アーノルド・ウェスカー作、蜷川幸雄演出「KITCHEN キッチン」公演が東京・渋谷のシアターコクーンで開かれています(4月5日-24日)。コクーンのWebサイトで「1959年ロンドンで初演以降、世界22ヶ国、53都市で上演されてきたイギリス現代演劇の傑作です。物語りの舞台はロンドンのレストランの厨房(だけ!)。シアターコクーンの場内中央に仮設の舞台を設置、客席で厨房を挟む形で物語りが進んでいきます」と書かれている通り、「労働現場」としての厨房(調理場)が圧倒的な迫力で迫ってきたようです。
本業はデザイナー&イラストレーターという「優」さんは「オドソン:カンゲキモード」サイトで「圧巻だったのはランチタイムのシーン。まさに”戦場”のような調理場に豹変した空気に飲み込まれて、芝居を観ているという事をしばし忘れてしまいました」と述べています。「しのぶの演劇レビュー」も「一幕では、早朝からランチタイムまでのチヴォリがダイナミックに迫力満点に描かれます。皿やグラスは実物が出てきますが料理は全てマイムで、それがすごくリアル!役者さんは相当お稽古を積まれていると思います。パティシエ(細かく丁寧で、静か)とコック(動きが激しく、色んな音が鳴る)の動作の違いが面白かった」と賛辞を惜しみません。
しかしウェスカー作品は階級社会の色濃い英国の現実を踏まえています。「オドソン:カンゲキモード」は、調理場の雰囲気を次のように描写します。
メールマガジン「SANDWICH」(第3号、4月18日発行)に、演出家・演劇批評家の大岡淳さんがレビューを載せました。やはり労働現場のリアルな再現が目にとまったようです。
さらに言葉を継いで、英国社会に向けられた異物としての戯曲の性格を踏まえ、次のように書いていることを忘れてはならないでしょう。
いまどきの観客は、労働者としての自己は直視せず、“消費者”としてのアイデンティティに充足して生きているのだから、その消費行動のただなかにバグを滑り込ませることでしか、もはや社会批判的なメッセージは伝わらないと考えるべきだ。その意味でこの芝居は、渋谷でお買い物をするお嬢さんたちにしかけられたバグである、と評しておきたい。
大岡さんの意見をもっと知りたいととおっしゃる方は、「大岡淳の反資本主義日記」をご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/ooka/
[上演記録]
「KITCHEN キッチン」
東急bunkamura・シアターコクーン
(4月5日-24日)
作 アーノルド・ウェスカー
改訳 小田島雄志
演出 蜷川幸雄
美術 中越司
照明 原田保
音響 井上正弘
舞台監督 芳谷研
出演者
成宮寛貴
勝地涼
高橋洋
須賀貴匡
長谷川博己
杉田かおる
品川徹
大石継太
鴻上尚史
津嘉山正種 他