DEAD STOCK UNION/渡辺熱の「メルティング ポット」

◎たっぷりの在庫、上質の人情喜劇 (西村博子)  まず、役者が揃ってる!ことに驚いた。劇団の公演で老人役を若い人が演るとか、やむを得ぬミスキャストはよくあることだが、ここデッドストックのプロデュース公演にはそんなことがま … “DEAD STOCK UNION/渡辺熱の「メルティング ポット」” の続きを読む

◎たっぷりの在庫、上質の人情喜劇 (西村博子)

 まず、役者が揃ってる!ことに驚いた。劇団の公演で老人役を若い人が演るとか、やむを得ぬミスキャストはよくあることだが、ここデッドストックのプロデュース公演にはそんなことがまるでなかった。デッドストックとは未来を目指す俳優たちの「在庫」の意とか、なるほどたっぷりの在庫から選び出された役者たちはそれぞれの役どころに実にぴったりだった。


  私の好みを先に言わせてもらうと、なかでもアネサンの二の子分アキラ(石田彬)は若くてカッコよくて、意外に可愛い弱虫で、最高に魅力的だった。役者はただ筋を運ぶだけじゃなく、その前にまず観るものを魅了しなくちゃと改めて思ったことだった。

  おそらく役者たちがそう見えた、ということは、作・演出が相当な手だれであったということに違いない。実際、場と人物設定がすこぶるうまい。ところは共同トイレ、共同炊事の安アパート2室。左は犬に足を噛まれた男(あとで空き巣だったということが分かってくる)と、家計を担うけなげなその娘(終わりのほうで昏睡泥棒だったことが分かる)。右には東南アジアから来た不法滞在のニューハーフ3人。仕送りしたいし乳房ももっと大きくしたいし。だが入管の係り官は嗅ぎまわっているし、いつ逮捕されるかわからない。2室の裏には同じく不法滞在のインド人も住んでいるらしい。

  話は、一の子分の大政、二の子分、三の子分を引き連れたアネサンが突如、男からは借金を、ニューハーフたちやインド人からは先に渡した偽パスポートの代金を、取り立てに押し入って来るあたりから、あれよ、あれよの展開となっていく。小刀チラチラ、大政が金を巻き上げる。と、そこへ中国人兄弟とそのバイト仲間がピストルや大きな釘抜きを持って飛び込んでくる。中国語と日本語のチャンポン、有り金出せのその要求は、強盗に失敗したから彼らを人質にして北朝鮮経由で中国へ帰るのだという。さらにそれから人質たちが、警察に保護されては困ると強盗兄弟の側についたり、身代金を1億円から3億円に吊り上げさせたり、また寝返ったり……。初日のせいか、台詞のテンションが下がりがち、何度か笑いが沈んではまた立ち上げなければならなかったのは惜しかったが、それはおいおい改善されていくにちがいな。ふだん知っていて知らなかった日本の底辺が、笑いのうちに見えてくる。

  親のために日本に出稼ぎに来なければならなかった兄弟たちと、生きていればと自首をすすめる大政との会話あたりから話が少々ウソっぽくなる。大政がそれを言う必然がないから、であろう。もし大政の代わりにそれが昏睡泥棒の孝行娘だったらどうなる?とチラと思った。が、それは「泣いて笑えて楽しめる芝居を作」りたい、「『寅さん』のような芝居ができたらいいなあと」(「アリスインタビュー」)言う作者のこと、これでなければ書く気にもならなかったのかも知れない。最後に、人質も含めて全員の「北国の春」、♪故郷に帰りたい」の大合唱となって、投降を決意していくことになる。エンディングに、それぞれの出所後の姿がユ-モアたっぷりに紹介されていくと、客席はあったかい拍手に湧いた。

  そこから目をそらそうとどうしようと、実際に「メルティング ポット」である現代日本を、それも社会から白い目で見られる人たちの側から描いたのはさすがに大人の仕事。上質の喜劇であった。

  見終わって快い満足感のなかに、しかしほんのちょっぴり不満が残ったのは、彼らを取り巻く外側――小さく言えば警官隊やマスコミ、大きく言えば日本――に対する作・演出の目線が全体的に弱かったからではないだろうかと思った。もしも、両手を挙げて外へ出て行った人質や強盗たちがその直後、警官隊に全員射殺!なんて大どんでん返しがもう一つ仕組まれていたとしたら?伏線は三の子分が解放されて外に出ようとしたときすでに張られていたし……。

想像が当たっているかどうかではない。外へ出たとたんに忘れてしまうのでなく、あれこれ想像の尾を引くこと自体が芝居の面白さの証拠であろう。帰りの私は楽しかった。
(2004.7.9 所見 東京・新宿タイニイアリス)

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