公演名を詳細に書くと、少年王者舘KUDAN Project「劇終/OSHIMAI~くだんの件」。ちょうど10年前に東京・新宿のタイニイアリスで初演され、その後98/99、2000/01年にアジア公演と国内公演が行われています。作・演出は天野天街(少年王者舘)で、小熊ヒデジ(てんぷくプロ)と寺十吾(tsumazuki no ishi)の2人芝居です。1月26日-2月1日まで横浜相鉄本多劇場で。
KUDAN Projectのwebサイトによると、物語は次の通りです。
葛西李奈さんから「くだんの件」のレビューが届きました。「ユメの終わるユメ」とラストの光景を重ねています。以下、全文です。
◎懐かしい「におい」 経過をたどる「おもい」
わたしは天野天街のキソウテンガイに出会うとき、鼻先に触れる「におい」を実感する。
それは言わば、子供の頃ぜったいにつかんで離さなかった毛布のボロボロの端切れのような、精一杯にぎりしめることの出来る「軌跡」から漂ってくるものではないかとおもう。
大好きで大好きで、ずっと一緒にいたかったのにくたびれてしまった、あいするものがあったとして、いつの間にかわたしはそれを忘れていて、何故か欠片でも良いから思い出したくて彼の舞台を観続けているような、そんな気がするのだ。
就職活動を終え、地べたを雨が打ちつける中、わたしは重い身体を引きずって横浜にあらわれた。この日は朝から初めての面接を受けた帰りで、しかも前日は友人と遅くまで語りに力を入れていて、終電を逃し帰宅したのは午前二時、結局睡眠時間は二時間という「最悪」のコンディションで舞台に臨もうとしていた。何度も「今日は諦めよう」と思ったが、この日を逃したらもう時間がない、観るチャンスは二度と訪れないかもしれない・・・と精神と肉体にムチ打って観劇に至ったのである。
そんな状態で観た舞台はどのようにわたしの胸に響いたのか。結果から言おう。睡魔に襲われる間もなく、わたしは「におい」の心地良さに心を奪われていた。むしろ、そのような疲れを身にまとっていると、空気の揺らぎに敏感になるので、逆にいつもより何倍も「におい」を全身で感知することとなったのである。
蝉の声のもとに展開される、ヒトシとタロウの、繰り返し見ている夢、夢の見ている夢、夢の終わる夢。つめ、スイカ、しお、うめぼし、コップ、ピザ、わたし達が当たり前のように目にしている日常が、言葉あそびを持って新しい側面を提示していく。同じことを舞台にいる二人が形を変え品を変え繰り返していく中で、「タロウがヒトシを突き落とした」
このようなフレーズが見え隠れする。ギクリとした瞬間に次の場所へと進んでいる二人が、いや、ずっと同じ場所にいるのかもしれないが、わたしは目の前で起きていることを信じられなくなる。
高校生時代から少年王者舘の舞台をいくつか観てきたけれど、舞台で繰り広げられる「奇跡」の数々と共に、わたしは登場人物達の「軌跡」の経過を追っている。それはとても懐かしいもので、じわじわとたちのぼる痛みを伴いながら、思考をゆっくりと止めてしまう。
まさにこれは、「ユメの終わるユメ」なのだ。
ラストの舞台上に何もなくなった状態でタバコを吸う二人と、足元に残る現実の一点であるピザの箱に、光は差している。わたしは心地よさをその場で封じ込めるようにして持ち帰り、劇場をあとにした。きっとまだまだ、忘れていることと忘れられることはたくさんある。けれどこの世界を目にすることが出来る限り、救いは生まれているようにおもう。
(葛西李奈 2005.2.12)
[上演記録]
少年王者舘KUDAN Project「劇終/OSHIMAI~くだんの件」
場所:横浜相鉄本多劇場
日時:1月26日-2月1日
作・演出 天野天街(少年王者舘)
出演:小熊ヒデジ(てんぷくプロ)、寺十吾(tsumazuki no ishi)