* クロスレビュー挑戦編はこの回で終了します。
▽水牛健太郎(ワンダーランド)
★★★
疲れていたためかぴんと来ず、でも引っかかるものはあって、脚本を買って読んでみたら、かなり面白かった。簡単に言えば不条理だが、独特の手触りがある。それだけに微妙なタイミングやニュアンスが重要で、演出力と役者の力量が問われるが、どちらも足りてなかった。基礎力がないから、上演の結果が回によってばらついたことも想像に難くない。脚本家としては「持ってる」のに、もったいなすぎる話。「演出はこれから努力しよう」ということでいいのかどうか。俳優は客演で力のある人を連れてくればいいので、演出は他人に任せることも考えるべきだ。
怪優・丸山交通公園は面白いが不器用で、どの芝居でも同じ人に見える。三枚目・脇キャラの怪優は抑えた演技もできなければ。そうじゃないと、主役を食ったり、芝居を壊したりし、結局は邪魔になる。岸部一徳や樹木希林をお手本に、「普通の人」の演技ができるよう努力を。
(12月7日 19:00の回)
▽森山直人(演劇批評家、京都造形芸術大学教員)
★★★☆(3.5)
「人見せ」と呼ばれる怪しげな見世物をめぐる一人の男の〈旅〉物語である。だが、ストーリーの提示にとどまらず、語り自体にかなりのウェイトを置いている。一見語りの時間性は、たんにぬるくてだるく、若手小劇場によくある紋切型と大差なく見えるのだが、演出家はそれを、映画的な画面構成と編集技法-ワンシーン・ワンショットや切り返しショットの効果-を転用することで、統一的な虚構の秩序を構築している。俳優の演技も、どこまできっちりやり、どこまできっちりやらないかを計算し尽くしている(「唐突な叫び声」に頼り過ぎるきらいはあるが)。その意味でなら、極めてよく出来た作品にほかならない。その作家性は、一見シュールでナンセンスな笑いを目指しているようでもあり、意外に正統的な物語を目指しているようでもある。確かなことは、「人見せ」を主題とする本作品が、〈ドキュメンタリー的なもの〉がクローズアップされがちな現代演劇の風潮を巧みに利用しようとしているということだ。巧みに利用すること自体はよい。だが、状況と戯れることで足元を掬われないようにしてほしい。
(12月9日 19:00の回)
▽伊藤元晴(大学生、象牙の空港主宰)
★★★★
作家の作品である。これを作った人にはこういう風に世界が見えているのだろう。コンプレックスを扱うとなると、芥川龍之介の「鼻」は有名だが、合田団地の演出には、「鼻」が大きいことを気にしている人の似顔絵を、わざわざ実物よりも大きく醜く「鼻」を描いて、他の人(観客)に見せびらかすような悪意がある。本人が気にすれば気にするほど、合田が描く「鼻」は大きく垂れ下がるだろう。本人が自分の「鼻」が整っていると過信して、偉そうに振舞えば、尚更その「鼻」は滑稽に描かれるだろう。合田団地の作品世界は、そんな鼻だったり、目、耳、口、手、足、挙動に至るまで、いびつな部分を抱えた人たちがお互いを嗤いながら暮らしている場所に見える。今回の作品は人に「見る/見られる」という感覚の根源に焦点を当てていく寓話だ。その寓話の中で、見せる側の人間として、自らの立ち位置を明確にすることが、この作品の中で残った課題ではなかったか。
(12月8日 19:00の回)
▽安武剛(会社員/演出家)
★★★
劇中にでてきた「普通の中の違和感」という台詞という台詞がこの作品をあらわしているように思えた。
とにかく違和感だらけで不気味な作品だった。なんだかよく分からない「人見世」という単語、つかみどころのないストーリーに演技、一切使われない音響に平台がただ置かれただけの舞台。なんとも観客に優しくない演劇である。これを楽しむためには受動的に観てはいけないと思い、なんかとっかかりを探していたら「普通の中の違和感」という台詞にめぐりあった。ほんのひとことだったけど、これで自分の思考が深まりエキサイティングした。
惜しかったのは公演の内容以前の問題。努力クラブ初観劇だったのでどんな作品を作るのか知らなかった。こういう、考えたほうが断然面白い作品は、パンフレット、ホームページなどの事前情報で観る姿勢を作っていきたかった気がする。それがなかったから放り込まれたような不気味さを体験できたのかもしれないけれど。
(12月9日 19:00の回)
【上演記録】
努力クラブ「旅行者感覚の欠落」
作、演出=合田団地
元・立誠小学校 音楽室(2012年12月77日ー10日)
★終演後トーク
※★8日14:00~:田辺剛(劇作家、演出家/下鴨車窓)
※★9日14:00~:池浦さだ夢(男肉 du Soleil)
料金=前売1200円、当日1700円(初日割引=前売1000円、当日1500円)
キャスト:
喜撃名詞
キタノ万里
木下ノコシ(サワガレ)
九鬼そねみ
合田団地
佐々木峻一
玉一祐樹美(京都ロマンポップ)
長坂ひかる
新谷大輝(演劇実験場下鴨劇場)
丸山交通公園(月面クロワッサン)
無農薬亭農薬
スタッフ:
舞台監督=栗山万葉
美術=栗山万葉
照明=吉津果美
衣装=稲森明日香(夕暮れ社 弱男ユニット)
イラスト=きんにく
宣伝美術=立岡千裕
制作=築地静香
協力=サワガレ、京都ロマンポップ、演劇実験場下鴨劇場、月面クロワッサン、夕暮れ社 弱男ユニット、下鴨車窓、男肉 du Soleil、シバイエンジン
企画・主催=努力クラブ
共催=立誠・文化のまちの運営委員会
◯良かったところ
・空調がつけっぱなし。on/offによって劇の時間がつくられる。どうでもいいところで勝手にたまにシーンとする。
・阪本順治を思い出す。とくに『顔』とか。
・ロゴがいい。若松プロみたい。
・俳優の背丈がみんな同じで、全員キレてそうな危ない感じが良い。
×悪かったところ
・暗転が多すぎる。無くていい。
・空間が広すぎる。奥行きは1.5メートルぐらいでいい。
・ストーリーテーラーがいらない。
・「人見せ」ということを主題にしていること。