すごく真剣なレジャー
――最後にミーハーな質問なんですが、前田さんの恋愛観を聞いておきたいなと。
前田 あー、わっかんないんですねぇ。考えれば考えるほどわからない。ま、なんも考えないで恋愛をレジャーとして楽しんだりすることはそれでいいと思ってる。それが確固たるものとか神聖なものとして語られたり、すごく美しいものとされてしまうと、ちょっと違うんじゃないかっていうのがありますね。ただ食べてくだけに生きてるのじゃつまんないから、そういうものに付加価値をつけて楽しんでるだけじゃないかって感覚が僕の中にはあるんで。
――そう思えるまでに、けっこうとらわれてしまった時期とかもあったんですか。
前田 ありましたね。でもいま思えばそれもやっぱり楽しんでたんだろうな。すごく真剣なレジャーですね。だからさっきの野球の話にたとえると、あれだって遊びですよね、もともとは。球をボールで打つっていう遊びなのにすごく悩んだり、自分の肉体を改造してまで球が棒にあたるようにがんばったりする。人生のすべてを懸けて球に棒をあてる(笑)。そんなのバカらしいっちゃバカらしいことなんだけど、でもすごく共感できるんです。そうやって人間ってのは、レジャー的なこと、くだらないこと、どうでもいいことに、それこそ生き死にを懸けるくらいの情熱のようなものを持っていて、それは人間のせめてもの救いだと思うんです。だから芝居をするのもそうですよね。人前であんな恥ずかしいことをするために、ものすごく時間をかけたり、いろんなことを犠牲にしたり。
――前田さんがよく使う「なんのためにもならない芝居」ってフレーズがまさにそうですね。
前田 ホントなんのためにもならないことやってますからね。ま、お金になったりはしますけど(笑)。
――でもお金を儲けるだけだったら、ほかにいくらでももっと儲かる道がありますよね。
前田 ただお金ってのはけっこうデカイんですよ。最初はなんのためでもなくやってたのに、お金が入ってくると、それは名声とかとも近いんですけど、いつのまにかお金のためにやってたりする。目的が変わっちゃってる。目的が変わってることに自覚的で、それでいいと思ってるんだったら問題はないんですけど、前はけっこうおもしろかった作家の人が「あれ?」ってなっちゃってるときは、わりとその名声やお金との闘いに負けて宗旨替えしたときが多いと思うんです。信じるものがお金とか名声になっちゃう。もちろんそれが恋愛の場合もある(笑)。
――ある意味、宗教戦争ですね(笑)。次回作『さようなら僕の小さな名声』がますます楽しみです。今日は貴重な話をありがとうございました。
前田 こちらこそありがとうございました。(了)
【参考資料】 五反田団、前田司郎さんに関する主な著書、インタビューなどは以下の通りです。
▽著書
- 『愛でもない青春でもない旅立たない』(05年/講談社)
- 『恋愛の解体と北区の滅亡』(『群像』06年3月号掲載、4月号に仲俣暁生・奥泉光・小谷真理の3氏による合評あり)
▽webで読めるインタビュー
- プチクリonline「前田司郎インタビュー」 http://shinjuku.cool.ne.jp/pticri/interview/3_maeda.html
- cinra magazine vol.8「五反田団インタビュー」 http://www.cinra.net/CD/vol.8/INTRO.HTM
▽雑誌掲載
- 「春の団祭り2003 平田オリザ&前田司郎インタビュー」(『シアターガイド』03年6月号
- 「密着!春の団祭り」(『演劇ぶっく』03年8月号)
- 「そんなこんなで/五反田団流節約術」(『シアターガイド』03年9月号)
- 「特集/作・演出家100人 平田オリザ×前田司郎×岩崎裕司」(『演劇ぶっく』02年12月号)
- 「五反田団のインスピレーション 扇田昭彦×前田司郎対談」(『演劇ぶっく』05年12月号)