趣向「男子校にはいじめが少ない?」short version

◎永遠の夏を生きる男子たち
 水牛健太郎

ちらし 評を書こうという今になって思ったが、不思議なタイトルである。男子校にはいじめが少ない、という説なり調査があるのかどうか知らない。ともかくもタイトルどおり、男子校、の話であり、それもいじめとは無縁の、のほほんとした場面が展開されていく。
 といっても、男子高校生5人を演じるのは、全員女性である。おまけに歌あり、踊りありで、つまりはミュージカル。簡素な裸舞台ながら、いっそ、宝塚みたい、と言ってしまってもよい。

 宝塚の男役が、女性が憧れる男性性を純粋な形で表現しているのだとすれば、この作品もやはり、少女たちの愛する少年性をその極において描いている。この男子校の教室の中では季節はいつも夏。男子たちはくだらない冗談を言いあって馬鹿みたい。ちょっと野蛮でエッチで、しかし友情に厚い。女性が演じることで、清潔感と純粋さが強調されている。白いカッターシャツが目にまぶしい。外の世界ではいじめの嵐が吹き荒れて、自殺が相次いでいることがセリフで示されるが、この男子校の中には及んでこない。

【写真は「男子校にはいじめが少ない?」公演から。撮影=本多すなほ 禁無断転載】
【写真は「男子校にはいじめが少ない?」公演から。撮影=本多すなほ 禁無断転載】

 5人の中に1人、異分子がいて、エイリアンと呼ばれている。いつも着ているフードつきのトレイナーの腹のところに赤い模様が入っていて、まるで刃物で刺されたような凄惨な感じが漂っている。主人公であるチャリンコと呼ばれる少年以外の3人とはあまりしっくり行かない。彼は自殺を図って、みんなの説得で思いとどまるが、別の世界(ちなみに共学だったらしい)では既に自殺して死んでいるようだ。いわば霊界からの留学生のようなものであることが分かってくる。

【写真は「男子校にはいじめが少ない?」公演から。撮影=本多すなほ 禁無断転載】
【写真は「男子校にはいじめが少ない?」公演から。撮影=本多すなほ 禁無断転載】

 そもそも、この男子校自体、現実世界とは位相がずれている。女の子がいるところが三次元でこっちが四次元だとか、いやその逆だとか、要するに「異次元」であることが何度か言及される。異次元というのは、物理学的ないしSF的な意味なのか、エイリアンが口にするように、彼だけでなく全員が死んでいるということなのか、それとも男子校という特殊環境を比喩的に「異次元」と表現したものなのか、はたまた女性が少年を演じるミュージカルという作品世界への自己言及なのか、いずれなのかは定かではない。その全部であるようにも感じられるし、意図的にぼやかされているようでもある。

 ともかくも、安全が保証された「異次元」の世界でのほほんとした日々を送る少年たちは、自ずと永遠性を帯びる。外の世界では多くの少年たちが自殺をし、劇中歌では核戦争や大地震、宇宙人襲来など、カタストロフィへの予感が歌われる。エイリアンが常にまとっている死の空気もあり、この作品にはかなり暗い面がある。だからこそ、少年たちの夏が輝きを放つ。この光と影のさじ加減が作品の肝であるが、とてもうまくいっていた。

 チャリンコには好きな女の子がいる。石鹸玉と呼ばれる幼馴染。石鹸玉は地元の公立校(共学)に通っているので、私立の男子校に通うチャリンコは会う機会すら、数えるほど。気持ちを伝えるなど、到底考えられない。作品は、チャリンコが「異次元」を抜け出て石鹸玉と同じ大学に進学し、入学式で顔を合わせる場面で終わる。

 走り寄るチャリンコに、「あんた、何にも変わってないのね」と笑いながら話しかける石鹸玉。再び「本当に、何にも変わってないのね」と言い、チャリンコがにっこり笑うと、ブレーカーを落としたかのような勢いで暗転。こうしてチャリンコの笑顔を借りて「永遠」のイメージが定着されたのである。一瞬間を置いて、まだ暗転が続く中、拍手が響きだしたことが、作品の成功を何よりも物語っていた。

 本公演は「神奈川県庁本庁舎大会議場短編演劇集」として、4団体が約30分ずつ上演したうちの一つである。そのためにごく短い作品となったが、約2倍の長さのロング・バージョンもあるという。今のところ予定はないようだが、近い将来の上演を期待したい。

【筆者略歴】
水牛健太郎(みずうし・けんたろう)
 ワンダーランドスタッフ。1967年12月静岡県清水市(現静岡市)生まれ。高校卒業まで福井県で育つ。東京大学法学部卒業後、新聞社勤務、米国留学(経済学修士号取得)を経て、2005 年、村上春樹論が第48回群像新人文学賞評論部門優秀作となり、文芸評論家としてデビュー。演劇評論は2007年から。
・ワンダーランド寄稿一覧:
http://www.wonderlands.jp/archives/category/ma/mizuushi-kentaro

【上演記録】
神奈川県庁本庁舎大会議場短編演劇集
趣向「男子校にはいじめが少ない?」short version
神奈川県庁本庁舎大会議場(2014年4月12日―13日)

戯曲・演出:オノマリコ(趣向)
音楽:後藤浩明
振付:小林真梨恵(waqu:iraz)
演出助手:辻村優子
オブザーバー:深海菊絵
写真:FRAN
台本相談:黒川陽子
演出相談:田中圭介
男子校出身:佐々木啓成さん
協力:zacco、芹川事務所、トリのマーク(通称)、劇作家女子会

出演:伊藤昌子 大川翔子 清水那保 中谷弥生 原田優理子(トリのマーク(通称)) 本間玲音

「神奈川県庁本庁舎大会議場短編演劇集」出演団体
theater 045 syndicate
あつぎ舞台アカデミー
趣向
たすいち
もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡
タイムテーブル
4月12日(土)15:00
4月13日(日)12:00 / 15:30

チケット
一般 前売3000円/当日3200円
高校生以下 前売1500円/当日1700円

 

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