空気ノ機械ノ尾ッポ「~ソトへ~」(クロスレビュー挑戦編)

「~ソトへ~」公演チラシ
「~ソトへ~」公演チラシ

 「空気ノ機械ノ尾ッポ」の第1回公演は1997年8月でした。もう十数年の活動歴がある団体です。ちょっと不思議な語感を持つ団体名について「空気ノ機械ノ尾ッポと聞いて、『何にも無関係だけれども、なんだか可愛い…』と感じてくれたら、とっても嬉しい!です」とHPに書かれていました。このあたりに、団体の柔らかな雰囲気が漂っているような気がします。「『夢』がテーマ」という今回はどんな舞台になったのでしょうか。レビューは★印と400字コメント。掲載は到着順。各レビューの末尾は観劇日時です。(編集部)

木俣冬(フリーライター)
 ★★★
 真っ黒の何もない空間の四方を客席が囲む。開演すると、いろいろな色のシャツなどのトップスが吊るされた四隅の暗幕から、11人の俳優が、風のような勢いで出たり入ったりする。はじまりが印象的。電車の中で誰かの意識を、勝手に声に出して読み上げている人がいて、これは人の深層心理の話だろうと思わせる。さらに話が進むと、誰かの「夢」の世界であることがわかる。
 四方に吊るされた正方形、長方形と様々な四角い枠と同じものが時々出てきて、俳優がその中に入ってもがく。縦長の枠がドアになると今度はそこを出入りできるが、あっちに行ってもこっちに行っても結局どこへも行けない。同じ四角い枠を使って、枠から出られない閉塞感からドアを何度くぐり抜けても何もない果てしない恐怖へと変容させた、見立てが面白い。
 俳優は皆、帽子をかぶって出てきて、夢の当事者になる時だけ帽子をとる。ひとりだけ帽子型の仮面をかぶっている俳優が異様さを漂わす。こういう帽子型の仮面を、あまり見たことがなかったので興味をもった。衣裳も美術も当日パンフにクレジットがないが誰のアイデアなのだろう。夢の断片の連なりをパフォーマンスと演劇の間を揺らがせて見せるトライを、衣裳や美術、途中の観客参加などの工夫が助ける。俳優たちの緊張感漲る動きも良かった。
(11月17日15:00の回)

柾木博行(シアターアーツ編集部)
 ★★
 あり得ない組み合わせといった感じの名前をもつカンパニーは今回が初見。実際の舞台も名前同様に、あり得ない組み合わせで展開していくものだったが、残念ながら楽しめるものではなかった。
 ステージ四方には上からドアの枠といくつもの服が吊り下げられている。そこに10名ほどの男女が登場。たまたま出合った人びとは、どうもコミュニケーションが取れず、イライラ、不満が爆発して、それぞれこの場所から脱出しようと、木の枠の“ソトヘ”と向かう…。
 雰囲気としては初期の青い鳥のようなエチュードによる場面をいくつも組み合わせたような舞台で、個々の役者はそれなりに動きにキレもあるのだが、突出したものがないため、あくまでエチュードの組み合わせレベルにとどまっている。芥川の「蜘蛛の糸」などいくつか元ネタはあるようだが、全体を通じての物語性がないだけに、観客としては目の前で起きていることの比較対象を与えられず、しかたなく個々の場面の完成度で評価するしかない。そこで高い評価を受けるためには身体性を高めるか、よほど構成を練る必要があるだろう。
(11月16日19:30 の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★
 駅前広場か公園のようなところに、てんでに座っているたくさんの中のひとりがしゃべり始め、物語が始まる。どうやら何か大きな枠の中に閉じ込められてしまったようだ。行動を縛る水平方向の枠、鏡の中に入って行くような垂直方向の枠。「ソトへ」と向かう登場人物たちは、しかし、どうしても脱出することができない。とぎれとぎれに物語らしいものはあるが、それを辿ることにはあまり意味がなさそうだ。
 会場の四つの壁沿いに作られた客席のすぐ前を、結構なスピードで役者が次々に駆け抜ける。何度も何度も。広い演技スペースでは、たくさんの人が交錯し、もつれ合い、叫び、走る。そのエネルギーには圧倒された。落下の表現なども面白く、話としてはどうやら全体が「夢」だったらしい。なるほどとは思ったが、ひとつひとつの場面の印象がどれも似ていて、今ひとつくっきりせず、あれだけの、走り・叫び・動くエネルギーに対して、あまりにももったいない。(11月15日19:30の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 膝の下でギュッと絞ってあるニッカーボッカーズを、十数人の登場人物全員がはいている。乗馬・登山用的なのからガテン系まで、ニュアンスはさまざま。それだけでもこだわりが強いことがわかるが、後は推して知るべしで、方向性はくっきりしている。舞台を囲む客席の背後の壁には木枠がいくつも掛けられており、さらに中央には、大きめのものが吊られ、上下する。そして役者は、客席ギリギリのスペースまでを、かなりのスピードで駆け回るのだ。
 当日パンフに「今回は『夢』の話です」とある通り、いくつかの脈絡がありそでなさそで…な話が出てくる。キーワードは例えば、木枠の中に入ってしまって出口がわからないとか、質問は何ですか?―何が知りたいかを知ればどこにいるかがわかるとか。オリジナルタイプの不条理劇を作ろうとしているのだろうか。ただ「不条理劇」と感じた瞬間、そのとりとめのなさは鮮度を失いがちなのが辛いところ。
 見せ場は、終盤で中央の木枠を大きく揺らし、次々に出てくる人物たちが、せりふを言いつつそれを捌きながら走り抜ける場面。重量感のある木だし、下部を安定させるための鋭い金属も付いている。小さな気の緩みも怪我につながりそうで冷や冷やドキドキ。制御しきれない動きに負けまいとする身体が、予測不能の反応を示して惹きつけられた。
(11月16日15:00の回)

【上演記録】
空気ノ機械ノ尾ッポ vol.19「~ソトへ~
北千住・ミニシアター1010(2012年11月15日-18日)

CAST:
原 寿彦 / 松川晃子 /高橋清彦 / 今 愛美 / トガミキタ / 大数みほ / 小春 / 桜 拳之助(劇団KIII) / 桜 春斗(劇団KIII) / 松永直子 / 溝田朋代

STAFF:
舞台監督:小菅良隆 /照明:神矢紀子 /音響:前田真宏 /宣伝美術:井手口智人 /制作:空気ノ機械ノ尾ッポ

【タイムテーブル】
11月15日(木)19:30
11月16日(金)15:00、19:30
11月17日(土)15:00、19:30
11月18日(日)15:00 ★キッズデー
★キッズデー ペア(大人1名+子ども)2500円+子ども一人につき500円
※子ども=小学生まで
※受付開始は開演の1時間前、開場は30分前です。
上演時間は約1時間15分。

【料金】
前売券 2500円
当日券 2800円
中・高生券 2000円

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