「01年の『エロスの果て』以来ひさびさとなる、主宰・松尾スズキの書き下ろし。巨大レストランチェーンの店長候補となった男をめぐる人間模様を通して、「食べること」や「生きること」の意地汚さをシニカルな笑いの中に浮きぼりにします」-「n.p.d. blog」がこう書いている大人計画「イケニエの人」について、CLPサイトで長谷部浩さんが「むきだしの野心」とのタイトルで、「成熟してきた劇団組織が例外なく突きあたる普遍的な問題」を次のように書いています。
「松尾スズキの新作『イケニエの人』(松尾作・演出)を観て、ある種の疲弊がしのびよっている演劇界について考えざるをえなかった。(中略)松尾の魅力は、グロテスクなまでの悪が支配する状況のなかで、懸命に生存をはかる人間を描き出すところにある。俳優のそれぞれが自信とプライドをそなえたときに(それはもちろん彼らのキャリアにとって望ましいことに違いない)松尾の劇世界を背負う欠落が見えにくくなっている。ホームランバッターやエースストライカーを揃えたチームが、必ずしも強くないように、アウラをそなえた俳優がひしめく舞台は、単調さに彩られ、切迫感を持たない。ハングリーといってしまうと、まるで演歌の世界のようで嫌気がさすが、強い上昇志向を持った俳優のむきだしの野心が、松尾の世界を成立させるには必要である。これは松尾自身のスランプというよりも、年月を経て、成熟してきた劇団組織が例外なく突きあたる普遍的な問題のように思える」
このあたりを突いているのが「しのぶの演劇レビュー」ではないかと思います。詳しくは全文を読んでほしいのですが、こんな指摘がありました。「荒唐無稽な設定で、出てくるのは奇想天外な人物ばかり。次の展開が非常に予想しづらいストーリーです。エロティックでサディスティックなネタを簡単にやってのける大人計画の役者さんは、いつもながら魅力的なのですが、早口すぎてセリフが聞こえないことが多かったですね。回想シーンや同時進行する複数シーンなど、構成が複雑でわかりづらかったからなのか、それとも単なるパワー不足なのか、『エロスの果て』『業音』などと比較すると全体的に凄みに欠けました」
芝居を数多く見ている「エンタメに生きる。」にも似たような印象を受けているように見えます。「ネット上であまりにも評判が悪く、ちょっと心配しながらの観劇。でも、それぞれの役者のチカラ、魅力だけで結構笑えた。とはいえ作品はやっぱり…ん~、松尾さんが転換期なのか、それとも忙しすぎるせいで手抜きなのか? 微妙なところだ」
実際はどうなのか-。公演をみていないので判断できませんが、ネット上の書き込みを見る限り「疲弊」や「転換期」らしき印象を受けた人は少なくないようです。
■世田谷・シアタートラムWebサイト
■上演記録
[作・演出・出演] 松尾スズキ
[出演] 阿部サダヲ/宮藤官九郎/池津祥子/伊勢志摩/顔田顔彦/宍戸美和公/猫背椿/宮崎吐夢/皆川猿時/村杉蝉之介/田村たがめ/荒川良々/近藤公園/平岩紙
「イケニエの人」
大人計画の「イケニエの人」。 久しぶりの松尾スズキの新作。 客演なしの大人計画本