東京国際芸術祭(TIF)の掉尾を飾ったのは、ドイツからやってきたフォルクスビューネ「終着駅アメリカ」公演でした(3月25日-28日、東京・世田谷パブリックシアター )。テネシー・ウイリアムズの戯曲「欲望という名の電車」をほぼ踏襲した脚本ながら、舞台をアメリカの低所得者向けワンルーム住宅に据え、ブランチは屋敷を売り払って妹ステラ夫婦の家にやって来る、ステラの夫スタンリーはポーランドの元「連帯」幹部という設定です。演出は92年以降、芸術総監督を務めるフランク・カストルフ、舞台美術は大胆な仕掛けで知られるベルト・ノイマンです。
風琴工房主宰、詩森ろばさんのwebログサイト「LIVESTOCK DAYS」は「仕上がりはメチャクチャコミカルで、猥雑。ポップでロックでパンクでチャーミング」とした上で、次のように書き留めています。
「(この作品の)台詞を隅から隅まで覚えている」という「しばいにっき」の筆者は「ここまでウィリアムズを解体するとは! 乱暴で出鱈目で面白いことこの上なし。カストロフが元東独のパンク演劇野郎だということがよくわかった」と気持ちの高ぶりを抑えきれないようです。「ときどき、ドキドキ。ときどき、ふとどき。」も「超刺激的で、いかにも現代的」と話しています。
コンテンポラリーダンスなどに詳しい「dm_on_web」は「それで実際の舞台はというと、2時間40分もあるのに全然飽きなかったというのが凄いことは凄いのだけど、全く想像の範囲内というか、自分が改めて演劇に興味ないのだということをまざまざと見せつけてくれるような良質さ」と述べ、その上で「ライヴの演劇」が持つ性格に疑問を投げかけています。
TIFの「劇評通信」ページで、ドイツもこの舞台をみている立教大学教授新野守広さんは、劇中に使われた音楽について、こう記しています。
この公演に関するプレス資料(PDF)はいつもながら詳細です。主催者側がこれほど充実した情報を提供するケースは珍しいのではないでしょうか。海外の劇団公演などでは助かります。
ただフォルクスビューネのフルネームは「フォルクスビューネ・アム・ローザ・ルクセンブルグ・プラッツ」。ローザ・ルクセンブルグ広場にある国民劇場という意味でしょうが、ローザとはどういう人物だったか、彼女の名前を付けた広場にあることことをわざわざうたっているkとに意味があるかなど、どこかに書いてあると参考になったと思います。
追記(4月8日)
「大岡淳の反資本主義日記」は「フランク・カストルフ演出『終着駅アメリカ』に関する限り、確かに『過去の上演史を参照する』手法がここでも採用されているのだけれど、一点大きく異なるのは、その『参照』という作業を施した痕跡が、あからさまに舞台上に露呈してしまっている」と指摘。「各場冒頭の舞台の設定を指示するト書き」の処理に関して詳細に分析しています。
大岡さんは他のメーリングリスト(舞台研究MLエウテルペ)でもこの公演について言及しています。
また「わぁ。(驚きに満ちた小さな悲鳴)」のqueequegさんは原作の固有名詞を読み替えている個所を列挙しながら「原作においては交換可能な記号に過ぎなかったものが、そのコノテーションを思いっきり引き出されて政治とサブカルのにぎやかなコラージュを織り成してる。まあそうとうベタっちゃベタな世界観だけど、まあ普通に楽しい」と述べています。