができることだ。さて、少し眠るか。というような、気楽な心持ちで。第14帝國は、彼らが作った芝居でありながら、それを見たわたしたちの心の中に再構築され、はじめて本当の意味での、起承転結の結の部分へとたどり着くのである。

 最後に。この舞台を若者向け、と表現したが、ひとつ疑問が残る。我々人間は、例外なくとしをとるものだ。今、おそらく私は観劇者の中で平均的な年齢と言えるだろう。では、私は何歳までこれを楽しむことができるのだろうか。表現者と、それを見守る者がとしをとる過程というのはおもしろいもので、五年もすると観客はがらりと入れ替わっていることが多い。今の高校生が携帯電話のない不自由さを知らないような、そんな瑣細なことでも、共有できない現実が壁として立ちはだかる。ただ、この劇団に旗揚げからの熱心なファンと、つい最近から通い始めたファンが混在するところを見ると、今までの二十年で、劇団第14帝國は多くの世代の故郷となることに成功しているように思える。これまで以上に急速に変化していく若者世代にどのように対応していくか。それが今後十年、二十年と続く「最強の軍隊」と、「帝國」の尽きることのない課題であり、「臣民」の楽しみでもあるのではないだろうか。

【筆者略歴】
馬塲言葉(ばば・ことは)
 1986年愛知県生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科セノグラフィ専攻卒業、日大芸術学部文芸学科大学院在籍。季刊誌「メタポゾン」にてショートショート発表予定。

【上演記録】
第14帝國 ”ラフォーレ原宿連続式典”「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」
2012年9月29日(土)-9月30日(日)
ラフォーレミュージアム原宿

演出・脚本:楠本柊生
出演:楠本 柊生、夜桜 星丸、真嶋 新、久城 晴人、赤木 龍哉、五十嵐 大輝、和久井 歩、黒崎 蓮、尾藤 誠一郎、甲斐 尊、相馬 希
■チケット
レギュラーシート(自由席)前売¥3,800/当日¥4,300
ロイヤルシート(指定席)前売¥4,500/当日¥5,000

「第14帝國「元帥がやってくる Yar!Yar!Yar!」」への4件のフィードバック

  1. ピンバック: 川光俊哉
  2. ピンバック: たむらゆきこ
  3. ピンバック: トシコ
  4. ピンバック: 川光俊哉

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