劇団、江本純子「セクシードライバー」

◎脱線しまくりの超リアル不条理会話劇 歌や踊り封印の新ユニットで
山内哲夫

「セクシードライバー」公演チラシ劇団、江本純子の第1回公演は、前田司郎と安藤玉恵という小劇場界の注目役者の顔合わせが実現した「セクシードライバー」。第0回公演「まじめな話」に続く、渋谷のギャラリールデコでの3日間の公演である。三島賞受賞直後で、しかも役者として珍しい外部出演となる前田司郎。一方の、ポツドールの中心役者だった安藤玉恵 は、2年3ヶ月ぶりの舞台復帰作となった。クレーマーにしてストーカーな女と、ダメっぷり満点の純愛タクシードライバーの脱線しまくりの会話に圧倒される、湾岸の工事現場を舞台にしたコミカルな不条理劇風会話劇である。


▽ダメダメ人物の不器用な恋情
上演時間1時間22分。これをほぼ2人で喋り倒す「セクシードライバー」は、もはやベテランといえる役者にとっても、台詞を覚えるのに一苦労の作品だったようだ。しかも、「行って戻って、戻って行って、全然違う話を始め、また戻る」という理路整然としないリアルすぎる会話が覚えられない。稽古の間にも台詞は増え、 前田と安藤で「このセリフ、ない方がいいかもしれないですね」と台詞を減らそうと試みたこともあったようだが、作品を見る限り、その試みは成功しなかったようだ。しかし、観客にとっては、膨大な台詞は苦にならないどころか、面白すぎる舞台になっていた。

不条理劇風会話劇というキャッチフレーズがつけられた、この「セクシードライバー」。舞台は、湾岸あたり、カラーコーン、合図灯らが並んだ工事現場である。上手に公衆電話が置かれ、安藤玉恵演じる女が一人、なくした携帯電話を探してあちこちに電話をかけている。タクシーセンターなどへ問い合わせする詳細なエピソードは、江本自身が昨年6月に携帯電話をなくした際に、タクシー会社などへ問い合わせた経験がうまく作用したのだろうか。抜群のリアリティがあった。領収書からターコイズタクシーというタクシー会社の名前を見つけ問い合わせると、出てくるのが配車係の川口さんである。江本純子が演じたのだが、あまり素敵とはいえないキャラ。カップ麺など 手にもちながら、面倒くさそうにやる気のない動作だ。下痢だと言って居留守も使う。何度目かの電話でやっと珍しい苗字だったことを手がかりに上打田内広という名の運転手を見つけ出す。2人の電話のやり取りのあと暗転となり、一場終了となる。安藤が演ずる女があちこち電話をかけまくるだけの時間だが、その一つ一つがくどく、偏執的で面白い。

そして、タクシー運転手役の前田の登場である。携帯電話を渡したが、湾岸を走らせていて高速を使い戻ってきたため、その料金が生じていた。申し訳なさそうに請求する金額を見せると、1万円を超えており、これには納得いかないのが安藤演じる女の方。それほど料金がかかるのであれば、取りに行った。一言もなかったのはおかしいということだ。つまり配車係の川口さんにも責任がありそうだ。卑屈な態度で本題を切り出せず、いかにここまで来るのが命がけだったか幻想的なエピソード交え無駄な台詞を喋りまくる前田の演技が面白すぎるのだが、このあたりから不条理の世界に入ってくる。

とにかく上打田内は川口さんの心証が悪くなるのを避けたい。そのために料金を請求するのだという。この上打田内という運転手、社長の娘という川口さんにぞっこんだ。いかに川口さんが素晴らしいか、熱く語りだす始末。昨夜は、みんなが聞いている無線を使って愛の告白までしてしまったという。ついには、川口さんとの間を取り持ってくれたら料金はチャラにしていいと持ちかける。それでも渋る安藤演ずる女に対し、さらなる切り札が出てくる。携帯電話の中身をすべて読んでいたのだ。深夜過ぎのS女とM男の会話は攻守転換。その女のストーカー癖、彼氏に自身の全裸写メを送りつけていたことが明らかになり、男が黙って引っ越した先が40階以上の高層マンションだということだけを手がかりに、タク シーでこの湾岸地区まで来ていたことも判明する。明け方にもかかわらず、女は川口さんに電話する羽目に。これから3人で飲もうということだ。しかし、川口さんはもう帰宅してしまった…。ラストは、上打田内が川口さんを諦め、安藤演ずる乗客の女に告白するオチがついて終演となった。

上打田内というダメダメ運転手を終始にやけ顔で最高に楽しく演じた前田が素晴らしいし、クレーマーでストーカーというこれもダメ系女性を安藤がばっちり決めた。川口さん役で江本の登場は不要ではないかという意見もあるようだが、あの姿をみせてないと、上打田内が惚れている社長令嬢が美化されてしまい面白さが半減してしまう。ここも文句はなかった。劇伴で使用されるのは、フィッシュマンズ「ナイトクルージング」、中島みゆき「タクシードライバー」。毛皮族で使っていたアッパーな選曲とは対照的である。どちらも作品内容に対応した選曲といえる。リアルすぎるムダの多い会話を使った、ダメダメ人間たちの不器用で直球の恋情に、たっ ぷり笑えながらも観る者の心をしっかりとらえた会心の一作となった。

▽注目、異色の顔合わせ
クレーマー癖のある乗客を演じた安藤玉恵は、ポツドールの中心役者として活躍したのち、退団。「松ヶ根乱射事件」や「ぐるりのこと」など出演映画にも恵まれ、映像仕事が目立っていたが、出産にともなう休業期間を経て、2年3ヶ月ぶりの舞台出演だった。安藤と江本のつながりでいえば、ポツドールの「愛の渦」。岸田戯曲賞を受賞したこの作品で、乱交クラブでの常連の女役を初演(05年4月)で演じたのが安藤であり、再演(今年3月)で演じたのが江本だった。今回も江本の分身のような、変に几帳面なクレーマー役を上手に演じていた。とくに、番号案内でタクシー近代化センターを問い合わせ見つからないことに怒り、オペレーターの名前まで聞き出す偏執ぶり。そして、タクシーセンターに社名変更していたことを知った際に、その旨、また番号案内に連絡までする几帳面な様子を雰囲気たっぷりに演じて見事だった。

一方、女が携帯電話を置き忘れたタクシーの運転手役が五反田団の前田司郎。昨年の岸田戯曲賞受賞に続き、先月は小説「夏の水の半魚人」で三島賞を受賞したばかり。この公演初日がまさに三島賞授賞式と重なり、式の途中で抜け出しての出演となった。自身の作品では出演も多いが、他の劇団への出演は記録を探しても見つからないほど稀。こまばアゴラ劇場の支援会員通信(07年6号)での特集記事「前田さんに約20の質問」内でも他の人が演出する作品への出演について、「ギャラ次第」とかわしている。それが、今回出演したきっかけは、「パピルス」07年8月号に掲載された「若手演劇人8名、渋谷の焼鳥屋に集合」というユルめの特集の中。前田、江本、タニノクロウの3人で株の話などをした際に、前田が江本に「今度何かやりましょうよ」という話している。このことを覚えていた前田はすぐに快諾したのだが、江本の方はそれを忘れていたようで、「タクシードライバー」のデニーロからもっとも遠い演技を期待しての、あくまでも思いつきのオファーだったようだ。

「セクシードライバー」公演から

「セクシードライバー」公演から
【写真は「セクシードライバー」公演から 提供=劇団、江本純子 禁無断転載】

この3ヶ月連続公演で使われているのが渋谷のギャラリービル、ギャラリールデコである。60人程度入れば満員の激狭スペースだが、イキのいい若手劇団を呼び込めず凋落が著しい下北沢に対し、このギャラリールデコの躍進が目立っている。ただ、音漏れがひどく、4階と5階が演劇公演に使われるので同時に公演があれば 、下の階での公演はその影響を大きく受ける。Hula-Hopperの「静かなる演劇」(08年3月)では、この音漏れを逆手にとって、この2フロアを同時に借りて、観客に自由に4階と5階を行き来させ、同時進行する作品両方を見せる試みもあった。それくらい、音がしっかり漏れ、上の階の動きが気になるところである。それでも人気 が集まっているのは、ハイバイが「無外流、津川吾郎」(06年10月)など、ここでの公演を成功させ、人気化したことが大きいのではないか。

大人計画がよく使っていた駅前劇場は00年前後にはもっとも人気のある劇場の一つになったし、シベリア少女鉄道やポツドールの連続公演があった王子小劇場もいまでは人気劇場の一つにな った。そして、いま、ギャラリールデコは、いい循環の中にいる。今年に入り、劇団、江本純子の3本を筆頭に時間堂、アイサツ、MUなどの公演を実現させている。ただ、この音漏れを放置すれば、初期の劇団、本谷有希子や毛皮族が使用し一時は勢いのあったウエストエンドスタジオのように、劇団、観客双方から嫌われてしまう リスクはある。今後の改善は必要だろう。

▽脅威的な多作で新たなる挑戦
とにかく多作である。江本純子の創作スピードは驚異的である。じっくりクオリティを上げるよりは、その時のアイデアを勢いにまかせて創作する。そんなイメージがある。象徴的なのが、リトルモアでのオムニバス公演。数のうえでは同じく多作で知られる東京デスロックやハイバイを凌駕する。06年11月からの軽演劇シリーズは、第一弾のコーヒー&シガレッツ的な軽演劇が「元始、女は太陽だったような・・」、「からす食堂」、「ゴドーを待ちわびた私~白過姫無精記~」、「OSOBA」、「純子の黒い部屋」とライブ演目も含むが5本あり、続く07年7月の初夏の軽演劇が「四姉妹」、「おっぱいファミリー1,2,3」、「新・白過姫無精記~もうしわけございません~」、「おそばらんかい!」、「真夏の夜の毛皮族の夢」というオールナイト演目を含めた5本、そして昨年12月の「大好き!!5つの軽演劇ちゃん」が、「ふれる」、「お江戸、時々時雨」、「パンの世界」、「達者田は見た!~京都おそばツアー殺人事件~」、「江本純子生誕30周年お唄会」というお唄演目を含め た5本。これだけで15本もあるのだ。吸収したものを大胆軽快にアウトプットする姿勢に圧倒されたシリーズである。ほかに、毛皮族の公演も「銭は君」(05年7月)、「脳みそぐちゃぐちゃ人間」(06年7月)、演劇ぶっく企画の「天国と地獄」(07年4月)、「おこめ」(07年10月)などコンスタントにあったことも考えると脅威的だ。

そして、今回始動した劇団、江本純子である。2~3月のポツドール「愛の渦」出演時には、この公演は決定していなかったようだ。当日パンフの今後の予定には、毛皮族の公演が11月に駅前劇場で予定していることと、2本の映画出演情報が載っているくらいだった。それが、4月13日に自身のブログで新しい芝居を始める旨の記述 があり、間もなく「毛皮族とはちょっと違う芝居を始めます。江本純子」と出演者も書いていない、劇団、江本純子第0回公演のチラシが舞い込むようになる。4/25発売開始というカラー4色刷りのチラシである。公演期間は5月24日から26日の3日間7公演。土曜と日曜は1日に3公演あるようだ。何より、この劇団名にやられた。も ちろん、劇団、本谷有希子のパクり。本谷本人には了解をとったようだが、NODA・MAPに対してKERA・MAPがあるのだから、これも素直に面白い流れ。マイナーなところでは、唐組に対し康組があるようだが、これはよくわからない。

ということで、100本の公演をめざし、まず、この5月から3ヶ月連続公演が急遽決まった。第0回公演「まじめな話」は、結局、盟友・町田マリーとの2人芝居となった。立教大学での旗揚げからのメンバーで、最近は大舞台への出演が多く、毛皮族への出演は減っていた。作品も金策に困った女(町田)が久しく会っていなかったかつての友だちに貸したカネを返してもらいにいくことから始まる内容で、江本と町田の2人に重なる私演劇的な要素をたたえていた。かつての交友エピソードが切ない女の友情ドラマだったのだ。そして、この作品で明らかになったのは、劇団、江本純子が歌も踊りも入れない会話劇であること。台詞の量もムダなまでに多い。もちろん、コンビニで買うものを何にするかで商品の詳細をひたすら説明したりする、このムダな部分が素晴らしかったのだが、この長所は、第一回公演となった不条理劇風会話劇「セクシードライバー」でも引き継がれた。

ここ数年、江本純子の伸び悩みは明らかだった。「ユリイカ」05年7月号に画期的な特集「この小劇場を観よ!なぜ私たちはこんなにもよい芝居をするのか」が載った。中でも素晴らしかったのが「居酒屋の片隅で、世界をめざす」という、江本純子、土屋亮一、三浦大輔、本谷有希子による居酒屋談義だった。特集の扉は、 この4人が本多劇場前に座っている写真である。誰も、まだ本多劇場では公演を打っていない状況だったが、この話のなかに、現在の動員数を語る場面があった。毛皮族4000、シベリア少女鉄道2500、劇団、本谷有希子2000、ポツドール2000である。実際に、このときの毛皮族は快進撃を遂げていた。とくに02年から04年までがすさ まじかった。02年8月に下北沢初進出。駅前劇場での「高麗人参毛具毛具」は会場を煙まみれにするドンパチシーンの連続で超満員の観客を圧倒したし、順調に動員を伸ばしての駅前劇場4作目となった「DEEPキリスト狂」(04年3月)では1ヶ月間のロングランを実現。同じ年の12月にはスペースゼロという中劇場進出を果たしている。中森明菜の楽曲を大胆に使った「お化けが出るぞ!!」である。

当時の毛皮族のスタイルとして、70~80年代の歌謡曲を大胆に取り入れ、その替え歌を使うことが多かった。それをそのままDVDにして売り出せば、著作権上の問題が生じてしまう。快進撃を続け、目立っていた存在なだけに、指摘があったのではないか。それ以降は、オリジナル曲を使うことが増えているが、かつての面白さは取り戻せなくなっていた。映画やドラマなど他メディアへの進出は順調だったようだが、毛皮族自体は本多劇場での公演を続けるうちパワーを失速。町田マリーの出演も減ったここ数年は駅前劇場クラスに戻り地力をつける展開となっていた。「遺骨のトットさん、ドブに落ちる」(08年2月)などは本来の持ち味を出し、会場との一体感を取り戻していた。

そして、今年の江本純子は、マジメである。ポツドール「愛の渦」でも、作品の肝といえる重要な常連客役をきっちり演じとげており、毛皮族公演の際に度々みせるグダグダ感はなくなった。そして、劇団、江本純子も極めてしっかりした作りとなっている。これまでのショースタイルを捨て、ノイズ系演劇にしっかり名乗りあげている。

さて、ユリイカで集結した同世代の4人、いまだ仲がいい。この1月には土屋、本谷とカラオケ会を催している。この同世代主宰者会には、三浦大輔と前田司郎も誘っていたとのこと。70年代後半生まれの世代は、まさに現在の小劇場ブームをひっぱる立場。この「セクシードライバー」も76年~78年生まれの同世代3人 が揃った作品だ。82年組の台頭もあるが、脂が乗り切ったこの世代のがんばり抜きには現在の小劇場界は語れないだろう。本公演は、江本純子も、その重要なキーパーソンであることが再認識された機会となったはずだ。次の劇団、江本純子は、内田慈、安藤聖、内田亜希子という小劇場の注目劇団を渡り歩く注目女優に、ベテラン池谷のぶえ、柿丸美智恵の5人という注目の布陣による「常に最高の状態」。「セクシードライバー」のチラシでイラストを担当したのが河井克夫だったが、次回は辛酸なめ子が担当しており、またしても目をひいている。公演日程も7月28日から8月2日までと伸びており、この新劇団の評判のよさを物語っているようだ。そして、その後には毛皮族の公演も控えている。三浦大輔の過酷な演出に耐え、本気を出している今年の江本純子。この秋の毛皮族公演にも期待がかかるところだ。
(6/27(土)17時の回を観劇)
(初出:マガジン・ワンダーランド第148号[まぐまぐ! melma!]、2009年7月15日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
山内哲夫(やまうち・てつお)
1968年生まれ、神奈川県藤沢市出身。明治大学卒。経済誌編集者。世田谷区在住。97年にミニコミ誌「ショートカット」に参加。00年に休刊となった同誌の人気コーナーだった「100字レヴュー」を飯野形而氏と復活させ主宰、ほかに「小劇場カレンダー」など更新中。

【上演記録】
劇団、江本純子 vol.『セクシードライバー
ギャラリー LE DECO 4F(2009年6月26日-28日)

作・演出:江本純子
出演:
前田司郎:男(上打田内広)
安藤玉恵:女
江本純子:川口

美術:伊藤雅子
照明:黒尾芳昭
音響:岡田 悠(One-Space)
衣裳:中西瑞美
舞台監督:村田 明
宣伝美術:two minute warning
チラシイラスト:河井克夫
WEB:rhythmicsequences
制作:照井恭平
制作統括:樺澤 良
協力:五反田団、M☆A☆S☆H、劇団制作社 他
企画製作:毛皮族


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