青年団「革命日記」

◎立花の背中が幻視させる非「革命」的な時間
プルサーマル・フジコ

「革命日記」公演チラシ『革命日記』はまず何を差し置いても立花という女性の役を演じた鄭亜美が真面目さと切なさと色っぽさを抑制しつつも振りまいていて、革命闘士も支援者も町内会のおばさんたちもひっくるめた全ての登場人物の中でいちばんマトモな人間であるその彼女が、革命組織の異常さを客席に背を向けたまま糾弾するシーンが素晴らしい。

客席に背中を向けているあたりいかにも青年団らしく、その場面に限らず『革命日記』は現代口語演劇のある種お手本のような作品に仕上がっている。とにかく戯曲が巧妙に構築されていて、例えばソファーが権力の象徴になっていたりもして、そうゆー仕掛けの中に劇作家/演出家の手つきが明瞭に見える芝居である。

でもだからこそ、俳優はもっと大胆に攻めてもいいと思った。上手いけども全体に少々お行儀の良い感じがした。その殻を破った先にこそこの戯曲の持ちうる破壊的な面白さが際立つようにも思う。

わたしの理解では、平田オリザの現代口語演劇の基礎理論において重要なのは、俳優に役人物の内面を理解させ表現させるのではなく、あくまで観客にどう見えるかとゆー外面的な効果をいかに引き出せるかにかかっている。だが、むしろそうであるからこそ現代口語演劇の俳優には表面張力のような特異な力が求められる。実際、青年団の中で傑出した存在感を放つキャリアのある俳優陣には、実は仮構された人格の上に表面的に何かを小爆発させる奇妙な力がある。その奇妙さ(不気味さと言い換えてもいい)が青年団およびその若手の演出作品を支えてきたとゆー事実は見逃せない。

「革命日記」公演
【写真は「革命日記」公演(2010年)から。撮影=青木司 提供=青年団 禁無断転載】

その意味では今回、町内会の2人のおばちゃん役をやった宇田川千珠子と能島瑞穂のコンビは、お笑い路線とはいえ異様な存在感を放っていた。登場した瞬間からおかしかった。少し狂っていたのではないだろうか? あんな人たちには絶対家に来て欲しくない。また小学校の先生役として登場した木引優子にも妙に鬼気迫るものがある。あらかじめ重要な言葉を剥奪されたような顔をしていて、不気味な笑いを浮かべている。彼女はおそらく、未来の「革命」のリーダーになるのだろう。

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ところでわたしは未見だけども、前回2008年の『革命日記』の公演は地下にあるアトリエ春風舎で行われたそうで、きっとあの「革命」のアジトも今よりもっとアンダーグラウンドな感じを醸し出していたに違いない。

2010年のこまばアゴラ劇場で上演された今回は逆に階段を上がった場所にあるので設定もマンションの一室から一軒家に変更されている。何より杉山至の手による舞台美術が素晴らしく美しいが、しかし「革命」のために用意された隠れ家にしては、あの部屋は不必要にオシャレだ。

なぜあの部屋はオシャレなのか? 自分の子供を育てる余裕もないくらい「革命」に没頭しているはずの彼らが……。そもそも「革命」のために世間を欺いて隠れて生活しているはずなのに実際には近所の人間や非合法活動を知らない支援者や親族たちの突然の来訪も拒むことなくあの部屋に招き入れてしまう彼ら。しかも生きるか死ぬかの作戦会議をしている真っ最中に。どうしてだろう?

例えばこう考えてみるのはどうか。彼ラハ「革命」ノ秘密ヲ見セタイノデアル。ドコカデ「革命」ノ計画ガ露見スルコトヲ望ンデイルノデアル。ソシテ、ソンナコトハモウヤメナト諫メラレタリ、同志トシテ一緒ニ頑張リマショウトカ言ッテ欲シイノデアル……。そうした一種の甘えは、彼らの高尚な「革命」を単なる「ごっこ遊び」に貶めてしまう。しかし実際オウム真理教もあさま山荘事件も本質的には「ごっこ遊び」の延長であり、だからこそ恐ろしい。

そして演劇もまた「ごっこ遊び」の最たるものであり、やはり密室で行われるその秘儀が露見することを望んでいる。そして観客を、あわよくば演劇の共犯者に仕立て上げようと目論んでいる。

しかし演劇は「革命」とはやはり決定的に異なる。演劇は「革命」のようにひとつの答えや正しさに向けて収斂することなく、ある舞台の上から複数のフィクションを派生的に立ち上げ、観客に幻視させるだろう。観客によって思う正解はあるかもしれないが、それが演劇のただひとつの正解ではない。

その意味でわたしにとって今回の『革命日記』の最大の見せ場は、舞台の上には直接描かれなかった時間……例えばあの熱い怒りを解き放った立花が家に帰って料理を作り、台所でネギを刻んだりテレビを観たりしながら恋人が「革命」から戻ってくるのを待っている、その極私的ともいえる非「革命」的な空白の時間である。
(観劇:2010 年5 月14 日@こまばアゴラ劇場)(劇評を書くセミナー2010こまばアゴラ劇場コース 提出作品から)
(初出:マガジン・ワンダーランド第194号、2010年6月9日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
プルサーマル・フジコ
2010年4月よりミニコミなど周縁的ながら徐々に執筆活動を始める。雑誌「エクス・ポ テン/イチ」(HEADZ発行)にも登場予定。藤原ちから名義では編集者として活動している。個人ブログ「プルサーマル・フジコの革命テント」。

【上演記録】
青年団第62回公演『革命日記
こまばアゴラ劇場(2010年5月2日-16日(日)
作・演出:平田オリザ

出演
能島瑞穂 福士史麻 河村竜也 小林亮子 長野 海 佐藤 誠 宇田川千珠子 海津 忠 木引優子 近藤 強 齋藤晴香 佐山和泉 鄭 亜美 中村真生 畑中友仁

スタッフ
舞台美術:杉山 至
照明:岩城 保
衣裳:有賀千鶴
演出助手:鹿島将介 玉田真也
宣伝美術:工藤規雄+村上和子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁
宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:木元太郎

チケット料金 一般:3,500円 学生・シニア(65歳以上):2,500円 高校生以下:1,500円
■主催    (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
■企画制作 青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
■助成   平成22年度芸術文化拠点形成事業


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