「天皇制社会主義」-青年団の求心力
-次に青年団の話に移りましょう。先に挙げたセゾン財団のニュースレター掲載の文章(注1)には、青年団の40人定員制、年1回の全体ミーティング、集団を腐敗させるヒエラルキー解消の手だてなどが取り上げられていました。13年前の原稿ですが、いまも変わっていませんか。
平田 定員は少し増えました。演出部ができたので俳優の定員は50人、実質は55人ぐらいです。
-演出部は何人ぐらいいますか。
平田 何人になるかなあ(笑)。今年新人がだいぶ入って、演出部は出入りが激しいからつかめないことがあるんです。俳優と違って演出家は選抜のしようがないので、希望すれば一応入ってもらって、半年ぐらいしてから実質的に選抜するということになりますね。
-演出部の話はまた後でお尋ねします。その50人あまりの団員と平田さんの間の関係はどうなるのでしょうか。個別の契約、劇団と団員との契約になりますか。
平田 一応契約の形式をとります。
-それぞれ自分のやりたいこと、計画を挙げて個別に話し合って合意するのでしょうか。
平田 それほど大げさではないですけどね。時系列で言うと、4月に全体ミーティングという劇団の総会があって、そこでぼくが所信表明を2時間ぐらいします。経営状況の説明もします。それから各自にちょっと一言二言、1年を振り返ってとか抱負とか、もちろん私への質問もしてもらいます。特別の議題があるときは、例えばギャラの問題とかでは選択肢をいくつか示して希望を聞くこともあります。私の劇団運営に関して、厳しい意見が出るときもあります。
それが終わって5月6月に個人面接があって、一人ずつ話す時間を取ります。そこで結構しゃべる人もいれば、今年もよろしくお願いします、と1分で終わる場合もあります。それぞれです。ここでもまた経済状態の話をする場合もあります。
7月8月は年代別のミーティングに入ります。つまり古くからいる団員と新人とでは要求が違いますから。若い人たちは出来るだけ出演の機会を多く作ってほしいと言いますし、古くからいる人はやっぱりギャラを上げてほしいという場合がありますね。それぞれ団体交渉の場を設けるわけです。全体になると、若手は気を遣って意見を言いにくかったり、個別にぼくと1対1だと萎縮するかもしれない。いまは全体を6世代に分け、それに演出部と制作部だから計8回。毎週1回ぐらいの割合で年代別ミーティングを開きます。それでだいたい年間の方針が決まる。必要があれば年末にもう1回ぐらい全体ミーティングを開きます。
-いまは年代別ミーティングの真っ最中ですね。
平田 そうです。年代別ミーティングは、お酒も入ってざっくばらんな感じです。そのため、この季節は飲み過ぎになります。
-先の文章では、劇団員の年俸制を目標にしていましたが、10年あまり経っていかがですか。
平田 まだそこまで行ってません。まだまだですね。半分までいかないかな、四分の一ぐらいの俳優がアゴラ劇場で働いているので、彼ら彼女らは青年団の出演料とアゴラで働いたアルバイト収入で食べています。もうちょっとすると劇団員全員50人は無理でも、30人ぐらいなら食べていけるかな。制作と技術スタッフは15名くらい、うちで雇用して、どうにか食べています。
-食べていけるというのはどれぐらいの収入を指しているんですか。
平田 最低限です。手取り月収15万円ぐらい。いまはフルタイムで働いて13万円ぐらいですかね。あとは他で、アルバイトもしてもらう。
-劇団の出演料は時間給制度になっていますよね。これも個人差があるんですか。
平田 それほど細かな区別はしていませんが、新人だけ少し低めになっています。
劇団の全体収入と必要経費は決まっているので、それ以外は全部ギャラに回しますよ、というのがうちの基本的な考え方です。おおざっぱに言うとそれを総労働時間数で割ると、時給500円ぐらいになります。稽古の時間はもちろん、劇団内でオーディションを受けている時間、チラシの折り込み作業の時間、ミーティングに参加している時間も全部勤務時間に付けます。そのトータルが毎月支払われる。こういうシステムです。よく支払いが遅れるんですけどね。
これは古い保管用の資料ですが(と見せながら)、「B指定」とあるのは特殊な仕事、例えば翻訳ですが、時給800円です。ほかより高いけど、外部に出すよりは安いという設定ですね。「F指定」というのは、キラリ☆ふじみ勤務です(注5)。
基本給は、年齢ではなくて、出演舞台数で4段階に分かれて、新人は時給300円、これはホントに見習い期間の時給ですね。あとは400円、450円、500円と分かれている。劇団員の大部分は、時給500円です。あとは職種別に、標準がA、特殊がB、ふじみ勤務がF、いまS指定といって超特殊技能や拘束時間が長い勤務もあります。
-それの格差や職種はどうやって決めますか。
平田 決め方は特殊で、ぼくが統計資料を基にシミュレーションを出して、ほぼ隔月に発行している「青年団だより」に掲載して説明します。全体ミーティングのほか個別、世代別のミーティングで意見を聞いて、最終的にはぼくが決めます。
パイは決まっているわけですから、あとは配分の仕方を、みんなの意見を聞いて、私が裁断するという流れですね。
-平田さんはアゴラ劇場の支配人、青年団の作・演出家で主宰、(有)アゴラ企画の少し前まで代表取締役でいま役員。すべてを平田さんが決めるのですね。
平田 そうです。天皇制社会主義ですね(笑)。万民の意見を聞きつつ、ですね。
演出家は俳優によって選ばれる
-以前は俳優が制作を兼ねていたと思いますが、いま制作部は別建てになっていますか。
平田 さすがにそこは分けてます。ただ俳優がやる部分がないわけでなくて、助成金関連の仕事のトップは俳優が全部担当しています。書類を書くのも、俳優たちがプロジェクトチームを組んで取り組みます。計算などの単純作業も多いので。
会計も俳優が担当しています。会計はコンピュータ化されていて、レシートを打ち込むだけだから、向き不向きはありますが、誰でもできるんですよ。ここもほかの小劇場の劇団と違う点でしょうね。会計と企画が完全に分かれている。うちの制作は、演劇の制作としてみたら不完全といえば不完全で、会計処理ができないのでほかに行って通用しないかもしれません。他の小劇場の劇団は企画と会計を一緒にやらなければいけないですから。でも普通の会社は分かれてるでしょう。
-青年団のラインナップはどのように決まるのですか。
平田 「青年団だより」にアンケートがあって、やりたい演目は何かという欄があります。ここに書き込んでもらったものを参考にして、あと制作の意見もあるので、それらを聞いて、でもやっぱりぼくが決めます。
-公演の企画が決まります。そのあと出演する俳優、つまり配役はどのように決まるのですか。
平田 いまの同じアンケートに、すでに上演が決まっている演目も書かれていて、俳優がどの公演に出演したいかを記入する欄があります。「ぜひ参加したい」「参加してもいい」「参加したくない」「その他」があって、これに丸印を付けます。新作も再演も基本的には同じですが、新作に関してはオーディションがないので、希望者の中からぼくがキャスティングします。
再演の場合は、役のノミネートを割り振って、オーディション概要を発表します。これが上演の1年ぐらい前です。俳優も自分が希望する役を追加できるようになっていて、それで調整した上で1ヵ月後ぐらいに、劇団内オーディションを実施します。そこで再演のキャスティングが決まるという仕組みです。
若手自主企画や青年団リンクの場合は、演出家が企画書をぼくに持ってくる。たまに俳優や制作者が企画する場合もあります。その段階で企画書がきちんとしている、予算組がしっかりしている、キャスト・スタッフの8割が劇団員の中から決まっている、などが条件です。だから若手自主企画は、俳優たちの賛同がなければ実施できません。これはぼくが選んでいるのではなくて、実は俳優が企画を選んでいるんです。
-なるほど。演出家はそこで選ばれるわけですね。
平田 その通りです。そういう合理的なシステムを構築したつもりです。
ぼくは、演出家の大きな資質の一つは俳優から信頼されることだと思っているので、そこは神の見えざる手が働く。信頼というのは人間的な信頼といった生やさしいものだけではなく、俳優はホントに正直な生き物なので、自分をよく見せてくれる演出家についていく。ちょっと嫌なやつでも、作品が素晴らしければついていく(笑)。俳優が一人で、演出家の優劣を決めるのは無理でも、30人も40人も俳優がいると、その中で必ず調整機能が働きます。これは、ほぼ間違いなく機能します。取りこぼしは多分、ないはずです。
ですから、うちの演出家は入団したらワークショップをしたり、劇作家ならリーディングしたり俳優に対していろいろアピールをします。これも日本の小劇場にない部分ではないでしょうか。要するに、日本の小劇場の場合はどうしても、演出家や制作者の方が権力性が強くて、俳優は使ってもらう立場になる。うちの場合は、俳優の賛同を得られないと上演ができないので、演出家が一生懸命、自分の仕事を説明するようになります。
いまセゾン文化財団のフェローの対象が十数名いますが、うちの出身者が中野さん(中野成樹)を入れて4名います。今年の新規助成3名のうち2名、松井君(松井周・サンプル)と多田君(多田淳之介・東京デスロック)は青年団です。セゾンの方に聞くと、うちの出身者は圧倒的に説明能力が高いそうです。ぼくは俳優にはあまり怒らないんですが、演出家には厳しく辛く当たる。ダメな企画書を放り投げてしまうこともあります。予算も細かくチェックします。演出家の企画力や予算作成能力を鍛えてくれる場は日本で青年団しかないでしょう。作品の中身がいいのは前提ですが、同じレベルなら、それはうちの連中が勝つに決まってます。
青年団リンクが生まれたわけ
-演出家絡みでお尋ねしますが、青年団リンクという形態があります。組織的にはどういう位置づけなんでしょうか。これまでの小劇場で演出家が作家を兼ねて主宰するのが圧倒的に多かったのはご存知の通りです。たまに座付き作家と演出家が別のケースもあります。作家が複数の場合もある。ただそういう関係はたいていの場合、しっくりいかなかった。幸せな関係を築けたのは少数だと思います。そうでなくても、なにもかにも兼ねたオールマイティーが存在する多くの場合は人間関係がこじれたり、特に異性関係が引き金になったりして、劇団が分裂したり解散したりするケースは少なくありません。劇団の中でどういう形で運営されているのでしょう。規約を作ったりしているのですか。
平田 規約はあります。メーリングリスト上にあるので変わるし、どんどん付け加えられていきます。
-その基本は何でしょう。
平田 うーん。青年団は、ぼくの芝居を上演する集団、ということです。俳優たちは基本的に、ぼくの芝居をしたいから入ってくる。まずそれが基本です。で、しかし、50人も60人もいて、ずっとぼくと一緒にはできないので、彼らの出演の機会を作らなければいけなくて、演出部ができた。演出部の人たちには公言していますが、演出部はぼくにとって「どうでもいい」存在です。演出家を育てる仕事は、劇場の公的な使命としてはあるけれど、ぼくの個人的な欲求としてはまったくない。子分を作りたいとも思わない。だから厳しく当たるんですけど、演出部は基本的にほったらかしです。その代わり俳優に課せられている作業ノルマは、演出部にはありません。まったく自由放任です。せいぜい、私の演出助手につくぐらいですね、学ぶ場としては。
青年団はぼくと俳優たちの集団です。技術スタッフにも、アゴラと青年団を使ってやりたいことをやりたい人だけが入ってきてくださいとずっと言ってきた。それは演出部も同じことで、青年団はそういう場なのだということです。ここには質の高い俳優が数十人いて、能力のあるスタッフもそろっていて、劇場もある。ここでやりたいことのある人は入ってきて何年間かここにいて、そしてできれば速やかに出て行ってください、というスタンスです。他に細かい決まり事や、要求される忠誠心はない。その緩さが成功の原因だと思います。
-でも平田さんのこれまで言い続けてきた考え方では、劇場が劇団を抱えているのなら、青年団リンクは劇場に所属するはずではないですか。劇場が演出部を持って、そこにリンクがあるのではないでしょうか。いまのお話をうかがうと、青年団という劇団が内部的な必要があってリンクという組織を作り出しているという逆の形態になっていますね。
平田 そこは全部を計画的にやっているわけではなくて、初めにも言ったように、私の中に理念はあるけれども、あらかじめすべて計画があったわけではない。たまたまそうなった、ということが一つあります。演出部はもともとは、ぼくの記憶では、いま「タテヨコ企画」を主宰している横田修君が俳優で入ってきて始めた。あと、「地点」の三浦基君も前後して入ってきた。それで、やりたいならやってみるか、といって始まったんです。そんなにきっちり、最初から詰めた話ではない。
ゆくゆくは、いまおっしゃったように、アゴラの下に平等にある形ができるかもしれませんが、現状では天皇制社会主義の形をとってますし、私の個性で、かろうじて成り立っているところがある。また、演出部にもやっぱり青年団員だという誇りもある。アゴラ劇場ではその求心力はまだまだ薄い。
私には、個人的な欲望はあまりないし権力欲もない。猜疑心や嫉妬心でものを決めることも、ほとんどない。経理も含めて、情報はすべて、さまざまなレンジで公開している。そのことを劇団員全員が信頼してくれているので、かろうじて成り立っているシステムです。私なしに、アゴラ劇場でこれをやろうとしたら、もっと経済的な保証をしっかりしない限りできない。
劇団が生き残るには
-演劇に集団性は付きものですが、それが劇団という形を必ずとらなければいけないともかぎらない。少なくとも現状はそうなっています。平田さんがプロデュース制ではなく、劇団という組織形態を選択した理由をあらためて話していただけますか。
平田 もう何遍も言ってきましたが、演劇で何か新しいことを持続して行おうとすると劇団という組織が必要です。フランスでも二極分化していて、真ん中に公共ホールがあり、劇団として本当の意味で機能しているのは太陽劇団とピーター・ブルックの劇団の二つくらいでしょう。ピーター・ブルックの劇団も活動停止のようですが。あとは商業的な劇団です。
ただ日本の小劇場のような存在、活動がないかといえばそうではなくて、すごくあるんです。アヴィ二オン演劇祭のフリンジに参加するような集団です。でも、これは、日本と同じでほとんど食べていけない。
日本もいずれ劇団の再編が必要になってくるでしょうね。例えばそれは、演劇鑑賞会の解体とともに起こるかもしれないし、助成金制度の組み替えによって起こるかもしれない。劇場法ができて公共ホールが整備されると、それがきっかけになるかもしれない。結局、どうしても劇団でなければいけないところしか生き残っていかないと思います。
-そこをもう少し。どういう条件がないと生き残らないのですか。
平田 やはり、ぼくの体験からすれば、基本は作品だと思います。常に優れた作品を生み出すことが必要だと思います。それしか、劇団の求心力はない。俳優たちはさっきも述べたように、すごく直感的動物的に動きますから、魅力あるところに人は集まる。それと、この演出家ならどうにかしてくれるんじゃないかという信頼感でしょうね。それでしか俳優は動きません。昔みたいに、いったん入団したら、俳優を囲い込むような状況なら、多少ヘンな劇団でも生き残れましたが、普通にワークショップが行われるようになり、大学の演劇科が整備され、情報も流通するようになってくると、もうごまかしは効かなくなります。人材の流動性も激しくなるでしょうし、劇団の淘汰が始まるんじゃないでしょうか。
-青年団は団活動以外のアルバイトは可能なんですか。
平田 もちろんです。映像関係は俳優たちが別会社を作って独自に活動しています。ぼくは一切タッチしてません。基本的には他劇団への客演は一応許可制ですけど、だめと言ったことは一度もない。相談に乗ったことはもちろんありますよ。それはやめておいたほうがいいじゃないかなあ、とか(笑)。
-俳優の新規採用も平田さんが決めるのですか。
平田そうです。
-新陳代謝というか、そろそろ入れ替えた方がいいという判断、その基準も平田さんが決めるわけですね。
平田 俳優の新規募集は2年に1回です。ただ今年は募集しなかったので次回は3年間隔になります。俳優は200人ぐらい受験して、選抜された15人から20人ぐらいが3ヵ月一緒に活動して、そこで半分ぐらいになります。一年後に、もう一度選抜があって、だいたい落ち着く感じですね。
-毎年辞める方は何人ぐらいになりますか。
平田 家庭の事情とかの自然減もあるし、休団とか海外研修に出てたり、いろんなことがあります。自分からやめる俳優は、ほとんどいないんですけど。現状は3年間に7人減って10人入るみたいな感じですね。少しずつ増えている。
-演出部は放し飼い状態と言うことでしたが、財政的にもあまり予算をかけていないのですか。
平田 企画が通れば、アゴラ劇場でもアトリエ春風舎でも劇場費は無料になります。春風舎なら1ヵ月くらいの稽古期間も劇場を使えます。光熱費も無料。さらに制作支援金が20万円から80万円ぐらい出るので、合わせると真水の補助が劇団から100万円~200万円出ます。それ以外に輪転機を使ったり宣伝・広報のデータを使ったりオンラインチケットのシステムを使ったり、無形のサービスもあります。自分たちで独立してやったらおそらく200万円~300万円ぐらいかかる経費分は劇団から恩恵を受けている。多田や松井が独立して、30万円、40万円の助成金を得るのがどれだけ大変か、劇団を出て初めて分かったと言うんですけどね。その助成金獲得のための努力を劇団の中で競争させる、疑似競争させるわけです。
拠点劇場と劇場法成立のために
-それぞれの年間予算はどれほどなんでしょう。
平田 それぞれというのは?
-青年団とアゴラ劇場それぞれという意味ですが。
平田 それはどんぶり勘定です(笑)。ただ全体を運営しているのが有限会社なので、最終的な決算はもちろん出ます。売り上げが約2億円です。助成収入がいくら、チケット収入がいくら、海外公演からいくら、地方公演からいくらという形で出て来るので、翌年度の予算はこれを基に立てます。支出もどんぶり勘定で、残った分をギャラとして分けます。
-『芸術立国論』のなかで、助成の年額が4000~5000万円となっていましたが、現状はもっと増えているのでしょうか。
平田 増えています。いろいろ集めると総額1億円ぐらいになります。
-芸術拠点助成事業からはいくら出ているんですか。
平田 年度によって小屋によって違いますが、アゴラ劇場でだいたい6000万円から8000万円です。
-世田谷パブリックシアターや彩の国さいたま劇場などはもっと高額でしょう。
平田 おそらく億単位でしょうね。ただ公共ホールでも、もっと少ないところもたくさんあるんです。
それから拠点助成は赤字補填なんです。だから規模の大きい劇場ほど高額の助成がもらいやすい。逆に言うと、赤字に耐えられる小屋しか受けられない仕組みになっている。いずれこれは変えなければいけないし、政府にも働きかけてはいます。ただ、私学助成も憲法に抵触するんじゃないかという法律議論があるぐらいなので、団体助成の問題はなかなか難しい。
ここは国の考え方を変えていかなければいけない。芸術振興は公共事業なんだと転換しなければならないと思いますね。だって、公共事業の道路建設で赤字補填なんてことはないでしょう。公共の作品を創造しているのだと認識してもらって、新国立劇場と同じ地平で芸術振興をしてもらいたい。根本を変えない限り、現状は変わらないですよ。
-2001年に文化芸術振興基本法が成立しました。その後、平田さんが考えているのはやはり、劇場法でしょうか。
平田 そうですね。
-指定管理者制度によって劇場運営が変わったと言われてますが、それだけに矛盾も表面化しています。劇場法の成立で、その問題をきちんとできるのでしょうか。
平田 きちんとできるかどうかは分かりません。図書館法があっても図書館にも指定管理者が入っているし、問題がクリアされているわけでないのと同じではないでしょうか。ただ劇場法ができれば、そこに定められた「特殊な施設」と言う理由で、自治体が指定管理者制度を拒否する根拠法にはなる。いまは劇場を守る法律がまったくない状態です。ともかく、これを変えたい。
「join」の最新号(注6)にも載りますが、ぼくと高萩さんがある年、地域創造の理事長レクチャーに呼ばれ、日本の演劇の問題点は何かと尋ねられたことがあります。そのときの答えは、劇場の数が多すぎる、劇団も多すぎる、制作者がいない-。打ち合わせなしでしたが、二人ともまったく同じ答えでした。
その中で劇場は幾つあればいいのかと聞かれたとき、ぼくは100、高萩さんは30と答えた。その根拠は、フランスには劇場(国立劇場)が約50、人口が6500万人だから、日本の人口はフランスの約2倍なので、ぼくは劇場の数を2倍して100と答えた。高萩さんは日本の面積はフランスの三分の二だから30(笑)。でも感覚としては、ぼくも高萩さんも同じなんです。要するに拠点劇場は30から100でいいんです。それはものを作る劇場です。クリエーションする劇場がそれぐらいあればいい。いまは北九州、静岡などなど全国で10個所ぐらいです。これが30になると全然違う。各劇場を回せるようになる。そうなると東京を頼らなくて済む。アーチストは東京にいても、制作と技術のスタッフが各地の劇場にいたら、年間10本ぐらいのプログラムを作って、お互いに回せるようになる。そうすると、地方都市で世界的な作品を創造できるようになります。いまは静岡でも北九州でも単独でやっているから大変なんです。そのシステムを作るためには、その根拠法となる劇場法がどうしても必要なんです。芸術監督やプロデューサーのいるところを劇場と定める、とするわけです。できれば設置義務を入れてほしいけれど、そこは難しいようです。>>